2018年12月28日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
GONGやESPERANTO、あるいはSLAPP HAPPYといったグループが活躍した1970年代と同様に、新世紀を迎えたプログレッシブ・ロック・シーンでも国籍の異なるミュージシャンたちによって結成された多国籍(マルチ・ナショナル)グループが活動しています。最も象徴的なのは、ミレニアム・イヤーである2000年に結成されたスーパー・グループTRANSATLANTICでしょう。アメリカ(キーボード・ヴォーカリストNeal Morse、ドラマーMike Portnoy)、イギリス(ベーシストPete Trewavas)、スウェーデン(ギタリストRoine Stolt)を象徴するプログレッシブ・ロック・アーティストたちが集結したTRANSATLANTICは、70年代から90年代までの「プログレッシブ・ロック30年の歴史」を総括し、新世紀へと引き継ぐ大役を担いました。今回は、イギリス、ドイツ、オーストラリアのミュージシャンから成る多国籍グループDAMANEKを取り上げます。
例えば、上記のTRANSATLANTICについて語る際にSPOCK’S BEARDやMARILLION、THE FLOWER KINGSやDREAM THEATERといったメンバーの母体グループに関する知識が不可欠なように、DAMANEKについて語る場合にも、彼らのホームとなるプログレッシブ・ロック・グループたちに触れなければなりません。まず、DAMANEKの中心メンバーであり、2017年のデビュー・アルバム『On Track』全曲の作詞作曲とリード・ヴォーカルを担当するのがイギリス出身のマルチ・プレイヤーGuy Manningです。Guy Manningは、PARALLEL OR 90 DEGREESのメンバーとして90年代のプログレッシブ・ロック・シーンに登場し、新世紀を迎えると同グループで活動を共にしたAndy Tillisonが新たに結成したTHE TANGENTでも活動。自身のソロ・プロジェクトであるMANNINGの名義でも知られている他、2010年代には後述するUNITED PROGRESSIVE FRATERNITYにも参加しています。次に、オーストラリア出身のキーボーディストSean Timmsです。Sean Timmsは、UNITOPIAのメンバーとして2008年のセカンド・アルバム『The Garden』から加入。UNITOPIAは2014年に分裂的な解散を選択し、Sean TimmsはSOUTHERN EMPIREを結成しました。一方、残されたメンバーのうち4名のミュージシャンたち(ヴォーカリストMark Trueack、ギタリストMatt Williams、ドラマーDavid Hopgood、パーカッション奏者Tim Irrgang)を中心に結成されたのが、上記のUNITED PROGRESSIVE FRATERNITYです。なお、Sean Timmsは本作『On Track』のプロデューサー兼ミキシング・エンジニアを務めています。
上記の編成からも分かるように、UNITOPIAのメンバーのうちSean TimmsはSOUTHERN EMPIREを結成したためUNITED PROGRESSIVE FRATERNITYには不参加。Sean Timmsの不在はGuy Manningによって補われました。さらに、UNITOPIAのベーシストCraig Kellyとサックス奏者Daniel BurgessもUNITED PROGRESSIVE FRATERNITYに不参加となっていますが、その穴を埋めるべくUNITED PROGRESSIVE FRATERNITYに参加したのが、DAMANEKのメンバーにもなったベーシストDaniel Mashとキーボーディスト兼サックス奏者Marek Arnoldです。まず、イギリス出身のベーシストDaniel Mashは、プログレッシブ・メタル・グループMASCHINEのメンバーであり上記のTHE TANGENTに在籍した経歴も持ちます。そして、ドイツ出身のマルチ・プレイヤーMarek Arnoldは、TOXIC SMILEやSEVEN STEPS TO THE GREEN DOORといったプログレッシブ・ロック・グループでの活動が知られるミュージシャンですが、彼の経歴で見逃すことが出来ないのは2010年から2012年までの間、STERN COMBO MEISSENに加入していたことでしょう。STERN COMBO MEISSENは、東西分裂時代の東ドイツを代表するシンフォニック・ロック・グループであり、「錬金術」をコンセプトに置いた78年作『Weisses Gold』や「内的宇宙への旅」をテーマに掲げた80年作『Reise Zum Mittelpunkt Des Menschen』といった傑作が広く知られてきました。STERN COMBO MEISSENによる2011年作『Lebensuhr』には、Marek Arnoldが正式メンバーとしてクレジットされています。
