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netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』 第12回 SETNA / Guerison (France / 2013)

本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。

第12回 SETNA / Guerison (France / 2013)


音楽史においては印象主義の象徴であるドビュッシーやラヴェルらを輩出した重要国に位置づけられるフランスには、独特の淡い色彩感と耽美な質感を持ったプログレッシブ・ロック・グループたちが数多く存在し、現在に至るまで素晴らしいサウンドを響かせ続けています。他国のアーティストたちがそうであるように、フレンチ・プログレッシブ・ロックを代表するグループたちもまたその多くがシンフォニック・ロックに分類される音楽性を選択しており、「フランスのYES」と評されるATOLLやシアトリカルな作風が個性的なANGEなどのグループが1970年代に作り上げた名作群は、プログレッシブ・ロック・ファンにとってまさしくヨーロピアン・ロックの登竜門となり高い評価を獲得してきました。そんな中で、既存のカテゴリーには属さず、その突出した個性を武器に自らが「ジャンル」となり、フレンチ・プログレッシブ・ロックを代表する存在にまで登り詰め、シーンに強烈なインパクトを与えてきたのがMAGMAです。

Christian Vanderを中心に69年に結成されたMAGMAは、架空の言語である「コバイア語」を創造し自らの音楽を「Zeuhl Music」と命名。ジャズ・ロックと評するにはあまりにも肉感的で強靭なリズム・セクションと、シンフォニック・ロックと評するにはあまりにも悲痛で狂気じみたコバイア語の混声合唱を従え、偏執的とすら言えるほどの執拗な反復を用いて独自の呪術的な音世界を構築しました。彼らに影響を受けたサウンドを生み出すグループは「Zeuhl系」として分類されるものの、その数はシンフォニック・ロックやジャズ・ロック勢に比べれば明らかに少なく、代表格グループでありながらフォロワーを生み出しにくいということが、彼らが唯一無二の存在であることを証明してきたと言えるでしょう。また、複雑に枝分かれしたファミリー・ツリーもMAGMAの大きな特徴であり、関連人脈のミュージシャンたち(Laurent Thibault / Benoit Widemann / Didier Lockwood / Patrick Gauthierなど)はフレンチ・ジャズ・ロック・シーンを代表する名盤を残し、UNIVERIA ZEKT、WEIDORJE、ZAOといった関連グループも誕生するなど、確かな技術を持ったミュージシャンたちによる個性の集合体であったことが分かります。

MAGMA「Ima Suri Dondai」 from 『.M.D.K.』

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そんなMAGMAが活動するフランスで2004年に結成されたSETNAは、2007年『Cycle I』でデビューを果たし、MAGMAからの影響をユニークに反映したジャズ・ロックを作り出しました。

彼らが一般的なZeuhl系グループと比べて個性に富んでいたのは、MAGMAの音楽的特色である筋骨隆々なバンド・アンサンブルを控え目に抑える代わりに、その精神的特色である神秘主義的な成分に照準を合わせ、それによってMAGMAからの影響を色濃く感じさせながらも、MAGMAとは異なる解釈を持つ独自の方向性を示すことに成功したことにあったと言えるでしょう。ヒステリックなヴォーカルや粗暴なサウンド・メイクといった先入観に縛られた音作りを回避したデビュー作の時点で、彼らが並のフォロワーとは一線を画していることは明らかでしたが、2013年に発表されたセカンド・アルバム『Guerison』では、その作風に更なるアレンジが加えられ、意外な新機軸が打ち出されています。

本家譲りの大幅なメンバー・チェンジを経て、70年代中期MAGMAのキーボーディストBenoit Widemannを含む多数のゲストを迎えた本作のポイントは、Zeuhlのスピリットを手中に収めたSETNAがどのような方法で更なるオリジナリティーを提示するかという点に集約されます。彼らは本作において、MAGMAの精神性にカンタベリー・ロック的な要素をブレンドすることにより非常にフランスらしい色艶を持ったジャズ・ロックを創出し、MAGMAには見られなかったジェントリーな空気感を醸し出しました。特に女性ヴォーカリストから交代したナチュラルな声質の男性ヴォーカリストや、ヴィブラフォン奏者らの存在感が楽曲に気品と優雅さを与え、フランス語で「治癒」を意味するアルバム・タイトルが示す通りのマイルドな質感に仕上げているほか、70年代カンタベリー・ロックの代表格であるSOFT MACHINEやCARAVAN、HATFIELD AND THE NORTHといった名グループたちを思い起こさせるファズ・エフェクトを使用したオルガン・サウンドが採用されるなど、シリアス且つ内省的なムードの強かった前作から特異な進化を遂げていると言えるでしょう。

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本作をZeuhl系グループによる出世作と捉えた場合には、MAGMAが持っていた浮世離れした宗教色が、同じく浮世離れした酩酊感を持っていたサイケデリック・ロックの強い影響下にあるカンタベリー・ロックと絶妙な結びつきを見せた作品であると解釈することが出来ますし、逆にカンタベリー・ロック・グループによる独創的なジャズ・ロック作と捉えた場合には、その優美な響きの中に一筋縄ではいかないMAGMAフォロワーの激情を感じ取ることが出来るでしょう。ふたつの異なるベクトルを高次元で融合させるパフォーマンスを達成したSETNAですが、元を辿ってみると、MAGMA的な「表現スタイルの固定観念」に囚われることなく歩みを始めたデビュー・アルバムの時には既に、本作の完成度は約束されていたのだと思い知らされます。


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