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COLUMN THE REFLECTION 第75回 70年代、北米に現れたプログレ系バンドの魅惑 ⑥   ~ まだまだあるぞ、北米プログレ系ロックを中心とした作品群  カナダ編➂ ~ 文・後藤秀樹





第75回 70年代、北米に現れたプログレ系バンドの魅惑 ⑥
~ まだまだあるぞ、北米プログレ系ロックを中心とした作品群  カナダ編➂ 




北米の70年代のプログレ系ロック・シーンに関して6回目になる。KansasとStyxを取り上げた最初が2月だったわけだから、もう半年も続けてきたことになる。

アメリカもカナダもプログレ的なものはまだまだ存在していたのだが、同時代的にはその存在さえも知らず、CD化されて以降に知ったものが多いのは仕方ないことではある。

若いリスナーの方々にとっては、現在という時点で様々な音楽シーンを俯瞰しやすいということはきっと事実だろう。

しかし私にとっては、自分が聴いてきたものの「流れ」がどこかで前後することで、どこかギクシャクしてしまい、何とももどかしさを感じてしまうことが多い。

昔から何かを学ぶときには、物事を「時系列に並べる」ことを基本の組み立てとしていただけに、こうやって紹介していても、前後する部分が頻繁になって、何かとても分かりにくい説明になっているような気がして申し訳なく思う。

音楽の過去の作品(未発表も含めて)が新たに紹介されて明らかになることはありがたいし、嬉しいことではあるのだが、(例えば)それらをバンドのディスコグラフィーにどう反映させていくのがいいか・・・なんてことを真剣に考えてしまうのは私だけだろうか?


そのようにいろいろな思いはあるのだが、今回も(オリジナル発売からずっと時を経てCD化され日本で紹介された)魅力的な作品を紹介していきたい。




§ Marqueeから発売された作品群➂  Et Cetera と Morse Code



◎画像1 Et Cetera


アルバムとしては76年にカナダ本国では発売されていたものが、97年にUnidiscからCD化され、すぐに日本でも発売されたエト・セトラ(Et Cetera)の唯一の作品。

私も最初に聞いたのはその97年のCDなのだが、ジェントル・ジャイアント(GG)の影響下にあることが理解できる音楽性に驚かされた思い出深い1枚である。変拍子を多用しながら、ジャズ・ロック的な流れを重視しているが、時にGGのような中世音楽的な展開も聞かせていることが大きな魅力だった。 

ケベックのモントリオール出身だからフランス語で歌われているのだが、それもまた面白かったが、男性ヴォーカルに混じって女性ヴォーカルも聞かれる点でも新鮮。

オリジナルのアルバムを調べてみると「ApostropheレーベルのAP-80000」なのだが、そのレーベルからはこの『Et Cetera』しか出ていない。そう言ってもこの作品は自主制作のレベルではなく、かなりしっかりとした音作りのされたアルバムなので、レーベル自体が1枚出したところで頓挫したのかなと勘ぐってしまった。



★音源A Et Cetera / Et La Musique Tourne

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エト・セトラは5人組だが、ヴォーカルも担当する女性のマリー・ベルナール・パジェ(Marie Bernard Page)はキーボード・プレイヤーでもある。もうひとりキーボードに、デニス・シャルトラン(Denis Chartrand)、彼はフルート、サックス、ヴィブラフォーンと大活躍だ。ベース、チェロにアラン・イヴ・ピジョン(Alain-Yves Pigeon)、ギターにはロバート・マルシャン(Robert Marchand)、ドラムスはピエール・ドラゴン(Pierre Dragon)。ドラゴンを除く4人がヴォーカルを担当する。

ギターのロバート、キーボードのデニスは、本作後カナダのミュージシャンのバックを務めていることが確認できるのだが、残りのメンバーは本アルバムを残したあとに目立った活動を見せていないのも不思議な感じがする。

