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「音楽歳時記」第四回: 5月 ユーロビジョン・ソング・コンテストとFOCUS 文・深民淳

ちょうど1ヶ月前、前回の原稿を書いていた時はこぼれまくった仕事が大量発生し修羅場と化していたのですが、そこから30日経っても状況全く好転せず。先月の修羅場が終わったと思ったら、次の大山がすぐに続いており、もういい加減、限界にきております。

というわけで、ずっとMR.BIG関連のことをやっていたので、今年になって聴いたものの80%がMR.BIGだったこともあり、ちょっと空いた時間に聴くCDが妙に新鮮に感じたりします。この間、amazonのユーザー・レビューを読んでChicago、1stアルバムMOFI(Mobile Fidelity)盤を買いました。結構みんな褒めていましたが、僕の印象は微妙で、SACD/CDコンパチ仕様ですが、鳴り、音圧はワーナー・ミュージックのSACD盤のほうが良いよう、というのが最初の印象。しかも、コンプかなにか使ったのか、ベースとドラムの印象が既発盤とは印象が違い、全体に低音の重心がどっしりした印象を受けました。これだけだと、「また同じものに金使った」という話なのですが、先週の週末に、家で普段聴いている音量よりかなり大きめの音で再生してみたところ、小さめの音で聴くのとガラッと印象が変わり、管楽器も変にぎらつかず、リズム・セクションの重心もずっしりと重い、良い感じの再生を楽しめました。

もしかするとMOFIの特性かもと思い、家にあったMOFI盤、Bob Dylan、Little Feat、Santana等続けざまに聴いてみたところ、再生音量を上げると、雰囲気が変わる傾向はあるみたいですね。アンプの出力やリスニング・ルームの条件に左右されるでしょうが、うちの場合ヴォリュームが11時あたりから鳴りの印象が大きく変化しました。最近はiPhoneやMP3プレイヤーでの移動中の音楽鑑賞、PCでの再生など、無難な再生が主流ですが、それだと入手した音楽ソフトの特性が実は活かされていない場合も多々ある、ということは知っておいても良いかということで書かせてもらいました。

なかなか本題に行きませんが、韓国のBIG PINKというレーベルありますよね。カケレコさんでも新品セクションを見ると大量に取り扱っているレーベルで、「よくも、まぁ、これをCD化したなぁ…」と思うアイテムが目白押しのレーベルです。このBIG PINKからGay & Terry Woodsの『Renowned』(1976年)がいきなり出ました。普通、『Backwoods』(1975年)から出すのが筋かと思うのですが、過去CD化されたものはBBC音源やコンピだったことを考えると、権利関係のクリアーが本当に済んでいるのか?という懸念は残るものの、よくやった!と思います。2人ともSteeleye Spanのオリジナル・メンバーだったことは知られていますが、Woods Bandを経てデュオになってからの作品は、正規でCD化されたものが少なかったこと、オリジナルLPはどれもそれなりの値段がするなど、手を出しにくいアーティストでしたが、これを機会により多くの人々に聴いていただきたいものです。

鉄板の名盤は『Backwoods』であることは異存ありませんが、この『Renowned』も良質のフォーク・ロックが堪能できる良品で、英国トラッド系今ひとつ苦手、フォーク・ロック系はアメリカものが良い、という方にこそ是非お薦めしたい逸品です。特にGay Woodsの歌唱力、説得力は抜群で、声質が何となく近い、Linda Ronstadtのキャピトル時代あたりが好きな方にはアピールすると思います。BIG PINKが再発を継続してくれることを望みます。

さて、アイリッシュのデュオであるGay & Terry Woodsから強引に5月の行事にねじ曲げていきましょう。毎年5月にはヨーロッパのみならず世界的に見ても規模が大きくかつ長寿の音楽祭が開催されます。ユーロビジョン・ソング・コンテストです。欧州放送連合(EBU)主催で1956年から続くこの歴史ある音楽祭で最も多く優勝している国がアイルランドなのです。(完全なこじつけでござる)

