2018年9月28日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
海外アーティストたちの熱演に直接触れることが出来る「来日公演」は、大規模なロック・フェスティバル公演から小規模なライブ・ハウス公演に至るまで、音楽ジャンルを問わず活発に企画されています。プログレッシブ・ロック・アーティストによる来日公演の歴史を振り返ると、1971年8月に行われたPINK FLOYDによる「箱根アフロディーテ」に辿り着くでしょう。PINK FLOYDは翌72年3月にも来日し、73年の傑作『Dark Side Of The Moon』のプロトタイプを披露しています。同年7月になるとEMERSON, LAKE & PALMERとJETHRO TULLが来日公演を行い、JETHRO TULLは72年の名盤『Thick As A Brick』を再現。一方のEMERSON, LAKE & PALMERは、天候の影響を受けたモーグ・シンセサイザーの動作が不安定な中での後楽園球場公演、そして、エキサイトした観客がステージに押し寄せ途中で中止となった阪神甲子園球場公演という伝説を残しました。73年を迎えると、3月に黄金期のメンバー編成でYESが初来日を果たし、さらに74年1月にはTHE MOODY BLUESによる日本武道館公演が実現しています。
引き続き、70年代中盤から後半についても振り返ってみます。74年6月にオランダのFOCUSが来日公演を行い、プログレッシブ・ロック・アーティストによる来日公演の歴史に初めて、ユーロ・プログレッシブ・ロック・グループの名前が記録されました。同年8月には、JETHRO TULLが再び来日を果たしています。75年に入ると1月、YESを脱退したキーボーディストRick Wakemanが74年作『Journey To The Center Of The Earth』を再現する来日公演を行い名演を披露。同年6月にはFOCUSが早くも再来日を遂げ、同年11月には、EMERSON, LAKE & PALMERが立ち上げたManticoreレーベルから世界進出を果たしたイタリアのPREMIATA FORNERIA MARCONIが、ヴァイオリニストMauro Paganiを含む全盛期のメンバー編成で初来日を果たしました。プログレッシブ・ロック・シーンが衰退の様相を見せていた78年の11月、ヴォーカリストPeter Gabrielに次いでギタリストSteve Hackettも失ったGENESISが同年作『…And Then There Were Three…』を引っ提げて来日。そして79年には、キーボーディストPeter Bardens脱退後のCAMELが1月に来日し、5月には、同年にセカンド・アルバム『Danger Money』を発表したキーボード・トリオ編成のU.K.が来日しました。ちなみに押さえておきたいのは、「来日公演を収めたプログレッシブ・ロックのライブ・アルバム」が初めて発表されたのは、U.K.による上記の来日公演(中野サンプラザと日本青年館での音源を使用)を収めた79年作『Night After Night』であったという点です。
さて、今回取り上げるフレンチ・プログレッシブ・ロック・グループONE SHOTもまた来日公演を行い、その模様を収録した後述のライブ・アルバムを発表したわけですが、その話題に移る前に、まずはフレンチ・プログレッシブ・ロック・アーティストによる「来日公演を収めたライブ・アルバム」の歴史についても振り返ってみます。始点となるのは「フランスのYES」と評されるシンフォニック・ロック・グループATOLLによる89年録音作『Tokyo C’Est Fini』であり、ギタリストChristian Beyaを中心に再編された新体制での来日公演が記録されました。あるいは、MAGMAを脱退したサックス奏者Yochk’o Sefferを中心とするジャズ・ロック・グループZAOによる2004年録音作『Zao In Tokyo』や、ONE SHOTとも無関係ではないMAGMAによる2005年録音作『Live In Tokyo』といった作品も存在します。さらに2010年代以降では、ベトナム出身ミュージシャンKhanh MaiとTai Sinhの兄弟を中心に結成され、フレンチ・プログレッシブ・ロックの傑作と評される75年作『Tai Phong』や76年作『Windows』を送り出したTAI PHONGによる来日公演を収めた2014年録音作『Live In Japan』も思い浮かぶでしょう。ONE SHOTによる2010年録音作『Live In Tokyo』は、そういった潮流の中でリリースされたのです。
前述のように、ONE SHOTはMAGMA関連人脈によるグループであり、ドラマーDaniel Jeand’heurを除く創設メンバー(ギタリストJames MacGaw、ベーシストPhilippe Bussonnet、キーボーディストEmmanuel Borghi)はMAGMAのメンバーとしても活動。上記のMAGMAによる2005年録音作『Live In Tokyo』にも名演を残しています。彼らは99年作『One Shot』でアルバム・デビューを飾り、2001年録音のライブ・アルバム『Vendredi 13』、2006年のセカンド・アルバム『Ewaz Vader』、2008年のサード・アルバム『Dark Shot』と同一メンバーでアルバム・リリースを重ねてきましたが、キーボーディストEmmanuel BorghiがMAGMAを脱退したことでONE SHOTからも離脱。その結果、MAGMAの新たなメンバーとなったキーボーディストBruno RuderがONE SHOTにも加入したようです。ONE SHOTによる2010年の来日公演が実現した背景には、MAGMAが日本を代表するロック・フェスティバルのひとつであるFuji Rock Festivalのステージを踏んだことが関係しており、上記3名のミュージシャンたちは2010年7月30日にはMAGMAとして、そして翌31日にはONE SHOTとして同フェスティバルのステージ(苗場食堂)を経験。さらにONE SHOTは、8月1日から3日間に渡って両国Sunrizeでコンサートを開催し、その模様をMAGMAと同様に『Live In Tokyo』のタイトルで音源化しました。彼らが生み出すサウンドは肉感的なへヴィー・ジャズ・ロックであり、(本家MAGMAがそうであったように)やはりライブ・アルバムに映える特異な音楽性となっています。なおONE SHOTは2016年、『Live In Tokyo』を含む全てのディスコグラフィーを5枚組に閉じ込めた『Integral 1999-2010』を発表しており、彼らの活動履歴を一気に振り返ることが出来る魅力的なボックス・セットとなりました。
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