2016年7月22日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
様々なスタイルが登場し細分化してきた音楽シーンの中でも、その歴史を1960年代まで遡るプログレッシブ・ロックは「ヴィンテージ・ロック」のひとつであると言えるでしょう。そもそも「ヴィンテージ」という単語はフランス語を語源に、ワインの製造工程を指す言葉として生まれたものであり、現在では「価値のある年代物」というようなニュアンスで幅広く使用されています。しかし、年代物のワインにも瓶詰めされた瞬間があったように、どんな「ヴィンテージ」にも「製造された当時」が存在したということは、後の世代にとっては実感を持ちにくいものでしょう。そのことはプログレッシブ・ロックという音楽ジャンルについても同様のことが言え、「ヴィンテージ」という視点に加えて「当時の最先端」という捉え方が出来るということは、改めて認識しておきたいところです。事実、当時のプログレッシブ・ロックには、現在では「ヴィンテージ」と呼ばれる楽器たちが「最先端技術」として惜し気もなく投入されていました。その象徴的な存在のひとつがサンプリング・マシンの元祖と呼ばれるメロトロンであったわけですが、今回は様々な「ヴィンテージ」の中から(メロトロン、ハモンド・オルガンを除く)プログレッシブ・ロック・シーンにおいて機種名が登場することの多いヴィンテージ・キーボードをチェックしていきます。
メロトロン、ハモンド・オルガンに次いで取り上げなければならないのは、やはりモーグ・シンセサイザー(Moog Synthesizer)でしょう。プログレッシブ・ロックにおいては、EMERSON, LAKE & PALMERのキーボーディストKeith Emersonが、モーグ・シンセサイザーの生みの親であるRobert Moog博士による巨大なモジュラー・システムを用いたことが広く知られていますが、モーグ・ブランドを広く音楽シーンに知らしめたのは「シンセサイザーの王様」と評されるモデルであるミニモーグ(Minimoog)でした。70年に発表されたミニモーグは、コンパクト化に成功しながらバンド・サウンドに埋もれることのない出音の太さを持ち、強烈なシンセサイザー・リード、あるいは存在感のあるシンセサイザー・ベースなどでも多くのミュージシャンに重宝されてきました。メロトロンの上にミニモーグを乗せたステージ・セットアップは、プログレッシブ・ロック・ファンには馴染みの深いものでしょう。音作りに必要なモジュールを分かり易くパネル上に配置し、現在のデジタル・シンセサイザーにも受け継がれる「型」を提示したことや、ピッチ・ベンド、モジュレーション・ホイールを駆使し演奏に「表情」を与えるプレイ・スタイルを確立させたことなど、ミニモーグが音楽シーンに与えた影響は計り知れません。そういったミニモーグの特色を演奏に反映させたプログレッシブ・ロック・ミュージシャンとしては、ギタリストのようなベンド奏法を個性とし、アメリカのTHE MAHAVISHNU ORCHESTRAに参加したJan Hammer、加えてYESの74年作『Relayer』にRick Wakemanの後任キーボーディストとして参加し、76年にはプログレッシブ・ロックの名盤と評されるソロ・アルバム『The Story Of I』をリリースしたPatrick Morazの名前を挙げておきましょう。
ストリングス・キーボードの存在も、プログレッシブ・ロックでは非常に重要なものです。定番として有名なソリーナ(Solina String Ensemble)は、ヴァイオリン、ヴィオラ、トランペット、ホルン、チェロ、コントラバスのプリセットをミックスする音作りによって独特の質感を持つストリングス・サウンドを構成することが出来、シンセサイザーがモノフォニック(単音)発音の時代に、ポリフォニック(和音)で音色を奏でられたことから多くのミュージシャンに重宝されました。ソリーナにプリセットされた各音色自体は非常にチープなものですが、パネルに配置されたモジュレーション・スイッチによって「コーラス・エフェクト」を使用すると、広がりのあるザラついたストリングス・サウンドが完成します。純粋にソリーナの音色を味わう場合には、全曲がソリーナの音色を中心に構成されているスパニッシュ・プログレッシブ・ロック・グループAZAHARの77年作『Elixir』、バンド・サウンドにおけるソリーナの効果的な使用を知る場合には、John Toutのプレイが冴え渡る、ブリティッシュ・プログレッシブ・ロック・グループRENAISSANCEのライブ作(99年発表作『BBC Sessions』や2006年発表作『British Tour ’76』などオーケストラを伴わないもの)が参考になるでしょう。
エレクトリック・ピアノについては、フェンダー・ローズ(Fender Rhodes)とウーリッツァー(Wurlitzer)の名前を耳にする機会が多いでしょう。ローズ・ピアノにはアンプ、スピーカーを必要とする「Stage Piano」と内蔵タイプの「Suitcase Piano」がありますが、特に「Suitcase Piano」については、ステレオ・スピーカーを生かした「トレモロ・エフェクト」が知られ、ステレオの左右に揺らぐロマンティックな音色が数々の名盤に録音されてきました。ハンマーで金属製の音叉を叩く構造はアコースティック・ピアノに近いものです。一方のウーリッツァーは、金属製のリードを叩き発音させる構造がやはりアコースティック・ピアノに近いものですが、ローズ・ピアノに比べると控え目で歯切れの良い出音という印象を持ちます。有名機種は「Model 200A」であり、代表的なオーナー・アーティストとしてはCARPENTERSのRichard Carpenterなどが挙げられるでしょう。上記以外では、ブリティッシュ・ハード・ロックの代表格であるDEEP PURPLEのキーボーディストJon Lordがハモンド・オルガンに埋め込む改造を施したRMI・エレクトラ・ピアノ(RMI Electra Piano)も知られていますが、ローズ・ピアノやウーリッツァーが金属を叩き発音する「電気ピアノ」なのに対して、RMI・エレクトラ・ピアノは電子発振方式の「電子ピアノ」として厳密には区別されています。
