2024年6月28日 | カテゴリー:Column the Reflection 後藤秀樹,ライターコラム
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第74回 70年代、北米に現れたプログレ系バンドの魅惑 ⑤
~ 後年に発掘・紹介されたプログレ系ロックを中心とした作品群 カナダ編② ~
前回は70年代のカナダのバンドを、日本で同時代的に発売されたものを中心に紹介してきた。それらは、プログレを思わせる要素を持ちながらも、どちらかと言えば王道的な要素が強いものが多かった。しかしマニアックなプログレ・バンドも存在していたことは、その後知られるようになったことだ。
中には70年代のうちに輸入盤で流通していたものもあったのだが、そのマイナーな姿勢ゆえに入手できるものは限られていたし、そもそも情報がないだけになかなか冒険できない状態だった。
80年代後半以降そのフォーマットがレコードからCDに移行し、カナダ本国でも旧作が一挙に再発されるようになる。日本でも雑誌『Marquee』をはじめ幾つもの輸入盤店がそれらを積極的に紹介してくれたことで、より広く身近なものとして受けとめられるようになっていった印象がある。
この傾向は決してカナダに限らず、日本で未紹介だった世界の多くのバンドの発掘ということなのだが、前回取り上げたような作品群のように「カナダのロック・シーン」の面白さに気づいた者にとっては、パンドラの箱を開けるようなそんなワクワク感の中で新たなバンドの作品に対峙したことになる。もちろん私もそんな一人である。
◎画像1 Symphonic Slam
国内盤としてシンフォニック・スラム(Symphonic Slam)が登場した時は、全く唐突な印象があった。カナダ本国で76年にリリースされた作品で、日本では77年の発売(ともにA&Mから)。まず、そのカラフルに彩られたイラストのジャケットが印象的だった。帯には「驚異のエレクトリック・ギター・シンセサイザーが創り出す未知の音空間。激しくも美しいそのサウンドで全世界のロック・シーンに登場。その名もシンフォニック・スラム」とあり、ライナー・ノーツには、「数々のニュー・グループがデビューし、今ひとつの黄金時代を迎えつつある、カナダのロック・シーンから、またまた驚異的な新人が出現! たった3人のシンフォニー“ポップ”オーケストラ、その名はシンフォニック・スラム! 6万ドルの360・システムス・ポリフォニック・ギター・シンセサイザーが、レコードの中で所狭しと、唸り、飛び回る!」と付け加えられる。
ギターのティモ・レイン(Timo Laine)が操るポリフォニック・ギター・シンセサイザーとは何だ?・・・というのが最初に思ったこと。まあ、ギターにシンセ機能を搭載したものと認識するが、6万ドルもするというその値段の方に驚いたというのが本当のところ。当時、多くのバンドのシンセ・サウンドに慣れてきた私の耳にはそれほど特別な感触はなかったように思えた。アルバムのバンド・クレジットはベースレスのトリオ編成になっていた。
★音源資料A Symphonic Slam / Universe
そのバンド名通り期待に違わぬシンフォニックなプログレを聞かせてくれるのだが、当時ティモ・レインは初めて聞く名前。正直に言うと中心となるはずの彼のギター以上にドラマーのジョン・ロウリー(John Lowery)とキーボードのデヴィッド・ストーン(David Stone)の存在の方が印象に残った。この後、デヴィッドはリッチー・ブラックモアのレインボウのキーボードに迎えられ『Long Live Rock‘n Roll』(‘78)で大きな役割を果たしている。
私にとってレインボウは76年の『Rising』が何と言ってもフェイバリット・アルバムで、「Stargazer」でのトニー・カレイ(Tony Carey)の迫力あるメロトロンが大好きだった。それだけにその後釜としてはどうなのかと思ったのだが、さすがリッチーの目に留まっただけのことはある存在感を示していた。
ただ、シンフォニック・スラムに関しては私の中で謎がたくさんあった。ネットで調べたメンバー・ポートレートを見てもアルバムに参加した3人以外のメンバーが写っているものがあって、活動時期が長いことはわかるもののアルバムが1枚だけしか残していないというのもどこか不思議だった。
実際には78年にティモ・レインは新メンバーで制作した『SS II』、カナダのみで小さなレーベルからリリースされていたのだが、2009年に仏MuseaからCDが出るまでその存在も伝わってこなかった。