この作品は21年に日本でもBelle Antiqueから紙ジャケとして出され、カナダ本国では昨23年、不思議な模様を入れた透明盤としてLPが発売されている。

彼らが残したアルバムはこの作品1枚のみということが残念だ。



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画像2 Morse Code /  La Marche des hommes + Procreation +  Je Suis Le Temps 


続いては、日本でも比較的その名が知られるモールス・コード(Morse Code)。彼らの歴史は60年代後半のレ・メイトル(Les Maitres)に始まり、70年にモールス・コード・トランスミッション(Morse Code Transmisson)に名を変えRCAから71年、72年にRCAから2枚のアルバムを残している。2枚目のアルバムはLPでは2枚組の大作だった。

その後、75年にモールス・コード(Morse Code)とバンド名をシンプルにして新たなギタリストを迎え心機一転、Capitolからのシンフォ・プログレ的な人気の高い3作品につながっていくことになる。

基本となるメンバーは、ベースのミシェル・バレ(Michel Valle)とドラムスのレイモンド・ロイ(Raymond Roy)、そしてキーボードのクリスチャン・シマール(Christian Simard)で、新たなギタリストがダニエル・ルメイ(Daniel Lemay)だ。



★音源B Morse Code / La Marche des hommes

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日本でもこの3作品『男達の歩み(La Marche des hommes)』(’75)、『プロクリエイション-生殖(Procreation)』(’76)、『我は時なり(Je Suis Le Temps)』(’77)は、ProgQuebecからのCD再発盤(2007年)が日本でも同時に発売され、その後2011年には3枚ともに紙ジャケ化されている。その事実通り3枚ともに甲乙つけがたい素晴らしい作品と評価できる。

モールス・コードとは『モールス信号』のことなのだが、私は国内盤の帯を見るまでずっとバンド名を「モーズ・コード」と認識していた。

RCAからの前身モールス・コード・トランスミッション時代のアルバム2012年にドイツO-MusicからCD化されている。その2枚ともにサイケ・ポップな曲調もよく出来ていて、オルガン・ロックの面白さがよく伝わる好盤だ。ちょうどディープ・パープルの最初の3枚と同じような位置にある作品のようで、パープルの方は本格的にハード・ロックに向かうわけだが、モールス・コードの方は明らかに全盛期のイエスをはじめとする英国プログレの影響からに照準を定めたことがよくわかる。


77年の3作目『我は時なり』の発表後、やはり70年代後半となり世の中の音楽嗜好が変わったことで、モールス・コードも「重厚なプログレ」という音楽性では勝負できなくなっていく。

他のバンドにも言えることだが、地元のベテランであっても売り上げが伸びないことにレコード会社が難色を示すようになったのだ。あわせて、フランス語の歌詞ということで、ワールド・ワイドな展開も望めないということを伝えられた。モールス・コードに限らず当時のケベックのミュージシャンにとっては辛い時期に入ったことは間違いなかった。じつは、彼らもモールス・コード・トランスミッション時代の2枚のアルバムでは英語で歌っていた。

日本語で生活する我々にとっては、これまでユーロ・ロックで歌われる各国の言葉もその味わいとして自然に受けとめてきたと言える。自国語(自分の言葉)でアーティストが歌うということは、そのアイデンティティにもつながる大きな部分だと思うだけに、レコード会社とのこうした軋轢を知る度に考えてしまうところがある。


彼らはしばらく沈黙するが、83年にカナダAquariasレーベルから『Code Breaker』をリリースしている。じつは、その作品を新譜として入手したのが私とモールス・コードとの最初の出会いだった。(当時、「モーズ・コード」と読んだ思い出の作品)。メロディーも演奏も悪くはなかったのだが、時折現れるテクノ・ポップのようなリズム・展開が気になってしまった。ここでは英語で歌っている。

