2017年9月22日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
弦楽器奏者や管楽器奏者を擁する変則的なメンバー編成が珍しくないプログレッシブ・ロック・シーンにおいて、フルートを個性とするグループに比べればその数こそ少ないものの、優れた音作りを披露する実力派が定期的に登場してきたのが「ヴァイオリン・ロック」と呼ばれるカテゴリーでしょう。ヴァイオリン・ロックはその前提に、ヴァイオリン奏者がインストゥルメンタルの楽曲をリードする、もしくは楽曲の中で大きな存在感を示し技巧的な演奏を行うといったイメージが強いため、ヴァイオリン奏者を擁した編成のグループ全てが該当するわけではありませんが、ともあれプログレッシブ・ロックがその歴史の中でロック・スピリットに溢れた素晴らしいヴァイオリン奏者たちを輩出してきたことは間違いありません。
1970年代のプログレッシブ・ロック・シーンにおける代表的なヴァイオリン奏者としては、イギリスではKING CRIMSONへの参加で知られるDavid Cross、女性ヴォーカリストSonja Kristinaを擁するCURVED AIRのメンバーとして登場し、リーダー・グループDARRYL WAY’S WOLFを率いたDarryl Way、そして同じくキーボード奏者を兼任する形でCURVED AIRに加入し、78年にはU.K.を結成したマルチ・プレイヤーEddie Jobsonが挙げられます。また、イタリアでは、PREMIATA FORNERIA MARCONIのメンバーとして活躍するも全盛期にあったグループから脱退し、地中海音楽とロックを融合させる傑作を発表したMauro Paganiが別格の知名度を誇っていますが、イタリアン・ロックの中には個人名が取り上げられることこそ少ないものの、ヴァイオリンの響きが冴え渡るQUELLA VECCHIA LOCANDAのような例も存在します。さらにフランスでは、MAGMAへの参加で頭角を現し、関連グループであるZAOやSURYAでも活躍したDidier Lockwood、THE MAHAVISHNU ORCHESTRAなどを経てソロ・アーティストとしても成功を収めたJean-Luc Ponty、そしてTRANSIT EXPRESSへの加入でフレンチ・ジャズ・ロックの傑作を生み出したDavid Roseが広く知られてきました。今回は、そんな歴史を受け継ぐロシアのヴァイオリン・ロック・グループLOST WORLDを取り上げます。
さて、2000年代のロシアン・プログレッシブ・ロック・シーンにおいてLITTLE TRAGEDIESと共に代表格と評されるのが、モスクワ音楽院で高度な音楽教育を受けたミュージシャンたちによって結成されたLOST WORLDです。マルチ・プレイヤーのヴァイオリン奏者Andy Didorenkoを中心として、フルート奏者、キーボーディストという変則的な編成で活動を開始した彼らは、2003年にデビュー・アルバム『Trajectories』をリリースし、ロック・フェスティバルなどで経験を積んでいきました。その後、2006年のセカンド・アルバム『Awakening Of The Elements』が老舗レーベルであるフランスのMusea Recordsから世界配給されたことでプログレッシブ・ロック・ファンから注目を集めたものの、セカンド・アルバムまでの彼らはドラマーの不在をプログラミングによって補っており、「ロック・バンド」としての体制を整える必要があったのでしょう。2009年にリリースされたサード・アルバム『Sound Source』ではドラマーが新たに加入し、それに伴ってグループ名を「LOST WORLD」から「LOST WORLD BAND」へとリニューアルしました。また、後述の2013年作『Solar Power』発表後の2014年には、プログラミングのリズム・セクションを生演奏に差し替えるなど、多くのパートを新たに録音し直したセカンド・アルバムを『Awakening Of The Elements Revisited』として再リリースしています。
4枚目のスタジオ・アルバムとなる2013年作『Solar Power』は、オリジナル・メンバーであるヴァイオリン奏者Andy Didorenko、フルート奏者Vassili Solovievに加えて、新たにドラマーが加入し、トリオ編成で製作されています。なお、オリジナル・メンバーであるキーボーディストAleksandr Akimovは、プロデューサーとしてグループに関わっているようです。彼らの最大の魅力は、メンバーの高い音楽スキルに裏打ちされたドラマティックな楽曲構成ですが、アンサンブル楽器ではなくソロ楽器としてヴァイオリンを扱っているにも関わらず、一辺倒なサウンド・メイクを回避した構成力のある楽曲を生み出せるのは、ヴァイオリンに加えてエレキ・ギター、アコースティック・ギター、ベース、そして本作ではキーボード・パートまでを一手に引き受けているAndy Didorenkoのマルチな才能と、卓越したバランス感覚によるものなのでしょう。または、裏方に徹するAleksandr Akimovの貢献も少なくないはずです。ワールド・ミュージックにも通じるようなシネマティックなサウンドで幕を開ける本作においてもその点は変わることなく、ソリスト・タイプのスリリングな技巧を残しながら、しかし過度な自己主張に陥ることなく、あくまで楽曲主体のサウンドを構築しています。一方で、本作での大きな変化としては、緊張感を持ったインストゥルメンタル楽曲が全編を支配していた前作までと違い、ヴォーカル・バラードが用意されていることが挙げられるでしょう。アルバム全体の緩急までを考慮に入れた創作は、彼らの持ち味であるダイナミックなインストゥルメンタル楽曲を前作以上に際立たせ、作品全体の質を大きく向上させています。
