2016年9月23日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
音楽に関する高度な知識と技術を習得した実力者が少なくないプログレッシブ・ロック・シーンでは、溢れんばかりの才能と自信を持ったミュージシャンたちが互いの音楽的な可能性を最大限に引き出し合い、歴史に残る数々の名盤を作り上げてきました。しかしその一方で、自身の能力に対する絶対的な信頼や、追い求める音楽への飽くなき探究心が引き金となり、グループ内におけるメンバー同士の対立、あるいはグループの存続が危ぶまれるような事態が生じてしまうことも少なくなかったことでしょう。1970年代のブリティッシュ・プログレッシブ・ロックにおける重要グループたちを見渡しても、不動のメンバーで70年代を乗り切ったというケースは稀なものですし、80年代から2000年代以降にまで範囲を広げてみると、結成から一度のメンバー・チェンジも行わず、しかもコンスタントに活動を続けているプログレッシブ・ロック・グループの数は非常に少ないはずです。もちろん、メンバー同士の友好な関係は保ちながらグループを離れた例や、そもそもメンバーの固定化に重点を置かない、リーダー・ミュージシャンによるワンマン・グループの例なども数多く存在しますが、ともあれ、ひとつの場所に落ち着くことなく理想のサウンドを追求し、離合集散を繰り返す活動スタイルは、本来の意味での「プログレッシブ・ロック・アーティスト」らしい生き様と言えるのかもしれません。
プログレッシブ・ロックの歴史は、強烈な個性の鬩ぎ合いによって今日まで更新され続けていますが、その中にはグループの「分裂」が引き起こされた例も記録されています。プログレッシブ・ロックの有名グループの中で「分裂」というキーワードから真っ先に連想されるのは、80年代末のYESでしょう。87年作『Big Generator』をリリース後に、ヴォーカリストJon AndersonがギタリストTrevor Rabinとの音楽的な方向性の違いを理由に脱退し、黄金期のメンバーであるギタリストSteve Howe、キーボーディストRick Wakeman、ドラマーBill Brufordと共に新しいグループ(ANDERSON BRUFORD WAKEMAN HOWE)を結成したものの、名義の使用を巡り裁判にまで発展し、本家YESのベーシストChris Squireに使用権が認められました。プログレッシブ・ロックからは遠ざかるも83年作『90125』に収録された「Owner Of A Lonely Heart」でグループ最大のヒットを飛ばした「90125 YES」と呼ばれる本家と、ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの名盤に数えられる71年作『Fragile』や72年作『Close To The Edge』を作り上げた「本家よりも本家らしい」ミュージシャンたちによる対立は、ANDERSON BRUFORD WAKEMAN HOWEによるセカンド・アルバムの候補楽曲に「90125 YES」の新曲を加え、8名もの正式メンバーがクレジットされたYES名義による91年作『Union』をリリースすることによって一応の収束を見たのでした。
イギリス以外を見渡してみると、71年作『Concerto Grosso Per I New Trolls』がイタリアン・プログレッシブ・ロックを代表する傑作として知られているNEW TROLLSもまた、中心メンバーであったNico Di Paloのハード・ロック・サウンドへの傾倒と、やはり中心的な役割を担っていたVittorio De Scalziの音楽性がすれ違い「分裂」を経験しています。72年作『UT』をリリース後にNico Di PaloはNEW TROLLSを脱退することになりますが、Vittorio De Scalzi以外の全員がNico Di Paloと共に脱退する事態となれば、バンド名の使用を巡り争いが展開されるのは火を見るよりも明らかでしょう。ひとり残されたVittorio De Scalziはメンバーを再編し、N.T. ATOMIC SYSTEM名義(後にNEW TROLLS ATOMIC SYSTEMに変更)で同名の73年作を発表。一方のNico Di Paloは、ジャケット・アートにクエスチョン・マークがデザインされた73年作『Canti D’innocenza Canti D’esperienza』を経て自らのグループ名をIBISとし、NEW TROLLSに勝るとも劣らない74年作『Sun Supreme』を含む2枚のアルバムをリリースしました。
