最近、3日前の記憶すら怪しくなってきました。それで、恐らく2月ほど前かと思いますが、仕事でKing Crimsonコレクターズ・クラブの全音源を聴くというのがありまして、という話を書いたかと思うのですが、結局、それ、7月スタートで11月までかかり、今年は実質半年くらいそれで終わってしまい、今年はほとんどそれしか記憶にない状態。
Crimsonは現在来日中で只今、12月19日水曜日夜11時ですが、本日、東京公演が滞りなく終了し、この原稿がアップされる21日には最終名古屋公演があって2018年度のツアーは全て終了となります。来年はいよいよ結成・デビュー50周年を迎えるわけですが、すでにアニバーサリー・ツアーの日程発表が始まり、来年も現役続行のもようです。
まだ詳しい段取りは発表されていませんが、公式記録として結成記念日とされている1月13日から50週にわたり毎週、レア・トラックや未発表曲を1曲ずつ発表するという企画の準備が進んでいるそうで、メンバーやDGMスタッフによるコメントが添えられるということなんですが、それ、英語じゃん! 日本語版も作らなければならないんじゃないかと思うのですが、どうやって公開していけばいいのやら。こういう話は準備もあるので、もう少し早く言ってもらいたいものですが、来日して東京のホテルで聞かされてもなぁ、と正直思います。
大体、言った本人も詳細を把握しておらず、帰ってからメールでねって話になったは良いけど、あんたらクリスマスに働くんかい?と疑問に思います。
恐らくWOWOWエンタ、レーベルのFacebookを使って公開していくことになるかと思いますが、特急進行で準備しても来年1月7日以降の発表になるかと思います。興味がある方は来年、WOWエンタ、クリムゾンWebページのニュース欄チェックしてみてください。
Crimson来日直前に賑やかしでBarks用ということで、今年発売されたライヴ・アルバム『メルト・ダウン〜ライヴ・イン・メキシコ』のミックスダウンを監修したビル・リーフリンにインタビューをやってもらったお礼も兼ね、東京の戻ってきてからのオフの日にDGM社長のデイヴィッド・シングルトン、ビル・リーフリンらと河豚を食べに言ったのですが、ビル・リーフリン曰く、彼にとってロバート・フリップは大変仕事のしやすい人なのだそうです。そうですか、仕事しやすいですか。彼の経歴から考えると、MInistryのあの人から始まって、あの人とかあの人なんかが思い浮かびますが、みんな面倒臭い人たちだったんですねぇ。実名出すと差し障りがありそうだから書かないけどさ。気になるようなら即、wikiでチェック! 確かに一筋縄ではいかない人々とばかり仕事している人ではあります。
冒頭に書いた理由により、ここのところ、ほとんどCDを買っていないので、ネタ切れっぽくなっていたこともあり、久々に某ショップに出没したものの、5カ月のブランクは大きく、どこから手をつければ良いのか分からなくなり、所在無げに立ち竦むという体たらく。5カ月ぶりの店頭購入はまず、なくならないうちに買っておこうと思っていたThe Action『Shadow & Reflection – The Complete Recordings 1964-1968』4枚組デジブック・スタイルの決定版的内容のコレクションです。これまではEdsel盤『The Ultimate Action』、『Action Packed』やサイケデリック色の強い未発表アルバム音源『Rolled Gold』など数種のアルバムが’80年代初頭から今日まで思い出したかのようにポロポロと発表されていましたが、今回のコンピはそこらへんもほぼ押さえた、持っておく価値があるパッケージになっているかと思いますね。
まずCD1がThe Parlophone Mastersと称した初期シングルのコレクション。これ、モノ音源なんですよねぇ。その大部分が初CD化という快挙! The Actionのアナログ・シングルは高いですからねぇ。モノ・ヴァージョンをまとめてガッツリ聴けるこのパッケージ、まずこれだけでポイント高いです。楽曲は『Action Packed』なんかとダブるのですが、『Action Packed』はレグ・キングのヴォーカルが前に出たステレオ・ミックスだったのに対し、このモノ・ミックス、ヴォーカルとインストのバランスも良くしかも押しが強く、勝手知ったるモッズ・バンド時代の曲の印象が随分と変わります。この時代はやはりモノ音源の方がしっくりきます。大体、演奏している方もステレオのことなんか考えていないですからね。
