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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第八十九回:KEITH TIPPET GROUP『DEDICATED TO YOU, BUT YOU WEREN’T LISTENING』

仕事ができるとか、お金を持っているとか、そういうのがステイタスというか、人間の価値みたいに思えるのは現役時代だけというのが、だんだんわかってきた。いくら仕事ができても、お金をたんまり持っていても、現役時代を退いて、さあ余生を過ごそうという時になると、その人の幸せを左右するのは、その人のそれまでの行いのようだ。必ずしもそうとは限らないけど、周りの人に疎まれてきた人が幸せな余生を送るのは難しそうです。要は「良い人」だったらいいということなんだけど、「良い人」が何なのかよくわからない。小学校の道徳の時間に習ったんだろうけど、もう忘れているし。自分が良い人間なのか、周りの人間はどうなのか。それがよくわからないから、心理ゲームとか血液型占いとか、そういうのが流行るんだろうな。ほとんど信じてないけど。

と、そういう本音をいうと場の空気が悪くなるので、占いにも心理ゲームにもニコニコと付き合ってきました。それでもなんとなく納得できないというか、乗り切れなかったのが「脳内メーカー」というやつ。そういうサイトがあって、漢字で名前を入れたら、それで判断して、その人の脳内を占めている関心ごとがわかるというもの。画数なのかしら? いや、私の名前「舩曳将仁」というんだけど、これまでに色々ありました。まず「舩曳」の「舩」の字で、「船」また「舟」とは違う。でも、小学校の高学年までは「船曳」だった。ある日、父が戸籍謄本を見ると「舩曳」だったとかいう気まぐれで(?)、突然「舩曳」になった。次に「舩曳」の「曳」だけど、上に点がつく「曵」と書かれることがある。だけど、点は付かない。しかし、数年前に母が戸籍謄本をとりよせてみると、「曳」の字の上に点がついた「曵」だったそうだ?! 父がうっかり見逃したんだろう。ちなみに、いくつかのパターンで脳内メーカーをやってみたら、「船曳将仁」では「愛・食・幸」で脳内が占められていた。「舩曳将仁」だと「遊・服・H」。「舩曵将仁」だと「金のみ」という結果に。どの名前がいいかな?



ということで、今回は脳内つながりで、KEITH TIPPET GROUP『DEDICATED TO YOU, BUT YOU WEREN’T LISTENING』を紹介したい。ジャケットを手掛けたのは、若き日のロジャー・ディーン(弟のマーティンもクレジットされている)。女性の脳内で赤ちゃんが育っているという、とにかくインパクトが大きいジャケット。キース・ティペットによると、最初にロジャー・ディーンが提示してきたジャケットのアイディアは、宇宙船が描かれているようなSF系のイラストだったという。キースは自分たちの音楽に合わないと思って、SF系ジャケットは却下した。それらのアイディアは、後にYESのアルバムで使われるようになったという。以降は、そのSF系イラストで有名になるロジャー・ディーンだが、この頃はGUNとかURIAH HEEPとかにオカルト系のジャケット・イラストを提供していた。それで、キースが気に入ったのは、この女性の頭の中で赤ちゃんが育っているというオカルト系のイラストだった。キースよ、音楽にあってますか?! とにかくインパクトがあるし、目を惹くじゃないか!というのが、このデザインを採用した理由らしい。ゲートフォールド・ジャケットで、内ジャケットも黒を基調にしたデザイン。内側には裸の女性とハエが合体したような生き物が描かれている。その後ろ姿ヴァージョンが、なんか可愛らしいと思うのは私だけでしょうか。

1947年8月25日、ブリストルに生まれたキース・ティペットは、祖父がピアノを弾いていた影響もあって、幼少のころからピアノを弾き始めたという。14歳の頃にKT TRAD LADSというトラディショナル・ジャズ・バンドを組んだというから、かなりの早熟ぶりだ。その頃には、すでに作曲もはじめていた。『DEDICATED TO YOU~』に収録されている「Thoughts For Geoff」は、キースが16歳か17歳ごろに彼の友達を思って書いた曲だという。