今回原稿として取り上げる上で改めて調べてみると、ティモ・レインのHP(symphonicslam.com)を見つけることが出来た。そこには詳細なバイオグラフィーが掲載されていて、これまで私が抱えていた多くの疑問が解決されるものなった。
ティモ・レインだが、フィンランド出身でアメリカに移住。音楽と芸術にめざめ9才からギターを始め、音楽活動の中心はアメリカだったが、74年のシンフォニック・スラム結成後、カナダのA&Mに認められアルバムを出すことが出来た。この辺りはこれまでの資料から分かっていたことだが・・・
レコーディングに関しても大きな障害を乗り越えての難産だった。アメリカとカナダをまたいでのセッションとなり、別メンバーを調達することもあり、じつは完成するまでに様々な困難があったこと。
また、ポリフォニック・ギター・シンセサイザーについても詳細に触れられていた。初めてその凄さが理解できるし、扱いにもかなり難しさも伴っていたこともわかり、苦労の上にアルバムのサウンドが完成したことを改めて知った次第。当然のことながら、私自身がアルバムに対面する姿勢が大きく変わった。
また、契約出来たA&Mからは当時流行だったディスコ的な作品を要求されていた。・・・といった興味深いエピソードがかなりの分量で紹介されている。
興味をお持ちの方は是非閲覧されることをお勧めしていきたい。
ただ、もう一つだけ挙げておこう。シンフォニック・スラムのアルバム1曲目「The Universe」は、ニール・メリウェザー(Neil Merryweather)の73年に録音されたアルバム『Space Rangers』に収録されている「Road to Hades」と歌詞は違うものの同じ曲だ。ティモのバイオグラフィーでは『Space Rangers』に参加していたはずなのに、レコードには全くティモのクレジットの記載がなかったし、2曲のカバー曲を除いたアルバム全曲がメリウェザー自身の作品となっていた。
これは74年のアルバム発表前になって、利益相反の問題からティモは脱退することになったということで、そのために取られた措置だったようだ。
2021年になって『Space Rangers』がCD化された際に詳細なクレジットが初めて掲載された。そこには、じつはティモがアルバム全体にわたってリード・ギターとしてかなり大きな役割を果たしていたことが明らかになった。ひょっとしたらシンフォニック・スラムで「Universe」と曲名を変えて敢えて収録したのはそうした経緯の中でティモ・レインなりの反発心だったのかなと今になって思うところだ。(エピソード中には、歌詞こそメリウェザーが作ったがアルバム曲のほとんどはティモが手がけたものであることも触れられていた。)
私は72年のママ・ライオン(Mama Lion)を通してメリウェザーを知った後彼のアルバムを見つける度に買って揃えていったほど気に入っていた。もちろん『Space Rangers』もその次の姉妹盤のような『Kryptonite』も聞いていたのだが、そこにティモ・レインが参加しているとは認識していなかった。それだけに、ずっと後になって気付いたことだ。少々、意地が悪いように思えるが、ここでスペース・レンジャーズの「Road to Hades」と、先ほど紹介した音源資料Aのシンフォニック・スラムの「Universe」と聞き比べてみていただきたい。
★音源資料B Neil Merryweather / Road To Hades ~ High Altitude Hide and Seek
メロトロン的な音はチェンバリン。そのキーボード奏者はかつてEDGEMONTとされていたが、こちらも21年発売のCDのクレジットで、かつてティモとゼブラ(Zebra)というバンドで共に活動していたロバート・シルバート(Robert Silvert)だったことも明らかになっている。彼もティモと一緒に『Space Rangers』のアルバム発売前に脱退していたわけだ。
メリウェザーの音楽性にはプログレ的な雰囲気を持ったものもあり、このアルバムもじつは本コラムで紹介しようと元々考えていたもの。こんな形で紹介するのは本意ではなかったのだが、これもクレジットにまつわる時代の一側面だったのではないかと認識している。
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◎画像2 FM