その後、廃盤カタログと雑誌「マーキー」で彼らのそれ以前の作品の存在を知ったのだが、本来のプログレ的作品をやっと聞けたのが国内発売された97年ということになる。

同じように83年のアルバムから経験した方もきっといるに違いないが、後になって彼らの本質を掴めたことは今考えるととても懐かしい思い出だ。



 
彼らはそれから10年以上を経た94年『D’un Autre Monde』という作品(CD)を出していて、こちらは往年の雰囲気も味わえる好作品になっている。全盛期のメンバーの3人、ミッシェル、クリスチャン、ダニエルの3人が残っていて、新たなドラマーにジル・シマード(Gills Simard)、そしてもうひとりのキーボードにマーク・ラペルル(Marc Laperiele)が加わっている。もちろん、フランス語歌詞に戻っていた。そのアルバムからも1曲聞いておきたい。



★音源資料C Morse Code / Piano

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§ Marqueeから発売された作品群④  Contraction と Aquarelle (+ α)

日本でモールス・コードに先駆けて紹介されていたのがコントラクション(Contraction)だった。

モントリオールで67年に結成され、72年にカナダColumbiaからバンドと同名のファースト・アルバム『Contruction』、74年にDeramからセカンド『La Bourse Ou La Vie』と2作品をリリースした女性ヴォーカルを含む6人組。



◎画像3 Contraction /  Contraction  + La Bourse Ou La Via + Live 1974 


彼らに関しては、そのアルバム・ジャケットは知っていたものの、実際に音を聞くのは2005年の日本でのCD化を待つことになる。どちらもMarqueeから国内盤として発売された。ファーストはバンド名そのままのタイトルで『収縮(Contraction)』、セカンドは『命の相場(La Bourse Ou La Via)』とつけられ、原題の邦訳ではあるもののそれだけでは音をイメージしにくいものではあった。

演奏面ではジャズ・ロック的な展開もあるのだが、基本的な音楽性は紅一点のクリスティーヌ・ロビショー(Christiane Robichaud)の柔らかいヴォーカルが、ロベール・ラシャペル(Robert Lachapelle)ピアノにのって歌うタイプの静かな感じが強い。ただ、クリスティーヌの持っている雰囲気はカナダを代表する歌声のような印象があった。

リリースでいえば、さらに2009年未発表ライヴ『Live 1974』が本国カナダに先立って日本で発売されていたのだが、これは74年のセカンド制作前の録音となっていた。



★音源資料D Contraction / L’alarme a Loeil

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クリスティーヌロベール以外のメンバーだが、ドラムスクリスチャン・セント・ロック(Christian St-Roch)、ギターミシェル・ロビドゥ(Michel Robidoux)ローン・バンクリー(Rawn Basnkley)、ベースのイヴ・ラファリエール(Yves Lafarriere)を含めた6人が基本構成らしいのだが、どちらのアルバムにも他に多数のミュージシャンが参加している。

主要楽器の担当としてもドラマーのデニス・ファーマー(Denis Farmer)、ギターのロバート・スタンレイ(Robert Stanley)、パーカッションのミシェル・セガン(Michel Seguin)らの他のバンドでも見る名前が並んでいて、セッション的にレコーディングされた感じが強い。しかし、アルバムとしてはじつに落ち着いた雰囲気が感じられる。


そもそも、コントラクションというバンドはフランク・デルヴュー(Frank Dervieux)の72年のソロ・アルバム『Dimention’M’』にクリスティ-ヌがゲスト参加した時に集まったメンバーを中心に誕生したユニットだった。そのデルヴュー自身はコントラクションのファーストに参加しているし、2枚目のA/B面最後に彼にちなんだ作品としてその名が記されていた。



◎画像4 Frank Dervieux  /  ①Dimention’M’  + ②③Vic Emard Blues Band


フランク・デルヴューの詳細は不明なのだが、1950年代に既にFrank Dervieux Orchestraとして女性ヴォーカリストのバックを務めるところからその名が見られる。その後、65年からジャン・ピエール・フェルラン(Jean-Pierre Fairland)というシンガーのアレンジとオーケストレーションを担当してきている。そんな中、彼は病と闘い続けながら72年のソロ作の制作を完成させ、コントラクションのデビューを見守った後に亡くなったということだ。

