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netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』 第10回 HIDRIA SPACEFOLK / Astronautica (Finland / 2012)

本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。

第10回 HIDRIA SPACEFOLK / Astronautica (Finland / 2012)

毎年夏の時期になると、世界各国で様々な音楽関連の催し物が企画され、耳の肥えた多くのファンを楽しませていますが、特に野外で開催される大規模なロック・フェスティバルは、花火大会や盆踊りなどと並ぶ夏の風物詩として、日本でもすっかり定着した印象を持ちます。プログレッシブ・ロックにおいても、例えばEMERSON LAKE & PALMERの公式デビュー・アクトとなった1970年「ワイト島ポップ・フェスティバル」や、日本ではPINK FLOYDの出演により今なお伝説として語り継がれる71年「箱根アフロディーテ」がファンには広く知られているでしょうし、さらに近年では、プログレッシブ・ロックに特化した音楽フェスティバルが日比谷野外音楽堂で開催され、大きな注目を集めました。しかしその一方で、夏という季節や野外というロケーションの「開放的なイメージ」と、プログレッシブ・ロックが築き上げてきた精神的あるいは音楽的な特徴としての「閉鎖的な性格」を照らし合わせた場合、その組み合わせには違和感もあることでしょう。今回は夏の野外ステージとプログレッシブ・ロックについて考察していきます。

夏の野外ステージが持つ「開放的なイメージ」とプログレッシブ・ロックが持つ「閉鎖的な性格」のミスマッチは、「環境」や「人間」というフィルターを通すことでより明確になるのではないでしょうか。まず、一般的なポップ・ロックなどの音楽性に比べてプログレッシブ・ロックのスタイルは視聴環境への適応能力が低いため、野外ステージの醍醐味である「自然を身近に感じるロケーション」などはほとんど意味を成しません。逆に言えば、プログレッシブ・ロックではミュージシャンが創造する音世界の中に自然環境までもが閉じ込められており、外部との繋がりという意味において「閉鎖的」であると考えられます。また、通常ならば「風流」として好意的に捉えることが出来る蝉の声などの環境音も、プログレッシブ・ロックの場合には「外部の雑音」として処理されてしまうでしょう。さらに、その「閉鎖的な性格」は人間に対しても付け入る隙を与えません。例えばプログレッシブ・ロックの音楽的な特徴である変拍子を駆使した技巧的な演奏は聴衆から手拍子の機会を奪うでしょうし、インストゥルメンタルに主軸を置いた楽曲構成はメロディーの大合唱による会場の一体感とは相反するものです。もちろんサービス精神に長けたアーティストたちによって、手拍子や大合唱を含むオーディエンスの熱狂が誘発されるケースはプログレッシブ・ロックにも存在するものの、それらは一部の有名グループにおける「お約束の楽曲」などに限られますから、やはりミュージシャンが描き出す圧倒的な音空間に注意深く耳を傾け、その世界を深く味わうのがプログレッシブ・ロックに相応しい聴き方であり、外部から遮断され空調の整備された屋内施設(コンサート・ホールなど)の方が、視聴環境としては相性が良いのでしょう。

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そんなプログレッシブ・ロックの中にあって、夏の野外環境でこそ爆発的に威力を発揮するのが「スペース・ロック」と呼ばれるカテゴリーです。サイケデリック・ロックから強い影響を受ける形で誕生し、HAWKWINDやGONGといった名グループたちの活躍によって注目を集めたスペース・ロックは、音楽スタイルが細分化した現在ではプログレッシブ・ロックの枠を飛び越え様々な音楽ジャンルの中にその要素を確認することが出来るため、例えば「宇宙的な広がりを持つサウンド」という解釈ならば、エレクトロ・ミュージックなども巻き込み相当数のアーティストが該当することになるでしょう。70年代のプログレッシブ・ロックシーンにおけるスペース・ロックの特徴としては、質感として「サイケデリック・ロックの酩酊感」を受け継いでいることや、楽曲構成に「反復主義的なインストゥルメンタル」による、時間感覚を麻痺させるようなアプローチが見られること、加えて作品のコンセプトに「サイエンス・フィクション」のような宇宙的なテーマが選択されることなどが挙げられます。また、楽器については「エフェクティブに飽和するギター・サウンド」や「浮遊的なシンセサイザー・サウンド」による音作りがポイントとなるケースが多く、こうした要素が野外ステージにおいて周囲の自然環境と絶妙なマッチングを見せ、聴衆に強烈なトリップ感覚を与えてきました。前述の野外音楽フェスティバル「箱根アフロディーテ」におけるPINK FLOYDのステージが現在でも多くの人々の記憶に残り続けているのは、彼らがそのスター性に加えてスペース・ロックの起源とも言えるような性質を持っていたことも恐らく無関係ではなく、濃霧の自然環境と音楽が一体となった幻想的なステージとして多くの証言が残されています。