ファンク・ミュージックに使用されてきた印象が強いクラヴィネット(Hohner Clavinet)も、プログレッシブ・ロックの中で聴くことがあります。STEVIE WONDERによる72年の名曲「Superstition」で使用された「Clavinet C」、白鍵と黒鍵のカラーが逆転したデザインを持つ「Clavinet L」を含め様々なタイプがありますが、有名モデルとして「Clavinet D6」が挙げられます。特にハモンド・オルガンやクラヴィネットの場合、アコースティック・ピアノなどと違い、サスティン・ペダルを用いて演奏の粗を誤魔化すことが出来ない点に演奏の難しさがありますが、クラヴィネットはエレクトリック・ピアノというよりもギターに近い音色であり、「ワウ・エフェクト」を用いてパーカッシブなフレーズを奏で、バンド・アンサンブルの中でグルーヴィーに威力を発揮する手法がミュージシャンに定着しています。
さて、メロトロン、ハモンド・オルガン、そして上記のキーボードを含むヴィンテージ機材たちは、そのほとんどが最新テクノロジーによってハードウェア、あるいはソフトウェアで生まれ変わり、現在でも多くのミュージシャンに愛され続けていますが、これらのマシンをヴィンテージで揃えるとなると容易なことではありません。前述の通り「価値のある年代物」ですから、手に入れるためには少なくない予算が必要ですし、例えばパーツの消耗具合で音色が変化するなど、メンテナンスが不可欠となります。また、運搬や収納にも骨が折れることでしょう。しかし、それでもオリジナルを求めるミュージシャンたちが世界中に存在しているのです。現行プログレッシブ・ロック・シーンにおいて、ヴィンテージ志向を持ったアーティストの数は決して少なくありませんが、そんな中でもヴィンテージ・キーボード・フリークとして有名なのがノルウェーのシンフォニック・ロック・グループWOBBLERのキーボーディストLars Fredrik Froislieでしょう。ノルウェーのプログレッシブ・ロック・シーンを代表するWHITE WILLOWのメンバーでもある彼は、WHITE WILLOWのギタリストJacob Holm-Lupoと共に専門レーベルTermo Recordsを運営しながら新世紀の北欧プログレッシブ・ロック・シーンを牽引してきました。
2009年にリリースされたWOBBLERのセカンド・アルバム『Afterglow』は、70年代サウンドを全面に押し出した作風がファンからの強い支持を受け、彼らにとっての出世作となりました。彼らが選択した音楽性は、90年代のプログレッシブ・ロック復興期においてスウェーデンのANEKDOTENやANGLAGARDが提示した世界観を受け継ぐへヴィー・プログレッシブ・ロックであり、その鬱屈としたサウンド・メイクと冷ややかな質感は非常に北欧らしいものです。本作の収録時間は35分と短い印象を持ちますが、アルバムのオープニングとエンディング、そしてインタールード(間奏曲)に小品を配置し、その間に10分を超える長尺楽曲が2曲用意されていることから、アナログ・レコードのフォーマットを意識したものなのでしょう。自らの担当楽器をクレジットする際に使用機材を列挙するミュージシャンがプログレッシブ・ロック・シーンには少なくありませんが、それはWOBBLERの場合も例外ではありません。Lars Fredrik Froislieは本作で使用したヴィンテージ・マシンの数々を所狭しとクレジットしており、上記で取り上げたキーボードのほとんどを導入しています。
最後に書き加えておきたいのが、本作にアープ社のプロ・ソロイスト(Arp Pro Soloist)というシンセサイザーが導入されていることです。アープ・ブランドを代表する機種としてはオデッセイ(Arp Odyssey)が最も知られていますが、ここでプロ・ソロイストが登場する理由は、ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックのトップ・グループであるGENESISのキーボーディストTony Banksでしょう。特に73年の名盤『Selling England By The Pound』に収録された楽曲「The Cinema Show」後半(8分の7拍子部分)の長いシンセサイザー・ソロでは、プロ・ソロイストの音色を切り替えながら素晴らしいキーボード・プレイが展開されています。思い返してみれば、本作のアルバム・タイトル『Afterglow』も、GENESISの76年作『Wind & Wuthering』に収録された同名楽曲に端を発したものなのかもしれません。70年代の音作りに対するリスペクトを隅々に至るまで徹底し、WOBBLERのヴィンテージ・サウンドは構築されているのです。
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