おそらく、カケレコ・ユーザーの皆さんはABBAが世界的な成功を収めるきっかけとなった音楽祭という認識はお持ちだと思います。どちらかといえば、イベント名が示すとおり、楽曲コンテストと言うこともあり、バブルガム・ポップ等が多く、ロックからはちょっと遠い位置にあるイベントなので、ここではユーロビジョンは切り口として、70年代半ば辺りまでのイギリス以外のヨーロッパのロックやポップの日本における状況などについて書きますね。

ユーロビジョン・ソング・コンテストは主催が欧州放送連合ということもあり、TVの黎明期から続いてきた音楽祭だけあり、2015年の今年は第60回の記念大会となります。初期は3月に行われていましたが、その後4月にずれ。80年代の終わり以降はほぼ5月開催となっています。

審査のシステムは何度か変わっていますが、現在では1975年から始まった投票システムを元に何回かのマイナー・チェンジを経て現在に至っていると言うことです。ヨーロッパのTV局連合が主催と言うこともあって、結構緩いコンテストなのではと思っていましたが、実際は大会規定が結構複雑かつ厳格でした。複雑な規定のうちいくつかを紹介すると…。まず、厳格な各国の国内予選があります。曲もさることながら、コンテスト本番では生で歌うことが条件で、バックトラックのテープにコーラスをあらかじめ録音しておくことすら禁止されています。また、1曲の長さも3分以内が義務づけられています。1956年の第1回は規定がありませんでしたが、翌年の第2回から1970年まではソロ歌手に限るという規定があり、1963年に3人以内のコーラス・グループはOKとなり、1971年には6人以下のパフォーマーの参加が可となったそうです。また、1966年には参加国の公用語で歌うことが規定として加えられたが、1973年に撤廃されるも1977年に復活し、1999年に言語規定が全廃されるまで続いたとのこと。毎年の開催国は前年度のコンテストで優勝者を出した国が受け持つことになっているそうですが、予算が確保できず、開催予定国が開催権を放棄すると現在では自動的にイギリスのBBCが代理で開催することになっています。

これ以外にも様々な規定があり、結構複雑なのですが、言語規定の部分は結構重要で、ABBAが「Waterloo / 恋のウォータールー」で優勝したのが1974年のこと。この前年に公用語規定が解除されたため、スウェーデンのABBAが英語の曲を歌うことができたのですが、この規定が解除されていなければ、ABBAは英語で歌う「Waterloo」で参加することができなかったわけです。この年のユーロビジョンの優勝がきっかけで、「Waterloo」がイギリスでブレイクし、その勢いをもってアメリカ進出を果たし、70年代後半にスーパースターの座を手にするABBAにとっては、言語規定が一時的に撤廃されていた数年間が幸運をもたらしたと言っても良いでしょう。

ユーロビジョン優勝者でこの記事を読む方に関係していそうなアーティストしては、まず1964年に「NonHo L’eta / 夢見る想い」で優勝(ユーロビジョン出場前にサンレモ音楽祭でも優勝曲となっています)した、イタリアのGigliola Cinquetti(ジリオラ・チンクェッティ)が挙げられます。日本でもCM等でたびたび使われてきた「La Pioggia / 雨」を筆頭に「Napoli Fortuna Mia / ナポリは恋人」、「Dio, Come Ti Amo / 愛は限りなく」、「Rose Nel Buio / 薔薇のことづけ」、「Gila L’amore / 恋いよまわれ」等のヒットがあり、60年代から70年代にかけての日本におけるカンツォーネ・ブームにおいては間違いなくトップ・アーティストでした。「La Pioggia / 雨」以降挙げた曲にはすべて日本語ヴァージョンがあったことからもその人気が伺えると思います。1967年にはイギリスのSandie Showが全世界的なヒット曲となった「Puppet On A String / 恋のあやつり人形」で優勝しています。イギリス、エセックス出身でブリティッシュ・ビート好きには避けては通れない今なお高い評価を得ている女性シンガーですね。裸足で歌うスタイルが一世を風靡しました。1969年はユーロビジョンの長い歴史の中でも特筆に値する4組の優勝者を出した特殊な年でしたが、その4組の中に入っていたのがこれもイギリスのLulu。優勝曲は「Boom Bang-A-Bang / 恋のブンバガバン」。その後は先に述べた74年のABBA、76年のBrotherhood Of Man、81年のBucks Fizz(共にイギリス)などは名前くらいは聞いたことがあるのではないかと想います。