コントラクション2作目の作成にあたっては、デルヴューが唯一残したソロ作品『Dimention’M’』で扱った壮大なテーマをモチーフにしたものと考えことも出来る。

そのデルヴューの唯一のアルバムからもラストに収録されていた曲を聞いてみよう。言うまでもなくバックはクリスティ-ヌのスキャットを中心としたコントラクションのメンバー群が参加している。ただ、このアルバムはカナダ本国ではProg Quebecから本国ではCDとして2012年に出ていて日本でも発売されていた。



★音源資料E  Frank Dervieux / Present Du Futur

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もう一つ、コントラクション絡みの重要バンド、ヴィル・エマール・ブルース・バンド(Vic Emard Blues Band)があるのだが、ご存知だろうか。74年に『Live At Montreal』、75年に『Vill Emard』がLPとして出ていたが、その後カナダ盤CDで2イン1として出ていたもの(正式には74年のLiveはLP2枚組なので3イン1!)。
 
62年からセッション・マンとして活動していたBill Gagnonを中心として72年に結成されたカナダのロック・シーンを総括するような存在感を持ったユニット。しかし、バンド名にブルース・バンドと入っているせいか、その先入観からかあまり人気がないように思えるのが残念だ。じつはブルースというよりもかなり広範な音楽性を持った堂々とした作品だ。

特に74年作のライヴは注目。バンドはコントラクションのメンバーが基本になっているが、意外なくらいファンキーな演奏が聞けて、これはこれで楽しい。カナダのミュージック・シーンに興味を持つ方には是非、聞いて欲しい。LPリリースはfunkebecと言うレーベルからで、これもシャレが効いている。

聴き方によっては、60年代後半のアル・クーパーにはじまり、70年代前半のジョー・コッカーの「マッド・ドッグス&イングリッシュマン」や、レオン・ラッセルの『シェルター・ピープル』にも見られるような、当時の言葉で言えばスーパー・セッション的なライヴ・イベントとしてとらえられるように思え、興味深い。)



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◎画像5 Aquarelle   Sous Un Arbre +  Live In Montreux


続いては、78年にカナダAtlanticから最初のアルバム『Sous Un Arbre』でデビューしたアクアレル(Aquarelle)。コントラクションのように女性ヴォーカルを含んだジャズ・ロックを演奏するバンドで、出身はモントリオール。バンドの構成が似ているとは言え、今になって考えるとコントラクションとは活動時期の影響と思えるほどに音楽性の差が大きく感じられる。アクアレルにはジャズ・ロックではありながら、当時一般的な用語になった「フュージョン」的な軽快な味わいがあった。

このアルバム(LP)は80年前後に輸入盤・中古盤として結構見かけたことを覚えているし、私も同時期に手にすることが出来た思い出多い作品のひとつ。

最初に思ったのはバンド名が「Aquarelle=水彩」であり、アルバム・タイトルも「木の下で(木陰で)」となる。確かに彼らの演奏に「水彩画」のような爽やかで、どこか涼しげな雰囲気を感じ取ったとしても間違いはいないだろう。



★音源資料F Aquarelle / Aquarelle (Part1 & Part2)

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彼らもやはり大所帯で7人編成。アルバムの裏のメンバー写真が印象深く、知的な大学生集団といった趣に見えた。女性スキャット・ヴォーカルアンヌ・マリー・クルテマンシュ(Anne-Marie Courtemanche)。リーダーはキーボードのピエール・レスコー(Pierre Lescaut)。印象的なヴァイオリンは(Pierre Bournaki)、サックス、フルートはジャン・フィリップ・ジェリナス(Jean-Phillippe Gelinas”Philo)、ギターはステファン・モランシー(Stephane Morency)、ベースはミシェル・ド・ライル(Michel De Lisle)、ドラムスはアンドレ・ルクレール(Andre Leclerc)という布陣。


