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netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』 第2回 CHRIS / Snow Stories (Holland / 2012)

本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。

第2回 CHRIS / Snow Stories (Holland / 2012)

今回はまず、現在に至るまで多くのミュージシャンが製作してきた「クリスマス・アルバム」について考えてみます。1970年代プログレッシブ・ロックの有名グループ関連だけを見渡しても、例えばYESはJon Anderson、Rick Wakeman、Chris Squire、そしてEMERSON, LAKE & PALMERはKeith Emersonがクリスマス・アルバムをリリースした経験を持ち、オリジナル・アルバムとはまた違った趣向で多くの音楽ファンを楽しませてきましたし、近年ではモンスター・グループTRANSATLANTICのリーダーNeal Morseによる、クリスマスソングのプログレッシブ・ロックアレンジ作などが話題となりました。では「クリスマス・アルバムを作る」とは具体的にどういったことなのでしょうか。

そのファンタジックなコンセプトに魅力を感じるミュージシャンは音楽性を問わず少なくないものの、実際にクリスマス・アルバムを製作するためにはオリジナル・アルバムにはない独自のリスクが伴います。まず、通常のアルバムとは違い、リリース時期が11月下旬から遅くとも12月中旬あたりまでに絞られることになりますから、作曲からレコーディング終了まで仮に2ヶ月程度を要すると考えて逆算した場合、まだ夏の名残が感じられる時期から作業を開始しなければ間に合わないことになります。加えて、もしベストなタイミングでリリースすることが出来たとしても、その音楽はオリジナル・アルバムよりも消費される期間を制限されるものであり、自身の音楽をひとりでも多くのリスナーに届けたいという作り手の期待はある意味で残酷に、しかし当然裏切られてしまうリスクを孕んでいます。逆に言えば、クリスマス・アルバムの最大の魅力はまさにこの「1ヶ月に満たない短い時期にのみ華やかに機能する」という風物詩的な儚さにあり、安定した製作環境と固定ファンによるセールスを持ったメジャー・フィールドのアーティストにのみ許された特権であったとも言えるでしょう。

さらに、クリスマス・アルバムとして作品を成立させるためには「音楽的な制約」も存在します。クリスマスですからクラシカルなシンフォニック・ロックに分類されるような楽曲で、音色としてはチャイムやベル、チャーチ・オルガン、混声合唱などを用いて装飾を図り、そのコントラストとして、アコースティックな温かい肌触りを持った素朴な楽曲を差し込み、場合によってはオリジナル曲ではなく「定番曲」のカバーを・・・といった具合に、おのずと手垢のついた手法に終始してしまいがちであり、その中でオリジナリティーを持った表現を達成するのは非常に難易度の高いパフォーマンスとなるでしょう。また、そういった制約の存在が聴き手に大きな先入観を与え、作品に触れる前からそのサウンドをある程度予測させてしまうことが、クリスマス・アルバムがオリジナル・アルバムに比べて「企画盤」のおもむきが強くなってしまう要因にもなっているのではないでしょうか。

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さて、上記のような観点を踏まえながらオランダのアーティストCHRISによるクリスマス・アルバムを聴いていくと、彼がいかに稀有の才能とトータル・プロデュース能力に恵まれた人物であるかが理解できるはずです。CHRIS(Christiaan Bruin)はオランダのプログレッシブ・ロックバンドSKY ARCHITECTのドラマーとして2010年にアルバム『Excavations of the Mind』でバンド・デビューを果たしますが、前年には既に『A Glimpse Inside』でソロ・デビューを果たしており、今回取り上げる2012年作『Snow Stories』は彼の4枚目のソロ・アルバムとなっています。彼の音楽性をスウェーデンのプログレッシブ・ロックバンドMOON SAFARIを引き合いに出しながら論じる向きもありますが、もともとオランダは独自のポップ・センスと親しみやすさを持ち、CAMELを彷彿とさせるメロディアスでマイルドな音作りを得意としたグループを多く輩出していることから、どちらかと言えばFOCUSやKAYAKをはじめとした同国の名バンドたちの系譜で捉えるべきなのかもしれません。

本作で最も特筆すべきは、CHRISが作曲から録音に至るプロセスを2012年11月下旬から12月上旬のわずか2週間程度で完遂しているということであり、恐らくは作曲、各楽器のアレンジ、レコーディングの作業を同時進行しながら驚異的なスピードでアルバムを仕上げていったことを伺わせます。コンパクトにまとめられた楽曲と33分という収録時間からも製作スケジュールのタイトさが感じ取れますが、ミニ・アルバムサイズの収録時間は結果的に、昨今のオールド・ロック再発における「デラックス・エディション」や「ボーナス・ディスク」的なボリューム戦略、もしくはCDの78分を使い切った一大コンセプト・アルバムとは真逆の、「いつもより少しだけ特別な日のために贈られるささやかなプレゼント」というようなイメージを持つクリスマス・アルバムの特性を生かした愛らしい演出と捉えることも出来るでしょう。収録された楽曲は数曲のソロ演奏や弦楽器を除き全て彼自身の手によって録音されていますが、自身の演奏のみで楽曲の骨格を形成できるマルチ・プレイヤーのアドヴァンテージが、本作を製作する上での過密なスケジュールを乗り切る爆発的な機動力となっており、また、彼がロックの土台であるドラムを専任とするミュージシャンであるということが、リズム・セクションが往々にしてチープになりがちなキーボーディストやギタリストの作品とは異なる、本作の高度なサウンド・プロダクションに大きく影響していることは間違いありません。恐らく自身の演奏技術を超えてしまうであろうソロ・フレーズや、シンセサイザーによる再現に奏法的な限界のあるヴァイオリンやチェロのストリングス音色をゲストに割り振るプロデュース能力の高さには舌を巻くばかりです。

CHRISは、本作の制作にあたり「赤鼻のトナカイ」で有名なルドルフや、赤と白を企業カラーに採用する清涼飲料水メーカー、そしてクリスマスの象徴的なキャラクターであるサンタクロースといった安易なモチーフから脱却したアルバム製作を決意しており、確かにクリスマスらしいきらびやかな音色を散りばめたサウンド・メイクを展開しながらも、クリスマスだからこそ孤独に映ってしまう人々、悲しみを内に秘めた人々に大きくフォーカスされたコンセプトを用いて、非日常を感じさせるクリスマスの永らえない寂しさを、包み込むような優しい語り口で伝えています。

音楽には純粋な自己表現としての側面と、何らかのイヴェントや儀式などの「機能」としての側面があり、クリスマス・アルバムという表現方法はその「機能」としての側面の強さゆえに作り手に様々な制限を課す難しさを持っていますが、あくまでもクリスマスというコンセプトを土台に持ちながらその制約をくぐり抜け、しかしステレオタイプなイメージに寄り添う方向性を拒絶し自身の音楽を貫いたCHRISの『Snow Stories』は、彼の「オリジナル・アルバム」として堂々たる佇まいを見せながら師走の喧騒を彩ります。


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