60年代から70年代前半までは、日本のヒット・チャートにもヨーロッパの非英語圏の国の曲がチャートインしていました。イタリアのサンレモ音楽祭やユーロビジョンもそれなりにニュースとして伝わってきていましたし、70年代に入ると東芝がTangerine Dream、Amon Duulのアルバムを発売したり、東宝レコードがMartin Circusを出したり、英米以外にも開かれた国だったわけですが、この時代を考えると僕はオランダ勢の活躍が印象に残っています。

「Venus / ビーナス」、「Never Marry A Railroad Man / 悲しき鉄道員」等でヒット・チャートの常連だったShocking Blue、「Season / シーズン」がヒットしたEarth & Fireなど記憶に残るバンドが多いですが、ここではFocusを挙げさせてもらいます。今なお活動を続けている長寿バンドですが、オランダのローカル・バンドだったFocusがワールドワイドへと打って出るきっかけを作ったのがMike Vernonだったことは以外と知られていません。1971年の2ndアルバム『Moving Waves』は当時、イギリスではMike VernonのBlue Horizonレーベルから発売されています。

Fleetwood Mac、Chicken Shackなど英国産ブルース・バンドを世に送り出す傍ら、アメリカのCobra、Excelloレーベルからのライセンスを受け黒人ブルース・アーティストも積極的にイギリスに紹介してきたBlue HorizonはこのFocusのイギリス・デビューと前後してディストリビュートをCBSからPolydorに変更。次々とヒット・アルバムを量産したCBS時代と異なり、Martin StoneがらみのMighty Baby、CBS時代から残っていたJerrybreadらとは契約があったものの、他はExelloレーベルからのライセンスものに頼っていたと言うのが実情。FocusはMike Vernonにとって勝負を賭けたバンドだったわけです。幸い、Thijs Van Leerのヨーデル唱法とJan Akkermanのシャープなギター・ワークが印象的な「Focus Pocus」が注目を集め、アルバムに収録されたクラシカルな佇まいの楽曲が折からのプログレ・ブームに乗りFocusはイギリスでも一躍人気バンドとなります。

最後に紹介するのは、Focusの3rdアルバム『Focus 3』。大変有名なアルバムで、代表作と言っても良いでしょう。2枚組の大作です。ものすごく練られた曲がある一方、頭と終わりだけ決めて真ん中はインプロヴィゼイションとソロというまるでジャム・セッションみたいな曲もある。プログレの歴史の中に名を残すバンドの代表作とも言える作品故、その情報がインプットされた状態で聴くと、あまり疑うことなく最後までツルッと行ってしまうのですが、実際はピカピカに磨き上げられた曲と素材そのまま、ほぼスタジオ・ライヴなジャム・セッションが同居するという妙な作りになっているわけです。制作は勿論、Mike Vernon。多分、Mike Vernonは最初にライヴを観たんでしょうね。そのインプロヴィゼイションに惹かれ契約を交わし、自分主導でアルバムを作らせる段になって26分を越える超絶ジャム・セッション「Anonymous II」を実現させた。「Focus III」や「Sylvia」をはじめとした練られた曲の中に「Anonymous II」がドンと置かれた様は明らかに風景が違います。乱暴な書き方すれば、Fleetwood Macレコーディングするノリでプログレのアルバム作っちゃった、みたいな雰囲気が漂っているのです。

この後、Mike Vernonの影響力は徐々に薄れていくのですが、74年の『Hamburger Concerto』で脱退したドラムの後任として参加したのが、元Stone The CrowsのColin Allenだったわけですが、彼は60年代末から70年代初頭のMike Vernon企画の黒人ブルースマンのロンドン録音にも参加しているVernon人脈だったことを考えると、Focus側も最初の頃はMike Vernon頼みの部分が多かったんだろうなぁ、と思ってしまいますね。

文・深民淳


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