CD2はアビー・ロード・スタジオ・セッション。最近発掘されたマルチマスターからの新規ミックスだそうです。このパッケージの肝といっても良いでしょう。これが聴きたくて買ったわけですが、音質面でも優れており、大満足! トラック16以降はリハや別ヴァージョンも収録しており、スタジオ内の会話等も収録されています。
CD3はThe Pretty Things 『SF Sorrow』、The End『Introspection』と並びビート系バンドがサイケデリック時代に作った名作の一つだったのにお蔵入りしてしまった『Rolled Gold』と’80年代半ばにDojoレーベル(ここもクセの強いアイテムいっぱい出してましたね、Hawkwind関連とか・・・アナログ時代だけど)から出ていた『Action Speak Louder Than… 』を収録。『Rolled Gold』は旧盤では結構歪んだ音質でずっとそういうものかと思っていたのですが、そうじゃなかったみたいですね。音圧的には旧盤に及ばないものの、恐らくこちらの方がよりマスター・テープの質感に近いのではないかと思います。
最後のCD4はエクストラというカテゴリーでThe Actionの前身The Boys、Deccaオーディション・テープ、BBC音源等が収められています。このBBC音源は2000年代の初め頃に出たCircleレーベルが出した『Uptight And Outasight』あたりと同じかと思いますが、これ、出た時にあんまり音質良くないという噂があったため迷っているうちに市場から消えました、という間抜けなことしたため未聴なので何とも言えませんが・・・。確かにこのライヴ部分だけ切り出したものを買うかと言われたら、ちょっと迷う、なかなかのRaw音源です。そしてこれに付け加えたような形でEdselミックスが最後にくっついているのですが、Edselミックス全曲収録ではないので、注意してくださいね。過去にリリースされたアイテムを駆逐する決定版には僅かに及ばないものの、値段を考えるとコスパもよろしいし、CD1と2はかなりお宝度が高いと思います。ここ手のものは油断しているとすぐに市場から消えるので気になる方は早めの行動が吉と申し上げておきましょう。
続いてはESOTERICが出しているGreensladeデラックス・エディション・シリーズの第2弾と3弾。『Bedside Manners Are Extra』と『Spyglass Guest』。ここまで3作2ディスク編成で通しています。まず第1弾『Greenslade』はCD2にBBC”Sounds of the Seventies” セッションと”In Concert”音源、計7曲が追加収録されていましたが、『Bedside Manners Are Extra』のDisc2は映像DVD。計5曲ではありますが、存在は知っていましたがこれまでちゃんと観たことがなかったデビュー当時ワーナーが作った3曲のプロモ・フィルムとBBC TV”The Old Grey Whistle Test”出演時のライヴ2曲。時間的には短いのですが、映像はやはりインパクトがあります。まず3曲のプロモ・フィルムはスタジオ・ライヴ形式ですが、これ多分当て振りかと思います。1stアルバムのプロモ用に制作されたものだそうでデイヴ・グリーンスレイドとデイヴ・ローソンのキーボード・パートの振り分けがはっきりと判り興味深い内容になっています。”The Old Grey Whistle Test”2曲の方はYouTubeなどでも視聴可能な映像ですが、いくつか上がっているYouTube上の同映像より解像度の方は若干よろしいかと思います。
ツイン・キーボード、ギターレスという特殊な編成のせいもありますが、トニー・リーヴスが結構ギターの役割を代行している部分が映像だとはっきり判り興味深く観ました。最初のプレシジョン・ベースのフォルムとスペックを引き継いだ初期型のテレキャスター・ベースを弾いているのですが、シングル・コイルの結構硬くトレブルの効いた音が出るピックアップを搭載しているため、エフェクトのかかりが良く、パートによってディストーションやエコーをかけているGreensladeに於けるリーヴスのプレイにはうってつけのモデルだったんだなぁ、としみじみ思いました。そのエフェクトで表情をつけていたこともサウンドだけでなく映像もつくとよりはっきりと見えてきますね。もっと大人しい感じのベーシストかと思っていましたが、結構アクションも大きいしロックしているのも印象的でした。ま、よく考えてみればこのバンドステージ上を動き回れるのってトニー・リーヴスだけですから、そういう役割も担っていたのでしょうね。
