2015年6月26日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
東南アジアや中東諸国などから登場したプログレッシブ・ロックグループたちは、欧米からの影響に出身国の独自性を同居させた異国情緒豊かな作風を示し、多くのファンの好奇心をロック後進国へと向けさせ、現在のシーンにおいては「辺境プログレッシブ・ロック」という呼称で広く親しまれています。辺境カテゴリーは、世界中に存在する膨大な数のプログレッシブ・ロック作品をカタログ化する都合で作られた背景があるため、その定義には多少の個人差があるかもしれません。ところで、料理やファッションなどの分野においては「エスニック」と称されることの多い上記の国々ですが、和製英語としての「エスニック」が持つ一般レベルの印象は、日本語の「民族」が持つ幅広い意味を充分にフォローしているとは言い難いため、彼らが長い歴史を積み重ねながら受け継いできた伝統的な音楽を「エスニック」と表現することは、どことなく軽薄なニュアンスを伴った安易な考察のように感じてしまいます。これは現在の音楽シーンにおいて、「エスニック・ミュージック」もしくは「ワールド・ミュージック」として紹介される作品の中に「民族音楽のような雰囲気を持ちながらも民族音楽と呼ぶことに抵抗を感じる音楽」が少なくないことも無関係ではないでしょう。今回は「エスニック」をその名に冠したインドネシアのアーティストを取り上げます。
インドネシアは辺境プログレッシブ・ロックの魅力に最も溢れた国のひとつと言えますが、その理由は1970年代の代表格グループたちにおけるガムラン音楽との融合(GURUH GIPSYなど)や、イタリアン・プログレッシブ・ロックが頻繁に引き合いに出される高水準な音世界(GIANT STEPなど)に加えて、カセット・テープ主流のメディア事情や、それに関連して現在でも正規CD化の恩恵を受けられずにいる古典的名盤が存在することなど、プログレッシブ・ロックファンのマニアックな探究心をくすぐるキーワードが散りばめられている点にあるでしょう。さらに、90年代末に「ごった煮」なサウンドでDISCUSが衝撃のデビューを果たし、2000年代を迎えるとメジャー・レーベルであるSony Music Indonesiaにプログレッシブ・ロック専門のサブ・レーベルが誕生するなど、そのエピソードのひとつひとつが非常に摩訶不思議な、そして強烈なインパクトを世界中に与えてきました。新世紀を迎えた現在においてもなお、未開の地に足を踏み入れるような音楽探検が、インドネシアのプログレッシブ・ロックシーンにはあると言えるでしょう。
さて、キーボーディストRiza Arshadを中心にジャカルタで結成され90年代中盤の音楽シーンに登場し、現在では新世代のインドネシアン・プログレッシブ・ロックを象徴するジャズ・ロックグループへと成長したのがSIMAK DIALOGです。ガムラン音楽の精神を硬派なジャズ・ロックに内包させ、いぶし銀のパフォーマンスを聴かせる彼らの音楽性は決してシンフォニック・ロック勢のような大仰なものではありませんが、複数のパーカッション奏者を擁する個性的なメンバー編成と確かな技巧に裏打ちされたスタイリッシュな音作りを武器に、多くのファンから本格ジャズ・ロックグループとして認知されています。そんなSIMAK DIALOGのオリジナル・メンバーとして、またセッション・ギタリストとしても多方面で活躍するTohpati(Tohpati Ario Hutomo)が新たに立ち上げたTOHPATI ETHNOMISSIONは、インドネシアン・プログレッシブ・ロックの醍醐味を凝縮したプロジェクトと言えるでしょう。
2010年に発表された本作『Save The Planet』は、PAT METHENY GROUPに代表されるジャズ・フュージョン色と、KING CRIMSONによる81年作『Discipline』を彷彿とさせるテクニカル・ロックのテイストが絶妙なバランスで一体化した唯一無二のガムラン・ロックを収録し、オーバー・ダビングを行わない「一発録り」方式で製作されていますが、メンバーにはクンダン(水牛の皮を使用した両面太鼓)やクノン(中央が突起した壺形のゴング)を扱うパーカッション奏者と、スリン(竹で作られた縦笛)を扱う管楽器奏者が含まれ、加えて楽曲によっては女性ヴォーカリストによるミステリアスな歌声が彩を添えるという、この上ない体制でレコーディングが行われています。SIMAK DIALOG緒作との大きな違いとして、全体的にキャッチーなメロディーや、技巧的な中にも耳に馴染むフレーズが多用されていることが挙げられますが、重要なポイントとしては、そういった明快な方向性を打ち出す際にはどうしても「エスニック」の記号的な利用に陥る可能性が高いということでしょう。本作では、Tohpatiの卓越した作曲能力と各メンバーの技巧によって、ポピュラリティーに富みながらも伝統の重みを損なうことなく、インドネシアン・プログレッシブ・ロックのスタンダードと呼ぶに相応しいサウンドを構築しています。
TohpatiはSIMAK DIALOGでの活動と並行してソロ・アーティストとしてもアルバムをリリースしていますが、SIMAK DIALOGはもちろんのこと、彼のソロ・アルバムと比較しても本作の民族的色合いは群を抜いていることから、そこにはある「意図」を感じずにはいられません。つまり、本作には「分かりやすさ」という観点から、あえて浅はかな印象を持たれかねないキーワードや、ポピュラリティーに富んだ楽曲スタイルが採用されているものの、そのことに対する先入観を持ちながら実際に耳を傾けてみると、ガムラン音楽やロックに対する深い理解を感じさせる極上の「エスニック・ミュージック」が聴こえてくるのです。彼がTOHPATI ETHNOMISSIONを発足させ聴き手に仕掛けたのは、実は前述の「軽薄なニュアンス」や「エスニックの記号的な利用」を逆手に取ったアプローチだったのではないでしょうか。
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