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netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』 第5回 AGUSA / Hogtid (Sweden / 2014)

本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。

第5回 AGUSA / Hogtid (Sweden / 2014)

特に非西欧諸国、及び辺境と呼ばれるロック後進国の様々なプログレッシブ・ロック作品に触れる際に、しばしば語られる表現のひとつに「ブリティッシュナイズ」という言葉があります。単純に「イギリス化」と訳せるものですが、今回はこのワードについて考えるところから始まります。「ブリティッシュナイズ」は、そのアーティストがイギリスをプログレッシブ・ロックの「本場」として憧れを持って捉え、1960年代から70年代の名グループたちのサウンド・メイクに影響を受け手本とし、それらの名盤に一歩でも近づこうとした努力の痕跡であると言え、事実プログレッシブ・ロックはその誕生に諸説はあれど、イギリスの伝統の上に60年代に打ち立てられ、広く世界に伝播していったのでした。しかしその一方で、彼らは「ブリティッシュナイズ」を行う過程において、自身を含めた自国に伝わるトラディショナルな魅力や真の意味でのオリジナリティーを、例えば母国語を封印し英語詞を扱うことなどによって、捨ててきたと言えるのではないでしょうか。つまり、プログレッシブ・ロックにおいては「イギリス的」であることが最も美しく洗練されたスタイルであるという結論は必ずしも間違いではないながらも、「イギリスのサウンドに近いものほど正しい」という前提が、少なくとも「ブリティッシュナイズ」を受け入れたアーティストたちには形成されていたことが分かります。

もちろん人気と影響力を持った「本場」のアーティストたちには多くのファンと、同時に多くのフォロワーが生まれるということは至って自然な流れであり、それは良し悪しで割り切れる話題ではありませんが、ワールドワイドな活躍を目指して自分たちのサウンドに「ブリティッシュナイズ」を施したグループが少なからず存在していた中で、同じようにイギリスの名アーティストたちに影響を受けた音楽を生み出しながら、自身に根を下ろした国民的特色を隠すことなく、むしろ個性として楽曲の中に取り込んでいったグループがプログレッシブ・ロックシーンには多く存在し、そういった作品ほど各国の名盤として現在に至るまでファンに愛され続けてきたという事実と、プログレッシブ・ロックが持っているひとつの性質として、そういった垢抜けない響きを差別することなくその中に彼らの個性を見出そうとする傾向が強かったことによって、歴史の中に埋もれていた可能性の高い多くの作品をすくい上げてきたことは、高く評価されなければなりません。今回は、90年代前半のプログレッシブ・ロック・リヴァイヴァル以降、トップ・アーティストを輩出し続けるスウェーデンから登場したグループによるデビュー・アルバムを取り上げます。

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AGUSAは、スウェーデンとデンマーク出身メンバーによるサイケデリック・フォークグループKAMA LOKAを前身に、ギター・トリオとオルガン奏者による4人編成で2013年に初めてセッションが行われた「地名」をグループ名に置き結成され、本2014年作『Hogtid』でアルバム・デビューを果たしました。プログレッシブ・ロックにおいてはイギリスのU.K.やENGLAND、アメリカのKANSASやBOSTON、スペインのTRIANAやGRANADAといったアーティストたちが国や都市の名称をグループ名に活躍し、加えてドイツのNEUSCHWANSTEIN(ルートヴィヒ2世によって建築された城)やオーストラリアのAYERS ROCK(アボリジニの聖地ウルル)などが出身国を代表する建築物や自然物の名称をグループ名に据え、共に自国を象徴する優れたサウンドを提示してきましたが、スウェーデンにもKEBNEKAJSE(標高2103mを誇る同国最高峰)が土着性を持った代表格として君臨しており、その影響を公言するAGUSAがローカルな地名をグループ名に選択したことには、ある種の必然性を感じることが出来ます。

AGUSAのベーシストTobias Pettersonは、『The Encyclopedia of Swedish Progressive Music 1967-1979』と題されたスウェーデンのプログレッシブ・ロックに関する専門書籍の出版や、所属レーベルであるTransubstans Recordsが再発するマニアックな70年代アイテムのライナーノーツを担当するほどシーンに精通した人物であることから、本作にも深い理解を持ったサウンドを期待せずにはいられませんが、内容としては、70年代の郷土色豊かなグループのスタイルをそのまま2014年に甦らせることに成功していることが特筆すべきポイントであり、伝統的な味わいを感じさせるバンド・アンサンブルはどこか懐かしく、同国プログレッシブ・ロックの歴史を知り尽くしたメンバーの存在が確実に彼らのサウンドに影響を与えていることを伺わせます。また、全体的にジャム色の強いスタイルを採用しているところにセッション系のミュージシャンらしさを感じることが出来ますが、適度な酩酊感と独特の色彩感を持った方向性はサイケデリック・ロック的に解釈することが出来、さらにはヴィンテージな渋みを持ったオルガン・ロックとしての側面も持ち合わせているという、音楽性から空気感に至るまで多面的な魅力に富んだ作品と言えるでしょう。

スウェーデンのプログレッシブ・ロックシーンを考察していくと、70年代には代表格グループたちでさえ母国語を用いて独特の叙情性を伝えており、続く90年代前半のプログレッシブ・ロック復興期にも、北欧の土壌の上にしか存在し得ない質感を持ったANGLAGARDがその役割を大きく担ったことは広く知られています。しかし新世紀以降、同国をプログレッシブ・ロックの重要生産国に押し上げ、ファンの目を今日に至るまで半ば強制的に同国に向けさせてきたのは、北欧「らしさ」を持ちつつもイギリスやアメリカ勢に勝るとも劣らない非常に洗練された音楽性を提示するアーティストたちの存在であったことも、また事実でしょう。だからこそ、その土着性の象徴として前述のKEBNEKAJSE (2009年)やANGLAGARD (2012年)が再結成を果たしたことや、その精神を受け継いだAGUSAのような新しいグループが登場したことには、とても大きな意味があるはずです。


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