2015年11月27日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
タグ: プログレ
本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
音楽シーンには稀に、「スーパー・グループ」あるいは「モンスター・グループ」と呼ばれるグループが誕生することがあります。「スーパー・グループ」は、それぞれのメンバーたちが実績を積み重ねミュージシャンとしての成功を収めた上で結成されることから、一般的な新人グループのデビューとは比較にならないほどの注目と、ファンからの大きな期待を背負うことになるはずです。ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックにおいては、1970年代にはEMERSON, LAKE & PALMERやU.K.が、そして80年代にはASIAなどが「スーパー・グループ」と評され、それぞれのスタイルで時代を彩ってきたわけですが、新世紀のプログレッシブ・ロック・シーンにおいて最もその名に相応しいのはTRANSATLANTICでしょう。
スーパー・グループというネーミングにはメンバーのそれまでの功績に対する敬意も含まれていますが、TRANSATLANTICを構成する4名のメンバーたちの経歴もまた、華々しいものがあります。TRANSATLANTICは、キーボード・ヴォーカリストNeal Morse(SPOCK’S BEARD)、ギタリストRoine Stolt(THE FLOWER KINGS)、ベーシストPete Trewavas(MARILLION)、そしてドラマーMike Portnoy(DREAM THEATER)によって結成され、20世紀のプログレッシブ・ロックを総括し21世紀へと引き継ぐように、ミレニアム・イヤーである2000年に衝撃のデビューを果たしました。しかし、確かにメンバーたちが所属する(あるいは所属していた)それぞれのグループの活躍とプログレッシブ・ロック・シーンへの多大なる貢献を考えれば、彼らがスーパー・グループであるという結論には何の違和感も持たないものの、「名のあるミュージシャンが集結したプロジェクト」というような単純な視点だけでは充分とは言えないでしょう。今回は彼らがスーパー・グループである理由を、いくつかのキーワードと共に考察していきます。
TRANSATLANTICの特殊性を語る上でのポイントとして、まずメンバー4名の「出身国」について考えてみると、アメリカ、イギリス、スウェーデンの代表格グループからメンバーが構成された多国籍(マルチ・ナショナル)グループであることが分かります。プログレッシブ・ロック・シーンでは、70年代にはGONGやESPERANTOなどが多国籍グループの代表例として認知されていますが、ESPERANTOが「国際共通語」を意味するワードをグループ名に置いたことと、TRANSATLANTICが「大西洋横断」というローカル性を感じさせないワードをグループ名に選択したことには、両者の作風こそ違えど共通する意識があったことでしょう。さらに特筆すべきは、そのメンバー編成がいくつかの「世代」に分かれ、70年代から90年代に至るプログレッシブ・ロックの「30年史」を形成しているということです。70年代のスウェーデンから登場したRoine Stolt、80年代にシーンが衰退したイギリスからデビューしたPete Trewavas、そして90年代以降を象徴するアメリカのグループを主導するNeal MorseとMike Portnoyという布陣は、その「世代」を縦軸とし「出身国」を横軸とすることによって、前代未聞のモンスター・グループを成立させたと言えるでしょう。ちなみにNeal MorseとMike Portnoyは共にアメリカン・ミュージシャンではあるものの、一方はプログレッシブ・ロックの本流、そしてもう一方はプログレッシブ・メタルのシーンで活躍してきた実績を持っていることから、両者は同国籍の中心メンバーであると同時に、グループの中では異なる存在意義を持っていると考えられます。さて、以上のように個性的な4名のメンバーによって結成されたTRANSATLANTICですが、彼らのスタイルに「弱点」は存在するのでしょうか。そのことを考えるためには、「出身国」に関連して「ヨーロッパとアメリカ」という視点が不可欠となるでしょう。