あと気になったのは、デイヴ・ローソンが使っていたオレンジ(メーカー名)のアンプ。一般的なオレンジ・アンプはその名の通り筐体周りがオレンジなんですが、彼のオレンジは周りが黒。当時のカタログには黒筐体のものも載っているので珍しくはないのですが、そのヘッドの下の2段のスピーカー・キャビネットに注目! オレンジのギター、ベース用のスタンダードなキャビネットは30cmスピーカーが4発入った四角いもので、ベース用に38cmスピーカー2発というのもあったみたいですが、オレンジってキャビネットにも凝ったロゴ・プレートが付いているのですが、ローソンの使っているキャビネットは白くて横長のプレートにメーカー名が入ったもの。画質が粗く字が読み取れないので何とも言えませんが、このキャビネットもオレンジだとするとちょっとレアかなと思います。
この『Bedside Manners Are Extra』はエクストラCDの代わりに映像DVDがついている関係で他のタイトルではエクストラCDの方に収録されるボーナス・マテリアルが本体にくっついています。BBCラジオ”Sounds of the Seventies” 用に1973年10月31日(放送は同年12月3日)に収録された「Time To Dream」、「Bedside Manners Are Extra」、「Pilgrim’s Progress」3曲のライヴです。ブートレグではお馴染みの音源ですが、家にあったブートCDと比べ音質は明らかにクリアーですし、音の張り出しもかなり強めとなっています。あ、あれかと思う方も多いかと思いますが、正規版で出すだけのクオリティを持った音質にしっかりグレードアップされていると思います。
ちなみに、デイヴ・ローソンってあの髪型も影響しているのでしょうけどBBC映像の方は特にYesのスティーヴ・ハウとピーター・フランプトンを足して2で割ったみたいなルックスだなぁ、と思いました。
『Spyglass Guest』の方は『Greenslade』同様2CDフォーマットでCD2には1974年11月7日ロンドン、パリス・シアターに於けるBBC”In Concert”音源5曲とその前日に収録されたBBC”Bob Harris Session” 音源3曲が収録されています。11月7日パリス・シアター音源はブートCDとしては何度も発売されている有名音源ですが、ほとんどのブートCDにはないオープニングのMCも含む完全版となっている点がまず評価できますし、ブートCDにあったテープ起因の音揺れ、ノイズ等がなく音質も安定したものになっている点がこのパッケージに存在意義を持たせています。恐らくブートで何度も出ている音源といった紹介をするレビューもあるのではないかと思いますが、その有名音源を敢えてエクストラCD音源とした意味はある過去音源を駆逐する音質を持った決定版だと思います。
というわけで、大変長めの前置きはこれにて終了。本題に入ります。これまでも有象未曾有の団体や政府、果ては宗教関係の皆様が寄ってたかって妙な記念日を次々と制定していることをお伝えしてまいりましたが、1月はその中でも一際しょうもない記念日が多いように思います。
まずは語呂合わせシリーズ。1月3日、さぁ、なんだ! 瞳の日だそうです。コンタクトレンズ業界とメガネ業界が結託し制定したそうです。正月三が日に記念日作られてもなぁ、という気がしますね。次、1月5日! イチゴの日?それ不正解。読み方はそれでいいのですが、いちご世代は15歳を迎え高校受験を控えた少年・少女たちにエールを送る日なのだそうです。どこが起源か分からないそうですが、そりゃどっかの学習塾に決まっているよねぇ・・・。因みに果物のいちごの方は1月15日が記念日。「いいイチゴ」と読むのだそうです。1月8日は勝負事の日となっていますが、これは敢えて説明する必要はないですね。次に行きましょう。
1月の記念日で個人的に惹かれたのは1月19日から21日まで3日間の記念日。19日のど自慢の日、20日玉の輿の日、21日料理番組の日。なんの脈略もなく妙な記念日が続くのが変じゃないですかい? まず19日のど自慢と21日料理番組は何となくわかりますね。19日はNHKののど自慢が始まった日を記念して作られ、21日は1937年(昭和12年)のこの日イギリスで料理番組の元祖と言われる番組がスタート。そして日本では1963年(昭和38年)同日からかの長寿番組「3分クッキング」が始まったのだそうです。ヘェ〜って話なんですが、気がつきました? 1937年にTV放送はあったのかという点です。イギリスって1929年にはBBCがTVの試験放送開始しており、1932年には週4日ながら定期試験放送が始まっていたとのこと。ラジオの料理番組って考えにくいしねぇ・・・。で、このふたつに挟まれているのが謎の20日玉の輿の日。要は祇園の芸妓お雪が、アメリカの産業界にも多大なる影響力を持っていたモルガン商会創始者の甥、ジョージ・モルガンと結婚したことから玉の輿の日となったということなんですが、それって記念日にするものなの?と正直思います。あやかりたい人はいっぱいいるでしょうけどね。
