2019年11月22日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
THE NICEのキーボーディストKeith Emerson、KING CRIMSONのベース・ヴォーカリストGreg Lake、そしてATOMIC ROOSTERのドラマーCarl Palmerによって結成され、1970年に『Emerson, Lake & Palmer』でレコード・デビューを遂げたEMERSON, LAKE & PALMERは、ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックを代表するグループのひとつとして広く知られています。彼らは、ロック・ミュージックに必要不可欠なギタリストを欠いたキーボード・トリオ編成でありながら、ロック・ミュージックの醍醐味であるダイナミックなサウンドを生み出すことに成功した稀有なグループであり、70年代の音楽シーンにおいて世界的な名声を獲得しました。特にKeith Emersonは、ギター・アンプ(ハイワット社製)で歪ませたハモンド・オルガンを用いてアグレッシブなサウンドを作り出し、アクロバティックなステージ・パフォーマンス(ハモンド・オルガンに馬乗りになりナイフを突き刺すなど)によってそれまでのキーボーディストに対する地味なイメージを払拭。また、当時の先端テクノロジーであったモジュラー・シンセサイザー(モーグ社製)をレコーディングやコンサートで積極的に導入するなど、ロック・キーボーディストの始祖的な存在として後進ミュージシャンたちに多大なる影響を与えました。
EMERSON, LAKE & PALMERが71年に発表したライブ・アルバム『Pictures At An Exhibition』は、ロシア国民楽派の作曲家であるムソルグスキーによって1874年に作曲され、フランスの作曲家ラヴェルによるオーケストレーション版が知られている組曲「展覧会の絵」にロック・アレンジを施した名盤として、数多くの音楽リスナーを魅了し続けてきました。しかし実際には、同作には海賊盤への対応という事情があったようです。グループは71年3月26日にイギリスのニューキャッスル・シティー・ホールで同作のライブ・レコーディングを行いましたが、その時点での発売計画は未定であり、同年5月にセカンド・アルバム『Tarkus』をリリース。その結果、組曲「展覧会の絵」のロック・アレンジを含む彼らのライブ音源が非公式に流通する事態となり、彼らは海賊盤を回収した上で同年11月、正式なライブ・アルバムとして『Pictures At An Exhibition』を発表したのでした。ともあれ、同作がプログレッシブ・ロックという音楽ジャンルを象徴する傑作のひとつであることは疑いようのない事実でしょう。なお、EMERSON, LAKE & PALMERは組曲「展覧会の絵」の全楽曲を取り上げているわけではなく一部を抜粋して構成しており、組曲の曲間にグループのオリジナル楽曲を挟み込むなど自由度の高いスタイルを採っています。
さて、EMERSON, LAKE & PALMER の『Pictures At An Exhibition』から半世紀近くを経た2018年、新たな『Pictures At An Exhibition』がイタリアから登場しました。2016年にミラノで結成されたTHE WINSTONSは、結成と同年に『The Winstons』でアルバム・デビュー。3名のメンバーたちはそれぞれ架空のファミリー・ネームである「Winstons」を用いてEnro Winstons(キーボーディストEnrico Gabrielli)、Rob Winstons(ベーシストRoberto Dell’Era)、Linnon Winstons(ドラマーLino Gitto)と名乗ります。彼らはカンタベリー・ロックからの影響を感じさせるポップなジャズ・ロックを提示し、その作風がプログレッシブ・ロック・リスナーに高く評価されました。
