2019年7月26日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
スウェーデンから登場したANGLAGARDとANEKDOTENが、停滞していた1990年代前半のプログレッシブ・ロック・シーンを再生へと導く起爆剤となったことは広く知られている事実でしょう。ANGLAGARDはYESの構築性とGENESISの叙情性を兼ね備えたシンフォニック・ロックを、そしてANEKDOTENはKING CRIMSONの狂気が憑依したかのようなヘヴィー・ロックを生み出し、死滅しかけていたプログレッシブ・ロック・シーンの復興に多大なる貢献を果たしたのでした。ANGLAGARDとANEKDOTENについて改めて記憶しておきたいのは、彼らが「70年代のサウンド・メイクを用いて」シーンを再び活性化させたことでしょう。思い返してみれば、80年代にはイギリスからMARILLIONやPENDRAGON、IQやPALLASといったアーティストたちが登場し、「ポンプ・ロック」と呼ばれる新たなサウンドによってプログレッシブ・ロックの歴史を引き継ぎました。しかしANGLAGARDとANEKDOTENの場合には、古き良きプログレッシブ・ロック・サウンドへの回帰を徹底し、その象徴としてデジタル・サウンド全盛の時代にメロトロンを筆頭とするヴィンテージ機材を導入。スタイル・ミュージックとしてのプログレッシブ・ロックのあるべき姿を世界中の音楽リスナーに示したのです。彼らのデビュー以降、息を吹き返したプログレッシブ・ロック・シーンからはレトロな音楽性を聴かせるアーティストたちが次々と出現してきましたが、そんな中から今回はスイスで活動するプログレッシブ・ロック・グループDAWNを取り上げます。
スイスのプログレッシブ・ロック・シーンにおいては、テクニカルなドラマーFritz Hauserを擁し切れ味の鋭いサウンドで迫るCIRCUS、H.R. Gigerのアートワークを採用し個性的なチェンバー・シンフォニック・ロックを響かせたISLAND、あるいはYESを彷彿とさせる作風を持つWELCOMEなどのグループたちが70年代を彩り、80年代にはCIRCUSのメンバーによるツイン・キーボード編成のBLUE MOTION、自主制作ながらハイ・レベルなシンフォニック・ロックを生み出したDRAGONFLY、加えてアートワークからしてポンプ・ロックの洗礼を受けたことが明らかなDEYSSなどが登場。さらに90年代においても、例えばCLEPSYDRAによる97年のサード・アルバム『Fears』が高い評価を獲得するなど、それぞれの時代にユーロ・プログレッシブ・ロックの歴史に残る重要作が送り出されてきました。また、MAINHORSEやREFUGEEといったグループを経てYESの74年作『Relayer』にRick Wakemanの後任として参加したキーボーディストPatrick Morazの出身国という印象もあるかもしれません。
さて、モントルーで96年に結成されたのがシンフォニック・ロック・グループDAWNです。ギター・ヴォーカリストRene Degoumois、キーボーディストNicolas Gerber、ベーシストJulien Vuataz、ドラマーPatrick Dufresneという布陣で活動を開始したDAWNは、70年代のブリティッシュ・プログレッシブ・ロック・アーティストたちから強い影響を受けたサウンドを武器に、自身(ベーシストJulien Vuataz)が運営するMontreux Prog Nightsを含む国内外のプログレッシブ・ロック・フェスティバルへの出演や、アメリカのKANSASら有名アーティスト公演のオープニング・アクトを務めるなど精力的な活動を展開してきました。彼らは2007年、「人生」という重厚なテーマをコンセプトに置いたデビュー・アルバム『Loneliness』を発表。メロトロンを取り入れた物憂げなシンフォニック・ロックが、世界中のプログレッシブ・ロック・リスナーから注目を集めました。
DAWNは2014年、セカンド・アルバムとなる本作『Darker』をアメリカの名門プログレッシブ・ロック・レーベルThe Laser’s Edgeからリリースしました。本作では、Patrick Dufresneが脱退し新たなドラマーとしてManu Linderが加入しています。彼らが本作においてアルバム・コンセプトに選択したのは「21世紀を生きる人間」であり、新たな時代に翻弄されながら様々に揺れ動く主人公の感情(恐れ、人生への姿勢、テクノロジーや原子力の脅威、息苦しい世界との対峙)を丹念に描きます。作曲を担当するのはギター・ヴォーカリストRene DegoumoisとキーボーディストNicolas Gerberであり、ほとんどの楽曲は彼らの共作となっているようです。上記のように、DAWNの音楽性はレトロなサウンド・メイクを軸とするクール且つダークなシンフォニック・ロックであり、スウェーデンのANEKDOTENやノルウェーのWOBBLERなど北欧プログレッシブ・ロックの新世代アーティストたちとの共通点を感じさせるものでしょう。ギター・ヴォーカリストRene Degoumoisの声質はANEKDOTENのNicklas BarkerやJan Erik Liljestromと同系のデリケートなハイ・トーンであり、ストレスを持ちつつメロディアスに響くエレキ・ギター・サウンドはKING CRIMSONを想起させます。一方、(WOBBLERがそうであるように)キーボーディストNicolas Gerberによるヴィンテージ・キーボード・サウンドがバンド・カラーに大きな影響を与えており、メロトロンやハモンド・オルガンがKING CRIMSONの狂気からGENESISの優美までをカバー。さらに、シンセサイザー・リードはGENESISのTony BanksやCAMELのPeter Bardensのような軽やかな節回しも披露します。リズム・セクションのJulien Vuataz とManu Linderについては、パワーで押し切るタイプではなくジェントリーなプレイ・スタイルであり、バンド・アンサンブルとして良好なバランスを保っています。ANEKDOTENやWOBBLERらには見られないDAWNの特徴としては、前作『Loneliness』における宇宙飛行士のアートワークや本作『Darker』のアルバム・コンセプトなど、その作風に近未来(サイエンス・フィクション)的な肌触りを感じる点が挙げられるでしょう。その質感はスペース・ロックに通じる浮遊感となってサウンド面にも表れており、彼らの作り出すプログレッシブ・ロックに独自性を与えています。
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70年代の英プログレへの憧憬に満ちた07年のデビュー作『Loneliness』が高く評価され、カンサスのオープニング・アクトにも起用されたスイスの実力派新鋭グループによる14年作2nd。溢れ出るメロトロンをバックに柔らかなメロディを奏でるムーグ・シンセ、そして、北欧に通じる透明感や哀感に満ちた中性的なハイ・トーンのヴォーカルと幻想的なメロディ。ジェネシスやキャメル由来のファンタスティックなアンサンブルを軸に、ここぞでは、ギターがエッジの立ったリズムで畳み掛け、リズム隊も力強く疾走し、キング・クリムゾン『レッド』や初期アネクドテンを彷彿させるような狂おしいハード・シンフォを聴かせます。パルサーやカルプ・ディアンなどフレンチ・シンフォに通じる浮遊感やクールな叙情美もまた印象的。デビュー作に続いて、往年のプログレ/シンフォニック・ロックのファンは必聴と言える名作です!
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