それでは本題にまいりましょう。1月13日タバコの日です。1946年(昭和21年)のこの日、高級タバコ・ピースが発売されたのに因んでの記念日だそうです。終戦直後、普通のタバコは4円で買えたそうですが、このピースは7円。倍近くの高額商品で、日曜・祝日しか販売されなかったにも関わらず大人気を博したそうです。この7円のピースに飛びついた人々ってその大多数が既にお亡くなりになっていることを考えると歴史を感じます。タバコねぇ、今も吸ってますよ。では始めます。
まずはこれだね。「Smokin’ In The Boys Room」。Mötley Crüe、1985年発表の『Theatre Of Pain』に収録されシングルとしてもヒットしましたが、オリジナルはミシガン州アンアーバー出身で1970年にデビューしたBrownsville Stationのヒット曲。彼らの3rdアルバム『Yeah!』(1973年)に収録されており、シングルもビルボード3位まで上昇した。彼らにとって最大のヒットとなったナンバーでした。どちらかというとハード・ロック・カテゴリーで語られることの多いバンドですが、本質はロックン・ロール・バンドで、質感としてはイギリスのハード・ロック色が強いグラム系バンド、SWEETやSLADEなどに通じるものがありました。それが証拠に「Smokin’ In The Boys Room」を収録した『Yeah!』に続き1974年に発表した『School Punks』からシングル・カットされこれもスマッシュ・ヒットなった「I’m The Leader Of The Gang」は元々ゲイリー・グリッターがイギリスでヒットさせた曲のカヴァー。同じく『School Punks』からカットされビルボード31位まで上昇した「Kings Of The Party」もタイトル通りの痛快なロック・トラックでした。Brownsville Stationはシーンが変化してもその音楽性を変えることなく1978年『Air Special』までロックン・ロール一筋で突っ走り消えるのですが、Discogs見ると2012年にほとんど自主制作みたいな形でアルバム出しています。クレジットみるとオリジナル・メンバーでギター、ヴォーカルのカブ・コーダはしっかり参加しているので、今もどっかのクラブで演奏していそうです。
ロバート・フリップ先生のソロ・アルバム『Exposure』には「You Burn Me Up I’m A Cigarette」なる曲が収録されています。King Crimson活動休止中の1979年に先生の提唱したMOR3部作の最終章として発売されるはずだったのですが、他の2作のうち先生がプロデュースしたピーター・ゲイブリエルの2ndアルバムは問題なく発売されたものの、もう1枚のダリル・ホール『Sacred Songs』はダリル所属のRCAとマネージメントの反発を喰らい見事に発売延期。先生のポップ・シーンを正しい道に導こうという高邁な精神は理解されずに終わった時期の作品です。NYのパンク、アンダーグラウンド・シーンからの影響を強く受け、Blondieを始め多くのポップ系アーティストとも交流のあった時代に作られただけあって、破天荒ではありますが、今聴くと結構Crimson度も高く楽しめますし、どっちかというとギター・リフ作りに命かけている印象を受ける先生の作るポップなメロディというのもなかなかの出来で侮れません。特にこの「You Burn Me Up I’m A Cigarette」は痛快極まりないロックン・ロール・チューンで先月のクリスマス・アルバムのところでも絶賛させていただいたダリル・ホール様がまたいい味出しているわけですよ。単純明快・パンキッシュなR&Rナンバーとはいえ、作ったのが先生ですからあっちこっちに仕掛けがあり結構難しい曲なのですが、ダリル・ホール様まるで自分が作った曲のように軽く歌っちゃうんだよねぇ。曲調はイケイケなんですがこのダリル・ホール様の曲さばきのうまさは感動的です。因みに『Exposure』セッションって実は壮大なアーカイヴになっているそうで、先生はこれをボックスにしたいとお考えになっているようなのです。2015年にはすでに言い始めており、今回の来日でもその気持ちには変わりがないようなのですが、周りの人間はそれより『宮殿50th Anniversary Edition』を先に考えましょう、となだめている最中でもあります。
