2015年1月22日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
タグ: プログレ
本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
どんなマニアックなプログレッシブ・ロックファンにも必ず「初めて触れたプログレッシブ・ロック作品」が存在し、多くの場合にはいわゆるブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの「5大バンド」と呼ばれる代表格グループ(KING CRIMSON / PINK FLOYD / YES / EMERSON LAKE & PALMER / GENESIS)たちを始点に、イギリス以外のイタリアやフランス、ドイツといった国々のシーンに興味を抱き、最終的には辺境と呼ばれるロック後進国を含めた様々な国々のプログレッシブ・ロック作品に触れるようになる、という流れが一般的でしょう。そんな中で、普段はほとんど意識することのない分類ではあるものの「南半球」のプログレッシブ・ロックに出会うことがあり、もちろんブラジルなどの南米諸国にも1970年代からプログレッシブ・ロックの名作は存在していますが、多くのプログレッシブ・ロックファンにとって「南半球」と言えばオセアニア、特にオーストラリアがイメージされるのではないでしょうか。そしてその理由は間違いなく、オージー・プログレッシブ・ロックを代表する名グループであるSEBASTIAN HARDIEの存在にあるでしょう。
シドニーで結成され73年にデビューを果たしたSEBASTIAN HARDIEは、ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの潮流に大きな影響を受け自らの音楽性を高め、オーストラリアの雄大な大地を想起させるスケール感を持ったシンフォニック・ロックを生み出し、特にファースト・アルバムである75年作『Four Moments』は「哀愁の南十字星」というロマン溢れる絶妙な邦題と合わせてプログレッシブ・ロックの傑作として高い評価を獲得しました。彼らの音楽的特徴には、Mike Oldfieldから強い影響を受けた反復主義的な楽曲構成をはじめ、マイナー・コードに使用されることの多いメロトロンを大きくメジャー・コードで取り入れたキーボード・オーケストレーション、そして中心メンバーMario Milloによるデリケートなギター・ワークなどが挙げられ、そのサウンドはヨーロッパ勢ともアメリカ勢とも異なる独自のランドスケープを描いています。グループは76年にセカンド・アルバムをリリースし解散しますが、翌年にはそのセカンド・アルバムのタイトル『Windchase』をバンド名に復活し77年作『Symphinity』をリリースしており、その後もプログレッシブ・ロックフェスティバルへの出演や来日公演のために断続的に活動し、素晴らしいライブ作も残しました。
そんなSEBASTIAN HARDIEが実に35年ぶりのオリジナル・アルバム『Blueprint』を発表し、世界中のファンに驚きと懐かしさをもって迎えられた2011年、オーストラリアから届けられたもうひとつの大きな話題作は、SEBASTIAN HARDIEを輩出したシドニーから登場した新世代グループANUBISのセカンド・アルバム『A Tower Of Silence』であり、19世紀初頭のイギリスで11年間の短い生涯を終えた少女の悲運をコンセプトに、複数のパートから成る大曲を含む壮大なシンフォニック・ロックを創出しました。しかし、『A Tower Of Silence』は結果的に年間ベスト・ディスクに挙げるファンが続出するほど大きな注目を集めたものの、そのサウンドはあくまで西欧諸国のプログレッシブ・ロックに代表される湿り気と、その物悲しいコンセプトに呼応した深い悲壮感を全面に漂わせていたため、音楽的なクオリティーとは別の「オーストラリアらしさ」という判断基準では、円熟味を帯びたベテランのパフォーマンスを見せたSEBASTIAN HARDIEに軍配が上がっていたと言えるでしょう。
そういった意味ではサード・アルバムとなる本2014年作『Hitchhiking To Byzantium』こそが、彼らの真価が問われる重要作であり、本作が雄弁に語るのは、間違いなく2010年代のプログレッシブ・ロックシーンを代表する名盤のひとつに数えられるであろう前作『A Tower Of Silence』でさえ、彼らにとってはあくまで通過点に過ぎなかったということです。ベーシストの脱退など若干のマイナー・チェンジを経てリリースされた本作では、緊張感と重厚さを押し出しアルバムに統一感を与えていた前作の西欧色が後退し、その代わりに、非常にオーストラリアらしい叙情性とマイルドな質感を持った、爽やかなシンフォニック・ロックが出現。テクニカルなバンド・サウンドは味わい深いロング・トーンの節回しに置き換えられ、また北欧的とすら表現出来た冷ややかな空気感は、滲む夕日を思わせるメロウな旋律によって溶けだしており、そのアートワークが示唆する通りのセンチメンタル且つ大陸的な心象風景を描き始めていることが前作との大きな相違点であると言えるでしょう。グループがヨーロピアンなサウンド・メイクを通過し、その国民性に裏打ちされた音楽性に目覚めた本作からは、オージー・プログレッシブ・ロックの理想像を正当に継承した彼らの自信と勢いを感じ取ることが出来ます。
70年代のオーストラリアにおいては、女性ヴォーカリストを擁したALEPHや管弦楽器を大胆に取り入れたRAINBOW THEATREといった素晴らしいプログレッシブ・ロックグループたちが存在していたものの、そのミュージシャン層の薄さは否定出来ず、また新世代グループの台頭も、UNITOPIAなど一部のネオ・プログレッシブ・ロックグループを除けばほとんど話題に上ることがなかったため、長い間SEBASTIAN HARDIE、WINDCHASE、そして両バンドに関わり現在はサウンドトラックの分野で活躍するMario Milloのソロ・アルバムといった古典的名盤が別格の知名度を誇ってきました。そんな、停滞していた同国のシーンに新風を吹き込み、さらなる前進を続けるANUBISは、オセアニアのみならず南半球を代表する新世代グループとして、ヨーロッパ諸国の有名グループたちと堂々と渡り合い、ひときわ大きな輝きを放っています。
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