2020年1月24日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
フレンチ・プログレッシブ・ロックを代表するグループであるMAGMAの音楽性に対して用いられてきた「Zeuhl」は、現在ではプログレッシブ・ロックのサブ・カテゴリーのひとつとなり、世界各国からフォロワー・グループを誕生させています。ただし、やはりその震源地はMAGMAが活動するフランスにあるでしょう。特に、「Zeuhl」の音楽性に特化したパリのレコード・レーベルSoleil Zeuhlの存在は、MAGMAフォロワーたちにとって心強いものがあります。1998年に設立されたSoleil Zeuhlは、独自言語によるオペラティックな合唱や、執拗な反復を用いた肉感的なバンド・アンサンブルといった音楽的特徴を持つMAGMAから影響を受けた次世代のアーティストたちを輩出。その中には、本家MAGMAに参加するミュージシャンのサイド・プロジェクト(ONE SHOTやPIENZA ETHNORKESTRAなど)も含まれています。また、同レーベルは70年代から80年代のMAGMAフォロワーたち(ESKATONやDUN、EIDER STELLAIREなど)による作品の再発も積極的に手掛けてきました。
そんなSoleil Zeuhlからアルバム・デビューを飾ったのが、新世代のMAGMAフォロワーであるSETNAです。2004年にBADJADAとGILLES WOLFF’S JAZZ QUARTETというふたつのグループを母体としてルーアンで結成されたSETNAは、2007年にSoleil Zeuhlからデビュー・アルバム『Cycle I』を発表し、プログレッシブ・ロック・シーンに登場しました。彼らの音楽性は、MAGMAフォロワーの中でも風変わりなものでした。と言うのも、それまでMAGMAフォロワーの多くが「Zeuhl」のアグレッシブな側面に着目しパワフルなサウンドを生み出してきたのに対し、SETNAは「Zeuhl」のスピリチュアルな側面に着目しシリアスなサウンドを生み出していたためです。さらに、メンバー・チェンジを経た2013年のセカンド・アルバム『Guerison』では、デビュー・アルバム以上のオリジナリティーがSETNAに宿りました。彼らは「Zeuhl」のスピリチュアルなサウンドにカンタベリー・ロックの音作りを融合させるユニークな方向性を提示。カンタベリー・ロックの象徴的な音色である「ファズ・エフェクトを施したオルガン・サウンド」まで採用し、他のMAGMAフォロワーとは全く異なる音世界を作り出したのです。なお、デビュー・アルバム『Cycle I』にはMAGMAのメンバーとしても活動するONE SHOTのギタリストJames McGaw、そしてセカンド・アルバム『Guerison』には70年代中期のMAGMAを支えたキーボーディストBenoit Widemannがゲスト・プレイヤーとして参加しています。
さて、上記のようにSETNAのデビュー・アルバム『Cycle I』は2007年、セカンド・アルバム『Guerison』は2013年にリリースされていますが、今回は、その間の2010年に発表されたSETNA関連グループXING SAのアルバムを取り上げていきます。XING SAは、SETNAのメンバーとして活動する3名のミュージシャンたち(キーボーディストNicolas Goulay、ベーシストChristophe Blondel、ドラマーNicolas Cande)によって結成されたグループ。『Cycle I』の複雑な楽曲をリハーサルする中で、トリオ編成のアイディアが生まれたようです。
上記のように、XING SAはSETNAのメンバーによるサイド・プロジェクトですが、その音楽的なレベルはSETNAに勝るとも劣りません。2010年のデビュー・アルバム『Creation De L’univers』は、SETNAと同じSoleil Zeuhlからリリースされました。本作は「宇宙の創造」をテーマに置いたコンセプト・アルバムであり、13の楽曲が収録されています。しかし、その内容は複数のパートから成る5つの組曲であり、それぞれの組曲には「火(Feu)、地(Terre)、金(Metal)、水(Eau)、木(Bois)」のタイトルが(漢字も用いて)付けられています。つまり、これは古代中国の自然哲学の思想である「五行思想」を指すのでしょう。「五行思想」では、万物は上記の5つの物質(元素)から成り立っていると考えられています。本作にはXING SA のメンバーに加えて、ゲスト・プレイヤーとしてチャイニーズ・ゴング(銅鑼)を担当するFabien Lenoir、サックス奏者Gilles Wolff、そしてチャントを担当するYannick Duchene Sauvageが参加。ちなみにYannick Duchene Sauvageは、同国のNEOMのギター・ヴォーカリストであり、NEOMもSoleil Zeuhlから2009年作『Arkana Temporis』でレコード・デビューを果たしています。
やはり注目すべきはSETNAとの音楽的な相違点ですが、もちろん神秘主義的な作風は直系グループらしく健在です。しかし、「Zeuhl」のエネルギッシュなサウンドから距離を置くことで個性を開花させたSETNAと比べると、XING SAのサウンドにはダイナミックなセクションも伺えます。楽曲によってはMAGMAのみならず、イタリアを代表するプログレッシブ・ロック・グループであるAREAを彷彿とさせるほど。また、SETNAはドラマーNicolas Candeが作曲を担当していましたが、XING SAはキーボーディストNicolas Goulayが作曲を担当しています。そういった理由もあってか、エレクトリック・ピアノ(フェンダー社のローズ)とアナログ・シンセサイザー(モーグ社のミニモーグ)によってキーボード・パートが構築されていたSETNAとは違い、本作では楽曲によってオルガン・サウンドやメロトロン・サウンドも導入。さらに、SOFT MACHINEやHATFIELD AND THE NORTHに通じるカンタベリー・ロックのテイストも見受けられます。XING SAによる本作『Creation De L’univers』は各国で大きな話題となり、「2010年のベスト・ディスク」と評するプログレッシブ・ロック・リスナーが続出。本家SETNAを凌ぐほどの高い評価を獲得することになりました。
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07年にデビューしたZEUHL系バンドSETNAのKey奏者、ベース、ドラムの3人による別働ジャズ・ロック・バンド、2010年デビュー作。SETNAはドラマーが中心で作曲も担当していましたが、本作はKey奏者が作曲。SETNAと比べて、よりテクニカルでダイナミズム溢れるサウンドが特徴です。シャープかつ肉感的に手数多いビートを刻むドラム、ファンキーと言えるほどにブイブイと強靱にうなる、これぞズール!と言えるベース、そしてジャズというよりはシンフォニック/プログレッシヴに鳴り響く荘厳なムーグ・シンセやメロトロン。ロック度の高いアグレッシヴな楽曲を軸に、ミニマルなエレピが深遠に鳴り、女性ヴォーカルが不穏なコーラスを付けるズール系らしい楽曲もはさみつつ展開します。レーベルメイトであるNEOMの女性ヴォーカリストとサックス奏者が参加。
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