You Burn Me Up I’m A Cigarette
先生のアルバムを出した以上、プログレものとしてこれを出さないわけにはいかないPink Floyd『Wish You Were Here』収録「Have A Cigar」。1975年発売当時、アルバムからのリード・トラックとして日本でもガンガン、オンエアーされていました。ロイ・ハーパーがリード・ヴォーカルを取っていることも話題となりましたが、ここ日本では全体的に、誰それ?って感じだった記憶があります。ロイ・ハーパー、一度だけ来日しており、小さな会場でライヴやっていましたが、未だ人生のベスト・ライヴとして強く印象に残っています。MCで彼の代表作『Stormcock』の曲を全部(4曲)やりたいのだけれども、この会場撤収時間が厳しくて、1曲削らなければならないんだ、とぼやいておりましたが、それ聞いちゃうと全曲聴きたくなるじゃないですか。いらんこと言うな、と心の底から思いましたね。実際3/4しかやらなかったしね。話が外れましたね。Pink Floyd「Have A Cigar」については今更ここでどうこう書くのも失礼な話なので、この曲のカヴァー・ヴァージョンを追いかけて行きましょう。’70年代末のディスコ全盛時代にフランスで作られた寄せ集めバンドRosebudが1977年に発表した『Discoballs』というアルバムがありました。Pink Floyd楽曲のディスコ・ヴァージョンでアルバムをでっち上げた怪作で、当時ディスコは世界的なブームだったこともあり、一気に世界中に広がりあちらこちらで発売されました。どんな曲をやったかといえば「Have A Cigar」、「Free Four」、「Summer 68」、「Intersteller Overdrive」、「Money」、「One Of These Days」、「Arnold Lane」、「Main Theme From “More” 」が収録されていました。まぁ、動機は不純な企画ものなんですが曲目見ていただくと結構渋いところ集めてきているでしょ?「Money」、「One Of These Days」なんてところはさまありなんという感じですがその他は結構、通な選曲。参加ミュージシャンの中にはヤニック・トップ、クロード・エンゲルといったMagma人脈に繋がるメンバーもいたりと結構侮れない作品かと思います。CD化もされたのですが中々見つけるのが難しい1枚となっています。
1992年にはPrimusがカヴァー曲を集めたEP『Miscellaneous Debris』の中で取り上げています。5曲入りEPで「Have A Cigar」の他はピーター・ゲイブリエルの「Intruder」、XTC、The Meters、The Residentsの曲を取り上げていました。
『Mission Impossible 2』のサウンドトラック盤ではFoo FightersがQueenのブライアン・メイをゲストに迎えたものが収録されていましたが、これは2度目のカヴァーで最初はバンドのみヴァージョンがシングルのBトラックとして収録されていました。あ、Dream Theaterもやっていますね。苦手なので先行きます。
「Have A Cigar」のカヴァーで個人的に好きなものというとこれになります。Gov’t Mule2014年発表の『Dark Side Of The Mule』です。彼らのハロウィーン特別興行は過去にもLed Zeppelinの『Houses Of The Holy』再現ライヴ『Holy Haunted House』が2008年に出ていますが、これ、意気込みは分かるけどちょっとラフすぎで完成度イマイチ。何がなんでもデッド・コピーの完全再現でなければいけないというわけではありませんが、ちょっとリハーサル不足だったかなぁ、という感じは否めないものでした。しかし、2008年のボストンにおけるハロウィーン興行で『Dark Side Of The Moon』に挑戦したこの『Dark Side Of The Mule』は聴いていて燃えます! リハーサルが足りていないところは『Holy Haunted House』同様なのですが、Pink Floydのほうはガチガチにコピーしなくても、それらしく聴こえるというのでしょうかね。