2019年1月25日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
ギタリストAndrew LatimerとキーボーディストPeter Bardensを擁する、ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックを代表するグループであるCAMELが1975年に発表した『The Snow Goose』は、アメリカのポール・ギャリコによる短編小説「スノー・グース」をコンセプトに製作された名盤として知られています。同作は、文学作品をテーマに掲げたプログレッシブ・ロックの最高峰であると同時に、(一部の楽曲にスキャットこそ録音されているものの)全編インストゥルメンタルで構築されたプログレッシブ・ロックの傑作であり、さらに、フルートがリード・パートを担う名曲「Rhayader」を収めたフルート・ロックの象徴としての側面も持ち合わせていました。彼らの音楽性は「叙情派プログレッシブ・ロック」と評され、世界各国のフォロワー・グループたちに伝播。2000年以降においても「CAMELフォロワー」の出現は留まる所を知りません。なお同作は、発表から40年近くを経て再レコーディングが施され、2013年に『The Snow Goose : Re-Recorded』のタイトルでもリリースされています。
2010年代のイスラエルにおいては、SOUL ENEMAやIGAYONを筆頭にいくつかのプログレッシブ・ロック・グループたちがアルバム・デビューを飾っていますが、特にSANHEDRINによる2011年作『Ever After』、MUSICA FICTAによる2012年作『A Child & A Well』、そしてANAKDOTAによる2016年作『Overloading』がプログレッシブ・ロック・シーンに与えた衝撃は大きなものでした。上記の3作品はイタリアのプログレッシブ・ロック・レーベルAltrock Productions傘下のFading Recordsから世界配給され、70年代のSHESHETやZINGALEから続くイスラエル産プログレッシブ・ロックの新世紀を世界中のファンに知らしめたのです。それぞれについて順に触れていくと、まずSANHEDRINは、SHESHETのフルート奏者Shem-Tov Levyが参加したことで大きな話題となったグループ。CAMELのトリビュート・バンドから発展したことからも分かる通りマイルドなバンド・アンサンブルにShem-Tov Levyのフルートが呼応する作風ではあるものの、本家CAMELとは異なり幽玄なサウンドを聴かせます。続いてMUSICA FICTAは、女性ヴォーカリストJulia Feldmanとフルート奏者Dvir Katzを擁するシンフォニック・ロック・グループ。デビュー・アルバムは2005年に録音されるもリリースされず、2012年に満を持して発表されました。フックに富んだ楽曲展開は、イギリスで言えばGENTLE GIANTを想起させます。そしてANAKDOTAは、やはりGENTLE GIANTを彷彿とさせる複雑な楽曲構成を個性とするグループであり、非常にテクニカルなプログレッシブ・ロックを奏でます。また、カンタベリー・ロックに通じる質感も有しており、上記の中では最もAltrock Productionsらしいグループであると言えるでしょう。
さて、ANAKDOTAと同じ2016年にアルバム・デビューを飾ったのがシンフォニック・ロック・グループAPERCOです。ギター・ヴォーカリストTom Maizel、キーボーディストTal Maizel、ベーシストYuval Raz、そしてドラマーDor Adarによって2013年に結成されたAPERCOは、70年代のプログレッシブ・ロックから強い影響を受けたデビュー・アルバム『The Battle』をリリースしました。新進気鋭のレコード・レーベルとの契約を勝ち取った上記のグループたちとは異なり、APERCOの場合は流通が限られる自主レーベルのスタイルを選択しましたが、『The Battle』で彼らが提示したシンフォニック・ロックは、後述の通りSANHEDRINやMUSICA FICTA、あるいはANAKDOTAの音楽性に勝るとも劣らないものです。事実、デビュー・アルバムと時を同じくして、彼らはDEEP PURPLEによるイスラエル公演のオープニング・アクトに大抜擢されるという快挙を成し遂げました。
APERCOによる本2016年作『The Battle』は、アルバム冒頭からCAMELの『The Snow Goose』に通じるサウンドが展開されています。オープニングを飾る「Intro」は優美なオーケストレーションが印象的な序曲であり、『The Snow Goose』で言えば1曲目の「The Great Marsh」に当たるものでしょう。そして「Rhayader」を彷彿とさせる、ゲスト・フルート奏者Eran Teicherが流麗なメロディーを奏でる「Focused」へと繋げます。「Focused」は、フルートがリード・パートを担う叙情派プログレッシブ・ロックの中でも傑作の部類に入る楽曲でしょう。APERCOにとっては、2014年に初めてリリースしたシングルでもあるようです。本作においては、バンド・メンバーと同列にプロデューサーとしてGideon Ricardoなる人物がクレジットされていますが、ゲスト・ミュージシャンの的確な配置などは、あるいは彼の手腕によるところなのかもしれません。また、Tal Maizelによるアナログ・ライクなシンセサイザー・リードがPeter Bardensを想起させる6曲目の「Euphoria」などにも、CAMELからの影響が強く感じられるでしょう。ただし、(上記のSANHEDRINもそうであったように)APERCOは単なるCAMELフォロワーでは終わりません。そもそも本作は、「人生を通じて揺れ動く様々な感情」をテーマに置いたトータル・アルバムとなっていますが、その内省的なコンセプトに呼応するように、彼らの作風にはPINK FLOYDからの影響もまた顕著に表れているのです。例えば、各楽曲における歌詞の世界観やゲスト・サックス奏者Neil Kalmanの登用、あるいは8曲目に収められた「Dissonant Sound Within」などにおける、Tom Maizelによるエレキ・ギターの咆哮といったセクションからは、PINK FLOYDの影響が強く感じられます。なお「Dissonant Sound Within」は、「Focused」に続いて2015年にリリースされたセカンド・シングルでもあります。そして、人生における陰と陽を、CAMELやPINK FLOYDからの影響を巧みに使い分けることによって表現した『The Battle』は、双方からの影響をバランス良くブレンドした10曲目の「Awaken」で幕を下ろします。
「netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』連動 イスラエル産プログレッシブ・ロックの2000年代 Volume 1(2000 – 2009)」を読む
「netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』連動 イスラエル産プログレッシブ・ロックの2000年代 Volume 2(2010 – 2018)」を読む
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