2018年10月26日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
人口わずか30万人程度の小国であり「火と氷の国」とも呼ばれるアイスランドは、世界的に活躍するBJORKを筆頭に、SIGUR ROSやMUMといった優れたアーティストたちを輩出し続けてきました。日本と同じように島国でありながら、同国が世界から注目を集める音楽文化先進国へと発展を遂げた理由としては、例えば「(日照時間の短さなど)自然環境の影響から屋内でも楽しめるアートが発展した」、あるいは「外国からの刺激を受けにくいため自国民の手で娯楽を作り出した」などの分析がなされています。確かに、アーティスト比率の高さについて地理的な条件が関係しているという説には、一定の説得力があるように感じるでしょう。しかし、同国のアーティストたちが独創的な音楽を生み出し続けてきた一番の理由は、やはり30万人という人口の少なさにあるのではないでしょうか。純粋な自己表現と商業主義(コマーシャリズム)が相容れにくいものであるということは、プログレッシブ・ロックにおけるアンチ・コマーシャリズム運動「Rock In Opposition(R.I.O.)」の例などからも明らかですが、音楽ビジネスを内需のみで成り立たせることが困難であるからこそ、逆に同国からは商業主義に囚われることなく自由な発想で作品を生み出すアーティストたちが次々に登場しているのです。
次に、アイスランドのプログレッシブ・ロック・シーンについても考察していきます。1970年代のアイスランドからは、GENTLE GIANTを彷彿とさせる偏屈な作風が魅力のHINN ISLENSKI THURSAFLOKKUR(THURSAFLOKKURINN)、鮮やかなシンフォニック・ロックを奏でる77年作『Hrislan Og Straumurinn』が高い評価を獲得しているEIK、サイケデリック・ロックの色濃い音楽性でデビューを果たしたSVANFRIDUR、ブリティッシュナイズされた71年作『….Lifun』が知られるTRUBROTなどのアーティストたちが登場し、それぞれプログレッシブ・ロック・ファンに親しまれてきました。また新世紀以降についても、例えばチリのプログレッシブ・ロック・レーベルMylodon Recordsから2011年にアルバム・デビューを飾ったELDBERGや、YESのJon AndersonとGENESISのSteve Hackettというブリティッシュ・プログレッシブ・ロックの大御所をゲストに迎えた2014年作『Ulfur』を発表したTODMOBILEのようなグループたちが活動しています。なお、TODMOBILEの『Ulfur』にはJon Andersonを迎えた2013年のライブ映像が付属しており、TODMOBILE自身の楽曲に加えて「Awaken」や「Roundabout」、あるいは「Heart Of The Sunrise」や「Owner Of A Lonely Heart」といったYESの名曲をプレイ。さらに、JON & VANGELISの「State Of Independence」まで披露しています。中でも「Awaken」のパフォーマンスは、全てのプログレッシブ・ロック・ファンに聴かれるべき名演となりました。
さて、スウェーデンやノルウェー、フィンランドといった他の北欧諸国と比較すると、アイスランドにはプログレッシブ・ロックに関する話題をあまり聞くことがない国という印象があるかもしれません。しかし、同国ではプログレッシブ・ロック・ファンにこそ聴かれるべきアーティストたちが数多く活動しています。例えば、フランスのプログレッシブ・ロック・グループMAGMAの「コバイア語」と同じ架空の言語「ホープランド語」を操る上記のSIGUR ROS、チェンバー・ロックに通じる美意識を感じさせるネオ・クラシカル・アーティストOlafur ArnaldsやJohann Johannsson、あるいは北欧叙情を閉じ込めたポスト・ロックを生み出すSTAFRAENN HAKON、オルガンやアナログ・シンセサイザーを扱うキーボーディストにドラマーを加えた変則的なメンバー編成のAPPARAT ORGAN QUARTET、そしてBJORK影響下の女性ミュージシャンなど、プログレッシブ・ロックとの共通点を持ったアーティストが少なくないのです。今回は、2007年に『Sleepdrunk Seasons』でアルバム・デビューを飾り、Icelandic Music Awards(アイスランド音楽賞)の新人賞を受賞したHJALTALINを取り上げます。
アイスランド全人口のおよそ3割が居住する首都レイキャヴィークで結成されたHJALTALINは、ギター・ヴォーカリストHogni Egilssonを中心に、ドラマー、ベーシスト、キーボーディスト、女性ヴォーカリスト、さらに専任ヴァイオリン奏者と女性バスーン奏者を擁する7名編成(デビュー・アルバム時は9名編成)のロック・グループです。2009年に発表されたセカンド・アルバムとなる本作『Terminal』は、上記の新人賞に続いてIcelandic Music Awardsの最優秀アルバム賞を受賞しました。プログレッシブ・ロックの側面から見たHJALTALINの魅力には、まずHogni Egilssonと女性ヴォーカリストSigriour Thorlaciusのツイン・ヴォーカルがあるでしょう。イギリスならばMOSTLY AUTUMN、オランダならば2000年代以降のKAYAK、スウェーデンならばやはり2000年代に再結成を遂げて以降のKAIPAなど、プログレッシブ・ロック・シーンにはしばしばツイン・ヴォーカルのグループが登場しますが、声質と音域の異なるヴォーカリストの存在が楽曲に与える影響は、彼らがプログレッシブ・ロック・シーンに送り出してきた作品の完成度からも明らかでしょう。また、クラシカルなサウンド・メイクにも注目したいところです。前述のように、HJALTALINは管弦楽器奏者を正式メンバーに擁していますが、スタジオ・アルバムではさらにオーケストラ・サウンドを導入します。2010年にはアイスランド交響楽団を従えたコンサートを開催し、その模様を収録したライブ・アルバム『Alpanon』をリリースしました。そしてもちろん、アイスランドの冷ややかな空気を纏った、ポピュラリティーに富んだ楽曲の魅力は述べるまでもありません。プログレッシブ・ロックで言えばファンに人気の高い北欧プログレッシブ・ロックの、しかもシンフォニック・ロックに分類される作風ということで、多くのプログレッシブ・ロック・リスナーの耳に良く馴染む音楽性となっているはずです。
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