2018年11月23日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
今回はまず、ベネズエラのプログレッシブ・ロック・シーンについて考察するところから始まります。ブラジルやアルゼンチンの話題が先行しがちな南米プログレッシブ・ロック・シーンではありますが、ベネズエラにもラテン・スピリットを内包したプログレッシブ・ロック・アーティストたちが活動しています。1970年代には、73年作『La Ofrenda de Vytas Brenner』でアルバム・デビューを飾ったVytas Brennerや、75年作『Dos Mundos』が知られるFernando Yvoskyなどが活躍し、80年代を迎えると、後に代表格グループへと出世を遂げるTEMPANOが80年作『Atabal-Yemal』で、あるいは、やはり重要グループとされるEQUILIBRIO VITALが83年作『Equilibrio Vital』でデビュー。彼らが発表した作品の数々は、ブラジルやアルゼンチンのアーティストたちに勝るとも劣らない完成度を誇っていました。ただし、同国における特筆すべきプログレッシブ・ロック・アルバムは別に存在します。ベネズエラのプログレッシブ・ロックについて語る場合には、シンフォニック・ロック・グループESTRUCTURAへの言及が不可欠となるでしょう。
77年、キーボーディストDavid Mamanを中心に女性ヴォーカリストMarisela Perezを含む7名編成で、ベネズエラの都市マラカイで結成されたのがESTRUCTURAです。78年の傑作『Mas Alla De Tu Mente』は、ベネズエラにおける最も重要なプログレッシブ・ロック・アルバムでしょう。A面とB面にそれぞれ33分と28分という組曲形式の2曲を配置しナレーションまで用いたオペラティックなシンフォニック・ロックは、YESのキーボーディストRick Wakemanがフランスのジュール・ヴェルヌによる冒険小説「地底旅行」をコンセプトに作り上げた74年作『Journey To The Center Of The Earth』に通じる構成となっています。しかし、テクニカルでありながらエモーショナルなラテン・テイストを感じさせる音楽性は、彼ら独自のものでしょう。特に、ツイン・ヴォーカルにより歌われるメロディーの美しさは、メロディー・メイクに定評のある南米プログレッシブ・ロック勢の中にあって、他のアーティストたちを圧倒するほどです。なお、ESTRUCTURAは80年にセカンド・アルバム『Estructura』をリリースしており、こちらもデビュー・アルバムと並んでベネズエラ産プログレッシブ・ロックの必聴作となっています。
さて、新世紀を迎えたベネズエラのプログレッシブ・ロック・シーンについても確認しておきます。2000年以降にアルバム・デビューを果たしたプログレッシブ・ロック・グループとしては、FICCION(2002年作『Sobre El Abismo』)やPARTHENON(2005年作『Mare Tenebris』)、あるいはPIG FARM ON THE MOON(2003年作『Orbital』)やRC2(2003年作『RC2』)などが印象を残っているでしょう。そんな中、2000年にデビュー・アルバム『Dreams』でプログレッシブ・ロック・シーンに登場したのが1970年生まれの新世代ミュージシャンRaimundo Rodulfoです。ESTRUCTURAを輩出したマラカイ出身であるRaimundo Rodulfoは、現在はアメリカのフロリダ州を拠点に音楽活動を行っているようです。彼はサイエンス・フィクション志向を感じさせるデビュー・アルバム『Dreams』をリリースすると、2002年には10名以上のゲスト・ミュージシャンたちと共にクラシカルな音楽性をテーマとした『The Dream Concerto』を発表しました。そして、2008年に届けられたのが本作『Mare Et Terra』です。
『Mare Et Terra』は、2004年から2008年にかけてアメリカ、ベネズエラ、スペインの各国で録音作業が行われ、フランスのMusea Recordsからリリースされました。「海と大地」を意味するアルバム・タイトルが示す通り、本作は「海」をテーマにした2曲と「大地」をテーマにした2曲から構成されていますが、驚くべきはその大作主義でしょう。オープニングを飾る「Naufrago」は36分、2曲目の「Libertad」は9分、3曲目の「Blue」は11分、そして、ふたつのパートから成る4曲目(トラックとしては4曲目と5曲目)の「Thoughts」は19分という内容。Raimundo Rodulfoは、ひとつの楽曲の中に様々な場面転換を仕掛け、76分の収録時間を飽きさせることなく聴かせます。本作に収められているのは、南米の叙情と躍動が同居するラテン・プログレッシブ・ロック。Raimundo Rodulfoはマルチ・プレイヤーの才能を発揮し、クラシック・ギターやスパニッシュ・ギター、あるいはGENESISのSteve Hackettを彷彿とさせるエレキ・ギター、マンドリンやエレキ・ベース、さらに一部のシンセサイザーやオルガン、パーカッションまでプレイしています。また、ゲスト・プレイヤーたちの音楽的貢献にも目を見張るものがあるでしょう。本作には、同郷TEMPANOのヴォーカリストPedro Castilloを含む3名のゲスト・ヴォーカリスト、そして、ヴァイオリンとチェロを担当する3名の弦楽器奏者と、サックスやフルート、クラリネットやトランペットを担当する2名の管楽器奏者が参加しています。バンド・セクションでは、TEMPANOのドラマーGerardo Ubiedaと、キューバ出身のパーカッション奏者Yoel Del Solによるグルーヴィーなプレイが楽曲を支えており、ソロ・アーティストのスタジオ・アルバムにありがちなリズム・セクションのチープさは皆無。さらに、スペインを代表するシンフォニック・ロック・グループKOTEBELのキーボーディストCarlos Plaza Vegas(ベネズエラ出身)と、フィンランドのTHE SAMURAI OF PROG作品でも名前を見つけることが出来るキーボーディストRichard Marichalが、ヴィンテージ・プログレッシブ・ロックの音作りをサポートしています。
Raimundo Rodulfoによる『Mare Et Terra』は上記の通り、2000年代のベネズエラ産プログレッシブ・ロックを代表する作品のひとつと言っても過言ではない完成度となりました。2010年代の同国においては、TEMPANOやEQUILIBRIO VITALらベテラン勢が活動を継続させる一方で、BACKHANDやSYRIAKといった新たなグループが台頭。ベネズエラのプログレッシブ・ロック・シーンは、確実に前に進んでいます。なお、『Mare Et Terra』は2015年にリミックス及びリマスターが施され、再リリースされています。
「netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』連動 ベネズエラ産プログレッシブ・ロックの45年 (1973 – 2018)」を読む
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