さて、多国籍グループDAMANEKによる本2017年作『On Track』は、イギリスとドイツに拠点を置くプログレッシブ・ロック・レーベルGiant Electric Pea(GEP)からリリースされました。Giant Electric Peaからは、UNITOPIAやSOUTHERN EMPIREも作品を発表しています。オープニングを飾る「Nanabohzo And The Rainbow」は、ネイティヴ・アメリカン「オジブワ族」のトリックスターである「ナナボーゾ」の神話にインスパイアされた楽曲。リズム・セクションが躍動するグルーヴィーなナンバーとなっています。本作では(後述の「Dark Sun」を除いて)ドラム・パートをSOUTHERN EMPIREのBrody Thomas Greenが、そしてパーカッションをUNITED PROGRESSIVE FRATERNITYのTim Irrgangが担当しています。本楽曲には、DAMANEKの音楽的特徴であるGuy Manningのキャッチーなメロディー・メイク、Brody Thomas GreenやTim Irrgangの生命力溢れるリズム・セクション、そして、Marek Arnoldによる異国情緒豊かな管楽器のフレーズといったアイコンが完璧なバランスで同居している印象を持つでしょう。続く2曲目に収められた「Long Time, Shadow Falls」は、人間によって苦しめられている動物たちの苦境にスポットを当てた楽曲。冒頭の映像喚起的なシンセサイザー・パッド音色が、アフリカ大陸の南西部に広がる「カラハリ砂丘」を舞台にした歌詞の世界観と絶妙なマッチングを見せています。後半部では連符が乱れ飛ぶテクニカルなパートが登場しますが、メンバーたちはネオ・プログレッシブ・ロック世代の技巧で難なく弾きこなしています。3曲目に収められた「The Cosmic Score (Heaven Song Pt.I)」は、星空を仰ぎ見ながら物思いに耽る夢想的なバラード。本楽曲には、黎明期(73年から74年)のTHE ENIDに参加し、GENESISのギタリストSteve Hackettのソロ・アルバムには欠かせない存在として知られるミュージシャンNick Magnusが全面参加しています。Nick Magnusはほぼ全てのキーボード・パートを担当し、さらに楽曲アレンジにも積極的に関わったようです。4曲目に収められた「Believer-Redeemer」は、アメリカのMarvin Gayeによる71年の名盤『What’s Going On』からの影響を隠さないファンキー且つソウルフルなナンバー。Guy Manning自身が、その影響を認めています。本楽曲には、MANNINGの2010年作『Charlestown』や2011年作『Margaret’s Children』にも録音を残したギタリストChris Catling、さらにトランペット奏者Eric ‘Tooch’ Santucciとトロンボーン奏者Alex Taylorが参加しています。
5曲目に収められた「Oil Over Arabia」は、洗練されたバンド・アンサンブルと爽やかなスキャットが美しく響く楽曲。しかし、本楽曲が描き出すのは炎に包まれる油田の風景であり、恐らくは湾岸戦争(クウェート油田火災)がテーマに置かれているのでしょう。楽曲タイトルに呼応するように、Marek Arnoldによるアラビア音楽的な節回しがエキゾチックに響きます。続く6曲目に収められた「Big Parade」は、Guy Manningのユーモアが発揮された反戦歌。緊張感のある楽曲ではなくあえて珍妙な印象のサウンド・メイクを選択し、アイロニカルなメッセージを歌い上げます。本楽曲では、前述のトランペット奏者Eric ‘Tooch’ Santucciとトロンボーン奏者Alex Taylorが再び登場しています。7曲目に収められた「Madison Blue」は、MANNINGのスタジオ・アルバムに参加経験を持つフルート奏者Stephen Dundonが軽やかなプレイを聴かせる小品。住み慣れた地を離れ新たな場所へと旅立っていく人の無事を願うバラードであり、本作の中で最もシンプルな楽曲構成となっています。そして、アルバムのエンディングを飾る8曲目に収められた「Dark Sun」は、本作の中で唯一の10分を超える大曲。上記の通り、本作ではほとんどのドラム・パートをSOUTHERN EMPIREのドラマーBrody Thomas Greenが務めていますが、本楽曲のみMarek Arnold人脈であるSEVEN STEPS TO THE GREEN DOORのUlf Reinhardtが参加。さらに、アメリカのPHIDEAUXからヴォーカリストPhideauxが参加しています。本楽曲のテーマとなっているのは大気汚染の影響を受けた暗い空と暗い太陽、つまり未来に対する危機感でしょう。PINK FLOYDに通じる物憂げな曲調となっており、デジタル・シンセサイザーによる無機質なシーケンス・フレーズや瞑想的なシンセサイザー・パッド音色が耳に残ります。この辺りは、ポーランドの新世代プログレッシブ・ロック・アーティストたちの手法に通じるものがあるでしょう。未来の地球への期待と不安を感じさせながら、本作『On Track』は厳かに幕を下ろします。なお、具体的な参加楽曲こそ表記されていないものの、本作には上記のミュージシャンの他にも、イタリアのプログレッシブ・メタル・グループSOUL SECRETのギタリストAntonio Vittozzi や、MASCHINE やTHE TANGENT、あるいはKIAMAでの活動が知られるギタリストLuke Machin、そして3名のバッキング・ヴォーカリストたち(DavidB、Julie King、Kevin Currie)が参加しています。
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