新型コロナ・ウイルスによる世界恐慌に歯止めがかかりませんね。知り合い程度でまぁ、深く付き合いたくない知人がこっちは別に知りたくもないのに、「新型コロナのおかげでさ、株で大損だよ」って話をなさります。「へぇ、売ったの」と適当に返事すると、「売るわけないじゃん、何言ってんの」とま、えらそうにおっしゃる。株価がとんでもない勢いで下がっているのは事実ですが、個人レベルの場合、売らずにホールドしている状態で損は発生しているのかよ、と正直思います。時間がかかるとは思いますが、やがては戻っていくものじゃない。大損する可能性はあっても売ってなきゃ、大損なのかと正直思いますね。
世界的にみれば過去何度かあった世界大恐慌を克服しながら世界経済は維持・成長(まぁ、最近は停滞気味の時期が長いですが・・・)を続けているわけじゃないですか。時間がかかるとは思いますが世界はやがて元に戻っていくのではないでしょうかね。もし、世界が元に戻る兆しが見えない暗闇に落ちてしまったら、大損したと誰彼かまわず大声で言いまくるあんただけじゃなく、人類の歴史が終わっちゃう事態にだってなりかねないでしょ。まぁ、こんな時こそ「沈黙は金」なんじゃないかと思います。
こういう異常事態に直面すると、言わなきゃ損みたいな気になる連中が増えますが、あくまで私個人の意見ですよ。そこはご承知くださいね。「いいから黙れ!」そう思います。
抽象的な話ですが、人それぞれにパニックの器みたいなものがあり、恐慌が起きるとそこに恐怖や心配の液体が溜まり始める。その器は人それぞれ容量が違うわけですよ。すぐに一杯になってしまうお猪口のような器の人もいれば、大ジョッキみたいにでっかい人もいる。容量が小さい人の器がほぼ一杯になりつつあるときに「トイレット・ペーパーがなくなる」みたいなデマがSNS等で拡散されると一気にパニックの器がオーヴァー・フロー状態となる。こんなデマ流した人間にも問題はありますが、ここに至るまでパニックの器に溜まっていたパニック液はマスコミの報道やネット、SNS情報だけではなくその人が属する日常の社会の中でのたわい無い会話とかでも溜まっていくのではないかと思います。自分はあんまり心配していないから、冗談半分に人に話してしまったことが心配性の人にとってはパニック液が溜まる心配の種になってしまうこともあるわけです。表面的に取り繕うのではなく、こういう時期こそ人の立場になって考える力を持たないとねと思います。フランク・ザッパも言っているじゃないですか『黙ってギターを弾いてくれ』って、あれ?そりゃアルバムのタイトルだっけ?ってことでまずはフランク・ザッパです。
すごく昔のことですが、とあるロック・バーでフランク・ザッパがかかっていて、それ、『One Size Fits All』(1975年)だったわけですが、隣にいたおじさんにいきなり話しかけられ、「ザッパねぇ・・・僕は『Hot Rats』(1969年)はいけるんですけど、他はちょっとねぇ・・・あなたはザッパ好きですか?」なんて訊かれちまいましてね。こちらとしては折角「Inca Roads」が鳴っているんだから話しかけるんじゃねぇよ、と思いつつも「え?あ、はい好きですよ」と無難に答えて終わりたかったのですが、おじさん「僕はねぇ、あのキャプテン・ビーフハートが歌っている曲は凄いと思うんですよ、そこは評価するんだけどねぇ」ってさ。
ビーフハートが歌っているのは「Willie The Pimp」という曲なんですが、僕に言わせれば、こんな閉め切った四畳半でくさやの干物焼いたみたいな、美味ではあるが超臭い曲聴けるのであれば大半のザッパ楽曲はいけるだろうが、と思いつつもロック談義なんかしたくないのよ的なオーラを発しつつ「そうですか・・・ですよねぇ、癖強いですもんねぇ」と玉虫返答を返したら、こいつは張り合いがないと思ったようで、会話は谷底へ真っ逆さま、一巻の終わりとなりました。