安心して聴けますし、ウォーレン・ヘインズなりのどこかアメリカンな『Dark Side Of The Moon』の解釈というのも興味ふかく聴けます。このGov’t Mule版『Dark Side Of The Moon』は全曲再現ではなく抜粋という形になっており、その代りというわけでもないのでしょうが、「Welcome To The Machine」を除く『Wish You Were Here』全曲も披露しており、「Have A Cigar」も演奏しています。主にフェンダー・ストラトキャスターを使用するPink Floydのデイヴ・ギルモアに対しギブソン・レス・ポールの可能性をとことん追求してきたウォーレン・ヘインズでは基本のギター・トーン自体が大きく異なります。細かくトリッキーなプレイもそつなくこなしますが、ウォーレン・ヘインズの真骨頂はベンドもハンマリング・オンも豪快でレス・ポール特有の粘りのあるトーンを最大限に活かしたプレイにあります。Gov’t Mule版「Have A Cigar」でもヘインズの特性は遺憾なく発揮されており、粘るわ、重いわ、どこかサザーン・ロックっぽいわ、勝手知ったる名曲が違う味付けでお楽しみいただけます。
このライヴ盤は『Dark Side Of The Mule』というタイトルがついていますが、実際に聴くと、『Dark Side Of The Moon』は一種、ダシに使われた感があり、実際にやりたかったのは『Wish You Were Here』のほうだったのではないかと強く思います。記憶が定かではありませんが、『Wish You Were Here』収録の「Shine On You Crazy Diamond」はボズ・スキャッグスが1969年に発表した『Boz Scaggs』収録の「Loan Me A Dime」(オリジナルは黒人ブルース・アーティスト、フェントン・ロビンソン。彼の代表曲のひとつではなんですが、ボズ版とはかなり雰囲気が異なります)に構成がよく似ていることを以前書いたと思いますが、マッスル・ショールズ録音のボズ版「Loan Me A Dime」が持っていたダークなブルース・ロックに共通するものもあり、興味深く聴けます。
アメリカ人のやるPink Floydなんてという、プログレ原理主義の方には嫌われるでしょうが、『Dark Side Of The Moon』も『Wish You Were Here』もPink Floydがアメリカをツアーして回りその影響を強く受けそこから得たものが作品の根底にあるわけですし、このウォーレン・ヘインズの挑戦というのもごく自然なものだと思います。
この『Dark Side Of The Mule』3CD+DVD(Pink Floydのカヴァーだけ14トラック収めたスタンダード・エディションというのもあります)という長尺フォーマットのため、前出2作のアルバムからのPink Floyd楽曲に加え、やると思った「One Of These Days」やギタリストなら弾いてみたいと思うよね「Comfortably Numb」、「Shine On You Crazy Diamond」へのイントロダクション代りに演奏される「Pig On The Wing part 2」の他、ヘインズの趣味なのでしょうね『Meddle』の3曲目「Fearless」も演奏されています。おそらく、ここ以外でこう書いてもピンとこないかと思いますが、カケレコ読者の皆さんならわかっていただけると思います。ウォーレン・ヘインズ、そういうセンスの人なんです。
タバコにかんしての曲はまだまだたくさんありますが、さすがに1万字を超え、ヘロヘロです。只今、この部屋ではデヴィッド・ボウイ「Rock‘N’Roll Suicide」が流れております。そろそろキッチンの換気扇の前で一服しようかと思います。
今月の1枚は新譜で行きます。The Carpenters『(With The)Royal Philharmonic Orchestra』。カレン・カーペンター亡き今、新譜が出るわけがないと思うのは真っ当な考え方であろうと思いますが、The Carpentersってさぁ、ベスト盤の数、半端じゃないのは皆さんよくご存知かと。カケレコにおいてはカテゴリー的にはBとかCランクかと思いますが、世の中全般においては未だに大御所なわけですよ。試しにAmazonとかで検索かけると見たこともないベスト盤が10種以上出てくる時点でどうかしていると思います。