続いてFMだが、国内盤LP『暗黒からの使者(Black Noise)』が84年にキングのユーロピアン・ロック・コレクションの新シリーズ『Nexus International』Part 3の1枚として発売されたのが最初だった。 この作品は彼らのデビュー作で77年の作品なのだが、再発された輸入盤が入手しやすくなっていたこともあり、既によく知られた存在になっていた印象があった。
キングのシリーズとしては2番目の登場となるカナダのバンド。最初はヘッズ・イン・ザ・スカイ(Heads In The Sky)が83年の『Nexus International』Part 1として出されていた。
シンセサイザーを中心としたスペイシーでSF的なサウンドを持つ3人組で、包帯を巻いて素顔を見せない謎のナッシュ・ザ・スラッシュ(Nash The Slash)の存在に話題が集中した印象がある。彼の担当はヴァイオリンとエフェクトというのもまた個性的だった。あとの二人のメンバーはリード・ヴォーカル、ベース、シンセサイザーのキャメロン・ホーキンス(Cameron Hawkins)、ドラムスとシンセサイザーのマーティン・デラー(Martin Deller)。シンセ中心の近未来的なサウンドをもっていたが、メロディーとリズムが明確で面白く聴けるバンドだ。
79年の3作目のアルバム『超時空査察(Surveillance)』も『Nexus International』Part 4として国内盤レコードが84年に出されていた。予想通り(?) ナッシュ・ザ・スラッシュは脱退し、新たなヴァイオリニストとしてベン・ミンク(Ben Mink)が参加した。彼は70年代にカナダのトニー・コジネクやマレイ・マクロクランといったシンガー・ソング・ライター系アルバムのバックに多数参加していただけになじみ深い名前だった。が、プログレ系バンドに参加するとは思ってもみなかった。
日本では当時のリリースはこの2枚だけだったが、FMは78年に2作目の『Direct To Disc』というタイトル通りの当時ならではの特殊録音盤を出し、80年に通算4作目の『City Of Fear』をラリー・ファスト(Larry Fast)をプロデュースに迎えて発表している。私はこの4作目を米Passport盤LP新譜として買ったのだが、冒頭の「Krakow」1曲で完全にFMの世界に魅せられてしまった。
ここではその「クラクフ(Krakow)」を聞いていただこう。
★音源資料C FM / Krakow
Krakowとはポーランドの古都である美しい街「クラクフ(Krakow)」なのだが、歴史の中で翻弄され第2次世界大戦時にはアウシュヴィッツ、ビルケナウが近くに存在したことで負の遺産をも背負うことになった人類史上忘れられない場所のひとつである。実は私にとっても特別な思いを抱く街で、それについては次回少し触れてみたい。
◎画像3 Maneige
70年代後半には国内発売されたバンド以外にもカナダのロックが輸入盤で手に入るようになった。よりプログレっぽいという評判も手伝って、その頃最初に聞いたのが75年、マネージュ(Maneige)の『Les Porches』。ケベック出身のバンドでレコード・レーベルがあのHarvestだったことも魅力的だった。ジャケットも白地に寺院が配置され、曲もA面がノートルダムを題材に取った20分近い組曲。B面にも15分の組曲・・・ということで期待感が膨らんだ。
いざ聴くと、全体に複数の管楽器や打楽器によるアコースティック楽器を主体にした牧歌的な印象が強く、時折ユーモラスにも思える演奏は期待とは少し違った感じを受けたのだが、聞き込むほどに聴かせどころのアンサンブルが見事なことに気づき、愛すべき作品のひとつになった。
★音源資料D Maneige / Les Porches de Notre Dame
当時は、このアルバムが2枚目ということも知らなかったし、フランス語でクレジットがあることも意外に思えた。今ではカナダでは英語と並んでフランス語も公用語(特にケベック地方)であることは当然のように知識の中にはあるが、私がそのことを知ったのは本作が最初だった。また、ノートルダム大寺院というのもフランスのパリが有名だが、フランス語圏の各地にありここでは当然のことケベックのモントリオール大聖堂がその題材となっている。
その後、77年の3作目『御伽の国へ(Ni Vent Ni Nouvelle)』がPolydorから出され、コンパクトにまとまった小曲が並び、愛らしいジャケットの印象も手伝って人気盤になったことも懐かしい。