さて、フィンランドのロホヤで99年に結成されたスペース・ロックグループHIDRIA SPACEFOLKは、新世紀のスペース・ロックシーンにおいてイギリスのOZRIC TENTACLESらと並ぶ重要グループのひとつに数えられます。彼らは2001年にデビューEP『HDRSF-1』、そして2002年にフル・アルバム『Symbiosis』をリリースし、その2年後にはプログレッシブ・ロックの有名フェスティバルであるNorth East Art Rock Festivalに出演するほどの新興勢力へと急成長を遂げました。彼らの登場が非常に個性的に映ったのは、HAWKWINDやGONGといった往年の名グループを彷彿とさせるバンド・アンサンブルに加えて、ヴァイオリン、チェロ、フルートといったゲスト奏者を迎え、さらにスペース・ロックには不可欠な要素であるサイケデリックな酩酊感の強調手段としてマンドリン、シタール、ディジュリドゥといった民族楽器を採用し、シンセサイザー・サウンドを用いたデジタリーなスペース・ロックという側面も持ちつつ、トラディショナル・フォークに通じるアコースティックな味わい深さを全面に押し出していたためでしょう。

現代的でありながら垢抜けないという個性を示したHIDRIA SPACEFOLKは、フル・アルバムとしては4作目となる本2012年作『Astronautica』で新たな局面を迎えました。彼らは自らの音楽性を、「天体」を意味する接頭辞を用いて「Astro-Beat」と表現してきましたが、グループを象徴するキーワードをアルバム・タイトルに置いたことからも、本作への意気込みを感じ取ることが出来ます。前作からキーボーディストが交代し、過去作にもゲスト参加していたヴィブラフォン奏者を正式メンバーに迎えた本作のポイントは、前述の民族楽器によるトラディショナルな響きの撤廃、そして重厚なバンド・サウンドを剥き出しにしたアグレッシブな作風への挑戦にあると言えるでしょう。シーンのトップ・グループとして高い評価を受けながら、なおも先鋭的であろうとする彼らの姿勢には、70年代におけるプログレッシブ・ロックの精神に通じるものを感じずにはいられません。強制的にグループ本来の姿が晒されてしまうことを考えると、極彩色の民族衣装を脱ぎ捨てるアプローチは非常にリスキーであったはずですが、ヴェールが取り払われた後に出現したのは、多くのセッションやライブ・パフォーマンスを経験した彼らならではの洗練されたバンド・サウンドであり、その潔さが、よりスタイリッシュ且つパワフルな印象を本作に与えています。

今年の夏も、世界各国で様々な野外音楽フェスティバルが開催され、その中にはスペース・ロックの音楽性を受け継いだグループが活躍するステージも少なくないことでしょう。クラシック音楽の作法に大きな影響を受けていると言われるスタンダードなプログレッシブ・ロックのスタイルに比べると、スペース・ロックは、前述の反復主義的な構造は「ミニマル・ミュージック」、シンセサイザー・サウンドは「電子音楽」といった具合に現代音楽との共通点を見出すことが出来、その視点で捉えるならば、野外環境に馴染むという特徴は現代音楽における「偶然性の音楽」に通じるものなのかもしれません。プログレッシブ・ロックという音楽が全体的に、夏という季節や野外というロケーションを受け入れにくい「頑なさ」を持っているという結論は間違いないながらも、その一方で、自然環境にもフィットするスペース・ロックのような作風が同一ジャンルの中に存在しているということは、プログレッシブ・ロックが持つ多様な音楽性を証明しています。


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