2019年2月22日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
2000年代以降のノルウェー産プログレッシブ・ロックを理解するためには、代表格グループであるWHITE WILLOWと、その関連ミュージシャンたちへの言及が不可欠となるでしょう。WHITE WILLOWはフォーク・グループTHE ORCHILD GARDENを母体に90年代初頭のプログレッシブ・ロック復興期に登場したグループであり、92年から94年の間に録音された楽曲を収めた95年作『Ignis Fatuus』でアルバム・デビューを飾りました。彼らがいかに重要な時代に活動を開始したのかは、プログレッシブ・ロック復興の中心地となった同時期のスウェーデンを見れば明らかでしょう。同国では92年にANGLAGARDが『Hybris』で、そして93年にANEKDOTENが『Vemod』でアルバム・デビューを果たし、さらに94年には、KAIPAのギタリストとして70年代を経験したRoine Stoltによる、事実上THE FLOWER KINGSのデビュー作にも位置付けることが出来るソロ・アルバム『The Flower King』が発表されています。最初期のWHITE WILLOWは、いわゆるバンド・サウンドとは異なるアプローチ、つまり「メロトロンを取り入れた幽玄なゴシック・フォーク」に個性が表れていましたが、98年のセカンド・アルバム『Ex Tenebris』では上記のANGLAGARDからドラマーMattias Olssonが参加するなど体制が整い、アルバムにはダイナミックな楽曲も収録されるようになりました。
2000年に発表されたサード・アルバム『Sacrament』では、リーダーのギタリストJacob Holm-Lupoと前作『Ex Tenebris』から参加の女性ヴォーカリストSylvia Erichsenを残しバンド・メンバーを一新。同作においてWHITE WILLOWは、耽美なプログレッシブ・フォークに鬱屈としたシンフォニック・ロックをブレンドする音作りで話題を集め、翌2001年にはプログレッシブ・ロックの有名フェスティバルであるNorth East Art Rock Festivalのステージも経験しました。なお、同作には当時まだ10代のキーボーディストLars Fredrik Froislieがゲスト・プレイヤーとして参加していることにも注目したいところです。Lars Fredrik FroislieはWHITE WILLOWの代表作とも評される2004年の次作『Storm Season』から正式メンバーとして加入しますが、2005年には自身がリーダーを務めるWOBBLERでもデビュー・アルバムを発表し、その後WOBBLERは驚異的なスピードでプログレッシブ・ロックのトップ・グループへと出世を遂げていきました。結果的にグループ最大のセールスを記録した『Storm Season』ではありましたが、5作目となる2006年作『Signal To Noise』ではベーシストJohannes Saeboeと女性ヴォーカリストSylvia Erichsenが脱退。また、紋切り型のプログレッシブ・ロックを拒絶したことによってそれまでのレトロな作風が後退し、持ち味であるゴシック・テイストはそのままに、ネオ・プログレッシブ・ロックすら引き合いに出すことが出来るほどに垢抜けたサウンドが提示されました。
新機軸を打ち出した5作目の『Signal To Noise』リリース後のWHITE WILLOWは、グループを休眠させる代わりにメンバーのサイド・プロジェクトを活発化させます。2007年にJacob Holm-LupoとLars Fredrik Froislieがレコード・レーベルTermo Recordsを発足させると、Lars Fredrik FroislieがIN LINGUA MORTUAによる2007年作『Bellowing Sea – Racked By Tempest』やWOBBLERによる2009年作『Afterglow』で注目を集め、一方Jacob Holm-LupoはTHE OPIUM CARTELによる2009年作『Night Blooms』を作り上げました。なお、『Night Blooms』にはJacob Holm-Lupoの盟友であるANGLAGARDのMattias Olssonが参加しており、以降Mattias Olssonは再びWHITE WILLOW人脈と深く関わっていくことになります。