カナダでは2007年にプログケベック(ProgQuebec)からCD化され、その流れを受けて日本でも同年にMarqueeのBelle Antiqueから最初の3作品がCD化され、2010年には紙ジャケとして4枚目を含めて4作品が出されていた。
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◎画像4 Harmonium
そして、同じ頃LPを買って気に入ったのがアルモニウム(Harmonium)の74年の最初の作品『Harmonium』だった。『様々な楽器を身につけた聖人(?)』のデザインが古楽を聴かせるバンドかと思わせるジャケットで、プログレ的には思えなかった。実際に聴いてみると基本はフォーク・ロック的なサウンドだったが、随所に凝ったアレンジや仕掛けが施され、バラエティに富んだ面白さにはプログレを感じさせた。彼らもケベック出身でヴォーカルはフランス語。メンバーはセルジュ・フィオーリ(Serge Fiore)、ミシェル・ノルマンド(Michel Normandeau)、ルイ・ヴァロワ(Valois)の3人。
ゲスト・ミュージシャンの参加も含めアレンジが効果的で、ここで1曲目「Harmonium」のスキャットと、後半部分に入るフリューゲル・ホーンの素晴らしさを改めて紹介したい。
★音源資料E Harmonium / Harmonium
75年の2枚目『5番目の季節(Le Cinq Saisons)』では新たにキーボードにセルジュ・ロカット(Serge Locat)、ウッドウィンズにピエール・デニョー(Pierre Daigneault)を正式メンバーに迎えてプログレ色を一気に強めている。前作のプログレ・フォーク的な路線を踏襲しながらも、随所に使われるフルート、サックス、クラリネット類、そしてメロトロンの使用もじつに効果的で素晴らしいトータル・アルバムだ。曲展開が見事で移りゆく季節を夢見心地に表現していて、さらにジャケットの美しさも伴って、人気が高い作品になっている。80年代に入って雑誌『Fool’s Mate』や『Marquee』で紹介されたことで多くのファンの探索盤になったことも懐かしい。
私の手にしたレコードは、1枚目、2枚目共にフランスGamma盤だった。やはり彼らのアルバムはフランス語圏のみでの発売だった。それ以外の国ではCDになって韓国盤紙ジャケが2005年に、日本ではやはり同仕様でBelle Antique盤が2008年に出ているだけだ。どちらもフランスPolydorから91年にCD化されたものを利用していた。こう調べていて改めて気付いたのだが、アルモニウムは日本ではこの『5番目の季節(Le Cinq Saisons)』がCDで出ただけなのだ・・・という事実。
★音源資料F Harmonium / Depuis L Automne
彼らは76年に『L’heptade』、80年に『Harmonium En Tounee』(Live)と、ともに2枚組LPを出すところでバンドとしての活動は終了だが、この2作品も凄かった。78年にフィオーリがリチャード・セグイン(Richard Seguin)と組んだ『Deux Cents Nuits A L’Heure』も後に聴いたのだが面白い作品だった。
フィオーリもセグインもカナダでは有名なミュージシャンで、多数の作品を出し続けている。
◎画像5 Milkweed + Opus 5
70年代の知られざるカナダのプログレッシヴ・ロックが日本で国内盤として紹介されるようになったのは、80年代が過ぎ90年代に入る頃だった。その牽引を果たしたのはやはりMarquee誌やUK Edison(レコードショップ)だった。当然のこと過去本国でリリースされていた盤が中心となるのだが、何よりも情報の少ない時代であり、発売する側も手探りの印象があり、届けられるこちら側にもどこか混乱した印象があったことを思い出す。
最初にマーキー経由で出されたカナダ勢は、78年のミルクウィード(Milkweed)と76年のオパス5(Opus 5)。ともにバンド唯一の作品だった。オパス5のアルバムはオリジナルが加Celebrationレーベルからのリリースで、先ほど紹介したアルモニウムの最初の2枚と同じレーベルだが、一方のミルクウィードの方は自主制作的な小さなレーベルから出ていたものだ。
どちらもカナダ本国で89年という時期にCD化されたこともあり、日本で紹介される運びになったわけだ。ただ、ミルクウィードの方は同じ89年に米Syn-phonicレーベルからオリジナルは違う別ジャケットでLPが出たことで、日本盤仕様LPとしてもそちらも発売された。(もちろん同じ内容!)
