2019年12月27日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
特に1970年代のプログレッシブ・ロック・サウンドから影響を受けた新世代のアーティストの作品に触れる場合には、つい彼らの楽曲の中に往年の名アーティストたちの面影を見出そうとしてしまいます。もちろんこれは、彼らが奏でる音楽を深く味わうための手段として有用性があるでしょう。例えば「KING CRIMSONからの影響を感じさせるメロトロンの洪水」や「YESを彷彿とさせるハイ・トーン・ヴォーカル」といった具合に各パートを聴き分けていく方法は、プログレッシブ・ロックに限らず多くの音楽ジャンルで実践されています。しかし、彼らがどのようなアーティストたちから影響を受けているのかということに加えて、彼らのオリジナリティーを見極めることも忘れてはなりません。プログレッシブ・ロックは70年代の名アーティストたちを手本とする音楽ジャンルであるため、そのフォロワーとしての側面(類似性)にスポットを当ててしまいがちですが、注意深く耳を傾けていけば彼ら独自の音楽性が聴こえてくることもあるでしょう。そんな中で今回は、上記の類似性に重きを置いて作品の良し悪しを判断する例外的な創作スタイルと言える「オマージュ・アルバム」を取り上げます。
あるアーティストに敬意を表すために、作風を意図的に似せて作り上げる「オマージュ・アルバム」は、話題を集めやすい反面ネガティブな印象と共に語られることも少なくありません。特に、本家のアーティストを支持するリスナーたちから厳しい視線が注がれることは明らかであり、彼らを納得させるレベルにまで作品のクオリティーを高めるのは容易なことではないでしょう。まず、楽曲の大きな流れ(コード進行など)から細かなフレーズのひとつひとつ(スケールなど)に至るまで、本家の作曲スタイルを徹底的に研究しなければなりません。ほとんどのミュージシャンたちが、この時点で挫折することになるはずです。また楽器編成についても、例えばCAMELならばフルート奏者、RENAISSANCEならば女性ヴォーカリストといった具合に、本家に合わせた人選が必要となります。そして、本家のサウンド・メイクや傾向(演奏のクセなど)を理解した上で、さも本家のアーティストが作曲したかのような楽曲を作り出し、さも本家のアーティストが奏でているかのようにプレイするのです。「オマージュ・アルバム」が、いかに難易度の高い創作スタイルであるかが分かるでしょう。
デンマーク出身のキーボーディストSteffen Staugaardとイギリス出身のギタリストNeil Gowlandによる多国籍プロジェクトTEXELは、2018年にデビュー・アルバム『Zooming Into Focus』を発表しました。アルバム・タイトルが示す通り、本作はオランダを代表するプログレッシブ・ロック・グループであるFOCUSに捧げられた「オマージュ・アルバム」となっています。FOCUSと言えば、やはりキーボーディストThijs Van LeerとギタリストJan Akkermanを中心に語られることの多いグループでしょう。70年に『In And Out Of Focus』でアルバム・デビューを果たしたFOCUSは、71年のセカンド・アルバム『Moving Waves』からシングル・カットされた「Hocus Pocus」や、72年のサード・アルバム『Focus 3』から同じく シングル・カットされた「Sylvia」といった楽曲の世界的なヒットによって、イギリスやアメリカでも人気を獲得。特に73年、イギリスの音楽誌メロディ・メイカーにおいて、Eric ClaptonやJimmy Pageといったミュージシャンたちを抑えJan Akkermanが人気投票の首位に立ったというエピソードは、プログレッシブ・ロック・リスナーの間では語り草になっています。また、彼らは日本においても知名度を獲得し、ユーロ・プログレッシブ・ロック・アーティストとしては最も早い74年に来日公演が実現しました。FOCUSは、7作のスタジオ・アルバムを残し78年に解散しましたが、紆余曲折を経て2002年に『Focus 8』をリリース。Thijs Van Leerを中心に再結成を果たし、精力的に活動を続けています。
さて、TEXELによる2018年のデビュー・アルバム『Zooming Into Focus』は、どこを切ってもFOCUSのサウンドと言える素晴らしい内容となっています。上記のようにTEXELは、デンマーク出身のキーボーディストSteffen Staugaardとイギリス出身のギタリストNeil Gowlandによるプロジェクトですが、彼らに加えて本作にはイギリス出身のベーシストPhil Wood、ドラマーMax Saidi、フルート奏者Gerard McDonald、そしてデンマーク出身のフルート奏者Thorstein Quebec Hemmetが参加しています。全曲の作曲とアートワークはSteffen Staugaardが手掛けており、Neil Gowlandはプロデュースとミックス・ダウンを担当。やはり、驚くべきはSteffen Staugaardの作曲能力の高さでしょう。いくらFOCUSのサウンドを深く理解しているとは言っても、ここまで本家の音楽的特徴を捉えた楽曲を作り出すことが出来るものでしょうか。さらに、演奏面についても本家と見紛うばかりのプレイ・スタイルが目白押しであり、エレキ・ギターやフルートによる親しみ易いメロディーと、クラシカルでありながらジャジーな要素も兼ね備えたオルガンを中心とするアンサンブルが展開されています。
一方で、あえてFOCUSとの違いを指摘するならば、まずThorstein Quebec Hemmetの奏でるフルートが北欧のプログレッシブ・ロックらしい清涼感を帯びていること。これは、国民的特色ということで好意的に捉えるべきものでしょう。そして、上記の名曲「Hocus Pocus」のようなヨーデルを用いた楽曲が収録されていないことも挙げられます。この点に関しては、あるいは賛否が分かれるかもしれません。しかし、仮にヨーデルの名手をゲスト・ミュージシャンに迎えたとしてもロック・アンサンブルに馴染むパフォーマンスを得られるのかという問題がありますし、そもそもヨーデルはFOCUSのサウンドを語る上であまりにも象徴的なアイコンでしょう。また、ヨーデルを用いた楽曲がアルバムの統一感に影響を与えてしまう可能性も考えられます。そういったリスクのあるスタイルを回避することもまたセルフ・プロデュース能力であり、本作が優れた「オマージュ・アルバム」であるという結論は変わりません。
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デンマークのキーボーディストSteffen Staugaardと英国人ギタリストNeil Gowlandを中心とするプログレ・ユニット、21年作2nd。前作で聴かせた驚くべき再現度のFOCUSリスペクトなスタイルから、本作ではFOCUS愛は随所に感じさせつつもよりモダンでスタイリッシュなサウンドメイクで爽快感たっぷりに突き抜けます。ダイナミックに躍動するリズム・セクションに乗って、シンセやヴィンテージ・トーンのオルガン、フュージョン・タッチの流麗でエッジの立ったギター、そして気品たっぷりのフルートが緻密に絡み合いながら紡ぐテクニカル・プログレに終始ワクワクしてしまいます。一転、アンサンブルが落ち着き、フルートとギターがメロディアスにユニゾンするパートなどは、まさにFOCUSそのものでさすがのリスペクトぶりを発揮。現CAMELのPete Jonesや技巧派ドラマーMarco Minnemannのほか、00年代FOCUSのギタリストNiels Van Der Steenhovenによる客演も聴き所です!
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