2019年4月26日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
フィンランドの国民的な音楽家であると同時に、同国を代表するプログレッシブ・ロック・アーティストとしても知られているのが、2008年に56歳で惜しまれつつこの世を去ったPekka Pohjolaです。ヘルシンキ出身のPekka Pohjola は、シベリウス音楽院でクラシック・ピアノやヴァイオリンの専門的な音楽教育を受け、1970年に若干18歳でプログレッシブ・ロック・グループWIGWAMにベーシストとして加入しました。WIGWAMでは70年作『Tombstone Valentine』、71年作『Fairyport』、そして(脱退と再加入を経た)74年作『Being』に参加し、72年には『Pihkasilma Kaarnakorva』でソロ・アルバム・デビューを飾っています。そして、74年に発表されたセカンド・アルバム『Harakka Bialoipokku』では、Pekka Pohjolaの個性的な音楽がVirgin Recordsに認められ、同作は75年に『B The Magpie』のタイトルで英国盤が発売されました。なお、75年にはPekka Pohjola の古巣WIGWAMも『Nuclear Nightclub』でVirgin Recordsから世界デビューを遂げています。
全楽曲の作曲をPekka Pohjolaが手掛け、Mike Oldfield とPekka Pohjolaの共同プロデュースによって製作された77年のサード・アルバム『Keesojen Lehto』は、フィンランドのプログレッシブ・ロックを語る上で外すことの出来ない作品でしょう。Virgin Recordsが、同レーベル所属のMike OldfieldとPekka Pohjolaの共作プロジェクトを発案したことで、プログレッシブ・ロック史に燦然と輝く傑作は生み出されました。クラシック、ロック・ミュージック、トラディショナル・フォーク、ジャズ・フュージョンなど多様な音楽スタイルが渾然一体となった生命感溢れる音楽性は、Mike Oldfieldを招いた同作においても変わりません。同作には、Mike Oldfield の実姉Sally Oldfield、GONGのドラマーPierre Moerlen、MADE IN SWEDENのギタリストGeroge WadeniusとキーボーディストWlodek Gulgowski、TASAVALLAN PRESIDENTTI のドラマーVesa Aaltonenといった双方の関連ミュージシャンたちが参加。前作と同様に、『Keesojen Lehto』もVirgin Recordsを通じて『The Mathematician’s Air Display』のタイトルで英国盤(他にもヨーロッパやアメリカから複数のタイトルで発売)が製作されました。なお、Mike Oldfieldは78年のコンサート・ツアーにPekka Pohjola をサポート・メンバーとして帯同させており、その模様は79年のライブ・アルバム『Exposed』で視聴することが出来ます。
さて、Pekka Pohjolaが上記の『Harakka Bialoipokku』を、そしてMike Oldfieldがセカンド・アルバム『Hergest Ridge』を発表した74年にヘルシンキで誕生したのがJuha Kujanpaaです。Juha Kujanpaaは主にフォーク・ミュージックやジャズのシーンで活動するキーボーディストですが、プログレッシブ・ロックからも影響を受け、Mike Oldfield やPekka Pohjolaをフェイバリットに挙げています。彼は、KARUNAやCAPTAIN COUGAR、KIRJAVA LINTUなど複数のフォーク・グループに籍を置きながら、演劇作品などのサウンドトラックも手掛けるなど、キャリアを重ねてきました。2013年に発表された本作『Kivenpyorittaja – Tales And Travels』はJuha Kujanpaaのソロ・デビュー・アルバムとなっており、自身が率いるJUHA KUJANPAA ENSEMBLE(ギタリストTimo Kamarainen、ベーシストTero Tuovinen、ドラマーJussi Miettola、3名のヴァイオリン奏者Tommi Asplund、Kukka Lehto、Esko Jarvela)にゲスト・プレイヤーを加える形でレコーディングが行われています。
Juha Kujanpaaのサウンドは、ノルディック・フォーク・ミュージックを下地に、彼が影響を受けたプログレッシブ・ロックやジャズ、あるいは現代音楽までをブレンドさせることによって成立しているようです。楽曲の芯となるのは、ジャジーな印象のリズム・セクションとJuha Kujanpaaによる堅実なキーボード・プレイ。Juha Kujanpaaはアコースティック・ピアノをメインにキーボード・パートを構築し、アルバムにオーガニックな質感を与えています。彼自身はアンサンブルに徹し、メロディー・ラインをギタリストや管弦楽器奏者たちに割り振っている印象ですが、テクニカルなソロ・パートを弾きこなし悦に入るタイプのミュージシャンではないということでしょう。ミニマルなフレーズを用いた作曲技法や、特にエレキ・ギターによって奏でられるメロディーにはMike Oldfieldからの影響が色濃く表れており、ギタリストはマンドリンも奏でます。そして、3名のヴァイオリン奏者たちは「Violin」とクレジットこそされているものの、その奏法はフィドルと解釈すべきものであり、楽曲に本格的なフォーク・ミュージックのテイストを埋め込みます。さらに、楽曲ごとにチェロ、フルート兼サックス、クラリネット、オーボエ兼イングリッシュ・ホルン、トランペット、バンドネオン、アコーディオン、パーカッションの各奏者がメロディーを、あるいはアンサンブルをサポートしています。同国にはJPPやVARTTINAを筆頭とするフォーク・ミュージック・シーンが形成されていますが、JUHA KUJANPAA ENSEMBLEは本作をリリース後の2014年、北欧最大のフォーク・ミュージック・イヴェントKaustinen Folk Music Festivalにおいてバンド・オブ・ザ・イヤーにノミネート。また、本作は同国最大の新聞社であるヘルシンギン・サノマット(Helsingin Sanomat)で、2013年のベスト・アルバムのひとつに選ばれたそうです。
上記のように本作には多数のゲスト・プレイヤーが参加していますが、その中のひとりがPekka Pohjolaの息子であるトランペット奏者Verneri Pohjolaです。Verneri Pohjolaは2017年、Pekka Pohjolaの楽曲で構成したカバー・アルバム『Pekka』をリリース。72年作『Pihkasilma Kaarnakorva』、74年作『Harakka Bialoipokku』、92年作『Changing Waters』、そしてPEKKA POHJOLA GROUP名義の80年作『Katkavaaran Lohikaarme』収録楽曲をジャジーなサウンド・メイクによって再構築しており、Pekka Pohjolaの名曲を原曲とは異なるテイストで楽しめる内容となっています。
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