キース・ティペットは、ウェールズで開催されたバリー・サマー・スクールのジャズ・コースへ参加した時に、エルトン・ディーン、ニック・エヴァンス、マーク・チャリグらと意気投合。グループを結成してロンドンのクラブ・シーンで活動を開始する。めきめきと頭角を現した彼らは、プレイヤーとしてジャズ、ロック双方のシーンで注目されるようになる。

そもそも、1960年代後半の英アンダーグラウンド・シーンでは、ロックやらジャズやら、ブルースやら、それらのミックスやらを聴かせる個性的なアーティストたちがウヨウヨしていた。そこからCOLOSSEUM、KING CRIMSON、NUCLEAS、SOFT MACHINEなどが登場する。キース・ティペットを中心としたジャズ・バンドKEITH TIPPETT GROUPも、そのシーンの中に溶け込んでいた。その関係から、キース・ティペットがKING CRIMSON『THE WAKE OF POSEIDON』(1970年)に参加する。続く『LIZARD』(1970年)には、マーク・チャリグとニック・エヴァンスも参加することに。同じ1970年には、エルトン・ディーンがSOFT MACHINEのメンバーになっていたし、彼らの『FOURTH』(1971年)にはニック・エヴァンスとマーク・チャリグもゲスト参加する。

KEITH TIPPETT GROUPは、1970年にデビュー・アルバム『YOU ARE HERE, I AM THERE』を発表。キース・ティペット、エルトン・ディーン、ニック・エヴァンス、マーク・チャリグ、ジェフ・クライン、アラン・ジャクソンというメンバーでレコーディングされた。その翌年に発表されたのが『DEDICATED TO YOU~』だ。キース・ティペットは当時のジャズ、ロック・シーンの熱いうねりを受けて、「それやったら、みんなでなんかやったらええやん!」と言ったかどうかはわからないが、若手ジャズ・ロック、プログレ関係メンバーを50人以上集めたプロジェクトCENTIPEDEを立ち上げ、1971年に『SEPTOBER ENERGY』を発表する。

と、書いているだけで、当時の英アンダーグラウンド・シーンの沸き立つような熱さが想像できてワクワクしてしまう。だけど、やっぱりジャズ・ロックって敷居が高いというか、とっつきにくいという人も多いのでは? と思うわけです。でも、かの時代の熱さ、面白さは知ってほしいし、その音を体験してほしい。そこでおススメなのが上記で書いたアーティストやアルバム、そしてKEITH TIPPETT GROUP『DEDICATED TO YOU~』だと思うわけです。キース・ティペットをはじめ、エルトン・ディーン、マーク・チャリグ、ニック・エヴァンスという主要メンバーに加え、ロイ・バビントン、ロバート・ワイアット、ゲイリー・ボイル、ネヴィル・ホワイトヘッドなどなど、名うてのプレイヤーたちがゲスト参加している。

楽曲はキースだけでなく、ニック・エヴァンスやエルトン・ディーンも提供している。キースは自分の名前を冠したグループだけど、とても民主的なユニットだったとコメントしている。即興的な演奏を聞かせるパートもあるが、それほどアヴァンギャルドでもない。いやアヴァンギャルドな「Five After Dawn」もあるけど、ロックに慣れた耳なら、聴くのが厳しいというほどではないはず。アルバム・タイトル曲は、SOFT MACHINE『VOLUME TWO』収録曲と同タイトルだが、こちらはホーンだけで演奏される短いインスト曲。キース・ティペットは、SOFT MACHINEの曲のタイトルを気に入ったので、アルバム・タイトルにもしたいと思ったそう。そのユーモア感覚が楽曲や演奏のなかに感じられるのが本作の特徴といえるかも。それが表れているアルバム・トップ曲「This Is What Happens」を聴いていただきましょう。ブラスもカッコイイし、メロディもとっつきやすい。繊細なフレーズから大胆かつ攻撃的なプレイまで聴かせるキース・ティペットのピアノも最高の1曲です。ジャケットのインパクトも含めて、英ジャズ・ロックを代表する名作ですね。

ちなみに、キース・ティペットは、2020年6月14日に72歳で他界。70年代初頭に結婚した女性シンガーのジュリー・ティペットと添い遂げている。鬼才と呼ばれることもあるキース・ティペット、CENTIPEDEを可能にしたこともそうだけど、実は人間としては「良い人」だったのかもしれない。

それではまた世界のジャケ写からお会いしましょう。

This Is What Happens

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