CD商売っていうのは不思議なもので、定番ベストとかよく言われますが、毎年同じものを売ろうと思っても、必ず売れ行きは減少していくわけで、そうするとリニューアルが必要になりますが、The Carpentersの場合、毎年コンスタントに需要があってそこに合わせてベスト盤を手を替え品を替え出しまくっていたら、完全に飽和状態になってしまった。ここ数年はそういう感じがしてました。そんな中このプロジェクトが発表されたわけですが、てっきりカレン・カーペンターのヴォーカル・パートを抜き出して完全オーケストラ・ヴァージョンにするものだとばかり思っていたのですが、実際に出来上がったものは、オーケストラ・パートの差し替えはあるが、基本はオリジナルのヴォーカル、インスト・トラックを生かしたニュー・ミックスに新規イントロダクション・パートとジョイント・パートを加えたものでした。
新規で作ったパートに関してはこれでもかと言わんばかりにロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラを全開モードでこきつかうのですが、このアルバムに収録されたオリジナルのヒット曲になると、慎重なんですねぇ。もうリスナーの記憶との戦いというか、かなり新規のアイデアが投入されており、注意して聴くと「あ、ここ違う」とか「お、ストリングスが裏メロ当ててる」とかいろんな発見があるのですが、聴きどころはそこじゃないよ、と言わんばかりにカレン・カーペンターの存在感が凄いわけですよ。
筆者、ポリグラム・グループから始まりそれがユニバーサルと合併した時代、ここで働いていたので、直接関わりはなくてもThe Carpentersというのはカタログの一つの柱であり、担当者は何事もリチャード・カーペンターにお伺いを立て、カタログ企画を進めてきたのを見てきたので、この人、決して仕事しやすい人ではないことを知っていますが、この作品聴いて、プロデューサーとしては凄いなぁ。うるさいだけあるなぁ、と感心しました。いや、それでは不遜だなぁ。今は尊敬しています。
カレン・カーペンターのヴォーカル・トラックに関していえば、定位が違うとか、イコライジング他、ミキシング方法が違うとか色々言えるんでしょうけど、どうでも良いかと。どこまでいってもヴォーカル・トラックは古い曲だともう半世紀近く聴き続けてきたいつものトラックです。でも、全体重厚なのよ。若くして亡くなったカレン・カーペンターがもし今も生き続け円熟していったらここに収められた曲をどんな風に歌ったんだろうというというインスピレーションが湧き上がる、彼女のヴォーカルが持つ力・引力をプロデューサー、リチャード・カーペンター引っ張り出しているのですよ。オリジナル・マスターのヴォーカル・トラックにそうした未来に繋がる種子、早くも円熟の域に達しようとしていた彼女の片鱗は存在していたけど、その時点ではまだ必要ではなかったのでそこをエンハンスすることはなかったけど、今回はそこをピンポイントで掬い上げたそんな印象を受けました。
音楽のミックス作業と例えばフォトショップとかを使ったPC上での画像レタッチ作業には共通するものが多数あるとかねてから思っていましたが、リチャード・カーペンターにとってはロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラってカラー・パレットのようなものだったのかなと思いました。オリジナル・レコーディング当時には、逆に若々しさに欠けると感じマスキングしたものを逆にオーケストラのカラー・パレットを最大限に活用して陰影つけて面に引っ張り出す、コントラストの明暗をひっくり返したかのような印象ですね。
収録曲だけ見てると、ありがちな鉄板ベストしか見えないのですが、これは新譜以外何物でもないでしょう。オーケストラはカレン・カーペンターを2018年の今の空気の中に蘇らせるためのツール、そしてそれを描き出せるのはリチャード・カーペンターただひとり。冷やかし半分で聴き始めたアルバムでしたが、ベシャベシャ・オーケストラのイントロで笑っていたのが、「Yesterday Once More」が始まってすぐに居住まいを正し最後まで真剣に聴きました。リチャード・カーペンター、ちょっと凄い仕事を成し遂げたなぁ、と思います。因みに日本盤とアメリカのターゲット・チェーン専売CDには「Please Mr.Postman」がボートラで入っていますが、これが何故ボートラなのかはすぐに判ります。やりすぎです。これ。
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