翌79年には『Live In Montreux』をリリースしているが、女性ヴォーカルがシャロン・ライアン(Sharon Ryan)に替わったものの他のメンバーはそのまま。デビューしたばかりでスイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルに招聘されるというのも凄いことだが、それ以上に収録曲は前作から1曲のみ、その他残り全てが新曲を披露できるというほどにレパートリーを持っていることが驚きだった。

ただ、残念ながら彼らのリリースはこの2枚のみ。音楽手中心だったピエール・レスコーはニュー・エイジ・ミュージックの方面に向かっていくことになる。

清涼感のある彼らの音楽は気に入っていただけに残念だった。

日本ではファースト・アルバムと同時に2010年に紙ジャケットとして発売されていた。ここで、特筆すべきはカナダではCD化されていなかったにもかかわらず、日本でのみ紙ジャケCDとしてリリースされていたということだ。これは、これで凄いことだと思う。




§ Marqueeから発売された作品群⑥  Sloche と True Myth そして…


 
◎画像6 Sloche   J’un Oeil + Stadakone


個人的にはそのファースト・アルバムのジャケットが特に印象的に思えるスローシュ(Sloche)。

彼らも75年の『J’un Oeil』、76年の『Stadakone』と2枚のアルバムが出ていた(ともにRCA Victorから)が、やはりプログレ、ジャズ・ロック的な要素が強く感じられる忘れられないバンドだ。キーボード・プレイヤーが二人というのも特徴。

こちらも時が流れ、2009年になって本国ProgQuebecのCD再発を受け、日本でも2枚ともに発売されたのだが、邦題はシンプルに『ファースト』、『セカンド』となっていた。


スローシュがこれまで紹介してきた一連のバンドと異なる部分は、その音楽のテーマを、米北部の先住民族の歴史にテーマを求めたように感じられること。特にセカンドのタイトル『Stadakone』とは現在のケベックシティの昔の村の名前だ。さらにそのジャケットには先住民(イロコイ族?) が描いたような動物や人物が描かれている。乱暴な言い方になってしまうが、フランスの探検隊によって発見された地域が現在のケベックにつながっているということが分かるのは興味深い。フランス語圏になった事情も起源はそこにあったのだろう。こうした周辺の事情を知ると、スローシュもより深く聞くべき部分の多い作品ということも出来そうだ。



★音源資料G Sloche / Patage Aux Herbes Douteuses

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ファーストアルバムのキーボードはマーティン・マレー(Martin Murray)とレジャン・ヤコラ(Rejean Yacola)、ギターはキャロル・ベラール(Caroll Berard)、ベースはピエール・エベール(Pierre Hebert)、ドラムはジル・キアソン(Gilles Chaisson)。プロデューサーはガエタン・デスビエンス(Gaetan Desbiens)。

セカンドではギターがマーティン・マレー(Martin Murray)、ドラムスがアンドレ・ロベルジュ(Andre Roberge)に替わり、前作でプロデュースを担当したガエタンは録音エンジニアに専念し、新たなプロデューサーのジル・ウエレット(Gilles Ouellet)がチェレスタとパーカッションを担当している。


どちらのアルバムも変化に富み、ヴァラエティ豊かな表情を見せている。音楽的には先ほども述べたようにジャズ・ロックが基本と思うが、ユーモラスな部分もあり、突然の曲調変化にはフランク・ザッパやカンタベリー系の影響も感じられる。特に、時々聞かれるヴォーカル・コーラス部分とオルガンは、やはりイエスをはじめとした英国プログレの影響がそのままでもある。



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◎画像7 True Myth


次に紹介するトゥルー・ミス(True Myth)79年の作品。この作品のCDも日本での2010年紙ジャケ・リリースということでとても驚いた。オリジナルはカナダのワーナー(Warner Bros.)盤となる。

彼らはオンタリオ州ロンドンの出身ということで、公用語は英語になるので歌詞も(もちろん曲名も)英語ということになる。もともとは音楽学校のクラスプロジェクトとして出発している。