THE WINSTONS & EDMSCによる2018年作『Pictures At An Exhibition』は、アルバム・デビュー以前の2015年にライブ・レコーディングされた作品となっています。THE WINSTONSにとってセカンド・アルバムとなる本作ですが、名義はキーボーディストEnrico GabrielliのプロジェクトESECUTORI DI METALLO SU CARTA(EDMSC)との連名となっており、ESECUTORI DI METALLO SU CARTAからはヴァイオリン奏者Roberto Izzoと打楽器奏者Sebastiano De Gennaroが参加。なおRoberto Izzoは、GNU QUARTETという管弦カルテットでもプログレッシブ・ロックに接近した作品(2014年作『Karma』など)を発表しているミュージシャンであり、イタリアのNEW TROLLSやメキシコのCASTの作品にも名を連ねています。本作は、タイトルが示す通り組曲「展覧会の絵」を収めたアルバムとなっていますが、興味深いのは、彼らがEMERSON, LAKE & PALMERの『Pictures At An Exhibition』を大いに参考にしている点でしょう。例えば、「Promenade」や「The Great Gates Of Kiev」にはEMERSON, LAKE & PALMER版の歌詞(Richard FraserとGreg Lakeによる共作)が採用されていますし、「The Gnome」や「The Hut Of Baba Yaga」のバンド・アンサンブルにも影響が見受けられます。一方で、EMERSON, LAKE & PALMER版とは異なるポイントも探したいところです。まず、上記のようにEMERSON, LAKE & PALMERは組曲から一部の楽曲を抜粋しロック・アレンジを施しましたが、THE WINSTONS & EDMSCは組曲のほぼ全曲をプレイ。また、サウンド面に関してはキーボーディストEnrico Gabrielliの操るサイケデリックな音色(主にフェンダー社のエレクトリック・ピアノRhodesやイタリアの楽器メーカーEKO社のコンボ・オルガンTigerによる)が、Keith Emersonとは違いカンタベリー・ロックからの影響を感じさせます。あるいは、ESECUTORI DI METALLO SU CARTAから参加した2名のミュージシャンの存在も見逃せないでしょう。ヴァイオリン奏者Roberto Izzoは、NEW TROLLSやCASTでの活動を通して実証済みのテクニックを駆使し、楽曲を時にエレガントに、また時にシリアスに彩り、打楽器奏者Sebastiano De Gennaroは、ヴィブラフォンなどを用いて楽曲にマイルドな質感を加えます。クラシック音楽のロック・アレンジと言えば、原曲をパワフルなシンフォニック・ロックへと昇華するアーティストが多い中、THE WINSTONS & EDMSCは室内楽的な作風をベースとして、とてもユニークなプログレッシブ・ロックを生み出しています。
最後に、組曲「展覧会の絵」が取り上げられている(本作以外の)プログレッシブ・ロック・アルバムをまとめていきます。まず、EMERSON, LAKE & PALMERは組曲「展覧会の絵」を収めたライブ・アルバムを複数(79年作『In Concert』など)発表していますが、加えて同組曲をスタジオでもレコーディングしており、その音源は93年発表のボックス・セット『The Return Of The Manticore』などで聴くことが出来ます。また、旧東ドイツを代表するシンフォニック・ロック・グループSTERN COMBO MEISSENは2015年、オーケストラを率いて組曲「展覧会の絵」のロック・アレンジに挑んだライブ・アルバム『Bilder Einer Ausstellung (Pictures At An Exhibition) – The Rock Version Live』をリリースしました。さらに2019年には、やはりドイツのプログレッシブ・ロック・グループVOYAGER IVが『Pictures At An Exhibition』でアルバム・デビューを果たしています。
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16年にデビューを果たした、初期クリムゾンやカンタベリー・ロックから影響を受けたイタリアのプログレ新鋭バンド。デビュー以前の15年にライヴ録音された18年作で、トリオ編成の彼らにパーカッション/ヴィブラフォン奏者とヴァイオリン奏者を加えた特別編成によって、ELPで知られる「展覧会の絵」に挑んだ一枚です。グレッグ・レイクが歌ったELPオリジナルのヴォーカル・パートを引用しつつも、サウンドの質感はヴァイオリン奏者の存在を生かしたよりクラシカルなものとなっています。重厚なタッチのピアノ、悲哀を帯びたオルガン、そして格調高く空を舞うヴァイオリンなどがドラマチックに絡み合うアンサンブルが見事です!
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