2019年9月27日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
ベラルーシを代表するプログレッシブ・ロック・アーティストと言えば、フォーク・ロック・グループPESNIARY、そしてチェンバー・ロック・グループRATIONAL DIETの名前が挙がるでしょう。PESNIARYは、30分を超える大曲1曲のみを収めた1979年作『Gusliar』が辺境プログレッシブ・ロックの古典的名盤のひとつとして知られており、一方のRATIONAL DIETは、イギリスのHENRY COWやベルギーのUNIVERS ZEROといったアーティストたち(Rock In Opposition)からの影響を感じさせるサウンドで2000年代に頭角を現しました。なお、RATIONAL DIETは2010年作『On Phenomena And Existences』を発表後にTHE ARCHESTRAとFIVE-STOREY ENSEMBLEというふたつのグループに分裂しています。今回は、プログレッシブ・ロック・アーティストが少ない同国で地道な活動を展開してきたシンフォニック・ロック・グループ7 OCEANを取り上げます。
ホメリ出身のキーボーディストAlexander Eletskyを中心に結成された7 OCEANの歴史は古く、80年代後半まで遡ります。最初期にはメンバーの定まらない時期もあったようですが、Alexander Eletskyに加えて、ギタリスト Gennady Kalaurkin、ベーシストVitaly Gaponenko、そしてドラマーIgor Mihasevという編成に落ち着いた7 OCEANは、89年に「永遠の生命を持つ男」をコンセプトに掲げたファースト・アルバム『One Life』、そして90年には「人間の魂」をテーマに置いたセカンド・アルバム『Black Holes』を発表しました。その後グループは、一時的にドラマーIgor Mihasev が脱退し新たなドラマーAlexander Sophiexが加入。上記の『Black Holes』と同年の90年にサード・アルバム『Son Of Sun』を発表しました。なお、ここまでのスタジオ・アルバムは全てカセット・テープでのリリースとなっていたようで、公式のディスコグラフィーにはカウントされていません。91年にはIgor Mihasevが復帰し、彼らは新作の完成に向けて動き出しました。しかし94年、Igor Mihasevの死によって7 OCEANはドラマーを失い、活動停止を余儀なくされてしまったのです。
長い沈黙期間を経た2004年、Alexander EletskyとAlexander SophiexはベーシストSergey Starosotskyを加えたキーボード・トリオ編成で7 OCEANを再編しました。彼らは2005年から新作の準備に取り掛かり、3年後の2008年に『The Mysterious Race Of Strange Entities』が完成。7 OCEANにとって初となるCDフォーマットでのスタジオ・アルバムは、ロシアの新興プログレッシブ・ロック・レーベルMals Recordsから世界に向けてリリースされました。さらに、同作に収まり切らなかったアイディアは、最初期のメンバーであったギタリストOleg GrinevichとベーシストVladimir Stoljarov をゲスト・プレイヤーに迎えた2009年作『Return Under The Sun』に生かされたようです。順調に再始動を果たした彼らが、過去のマテリアルを改めてレコーディングするという決断に至るのは自然なことでしょう。7 OCEANは2010年、89年のファースト・アルバム『One Life』をリメイクし、80年代当時から高い作曲レベルを誇っていたことをアピール。さらに、2014年にはスタジオ・アルバム『Diapause』を発表し、次なるリメイク・アルバムへと取り掛かっていきました。
CDフォーマットとしては5作目となる7 OCEAN の2016年作『Son Of Sun』は、スウェーデン文学の巨匠(ノーベル文学賞受賞作家)ペール・ラーゲルクヴィストが1956年に発表した名作「巫女」にインスパイアされたコンセプト・アルバムであり、前作同様ロシアのMals Recordsから発表されました。前作の時点では6名編成となっていた7 OCEANですが、本作では再結成時の3名(Alexander Eletsky / Sergey Starosotsky / Alexander Sophiex)と最初期のメンバーであるギタリスト兼ベーシストOleg Grinevich(2010年から再加入)による4名編成となっています。上記の通り本作は90年のサード・アルバムのリメイク・アルバムとなっており、レコーディングにおいてメンバーたちは当時のプレイ・スタイルを可能な限り再現すべく慎重にアプローチを重ねたようです。唯一の大きな変更点としては、オリジナル・バージョンに収められていた10分に及ぶAlexander Sophiexのドラム・ソロをカットし、Oleg Grinevichによるインストゥルメンタル・ナンバー(2曲目に収録)が追加されたとのこと。7 OCEANの音楽性は歌心を重視したシンフォニック・ロックであり、ロシア語のヴォーカルによるセンチメンタルなメロディーを中心に楽曲を組み立てています。ちなみに、Sergey Starosotskyは再結成時にはベーシストとしてグループに加入していましたが、2010年からはヴォーカリストに専念。以降は、Oleg Grinevichがギター・パートとベース・パートを一手に引き受けるようになりました。
バンド・アンサンブルについては、キーボーディストAlexander Eletskyによるアコースティック・ピアノやオルガン、シンセサイザー・ストリングスといった定番の音色が活躍するヴィンテージなスタイルであり、適度に各パートの聴かせ所を作りつつ堅実なプレイを展開します。GENESISの幻想やPINK FLOYDの内省、あるいはCAMELの優美までをカバーするジェントリーなバンド・セクションとメロディアスなロシア語のヴォーカルという作風は、レーベルメイトであるロシアのGROUP 309などにも共通する東欧らしいものでしょう。上記のように、本作『Son Of Sun』は90年作を忠実に再現する方向でレコーディングが進められたようですが、80年代後半のベラルーシでここまで本格的なプログレッシブ・ロック・グループが誕生していたという事実は多くのリスナーを驚かせるはずです。当時の同国にはどのようなプログレッシブ・ロックが鳴り響いていたのかという歴史的な意味でも、あるいは、本作と90年作の聴き比べの意味でも、オリジナルのカセット・テープ音源の蔵出しを望まずにはいられません。
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