フランスの社会学者であるベルナール・ファイは著書「アメリカ文明の批判」の中で、ヨーロッパとアメリカを「時間」と「空間」というワードで論じていますが、それによれば、ヨーロッパ諸国が長い歴史の蓄積という「時間」の上に国家を形成している一方で、アメリカには新大陸の「空間」があるだけだったということになります。そしてアメリカでは「時間」の代わりを「空間」が務め、国民を繋ぐ共通の「過去」の代わりを「未来」が務めたと説くのですが、これは音楽を含め、ヨーロッパとアメリカに関連する様々な話題に置き換えることの出来る興味深い視点ではないでしょうか。音楽ファンの間では「陽気なアメリカン・ロック」、あるいは「ゴキゲンなアメリカン・ロック」というような表現が度々用いられてきましたが、ここでの「陽気」や「ゴキゲン」とは、単に「明るい雰囲気の楽曲」というようなニュアンスではなく、ポピュラリティーに富み、且つ力強い反面、ヨーロッパのグループたちのサウンドと比較すると「深みに欠ける」という意味合いを含むものです。もちろんこれは、ヨーロッパとアメリカを比較してどちらが優れているかということではなく、「時間」を持つ代わりに「空間」を持たないヨーロッパと、「空間」を持つ代わりに「時間」を持たないアメリカという双方の特徴を示しているに過ぎません。しかし、イギリスで生まれた音楽スタイルであるプログレッシブ・ロックは「時間」と「過去」の積み重ねを大きな精神的支柱にしているわけですから、そちらを「本場」と考えるならば、「時間」と「過去」を持たないアメリカン・プログレッシブ・ロックは「深みに欠ける」ということを「弱点」として捉えられてしまうかもしれません。では、アメリカン・ミュージシャンが中心となって結成されたTRANSATLANTICのサウンドもまた「深みに欠ける」ものなのでしょうか。
2000年にデビュー・アルバム『SMPT:e』、翌2001年に『Bridge Across Forever』をリリースしたTRANSATLANTICは、スタジオ・アルバムと同時に数枚のライブ・アルバムや映像作品などをリリースしたものの、Neal Morseが表舞台からの引退を表明したことでグループとしての活動を終えました。その後、メンバーたちは自身のメイン・グループへと戻り素晴らしい活躍を見せていましたが、Neal Morseがシーンに復帰しメンバーが再び一堂に会したのが、7年ぶりとなるサード・アルバム『The Whirlwind』です。元々大作主義的な傾向の強かった彼らではありますが、本作ではCDの限界容量に迫る、12パートから成る「77分の楽曲」を収録するという挑戦的なコンセプトと共に圧巻のパフォーマンスを繰り広げており、稀代のスーパー・グループによる伝説の更新に世界中のプログレッシブ・ロック・ファンは大いに盛り上がりました。彼らの最大の強みは、ヨーロッパの「時間」と「過去」、そしてアメリカの「空間」と「未来」を持つメンバーが互いの不足を完璧に補い合いながら、ひとつの音楽を形成していることにあります。より音楽的な表現を用いるならば、表層的にはキャッチー且つドラマティックなアメリカン・スタイルを纏いながらも、ブリティッシュ・ロックにおける「英国叙情」などと同様のヨーロッパ的な「深み」が楽曲に与えられているとも言い換えることが出来るでしょう。大衆に受け入れられる分かり易さが、往々にして含蓄のある味わい深い表現と対立してしまうことは、音楽に限らず様々なジャンルで作り手を悩ませてきたわけですが、彼らはその両方を最大限に引き出し、ひとつの音楽として提示してきました。Neal MorseとMike Portnoyは新たなグループを結成するに当たって、アメリカのプログレッシブ・メタル・グループであるFATES WARNINGのギタリストJim Matheosをメンバー候補に構想を練っていたということですが、その計画が頓挫しRoine StoltとPete Trewavasというヨーロッパ人脈が加わったことが、結果的に「世代」の縦軸と「出身国」の横軸をグループの骨格として鮮やかに築き上げ、また、ヨーロッパの「時間」と「過去」、そしてアメリカの「空間」と「未来」を絶妙なバランスで同居させたのです。
TRANSATLANTICを構成する4名のミュージシャンたちを以上のような視点から考察していくと、彼らがいかに奇跡的なグループであるかは一目瞭然でしょう。彼らはステージにおいて、下手から上手に向かってNeal Morse、Roine Stolt、Pete Trewavas、Mike Portnoyという横並びの立ち位置を定位置としていますが、それはメンバー間に流れる良好なパワー・バランスを示しているようでもあり、また、両サイドを固めるアメリカの明快さとダイナミズムの中から、ヨーロッパの奥深さとリリシズムが滲み出しているようにも見えるのです。
参考文献
・ベルナール・ファイ著、本田喜代治訳『アメリカ文明の批判』筑摩書房、1943
・福田恆存“『老人と海』の背景”、ヘミングウェイ著、福田恆存訳『老人と海』新潮文庫、1966
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