ヴァイオリン奏者を擁する編成のグループは、新世紀のプログレッシブ・ロック・シーンにも一定数存在するものの、そのほとんどはアンサンブル楽器やアクセント的な扱われ方に留まっているような印象を持つでしょう。そんな中にあって、LOST WORLD BANDの存在は圧倒的に映るはずです。彼らは、他の追随を許さず2000年代のヴァイオリン・ロック・シーンを駆け抜け、正式デビュー10周年となる節目の2013年に本作をリリースしましたが、その内容は、彼らの独走状態が今後もまだまだ続くことを予感させるに充分なものとなりました。
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キング・クリムゾンからの影響が感じられる硬質でアグレッシヴなサウンドをベースに、クラシカルなヴァイオリンやフルートが疾走するテクニカル・アンサンブルが痛快な、現在最も注目すべき新鋭の一つですLOST WORLDの魅力に迫るインタビュー!
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現代ロシアを代表する3人組プログレ・バンドによる13年作4th。シャープで安定感のあるドラム、テクニカルに躍動するベースを土台に、キーボードがリズム隊とは異なる変拍子でミニマルかつエスニック調のフレーズをかぶせ、緊張感を生み出す。そこにどこまでも伸びやかに、そして鮮烈に奏でられるヴァイオリン!芯のある太いトーンのギターやフルートもからみ、「静」と「動」を対比させながら流れるように畳みかけます。目の覚めるような完璧なオープニング・ナンバー。ただただ心が躍ります。2曲目以降も、切れのあるヴァイオリンが疾走するクラシカル・シンフォから、ヘヴィーにうねるギターが炸裂する70年代中期クリムゾン的ヘヴィー・プログレ、フルートをフィーチャーした民族調テクニカル・アンサンブルまで、1曲の中でめくるめく展開しながら、ハイテンションで駆け抜けます。終始テクニカルで展開が多いながらも、決して大味になることなく、精緻で格調高く気品に満ちているのがこのバンドの凄いところ。その点で、ジェントル・ジャイアントをも凌駕していると言っても決して過言ではありません。傑作3rdをさらに上回る、素晴らしすぎる傑作!
現代ロシアを代表するのみならず、ヴァイオリンをフィーチャーした新鋭プログレ・バンドとして屈指と言えるクオリティを持つトリオ、2016年作5thアルバム。オープニングから、舞踏音楽も取り込んだ躍動感いっぱいのリズム・セクションをバックに、ヴァイオリンが鮮やかなトーンでまるで天空を駆け抜けるかのように鳴り、エレキ・ギターが追随しながら疾走感を加える。イマジネーションいっぱいにめくるめく鳴り響く管楽器も凄いし、アコギとフルートによる静謐なパートの奥ゆかしさも特筆。ロシアが生んだクラシック音楽の巨匠ストラヴィンスキーが蘇り、交響楽団とテクニカルなプログレ・バンドを従えた、といった感じのまばゆすぎるアンサンブルにただただ心躍ります。何という完成度。2016年のプログレ作品の中で間違いなくトップ3に君臨することでしょう。ずばり傑作です。
ヴァイオリン/ギターetc.のAndy Didorenkoを中心に結成、現ロシアを代表するプログレ・グループにして、全世界的に見て最もスリリングなヴァイオリン・プログレを聴かせる実力派グループ、3年ぶりとなる19年作6th。Vln&G/fl/dr/perの4人編成だった前作発表後に、パーカス奏者が脱退しベーシストと女性キーボーディストが加入。バンドとして安定した5人編成で制作されたのが本作です。1曲目からアクセル全開!舞踏音楽を思わせる気品に満ちたフレーズを切れ味鋭くスリリングに紡ぐ圧巻のヴァイオリンを中心に、パーカッシヴな打音も織り込んだダイナミックなリズム隊、テンション高くアンサンブルに絡みつつもあくまでしなやかな音色のフルートがスピーディに駆け抜ける緻密にして猛烈にテクニカルなアンサンブルには、プログレ・ファンなら血沸き肉躍ること必至。キーボードが大活躍する2曲目は新境地で、テーマを豪快に奏でるシンセとオルガンがカッコいい骨太なテクニカル・シンフォ。Andyはキーボードに負けじとヴァイオリンをギターに切り替えて音数多くキレのあるプレイで応じており、火花を散らすような応酬が見事です。さらに、クラシック畑のメンバーらしい静謐な空間の中でヴァイオリンやピアノが優雅に奏でられるクラシカル・チューンも流石で、疾走感あるプログレ曲との間にあまりに鮮やか対比を生み出しており素晴らしいです。トリオ編成だった頃に比べて、アンサンブルに確かな厚みと密度が生まれ、サウンドにズシリとした重みが加わった印象を受けます。3年待った甲斐のある貫禄の傑作!
