2016年4月22日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
19世紀後半、音楽文化の先進国であったドイツやオーストリアのロマン派音楽が世界各国へと伝播する中、音楽文化の後進国では、民族主義(ナショナリズム)とロマン派音楽が結合した新しいスタイルである「国民楽派」が誕生しました。自国に伝わる民謡や伝統音楽の作法を楽曲に色濃く反映させた国民楽派は、ロシアの作曲家グリンカによる歌劇「ルスランとリュドミラ」や幻想曲「カマリンスカヤ」を原点として、その精神を受け継いだ「ロシア五人組」と呼ばれる作曲家たち(バラキレフ、キュイ、ムソルグスキー、ボロディン、リムスキー=コルサコフ)の活躍によってロマン派の最期を彩っていったのです。また、ロシア以外ではチェコ(スメタナ、ドヴォルザークなど)、スカンディナヴィア(ノルウェーのグリーグ、デンマークのニールセン、フィンランドのシベリウスなど)、スペイン(アルベニス、グラナドス、ファリャなど)といった国々が国民楽派の中心的な役割を担いました。さらに、その精神は近代以降にも見受けられ、ハンガリーのバルトークやチェコのヤナーチェクといった作曲家たちが民族主義を感じさせる作品を残しています。
ところで、1960年代のイギリスで成立したプログレッシブ・ロックのサウンドが世界中の音楽シーンに強い影響を与えた結果、ロック後進国を含めた様々な国々から出身国の民族要素を感じさせるプログレッシブ・ロック・アーティストたちが登場したという経緯は、プログレッシブ・ロックが持つ国民楽派的な側面として捉えることが出来るのではないでしょうか。もちろん、国民楽派の作曲家たちが自国民のために、その民族感情に呼応する音楽を作曲したのに対して、全てのプログレッシブ・ロック・アーティストたちが必ずしもナショナリズムの精神に自覚的であったわけではありませんが、聴き手の立場からの感覚として、国民楽派とプログレッシブ・ロックには共に「その国らしさ」を聴くという姿勢が存在していることは事実でしょう。そして「その国らしさ」は、プログレッシブ・ロック作品に耳を傾ける際に、時として「メロトロン」や「変拍子」、あるいは「シンフォニック・ロック」や「ジャズ・ロック」といったプログレッシブ・ロックの象徴的な記号や分類以上に重要視されてきたのです。
国民主義音楽の歴史において重要な役割を担ったロシアには、数は少ないながらもソビエト連邦時代からプログレッシブ・ロックの名盤が存在していますが、新世紀以降のシーンについては、モスクワ音楽院出身メンバーによって結成されたヴァイオリン・ロック・グループLOST WORLD、そして後述するLITTLE TRAGEDIESというふたつのグループの活躍が目を引きます。サンクトペテルブルク音楽院で専門的な音楽教育を受けたキーボーディストGennady Ilyinによって94年に結成されたLITTLE TRAGEDIESは、Gennady Ilyinのソロ・プロジェクト的なキーボード・トリオ編成を経てギタリスト、サックス奏者を含むバンド体制を整え、怒涛のリリース・ラッシュを見せながらプログレッシブ・ロック・シーンの中で存在感を高めていきました。彼らの音楽スタイルは、ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの名グループであるEMERSON, LAKE & PALMERから強い影響を受けたキーボード・ロックをベースに、硬質なバンド・アンサンブルが本家を凌ぐほどのダイナミズムを主張するへヴィー・シンフォニック・ロックであり、そのアグレッシブなサウンド・メイクは現行シーン屈指のものとして多くのファンを唸らせています。
さて、今回はLITTLE TRAGEDIESの2014年作『At Nights』を取り上げていきますが、デビュー期の作品が再発に際しGennady Ilyinのソロ名義に変更、あるいは90年代録音のコンセプト作品が正規のアルバムとして10年以上を経て蔵出しされるなど、彼らのディスコグラフィーは録音からリリースに至る時間軸に分かりにくいところがあるかもしれません。ひとつの目安として、バンド体制での本格デビューとなった2005年作『Return』を始点に数えると本作は10枚目のアルバムということになります。高い評価を獲得した2013年作『Obsessed』に続く本作でも彼らの基本的な路線は変わらず、キーボード・ロックの古典的名盤を蹴散らすほどの強烈な音作りがスリリングなシンフォニック・ロックを構築しており、哀愁に満ちたバラードを挟みつつドラマティックな世界観を描き出しています。