2017年5月27日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
幅広い音楽性を持つプログレッシブ・ロックは、その作風をいくつかのサブ・カテゴリーによってさらに細かく分類することが出来ますが、そんな中で「シンフォニック・ロック」に次ぐ大きなサブ・カテゴリーのひとつが「ジャズ・ロック」です。その成立には「ジャズのエレクトリック化」というキーワードが欠かせません。1960年代後半にアメリカのトランペット奏者Miles Davis、そして彼とセッションを共にしたミュージシャンたちがエレクトリック・ジャズの黎明期を彩り、例えばJoe Zawinul率いるWEATHER REPORT、John McLaughlinを中心とするTHE MAHAVISHNU ORCHESTRA、Chick CoreaによるRETURN TO FOREVERといった名グループたちが70年代のシーンに登場したのです。一方で、ブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの黎明期には、トランペット奏者Ian Carrを中心とするNUCLEUS、Vertigoレーベルが初めてリリースしたアルバムである69年作『Valentyne Suite』が知られるCOLOSSEUM、そして、後に「カンタベリー・ロック」のファミリー・ツリーを形成することになるSOFT MACHINEやCARAVANといったグループたちが登場しました。
ジャズ・ロックの音楽性は、英米以外の国々からも名グループを輩出しています。例えばイタリアでは、地中海音楽を取り入れた作風で聴かせるAREAや、超絶技巧を誇るドラマーFurio Chiricoを擁するARTI E MESTIERIを筆頭に、スペーシーなサウンドが特徴的なPERIGEO、OSANNA解散後にUNOを経たメンバーによって結成されたNOVA、あるいはツイン・キーボード編成のIL BARICENTROなどが高水準なジャズ・ロックを奏でました。またフランスでは、THE MAHAVISHNU ORCHESTRAによる74年作『Apocalypse』などに参加しソロ・アーティストとしても成功を収めたヴァイオリン奏者Jean-Luc Pontyや、やはりヴァイオリン奏者であるDavid Roseが参加したTRANSIT EXPRESSなどがジャズ・ロックの名盤を発表していますが、Yochk’o Sefferを中心に結成されたZAOやヴァイオリン奏者Didier LockwoodによるSURYA、あるいはベーシストBernard PaganottiとキーボーディストPatrick Gauthierを中心とするWEIDORJE、加えてキーボーディストBenoit WidemannやベーシストJoel Dugrenotらによるソロ・アルバムに至るまで、孤高のグループMAGMAに参加していたメンバーたちによるジャズ・ロック・アルバムの完成度は特筆すべきものがあります。さらにドイツでは、実験的な作風のアーティストたちが数多く活動していた中で、PASSPORTがジャズ・ロックの代表格として知られてきました。もちろん、上記の国々以外からもジャズ・ロックの名盤は誕生しており、その例は「辺境」と呼ばれるロック後進国にまで及びます。
さて、今回は新世紀のインドネシアで活躍するギタリストのジャズ・ロック・アルバムを取り上げます。DISCUSが多くのプログレッシブ・ロック・ファンの目をインドネシアへと向けさせ、SIMAK DIALOGがエキゾチックなインドネシアン・ジャズ・ロックの世界を提示した2000年代を経て、2010年代の同国シーンは、より一層ジャズ・ロックの印象が濃いものとなっているようです。その理由は、才能溢れるふたりのミュージシャン、つまりSIMAK DIALOGの活動と並行してTOHPATI ETHNOMISSIONやTOHPATI BERTIGAといったソロ・プロジェクトでも作品を発表するギタリストTohpati(Tohpati Ario Hutomo)と、後述するGIGIのギタリストDewa Budjanaによる驚異的なリリース・ラッシュにあるでしょう。同国の音楽シーンを代表するロック・バンドであるGIGIのオリジナル・メンバーとして90年代中盤のシーンに登場したDewa Budjanaは、グループの爆発的なヒットによって順調にキャリアを重ね、2000年には来日公演も果たしています。彼は90年代からGIGIの活動と並行してコンスタントにソロ・アルバムを送り出してきましたが、2010年代を迎えると、2011年から2015年までの短期間に4枚もの作品をリリース。そして、2016年に2枚組のボリュームで発表されたのが本作『Zentuary』です。
本作『Zentuary』では、80年代以降のKING CRIMSONへの参加で知られるベーシストTony Levin、エレクトリック時代のMiles Davis作品にも参加したアメリカのセッション・ドラマーJack DeJohnette、そしてAllan Holdsworthを筆頭に名だたるミュージシャンたちと共演を果たしてきたイギリスのセッション・ドラマーGary Husbandがリズム・セクションを担当し、ふたりのドラマーはアコースティック・ピアノもプレイしています。また、ASIAでの活動が知られるギタリストGuthrie Govanや、Bill Brufordのリーダー・グループEARTHWORKSに加入した経験を持つサックス奏者Tim Garlandのゲスト参加、さらにはチェコ・シンフォニー・オーケストラまで導入されているということですから、その製作陣だけでもただならぬ予感がするでしょう。Dewa Budjanaが本作で紡ぎ出した音世界はJohn McLaughlinやPat Metheny、あるいはAllan Holdsworthといったミュージシャンからの影響を色濃く感じさせる本格的なジャズ・フュージョンであり、シネマティックとすら言えるような瑞々しいサウンドを全編で響かせています。インドネシアの伝統的な楽器を大きく取り入れ異国情緒豊かなサウンドを演出していたTOHPATI ETHNOMISSIONと聴き比べてみると、Dewa Budjanaは本場のセッション・ミュージシャンを擁した体制で垢抜けたサウンドを目指したことが伺えるでしょう。しかし、それでも滲み出てしまうオリエンタルなフレーズやインドネシア人脈のヴォーカリストによるスキャットなどには、隠すことの出来ない国民的特色が確かに感じられます。
トータルで100分を超える本作『Zentuary』は、技巧的でありながら一流ミュージシャンたちの余裕すら感じさせる素晴らしい出来栄えとなりました。Dewa Budjanaは、インドネシアのポップ・ミュージック・シーンを代表するギタリストであると同時に、プログレッシブ・ロック・アーティストとしても大きな注目を集めています。
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