このアルバムがカナダで最初のデジタル録音アルバム(世界初はスティービー・ワンダーの『Secret Life Of Plants』)ということは、早くから情報としては知っていたし、ジャケット・デザインもMarqueeに掲載されたものが記憶に残っていたのに、肝心の音楽の方はなかなか聞けなかった。イタリアのFesta Mobileに似ているということも伝えられていたことがあり、聞いてみたい作品のひとつだった。



★音源資料H True Myth / Reach For The Heavens

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メンバーはキーボードのトム・トロイマス(Tony Treumuch)、ギターのトニー・クック(Tony Cook)、ベースのスティーヴ・マッケンナ(Steve Mckenna)、ドラムスのブライアン・ボリジャー(Brian Bolliger)、ヴォーカルのブルース・カミングス(Bruce Cummings)の5人。

全編に勢いのあるピアノは印象的で、さらに各楽器のテクニカルな演奏と端正でシャープなコーラスも聴かれ、全盛期のプログレを基本としながらも、デジタル時代の音楽に突入した感がある。録音に参加しているストリングスもThe Armin Electric String Quartという名称だった。

やはり手本にしたのは全盛期のイエスなのだろうということは想像できるし、間違いなくカナダを代表するバンドのひとつとして今では認知されているのも納得できる作品だ。

81年にはセカンド・アルバム『Telegram』を出しているのだが、ヴォーカルとドラムが交代後の新たなメンバー構成になっていた。そして彼らの歴史もここまで。

ただ、トム・トロイマスHypnoticレーベルを立ち上げてマネージャー、プロデューサーとして活動し、Honeymoon SuiteHelixといったバンドのヒット作を生んでいる。それらの名を見るとプログレには未練がなかったのかなと思えてしまう。



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CDとして紹介されたカナダのプログレ系アーティストは、この前回と今回のコラムで取り上げた他に幾つもある。ちょっと挙げていくと・・・

 1992年にEdisonから出たブレガン(Bregent)の『探求者(Partir Pour Ailleurs)』。
以下Marqueeから
 2003年ネイサン・マール(Nathan Mahl)の『Shadows Unbound』
 2005年マネイジュ(Maneige)のジェローム・ラアングロワ(Jerome Langloirs)の『モリグナク』
 2006年アングルヴァン(L’Engoulevent)の『オオカミの住む島(I’le Ou Vivent Les Loups)』、シャルル・カジンスキー(Charles Kaczynski)の『夜の灯火(Lumiere De La Nuit)』。
 コントラクション(Contraction)のベーシスト、イヴ・ラフェリエール(Yves Laferriere)の同名ソロ作、そしてポーレン(Pollen)のジャック・トム・リヴェスト(Jacques Tom Rivest)の同名ソロ・アルバムも同じ2006年にリリース。
 2008年にコントラクション(Contraction)のメンバーが参加しているSSWジャック・ブレイズの『主題(Themes)』。
 エクスキュブス(EXCUBUS)は2008年に『夢魔の記憶(Memories Incubusiennes)』、そして2011年に『ラゴシュティエール(Lagauchetiere)』。
 オッフェンバッハ(Offenbach)は2008年の『聖なる虚空のクロム(Saint-Chrone De Neant)』と、2011年の『タバルナク(Tabarnac)』(2CD)。
 ハルモニウム(Harmonium)にも参加していたキーボード・プレイヤー、イヴァン・オーレット(Yvan Oullet)の『万物の歌(Chant Des Choses)』は2009年。
 2011年のヴォ・ヴワザン(Vos Voisins)の同名アルバム。

 
等々、不完全なListではあると思うが、ほとんどが70年代の作品の再発ということになる。



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この中で、ヴォ・ヴワザン(Vos Voisins)に関してはちょっとした思い出がある。