当時私が混乱したことでもあった。私はミルクウィードの方は両方買ったのだが、LPとCDは違う内容だと勘違いした結果のことで今思い出してもちょっと悔しい。
ミルクウィードは大所帯の8人編成。キーボードのセルシオ・ゴンサルベス(Sergio Goncalves)が全曲のコンポーズも手がけてバンドの中心となっている。他はオーボエ奏者とサックス奏者、ギターが2人、そしてベース、ドラムス、あとヴォーカルといったメンバー構成になっている。
アルバムはA面3曲、B面1曲の計4曲で全編キーボード主導。ここではB面の「Out For A Walk」を聞いていただくが、ベースがウッドベースに持ち替えての演奏でフリー・ジャズの雰囲気も感じられ面白い。中盤以降はオーボエを中心に繊細な風景を見せていることが心憎い。
★音源資料G Milkweed / Out For A Walk
オパス5の方は本国から唯一の再発CD化の際にセカンド・アルバムとして録音していた未発表音源がもう1枚出ていて、こちらは内容が違う2種のCDが出されたことになる。
オパス5はフルート奏者とキーボード奏者を加えた5人編成。フルートと生ピアノが中心となった緻密で叙情的な演奏を聴かせている。その効果を更に高めているのが全員のコーラス・ハーモニー。カナダ系バンドらしくアコースティック・フォーク的な味わいも強いが、インスト部分ではジャズ的な雰囲気も伝わってくる。ここで聴いていただくのは76年の『流れに逆らって(Contre-Courant)』から「タンポポの時代(Le Temps Des Pissenlits)」という曲だが、他に2つの組曲も含まれており、通して聴くと違和感なく各曲が続いている感じが強く、不思議なトータル感があって面白い。聴き終えたあとの気持ちよさは格別だ。
★音源資料H Opus 5/ Le Temps Des Pissenlits
89年の未発表曲集『Serieux Ou Pas』は小曲の集合体だが、もともと76年のアルバム発表後にセカンド・アルバムとしてトータル・アルバムを意識して作成されたようで、好作品といえる。
◎画像6 Pollen + The Spirit Of Christmas
ジャケットが美しく印象的なポーレン(Pollen)の76年の唯一の作品。94年のカナダでの再発CD(Kozak)がMarqueeから日本盤仕様で発売されていた。今では2010年の紙ジャケットで出たものの方が一般的に知られているかも知れない。
Pollenと言えば、フランスのパルサー(Pulsar)の75年の最初のアルバムのタイトルと同じで、「花粉」というそのイメージはどこか絵画的で幻想的とも言えるかも知れない。73年から活動を開始した4人のメンバーの緩急に富んだ演奏と緻密なアレンジが特徴的で、このアルバム1枚で終わったことは残念だ。しかし、ギタリストのジャック・トム・リヴェスト(Jacques Tom Rivest)の79年のソロアルバムでは、ポーレンのメンバー全員が参加していた。
その後、メンバーは様々な音楽の場で活動を続けているのだが、キーボードを担当したクラウド・ルメイ(Claude Lemay)はセリーヌ・ディオンのバックを務めながら、彼女の音楽ディレクターになっている。
★音源資料I Pollen / Vivre La Mort
もう1枚紹介しておきたいのは、74年にDaffodilレーベルから出されたスピリット・オブ・クリスマス(The Spirit Of Christmas)の『荒野で呼ばわる者の声/Lies To Live By』。この作品は、米国で新たな発掘レーベルとして登場したThe Laser’s Edgeから最初の1枚として90年にCD化されたもの。それがすぐに日本盤として発売された。オンタリオ州のオシャワ出身で、69年から前身にあたるクリスマス(Christmas)として4人組として活動を開始、70年には『Christmas』『Heritage』と2枚のアルバムを発表していた。(オンタリオ州はケベック州のすぐ南に位置しているのだが、英語圏になっており、ここで聞かれる歌詞は英語だ。)
その後、74年に新たにヴォーカリストとしてプレストン・ウィン(Preston Wynn)を加えてバンド名の頭に「The Spirit Of」を付け加えての最初の作品となる。先の2枚のアルバムはサイケ色を残したロック・アルバムだったが、長尺曲が含まれておりファーストではB面全ての23分、セカンドでも10分を超える曲が存在していた。2作目以降時間の経過から彼らもよりプログレ的な音楽性をシフトしたことは確かだったと言える。この3作目ではさらに曲構成にこだわりを見せ、全6曲中4曲が組曲になっていた。間違いなく新たなヴォーカリストを迎えたことも功を奏した。しかし、結局ここで彼らの歴史は幕を閉じることになる。