さて、WHITE WILLOWの活動休止中にWOBBLERやTHE OPIUM CARTEL、RHYS MARSH AND THE AUTUMN GHOSTなどの関連プロジェクトが完成度の高い作品を次々に発表していったことは、本家の新作への期待を弥が上にも高めました。2011年にリリースされた6作目となる『Terminal Twilight』は、過去最高と言える布陣で製作されています。中心メンバーであるJacob Holm-LupoとLars Fredrik Froislieはもちろん、やはり欠かせないメンバーである管楽器奏者Ketil Einarsenも引き続き参加。特筆すべきは女性ヴォーカリストSylvia Erichsen(本作での表記名はSylvia Skjellestad)とドラマーMattias Olssonの再加入であり、さらに女性ダブル・ベース奏者Ellen Andrea Wangが新たに加入しています。本作は、グループの代表作と評されてきた『Storm Season』を凌ぐ完成度を誇る、これまでWHITE WILLOWが提示してきた様々なサウンドを凝縮した名盤となりました。全体としては、プログレッシブ・ロックの枠組みからの脱却を試みた前作『Signal To Noise』を経て、再び『Sacrament』や『Storm Season』時代へ回帰したという印象を持ちますが、例えば初期の彼らを思い出させるゴシック・フォーク・テイストや、前作に通じるポップ・テイストなども散りばめられており、やはりグループの集大成という表現が最も適した作品であると言えるでしょう。さらにそれぞれの楽曲の出来栄えは、Mattias Olssonの再加入によってANGLAGARDやANEKDOTENに勝るとも劣らないクオリティーにまで引き上げられているのです。
WHITE WILLOWによる本作『Terminal Twilight』のハイ・レベルな内容は、上記の通りJacob Holm-Lupoの音楽性が従来のプログレッシブ・ロックには収まり切らないベクトルへと向かっていったことを発端としています。Jacob Holm-Lupoは自身の表現欲求を隠すことなく前作『Signal To Noise』を作り上げ、さらにグループの活動休止という決断を下し、ソロ・プロジェクトTHE OPIUM CARTELで未開の地へと踏み出していきました。プログレッシブ・ロック・シーンに返り咲いたWHITE WILLOWは本作で確固たる地位を確立し、次作『Future Hopes』ではRoger Deanによるアートワークを採用。再び世界中のプログレッシブ・ロック・ファンを驚かせることになります。
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ノルウェー出身、北欧シンフォ・シーンを牽引するバンドによる17年作。繊細ながらも鋭利なナイフを思わせるキレを持つエレキギター、柔らかなアコースティックギター爪弾き、メロトロンやオルガンを中心とする幽玄のキーボード群、そしてヘヴンリーなフィメール・ヴォイスらが織りなすバンド・アンサンブルと、デジタリーなプログラミング音響が絶妙に融合した、非現実感が漂うサウンドがとにかく素晴らしいです。初期より一貫するほのかな北欧トラッド色も彼らならではと言える圧倒的な情景描写性をより際立たせていて、深い雪に覆われた北欧の自然情景がありありと見えてくるかのよう。とは言え突き放すような孤高さよりは雄大な音像に包み込まれているかのような温かみを宿しているのが実に感動的です。中心メンバーのJacob Holm-LupoによるユニットOPIUM CARTELの音楽性に接近した印象も受けます。ジャケット・デザインに巨匠ロジャー・ディーンを起用しているのも納得の、息を飲むほどの幻想美が広がる傑作!
北欧はノルウェーのシンフォニック・ロック・グループ、95年のデビュー作。幽玄なアコースティック・ギターの爪弾きとそこに柔らかに寄りそうハープシコード、透き通るようなハイトーンの美声女性ヴォーカルと幻想的な男性ヴォーカルが儚くメロディを歌うイントロ。そんな70年代憧憬の静謐なフォーク・サウンドから、ポスト・ロック的な浮遊感あるドラムが入ると、ムーグなどヴィンテージなキーボードが豊かに広がり一気にモダンプログレの世界へ。再び、音がすっと遠ざかると、フルートが繊細に紡がれ、優美にたゆたう。70年代プログレのファンは間違いなく言葉を失う完璧なオープニング!2曲目以降もフルートとヴァイオリンが交差したり、メロトロンがリリカルなメロディを奏でたり、レ・オルメばりのオルガン・プログレを聴かせたり、70年代プログレへのオマージュに満ちたサウンドがめくるめく続きます。アングラガルドなど続々と好グループを輩出するスウェーデンに負けじとノルウェーから現れたヴィンテージ・スタイルのプログレ新鋭逸材。これは傑作です。
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