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netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』 第6回 SANHEDRIN / Ever After (Israel / 2011)

本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。

第6回 SANHEDRIN / Ever After (Israel / 2011)

細分化された多くのプログレッシブ・ロックのスタイルの中でもファンからの人気が根強い「CAMELフォロワー」と呼ばれるアーティストたちは、そのカテゴリーとしてはシンフォニック・ロックの「叙情派」に分類され、世界中でそれぞれの国民性を滲ませた美しい音楽を生み出し続けながらプログレッシブ・ロックの繁栄に貢献してきました。最も一般的なのは、ダイレクトにCAMELからの強い影響を受けながら、そのスタイルを自分たちの表現方法として単純に受け継ぐケースであり、これはCAMELフォロワーに限らず多くのグループが、1970年代の名グループからの影響を直接的に取り込む方法論を用いて自らの音楽性を高めてきたわけですが、例えば北欧のCAMELフォロワーたちがその根底に素朴な味わいを持ったトラディショナル・フォークなどの影響を色濃く持ち、それらをプログレッシブ・ロックに置き換える作業の過程で叙情的な要素が不可欠となった結果として、CAMELを彷彿とさせる作風が最もフィットしたというケースや、特に新世紀以降、CAMELに通じるポップ且つジェントリーなサウンドを得意とする傾向の強いオランダから優秀なフォロワーが数多く登場するなど、そのお国柄との密接な関係性も見逃せません。

70年代ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの代表的グループのひとつであるCAMELの特徴を語る際に頻繁に持ち出されるキーワードとしては、Andrew Latimerによる非常にエモーショナルなギター・ワーク、キーボーディストPeter Bardensとの絶妙なコンビネーションによるファンタジックな音作り、そしてテクニカルながらもマイルドさを失わないバンド・アンサンブルなどが挙げられるほか、楽曲によってフルートが大きくその存在感を放っていることから「リリカルなフルート」という表現が登場した場合にはその多くが、彼らがCAMELの遺伝子を受け継いだ叙情派プログレッシブ・ロックバンドであるということを示していると言っても過言ではないでしょう。こういった叙情美を重視した創作を行う場合には、もちろん胸を締めつけられるようなメロディー・メイクの才能などは当然ですが、加えてギターやキーボード、そしてフルートにもナイーブさやロマンティシズムを求められることから、対照的にリズム・セクションをタイトにまとめ上げしっかりとした土台を構築しなければその軸がブレてしまい、非常に弱腰な、芯を持たないサウンドに陥ってしまう危険性があり、事実70年代から現在に至るまでその作品の出来不出来の差が大きく分かれてきました。

試聴 Click!

さて、70年代のイスラエル産プログレッシブ・ロック作品について語る際に最重要アーティストとされる人物は、ギタリストでもキーボーディストでもなくフルート奏者のShem-Tov Levyであり、1950年にブルガリアで生を受け13歳でフルートに出会い、イスラエルのテルアビブ大学やアメリカのバークリー音楽院に学んだ後、70年代に彼が参加したSHESHETは、女性ヴォーカリストYehudith Ravitzによるヘブライ語のヴォーカルを含む軽やかな色合いで辺境ジャズ・ロックの傑作を生み出した他、Shlomo Gronich、Shlomo Ydovと結成したNO NAMESなどでもイスラエルのプログレッシブ・ロックを代表する名盤を生み出し、その評価を不動のものにしました。そのことから、同国の名作に触れる際には高い確率で彼の手によるフルートの音色を聴くことになり、それが同国の象徴としてプログレッシブ・ロックファンに強烈なインパクトを与え続けてきたと言えるでしょう。そんな、同国のプログレッシブ・ロックを代表するフルート奏者が、同じくフルートを個性とするCAMELの音楽性に接近したのがSANHEDRINです。

SANHEDRINはキーボーディストAviv BarnessとベーシストSagi Barnessという兄弟が70年代のプログレッシブ・ロックに影響を受け、古代ローマ時代のユダヤにおける最高法院の名を冠して87年に結成されました。当時は主にCAMELのカバー・バンドとして活動していたようで、メンバー・チェンジを行いながら徐々にオリジナルの楽曲を製作し始め、Shem-Tov Levyを含めた現在の布陣が定着し、2006年から4年間をかけてじっくりと録音、編集作業が行われ完成したのが本2011年作『Ever After』となっています。音楽的にはやはりCAMELのカバー・バンドからその歩みを始めているだけあって、CAMELから強い影響を受けたマイルドな響きを押し出した作風となっており、また活動期間の長さや丹念なレコーディングもあってかデビュー・アルバムにして既に大御所グループに匹敵する圧巻のパフォーマンスを披露していると言えるでしょう。しかし、もちろん彼ら自身がCAMELからの影響を公言しているためCAMELを引き合いに出して論ずるのが正しい方向性とは言えど、70年代から現在に至るまでイスラエルのグループに共通して見られてきた湿気の少ない空気感の代わりに、グループ名の由来も頷けるような幽玄、そしてある種の畏怖のようなものを感じさせるところはCAMELには全くなかった傾向であり、この点にこそ彼らの個性を見出すべきではないでしょうか。そういった意味では同じくフルート奏者を擁しながら、近未来的なシンセサイザーとハードなギターによるシステマティックなアンサンブルを武器に、東欧プログレッシブ・ロックの名盤である84年作『Marsbeli Kronikak(The Martian Chronicles)』を作り上げた、ハンガリーのSOLARISなどと「独自性」ということで近いスタンスを持ち、事実、単純にCAMELとの比較で考察するには収まりきらない個性を感じることが出来るでしょう。

過去の名グループたちとの比較や関連付けはプログレッシブ・ロックに限らず様々な音楽ジャンルにおいて頻繁に行われてきましたが、それは対象となるアーティストを端的に説明する機能を果たす一方で、時としてその「聴かれ方」を極端に限定してしまう危険性を伴います。表層的なサウンド・メイクを純粋に楽しみながらも、惑わされることなくそのアーティストのオリジナリティーを探すことで新たな魅力が浮き彫りになる可能性があるということを、SANHEDRINの作品を通して考えます。


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