さて、YESやNEW TROLLSと同じように「分裂」という道を選んだのが、ベラルーシのチェンバー・ロック・グループであるRATIONAL DIETです。ベラルーシのプログレッシブ・ロックと言えば、PESNIARYが79年にリリースした『Gusliar』が、30分を超える大曲1曲のみで構成された名盤として辺境プログレッシブ・ロック・ファンに知られてきましたが、90年代後半に結成されたRATIONAL DIETは、イギリスのHENRY COWやベルギーのUNIVERS ZEROを彷彿とさせるアヴァンギャルドなチェンバー・ロックを奏で、新世紀のプログレッシブ・ロック・シーンに衝撃を与えました。2007年、チェンバー・ロックを得意とするイタリアのAltrock Productionsからデビュー・アルバム『Rational Diet』をリリースした彼らは、その後も順調にディスコグラフィーを重ねファンの注目を集めていたものの、新作に向けたセッションを行う中でグループの目指す方向性についてメンバー間に不一致があることを発端として、THE ARCHESTRAとFIVE-STOREY ENSEMBLEというふたつのグループに「分裂」。RATIONAL DIET直系と言えるダイナミズムを推し進めるのがヴァイオリニストKirill Krystiaを中心としたTHE ARCHESTRA、一方でRATIONAL DIETとは音楽性を異にし、新たに歩き出したのが女性キーボーディストOlga Podgaiskajaを中心としたFIVE-STOREY ENSEMBLEです。
2013年、時を同じくして両者のデビュー・アルバムが届けられました。FIVE-STOREY ENSEMBLEのデビュー・アルバム『Not That City』にTHE ARCHESTRAのKirill Krystiaがサポートする楽曲が収められていることや、両グループの参加メンバーに重複が見られることなどから推察するに、恐らくRATIONAL DIETの「分裂」は友好的なものだったのでしょう。THE ARCHESTRAのデビュー・アルバム『Arches』は、前述の通りRATIONAL DIETの音楽性を継承した内容となっていますが、一方のFIVE-STOREY ENSEMBLEは、RATIONAL DIETからロック・ミュージックの成分を後退させ、よりチェンバー・ミュージックらしいアプローチを採用している点にTHE ARCHESTRAとの違いを認めることが出来ます。また楽曲構成についても、緩急を巧みに使い分けながら緊張感のあるサウンドを構築していたRATIONAL DIETやTHE ARCHESTRAに比べ、FIVE-STOREY ENSEMBLEは演奏の抑揚が意図的に控えられ、女性ミュージシャンを中心に結成されていることとも無関係ではないであろう聡明さと気品が感じられます。プログレッシブ・ロック的な判断基準で言えば、RATIONAL DIETの流れを汲んでいるTHE ARCHESTRAに分があるようにも思われますが、チェンバー・ロックにおいて用いられることの多い「暗黒」というキーワードから距離を置き、澄み切ったアンサンブルによる純粋無垢な音世界を聴かせるFIVE-STOREY ENSEMBLEにもまた、THE ARCHESTRAに引けを取らない強烈な前衛精神が宿っています。
音楽グループの「分裂」や「解散」は、思い入れのあるファンの立場からすれば受け入れ難いものがあるでしょう。しかし、新たな道に踏み出したミュージシャンたちがこれからどんな音楽を響かせてくれるのかという期待も持つはずです。例えばVittorio De ScalziとNico Di Paloの対立によって「NEW TROLLSの音」は一時的に失われることになりましたが、もし両者がNEW TROLLSを継続させていたならば『N.T. Atomic System』や『Sun Supreme』といった名盤は生まれなかったことでしょう。それはRATIONAL DIETにも言えることです。岐路に立たされた時、「どちらの道を選択するか」はもちろん重要なことですが、「選択した道でどのように生きていくのか」もまた、とても重要なことなのではないでしょうか。
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