◎画像8 Vos Voisins / Holocaust e Montreal

このアルバムは、71年にカナダPolydorから出た作品だが、ジャケットの一番下に記された『Holocaust e Montreal』のタイトルに私は反応した。ジャケットのメンバー写真もモノクロで、きっとあの忌まわしい第2次大戦中のアウシュヴィッツに代表されるユダヤ人迫害の実際を扱った博物館がテーマになっていると考えたのだ。確かモントリオールにも「ホロコースト博物館」もあったはずだ・・・と。

しかし、調べていくとケベックのモントリオールにその博物館はあるのだが、設立されたのが79年。ヴォ・ヴワザンのアルバムがLPとして出た時点(’71)にはまだ存在していなかったわけだ。


私は個人的に78年のTV海外ドラマシリーズ『ホロコースト』に大きな衝撃を受け、その「人類の負の遺産」を個人的な研究テーマのひとつとして様々な資料にあたってきていている。


結局アルバムのこのジャケットは、71年の発表当時に実在するタブロイド紙のパクリということで問題となり、ジャケットも差し替えられる措置が取られていた。(画像8の右ジャケット)

しかし、なぜかCD化にあたっては元のジャケットの中に『Holocaust e Montreal』という本来のタイトルの言葉が残ったままでリリースされたことになる。CDの邦題はバンド名そのものになってしまっていた。ただバンド名Vos Voisins「あなたの隣人」を意味している。実はその言葉の意味も歴史的には大きなものがあるのだが・・・。


ただ、実際には「話題性づくりのジャケット」という以上の意味はなかったようである。音楽的には面白いものがあるのでそれを純粋に楽しめばいいということではある。

こうして取り上げたので、アルバムの中からも1曲聞いていただこう。



★音源資料I Vos Voisins / 3/4の大司教 (Le 3/4 De L’archeveque)

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前回のコラムではFM『City Of Fear』(‘80)を取り上げ「クラクフ(krakow)」を紹介する中で触れたが、ポーランドクラクフという場所もホロコーストに関連しているわけだ。さらにアルバム・タイトルの『City Of Fear』(恐怖の街)も歴史的に考えると象徴的だった。


私は2009年8月にポーランドを訪れ、クラクフのアウシュヴィッツとビルケナウにも行ってきた。さすがに大きなショックを受け、「人類の負の遺産」を前にして考えることが多々あった。

いつか、このあたりのことも文章としてまとめていきたいと思っている。



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今回のアウトロ  カナダ・プログレ番外編 傑作・・・Rose Michel Le François Ariel

今回もここまで長々と綴ってきましたが、まずお詫びです。

前回のセクション・タイトルで「後に広く知られるようになるManeigeとHarmonium、Aquarelleとの最初の遭遇」と書いていた部分がありましたが、Aquarelleは今回に移動することにしたのに、当初考えていたタイトルをそのままにしてしまいました。大変失礼しました。

今回、間違いなくAquarelleについては触れました。


一連の作業をしながら、カナダのロック・シーンの厚みを改めて実感しましたが、他にも触れておきたいアーティストが多々あるわけですが、今回は日本でリリースされたもの・・・という縛りをかけたもので、泣く泣くカットしてしまったものがたくさんあります。

特にハード、プログレ系としてはディリンジャー(Dillinger)の2枚のアルバムがそうですし、カノ(CANO)、Foggy Duffをはじめとするフォーク、ケルト系、そしてセガン(Seguin)系のリチャード・セガン(Richard Seguin)とマリー・クレア・セガン(Marie-Claire Seguin)の双子の兄妹の作品に関しても、ここで取り上げないままに残っています。


その替わりといっては何ですが、このアウトロで、個人的に忘れられないカナダ・プログレの名曲と思われる3曲を紹介しておきたいと思います。



◎画像9  Michel Le François / Sur La Terre Comme Au Ciel


まずは、傑作とされながら未だCD化されない不思議な作品、Michel Le Françoisのアルバム『Sur La Terre Comme Au Ciel』からA面2曲目の「Etre Avec Vous」です。79年のCBSからの作品ですが、完璧で理想的なケベック産のシンフォニック・ロック。