わざわざ書き出すようなエピソードではありませんが、買ったはいいけど忙しくて聴いていなかった、クラシック・ロック界のトレンドとなった50周年記念ボックス・セット、フランク・ザッパ編『The Hot Rats Sessions』を漸く聴き始め、そんなどうしようもない話を思い出しました。現状、まだ最初の2枚しか聴いていませんが、濃いですねぇ。買った方は分かると思いますが「Peaches En Regalia」の一連のセッションと「It Must Be A Camel」、「Willie The Pimp」を聴いた程度っす。
アルバム『Hot Rats』は1969年夏のツアー終わりでTHE MOTHERS OF INVENTIONを終わらせ、イアン・アンダーウッドのみを残し、セッション用のメンバーを集め、同年9月にレコーディングし、10月に発売されたのですが、思えば、海の向こうイギリスではKING CRIMSONがやはり、9月に『宮殿』のレコーディングを済ませ、10月に発売だったわけで、凄い時代であったなぁと正直思います。
まぁまだ序盤しか聴いていないのですが、大山甲日先生の『フランク・ザッパを聴く・アルバム大全』によればオープニングの「Peaches En Regalia」には黒人ヴァイオリン奏者シュガーケーン・ハリスのソロもあったと記されていたのですが、それは聴いたことがなく、シュガーケーン・ハリスはロック・バーおじさんのお気に入り「Willie The Pimp」で思い切りフィーチュアされ、記憶に色濃く残るソロを決めていることもあり、聴きたいものだと思っていたら、入ってましたね。「Peaches En Regalia」の一連のセッション・トラックにシュガーケーン・ハリスのソロしっかり記録されていました。『Hot Rats』にはヴァイオリン奏者としてジャン・リュック・ポンティも参加しているのですが、ジャン・リュック・ポンティこんなファンキーなヴァイオリン弾かないので間違いなくシュガーケーン・ハリスですね。
またこの「Peaches En Regalia」3セクションに別れていたこともこのボックス・セットで明らかになっています。数ヶ月前にこの曲のベースは黒人ギタリスト、シンガーのシュギー・オーティスが弾いているというのを書きましたが、メランコリックで印象的なメインのメロディラインをザッパのギターとアンダーウッドのキーボード、サックスのソロが絡み合い複雑に展開していくオーヴァーダブ部分が乗る前のドラム、ベース、ピアノ主体のセッション・トラックを聴くと、やはりシュギー・オーティスのベース、良いですねぇ。出だしの5連譜怒涛の繰り返しから展開していく様はベース専任のプレイヤーには決して思いつかないユニークさが光ります。
おそらく出だしの5連譜連続部分は譜面にそう記されていたかザッパの指示だったように思います。譜面で弾かせるなら他の曲でベースを担当したマックス・ベネット(後のLA EXPRESSのメンバー。因みに同じくLA EXPRESSのドラマー、ジョン・ゲランも本作に参加しています)でもよかったわけですから。ちょっとヨーロッパの映画音楽を想起させるこの曲にファンキーなテイストを加えたのは間違いなくシュギー・オーティスのベースとそれに呼応し跳ねまくるロン・セリコ(ボビー・ウーマック、ジョン・マイオールとの活動が知られています)によるところが大きかったと思います。