本作は邦題も『荒野で呼ばわる者の声』と少々いかついものだが、ジャケットの方も黙示録のようなモチーフの印象的なもの。ただ、よく見なくては何が描かれているのか分からないかも知れない。原題は「生きるための嘘」ということで、歌詞と対訳が欲しいところだった。(それも簡単にはいかないことは当時から分かってはいるのだが。)
アルバム・ラストの4パートからなる組曲『Beyond The Fields We Know』を聞いていただこう。
★音源資料J The Spirit Of Christmas / Beyond The Fields We Know
本当はContractionやMorse Codeまで行くつもりでしたが、いつものように書いているうちにあれこれと浮かんだことを膨らませてしまったために次回送りにしたいと思います。何だかアメリカ以上にカナダの分量が多くなってしまっていますが、確かに特別な気持ちで再発情報を追いかけた当時の懐かしさがよみがえってきてしまいしました。
ただ、当然のこと全てを購入するのは金銭的にも難しかったこともあり、やはり友人間のネットワークが大事だったことも思い出します。・・・と言うわけで、次回カナダ編をまた続けていきます。
音楽以外で最近のマイ・ブームはNHK-Eテレの『100分de名著』です。これまでも本を読むことが大好きでしたが、昔読んだ本の中身・内容を忘れていることがもどかしく、改めて読み直そうと考えていたところで、この番組の存在に気づきました。過去の番組内容を追いかけて、えっ、こんなのもやっていたのだと慌てて過去のテキストを買い求めて勉強もしています。もう10年以上続いている番組だったのですね。
今月放送された「宮本常一」に関しては毎回しっかりと見ることが出来ましたが、本当に刺激になって面白いです。歳をとってきたからも「学び」の心・姿勢は失いたくないなと思っている毎日です。
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BEATLESの覆面バンドと噂されたカナダのグループ。雑誌などのビートリッシュなポップ・アルバム企画では常連中の常連と言える76年作の名作1stと、よりプログレッシヴなサウンドを聴かせる77年作2ndをカップリングした2in1CD。やはり1stが出色の出来で、PILOTなどにも通ずるパワー・ポップなバンド・アンサンブルと、メロトロンやストリングスをフィーチャーした優美なアレンジとが絶妙にブレンドしたサウンドは絶品。
カナダを代表するトリオ編成のロック・グループ。76年発表4枚目。初期のスタイルであるLED ZEPPELINタイプのハード・ロックに加えて、本作では英プログレの要素を導入。物語性とドライヴ感が同居した楽曲群により、独自の個性を確立しました。1曲目「2112」は20分を超える大作。スペーシーなSEから幕を開け、Neil Peartによる怒涛のドラム・ソロ・パートに突入。的確なリズムのみならず、隙間にアドリブを必ず詰め込む緻密なテクニックは圧巻です。続くミドル・テンポでエモーショナルなシャウトを聴かせるヴォーカル・パートから、一転疾走するリズムに乗ってギター・ソロ・パートへ。透き通るような高音でスケール感豊かなフレーズが鳴り響きます。緩急を付けた曲展開に引きつけられ、一気に聴けてしまいます。「2112」の後に続く5曲はいずれも3分台とコンパクトな楽曲。中近東メロディを取り入れた楽曲、初期を彷彿させるZEP風ハード・ロック、ウィスパーがミステリアスなミドル・ナンバーなど、多彩な魅力が楽しめます。大作指向スタイルを完成させた、RUSH初期の最高傑作。
デジパック仕様、CD+Blu-rayオーディオの2枚組、30周年記念限定版、リージョンフリー
盤質:無傷/小傷
状態:並
ケース不良、トレーにヒビあり、側面部に折れあり
定価2500
盤質:傷あり
状態:不良
帯有
盤に曇りあり、帯中央部分に色褪せあり、ジャケット(ブックレット)側面がテープで補強されています、カビあり
7枚組ボックス、各CDはペーパーケース仕様、ブックレット付き仕様、13年英マスター使用
盤質:無傷/小傷
状態:良好
ブックレット軽微な圧痕あり
税込定価2348、全11曲
盤質:傷あり
状態:良好
帯有
盤中央部に汚れあり、ビニールソフトケースの圧痕あり、解説に若干折れあり、帯に圧痕あり
DVD、NTSC方式、リージョン不明、リーフレット付仕様
盤質:無傷/小傷
状態:良好
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