彼はたくさんのアーティストと関わっていて、その名を知られていますが、不思議なことにこれがレコード時代唯一のソロ作品です。



★音源資料J  Michel Le François / Chevaliers De L’univers – Etre Avec Vous

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この音源資料ではアルバムA面の1曲目と2曲目が入っていて、8分すぎから2曲目「Etre Avec Vous」がはじまります。(1曲目も素晴らしい曲ではありますが、やはり2曲目が必殺ものです。)

何とかCD化されることを切に願いたい作品です。



◎画像10 Rose/A Taste Of Neptune + Judgement Day


次はRoseの77年Polydorからのアルバム『A Taste Of Neptune』のラストに収められたタイトル曲です。彼らに関してはこれ以前のアルバムは入手できていないのですが、この3作目のジャケットとタイトル・ナンバーは素晴らしいです。文字通り哀愁のナンバーです。韓国のSi-WanからCD化されていました。彼らは、オンタリオ州のブレントウッド出身。英語で歌っています。

続く同じ77年の4作目はジャケット・デザインがどこか英国のJonesyに似ていたことから、その昔アナログを探して入手したことが思い出されます。この4枚目は前作と同時に作成した曲を録音したものらしいということです。ただ、どこにしまったのかレコード棚のどこかに埋もれたまま、今回は見つけられず、聞き返すことが出来ませんでした。(最近、そんなことが多くなりました)



★音源資料K  Rose / A Taste Of Neptune

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◎画像11 Aerial / In The Middle Of The Night + Maneuvers


そしてもう一曲、アエリアル(Aerial)の78年のファースト『In The Middle Of The Night』からのアルバム・タイトル曲を。彼らはトロントの出身なのでやはり英語です。Rushでお馴染みのAnthemレーベルから2枚のアルバムを出しています。音楽的な姿勢としてはプリズム(Prism)に近く、AORの線も強いと思うのですが、この曲は中間部のピアノからヴォーカル、メロトロンまでの流れが気持ちよくはさまれていてよく出来たキャッチーなナンバーです。



★音源資料L  Aerial / In The Middle Of The Night

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国内では年々暑さが上昇していること、線状降水帯の影響による大雨による被害等、悩ましい毎日です。お見舞い申し上げます。近年、こんなに猛暑日が続いたり、雨雲が停滞して雨が続いたりしていますが、これまでにはなかったことですよね。

私の住む北の地も昨年に続き、高温の日が続いています。昨年の暑さ続きの中で私も熱中症のような状態になったことを思い出していますが、今年は何とか健やかに乗り切りたいものです。


そんな中、パリ・オリンピックも開催される時期となり、何か賑やかな夏になりそうです。フランス語がたくさんTV放送の中で聞かれるようになると思います。そんな中で、カナダのケベックでもフランス語だよなと思い出していただけるとありがたいです。

次回は、暑気払いのハード・ロック集か、雨にまつわるロック集か、どちらにしてもコンピレーション的な内容でいきたいと今のところは考えています。              それでは、また次回。




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音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「Column The Reflection」!北米に焦点を当てた第5回は、アメリカにも匹敵するロック/プログレ・シーンが広がるカナダ編の第二弾をお送りいたします!

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    ケベック出身、GGタイプのテクニカル・シンフォ、76年唯一作

    カナダはケベック出身のシンフォニック・ロックグループによる76年唯一作。ケベックを代表するグループの1つでありGENTLE GIANT系名盤としても有名な本作は、フランス語の男性、女性ボーカルが彩るシンフォニック・ロックであり、オンド・マルトノといった珍しい楽器が使用されたクールなサウンドが特徴です。フルート、サックス、チェロと言った管弦楽器の使用も非常に巧みであり、純クラシカルなセクションすらあるほどにシンフォニックに盛り上げています。また、ツイン・キーボード編成の音の厚みと色彩感も素晴らしく、ケベックのシンフォニック・ロックを代表する名盤と言えます。

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