大山甲日先生は『フランク・ザッパを聴く・アルバム大全』の中で本作はアメリカではさっぱりだったがイギリスでは受けたと書いていますが、イギリスのみならずヨーロッパのミュージシャンにも大きな影響を与えています。その際たるものがODINです。
オリジナルはヴィンテージ・アナログ界で屈指のコレクター・アイテムとなっているヴァーティゴ渦巻きレーベル。ヴァーティゴはイギリスのレーベルですが、ドイツのフォノグラムもイギリスのヴァーティゴ所属アーティスト作品を発売する傍、ドイツ・オリジナルの渦巻きヴァーティゴ作品をいくつか出しています。FRUMPY、BRAVE NEW WORLD等がありましたが、このODINもそのひとつ。ドイツ・オリジナルはかなりのプレミアが付くど廃盤アイテムで、ポスター付きの完品は中々お目にかかれません。僕は30年ほど前に一度入手したことがありますが、その時すでに5桁紙幣1枚では買えないプレミアが付いていましたね。
ODINはドイツ人キーボード奏者ジェフ・ビアー(ドイツ人なのでこの読み方は違うような気がしますが・・・)、オランダ人ギタリスト、ロブ・ターストール(これも読み方違うんだろうなぁ・・・)がロンドンでイギリス人のベーシスト、ドラマーと結成したバンドで、オリジナル活動当時発表された唯一のアルバム『Odin』は1972年に出ています。
ジェフ・ビアーのキーボード(主にオルガン)をフィーチュアした典型的なプログレ・サウンドのバンドなのですが、キーボード・トリオではなくギターもいたバンドなので演奏がエッヂが立ったハード・ロック寄りになる場面もあるダイナミックさが持ち味で、ジャーマン・ロック色は薄くブリテッシュ・ロック然としたサウンドを標榜したバンドでした。
1972年というと既にYESは『Fragile』を経て『Close To The Edge』を発表した時期でしたし、KING CRIMSONは『Larks~』制作へ向け動き出した時期ですかから、Odinの初期RARE BIRDの叙情性とQUATERMASSのハードエッヂ・サウンドにジャズ・ロック的展開になった時のTHE NICEのテイストを加味したかのようなブリティッシュ・ヴィンテージ・プログレ風サウンドは時代を考えると若干古臭い印象がありますが、そのヴィンテージ・プログレ色全開の長尺曲「Life Is Only」、「Gemini」(QUATERMASSのアルバムに収録されているあの曲です。作曲者はクリス・ファーロウのTHE HILL、FAT MATTRESSに在籍したスティーヴ・ハモンド)、「Clown」はブリティッシュ・ヴィンテージ・プログレ好きのファンには確実に刺さるサウンドを持っていると思います。
ただ、ここではそこをどうこうという訳ではなく、ブリティッシュ・プログレ系サウンドを標榜する一方で、キーボードのジェフ・ビアーが思い切り影響を受けたフランク・ザッパ、特に『Hot Rats』はマジに好きです度全開の部分に注目していただきたいわけです。なんたって曲名が「Tribute To Frank」ですからね。モロにザッパです。
先に書いたように僕はこのアルバム、昔、オリジナルのアナログで所有しており、CD化された際にはそれも購入して持っており、結構な回数聴いていたのですが、今回この原稿を書くにあたり聴き直すまで大きな勘違いをしていました。ずっと、このアルバムに収録されたODINジェフ・ビアーのザッパ・トリビュート曲は『Hot Rats』収録の「Little Umbrellas」のカヴァーだと思っていたのですが、タイトルが違うことからも明らかですが全く違うオリジナル曲でした。これ読んで聴き比べた方がいるとしたら、なんでこの2曲が同じだと思ったのか?全く違う曲ではないか、と笑うと思うのですが、でも、傾向としては似ていると思いませんか?