前述の国民楽派を含め、ロシアのクラシック音楽では勇ましい金管楽器の響きや強力な打楽器のインパクトが特徴として挙げられる(チャイコフスキーによる祝典序曲「1812年」における「大砲」の使用がその最たるものでしょう)ことが多く、その過度に扇情的な作風はロシアン・プログレッシブ・ロックの名盤(例えばモスクワ・オリンピックで使用された楽曲が収録されていることで知られるEdward Artemievの84年作『Three Odes』における地鳴りのような混声合唱など)にも受け継がれていました。もちろん、LITTLE TRAGEDIESの作り出すパワフルなサウンドにもまた、サックス奏者を擁したグループ編成をはじめ、リズム・セクションの躍動やヴィンテージ・キーボードの濃厚な響きなどに、先人たちとの共通点を見出すことが出来ます。
LITTLE TRAGEDIESが強い影響を受けたキーボード・ロックの代表格であるEMERSON, LAKE & PALMERも、国民楽派と無関係ではありません。EMERSON, LAKE & PALMERは、国民楽派の楽曲を積極的にグループのレパートリーに取り入れており、前述のムソルグスキー、ドヴォルザーク、あるいはバルトーク、ヤナーチェク、スペインのロドリーゴ、アルゼンチンのヒナステラ、アメリカのコープランドといった近代民族主義の作曲家による楽曲に巧みなロック・アレンジを施していったのです。また、公式デビュー・ライブとなった「ワイト島ポップ・フェスティバル」のステージでは、前述の楽曲「1812年」にヒントを得た「大砲」の演出がオーディエンスを圧倒しました。様々な国々が相互に影響を受け合い、また与え合いながら、音楽史は現在も更新され続けています。
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ロシアのグループ、07年作。漢詩を元にしたコンセプト・アルバム。ただ中国風味は、キーボードが琴や縦笛風の音色を時々奏でる程度で、ほとんどは、クラシカルなキーボードをフィーチャーしたドラマティックなシンフォニック・ロック。演奏のダイナミズムと圧倒的な構築力は相変わらず。シンフォニック・ロック・ファンは必聴の名作です。
本格的な音楽教育を受け、交響曲も書けるほどにクラシックに精通したKey奏者&コンポーザーのGennady Ilyinを中心に、ロシア南西部のウクライナ国境に近い町クルスクで結成された新鋭プログレ・グループ。『RETURN』(05年作)『NEW FAUST』(06年作)『SIXTH SENSE』(06年作)と続々と壮大かつダイナミックな名作を生み出すなど、完全に覚醒して00年代プログレシーンの最前線へと躍り出たバンドによる07年作。中国の古詞をテーマとしたコンセプトアルバムで、2部構成でリリースされたうちの「第二部」にあたるのが本作。「第一部」はこれまでの作品にないリリカルなパートが印象的でしたが、本「第二部」では、ダイナミックなパートとともに「静」と「動」が「鮮烈」と言えるまでに対比したドラマティックなシンフォニック・ロックを聴かせています。「壮麗」という言葉がぴったりのクラシカルな旋律からキース・エマーソンばりのけたたましい旋律までスケールの大きなキーボード、速弾きを織り交ぜながらメロディを伸びやかに紡ぐギター、ロシア語の早口で畳み掛けるようなヴォーカル、シャープに疾走するリズム隊。圧倒的な演奏力と構築力で聴き手を飲み込む傑作です。
LOST WORLDとともに現在のロシアを代表するシンフォ・バンド、99年録音作。『SUN OF SPIRIT』同様、LITTLE TRAGEDIE名義ではあるものの実質的にはキーボーディストGENNADY ILYINのソロ作品。ギタリストの参加を除いてキーボードの多重演奏のみによる演奏という点は『SUN OF SPIRIT』と変わらないものの、純クラシカルな印象が強かった前作と比べ、こちらは打ち込みリズムを大きく取り入れ、よりロックらしい躍動感が感じられるバンド・アンサンブル的な音作りがされているのが特徴。後のバンドとしてのLITTLE TRAGEDIESのサウンドにぐっと近づいています。荘厳なシンセやオルガンが鳴り響く中を、ギターがヘヴィに切れ込んでくる場面などはまさにLT!ドラマティックに歌い込むロシア語ヴォーカルもすばらしい。硬質な音使いとクラシカルな優雅さが絶妙にバランスした音楽性は、まさにロシアという国からイメージされる音そのもの。LT前夜という位置づけにとどまらない、素晴らしい完成度を誇る一枚です。
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