【カケレコ国内盤(直輸入盤帯・解説付仕様)】デジパック仕様、定価2,990+税
レーベル管理上、デジパックに若干角つぶれがある場合がございます。ご了承ください。
ロシア出身、ヴァイオリン/ギターetc.のAndrey Didorenkoを中心に90年代初頭に結成され、現在はアメリカを拠点に活動するテクニカル・シンフォ・バンド、24年作!今作ではAndriiがギター/ベース/ヴァイオリン/パーカッション/キーボードを兼任するソロ・プロジェクト的形態となり、フルート奏者/ヴォーカリスト/ドラマーらをゲスト・ミュージシャンに迎えての制作となっています。最長でも3分台というコンパクトな全16の楽曲群で構成される本作ですが、注目すべきはその恐ろしいまでの攻撃性。テクニカルでエッジの効いた音ではありつつも、あくまでクラシカルな気品高さが先立っていた従来の彼らを払拭するかのように、リズム・セクションとギターを中心にこれでもかとヘヴィかつタイトに攻め立てるサウンドに驚かされること必至。デビュー時より内包していたKING CRIMSONの影響が、むき出しの狂暴性となって襲い掛かってきます。バンドを特徴づけてきたヴァイオリンも狂気を露わにしながらスリリングに弾きまくっていて圧巻。荒れ狂うようなヘヴィ・プログレ・チューンが数曲続くと、かつての彼らを思わせる優美なクラシカル・シンフォニック・ロックが悠然と立ち上がって来る構成も見事で、その振れ幅が素晴らしい対比を生み出しています。クラシカル・サイドではゲストの女性ヴォーカルによる麗しくも憂いを帯びた歌声が絶品。KING CRIMSONファン、特に『太陽と戦慄』が好きな方はきっとニンマリとしてしまうでしょう!
下記ページで全曲試聴可能です!
https://lostworldband.bandcamp.com/album/a-moment-of-peace
90年代初めから活動するロシアのシンフォ・グループ。高い評価を得た06年作2ndに続く09年作。ヌケが良く疾走感溢れるリズム・ギターとアグレッシヴなリズム隊が築くスケールの大きなキャンバスの上を、ヴァイオリンとギターが奔放に美しいメロディを描き、そこに流麗なピアノが鮮やかな色を付ける。聴いていて思わず笑みがこぼれる躍動感いっぱいのアンサンブル。まさに「鮮烈」の一言。ただ、ゴリ押しで畳みかけることは決してなく、どんなにアグレッシヴなパートでも、静謐とも言えるような格調高さを常に感じさせるのが特筆もの。前作同様に「静」と「動」の対比鮮やかで、「静」のパートでは、フルートが柔らかに舞い、優美なメロディを描く。ファンタスティックなシンフォを軸に、「太陽と戦慄」期クリムゾンのような硬質なヘヴィネスや、ディシプリン期クリムゾンのような浮遊感とサウンドのエッジをうまく織り込み、なおかつ全体的には優美さでまとめ上げるセンスは超一級。サウンド・プロダクションも抜群で、モダンなビビッドさとビンテージな温かみとのバランスが絶妙。これは傑作です!
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