他にも細かい部分ですがギターのロブ・ターストール作の「Turnpike Lane」の出だしのドラムは思い切り「Peaches En Regalia」の出だしと同じです。また今回『Hot Rats』と『Odin』を聴き比べて思ったのは、『Odin』ってドラムが全体的にドタドタしていて本質的にはブリティッシュ・プログレ系サウンド標榜型バンドにしてはドラムが浮いている印象があり、これはレコーディングに不慣れなバンドとバンドの本質をきちんと理解していないエンジニアのせいとずっと思っていたのですが、今は『Hot Rats』のドラム・サウンドの再現だったのではないか、と思っています。
一旦ザッパを離れると、ギターのロブ・ターストール作の曲からはアメリカのフォーク・ロック系アーティストからの影響が見て取れます。根底にCROSBY, STILLS, NASH & YOUNGやBUFFALO SPRINGFIELDなんかが好きなんだろうな、この人と思う次第。
QUATERMASSのアルバムにも収録されている「Gemini」をやっているということもあり、QUATERMASSとも聴き比べてみましたが、さすがにブリティッシュ・キーボード・プログレのひとつの究極とも言って良いQUATERMASSと比べるとこのODIN、若干B級感が強いのですが、ブリティッシュ・ヴィンテージ・プログレ風サウンドとフランク・ザッパ、アメリカン・フォーク・ロックが同居する音楽性はかなりユニーク。久々に楽しみました。
このODIN、オリジナル・アナログ盤が激レアだったこともあり、ちゃんと聴いていた人が少なかったことからカス・プログレの謗りを受けていた面が大きかったのですが、CD化された後は徐々に評価されるようになり、2007年には、オリジナル活動当時のスタジオ・ライヴ音源、ライヴ音源2作がCD化されます。
これがオリジナル・アルバム以上に面白いのです。もろに好きなアーティストに対する愛に溢れたカヴァー曲満載! まず、1971年のライヴ・アルバム『Live At The Maxim』ではザッパ・カヴァーが10曲中4曲。『Weasels Ripped My Flesh(いたち野郎)』から「My Guitar Wants To Kill Your Mama」と「Oh No」、『Burnt Weeny Sandwich』から「The Little House I Used To Live In」そして『Hot Rats』から真打登場といった感じの「Peaches En Regalia」。これらがジェフ・ビアー・チョイスなのに対し、ギターのロブ・ターストールも自身の趣味丸出し選曲でCSN&Yの「Ohio」、ニール・ヤングの「Cinnamon Girl」のカヴァーを披露。そして最後はダメ押しでKING CRIMSON「21th Century Schizoid Man」を演奏しております。この「21th Century Schizoid Man」がまた結構良い線いっているわけですよ。
もう一方の1973年収録のスタジオ・ライヴ『SWF Session 1973』では『Live At The Maxim』でもカヴァーした「Oh No」と『Uncle Meat』収録のお馴染み「King Kong」をカヴァーしています。今回はザッパの『The Hot Rats Sessions』からODINに飛んでいったわけですが、個人的にはかなり楽しみました。ブリティッシュ・ヴィンテージ・プログレとフランク・ザッパの邂逅、結構面白かったですね。
さて、今月の1枚ですが、こんな時だからこそ、自分の聴いていてのんびりできるアルバムを聴いてみよう!ということでこの3連休、僕はTHE KINKS『Muswell Hillbillies』を聴こうかと思います。個人的にはボーっと聴くにはうってつけ、何も考えず単純に楽しい時間がいつも過ごせる、一種「Remedy」的作品です。みなさんののんびりアルバムはなんですか? こんな時だからこそ、そのアルバム棚からひっぱりだしてのんびりしませんか?
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70年作。オリジナル・マザーズにおける未発表音源を元に構成された作品。
廃盤、紙ジャケット仕様、93年FZ承認マスター使用、内袋付き仕様、ステッカー付仕様、定価2625
盤質:無傷/小傷
状態:良好
帯有
2枚組、FZ承認93年マスター、定価3689+税
盤質:傷あり
状態:並
帯有
1枚は傷あり、帯にカビあり、カラーケース・トレーです
盤質:傷あり
状態:良好
ケース不良、帯有、トレーのツメが半分ありません、ケースにヒビあり
カラーケース・トレー仕様、ボーナス・トラック2曲、定価2427+税
盤質:傷あり
状態:良好
帯有
ビニールソフトケースの圧痕あり、若干CDの圧痕・帯に軽微な折れあり、ケースはカラーケースではありません
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