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「音楽歳時記」 第四十九回 2月1日 TV放送の日 文・深民淳

東京メトロ赤坂見附駅でPASMOにチャージをしようと。5千円札を入れて3千円チャージ。釣りは2千円なわけですが、2千円札が出てきて、何故か分かりませんが暗い気分になってしまいました。悪いことが起きそうな気がしましたね。何でなんでしょうかね?

さて、年は明けたのですが去年から仕事が団子状態になっている関係で気分は切り替わらず、盛り上がりもなく、ただなんだか寒い。ダウナー・モードです。今年は暖冬みたいな話だったと勝手に記憶していますが、TVのニュースでは爆弾低気圧だとかで豪雪にみまわれた地域の映像が毎晩流れ、僕が心配しても何の助けにもならないわけですが、被害が大きくならないよう心から祈ります。

自分ではTVはあまり見ないと思っているのですが、結局、TVで見た映像って心に引っかかるのです。否定的な訳ではないけれど、どっぷり浸かっている訳ではないと思っている自分の頭の中と裏腹に僕はTV世代の人間なんでしょうね。豪雪のニュース映像が頭に残ってどんよりとした気分が続いているのがその証拠のように思います。

2月1日はTV放送の日だそうです。日本初のTVの本放送が1953年2月1日午後2時に始まったのだそうです。内幸町の東京放送会館から流されたのだそうです。ロックの世界にもTVネタはたくさんあります。まず頭の中で鳴り始めたのがProcol Harumの「TV Caesar」。1973年アメリカでは一番売れた『Live In Concert with The Edmonton Symphony Orchestra』に続いて発表された『Grand Hotel』に収録されているナンバーです。R&B体質丸出しの熱いビートが魅力だったThe Paramountsを母体にデニー・コーデルに見出され、クラシック要素を大胆に取り入れる一方でThe Paramountsの持ち味だったR&B要素が混じり合いこのバンド・オンリーの世界を築き上げていました。当時、「青い影」は知っていましたが、Ten Years Afterを武道館に見に行った時に初めてそのサウンドをまともに体験した時は衝撃的でした。Ten Years Afterには申し訳ないけれど「こっちの方が好きかも」って感じです。で、ライヴ盤を聴いて『Grand Hotel』になるわけです。前にも書いたのですが、この『Grand Hotel』と続く『Exotic Birds and Fruit』の2枚、要はクリス・トーマスがプロデュースした2作ですが、これが気圧が低くて頭がなんとなく重い日に聴くと沁みるんですよ。ヨーロッパのヒンヤリとしたクラシカル・ムードとニューオリンズあたりの泥臭いR&Bの熱気が入り混じり他じゃ味わえないヘクトパスカルを醸し出すって感じでしょうか? まぁ、ヘクトパスカルは醸し出すもんじゃないよなぁ・・・。


TV Caesar

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で、その「TV Caesar」ですが、当時の歌詞担当メンバー(エルトン・ジョンにバーニー・トーピンがいたように専任作詞家というのは珍しくなかったわけですが、メンバーとしてグループ・ショットにも写っているのはあまりない・・・と書いたところで、King Crimsonにおけるピート・シンフィールドもそうであったかと気づく。どうも今日は本当に調子が悪いようだ)が書いた「TVの帝王、マイティ・マウス。彼の宮殿は全ての家に、全ての割れ目、隅をこっそり見ているといったTV依存の社会を皮肉った、あんたは家で座って世界を見ているつもりでも、見ているのは覗き見されたあんたの世界てな感じの歌詞なのですが、僕はマイティ・マウス分かりますが、今の人、分かるのかなぁ? ミッキー・マウスの親戚じゃなくて、ネズミのスーパーマンといったアニメ・キャラクターなんですが。なんか普通に書いていたのですが、それ考え始めたら思い切り時代を感じてしまった次第。

気を取り直して『Grand Hotel』の話を。このアルバムの勝因はやはり、クリス・トーマスのプロデュース・センスにあったかと思います。聴いていて思うのが、確かにそのメロディラインはブリティッシュ・ロック以外何物でもないのですが、ゲイリー・ブルッカーの塩辛い声で歌われているバックをブラス入りのルーズなサウンドに入れ替えたらR&Bの世界にいってしまうのに、このヨーロッパ的クラシカル・テイストにどこか暑苦しさを感じさせる低気圧ロック・グルーヴが加味された緯度も経度も不明な有り得ぬワールドが出現するトリッキーなサウンド作りは圧巻です。南の島で毎日ラムで酔っ払って過ごすという羨ましきロクデナシ譚「A Rum Tale」、霧のロンドンの景色の中にアメリカ中西部の歓楽街のネオンサインがぼんやり浮かび上がり気がついたら教会の礼拝堂で目覚めたみたいな奇譚じみたサウンドの「For Liquorice John」、全てが紫のベルベットに覆われた妖のラウンジでサイレンの如き歌姫のスキャットに微睡む「Fires (Which Burn Brightly)」、絢爛豪華な夢物語「Grand Hotel」何度聴いてもその世界は色あせることなく出現するのです。で、なんの話だっけ・・・。あ、TVだ。



アルバム作っている最中にせっかく見つけたベーシストが他のバンドに移籍する話されていたんじゃたまったもんじゃないよなぁというのが、Familyの『Bandstand』。初期のTV受信機を模した手の込んだ特殊ジャケット仕様のオリジナル・アートワークを再現した日本盤紙ジャケットも出ている1972年発表の6作目(’71年のコンピレーション『Old Songs New Songs』を除く)です。アナログ英盤オリジナルはブラウン管部分くり抜かれた部分に透明のフィルムが貼り込んであってそこにアルバム・タイトル『Bandstand』のレタリングが印刷されており、日本盤紙ジャケットはこれを再現していますが、米版はダイカットこそ英国仕様を踏襲したものの、フィルムは貼らず下のバンド写真の上に直接タイトルが印刷されていました。思い切り手の込んだアートワークのデザインはジョン・コッシュ。Eaglesの『Hotel California』、リンダ・ロンシュタットの黄金期の諸作品、ジェームス・テイラーなどウエスト・コースト系アーティストのアートワーク・デザインが目につきますが、一方でKing Crimson『Red』もこの人がアートワークを手がけました。 



で、そのKing Crimson。Familyがこのアルバムをレコーディングしている最中にロバート・フリップとジョン・ウェットンは電話で連絡を取り合い、太陽と戦慄クリムゾン始動へ向けての話し合いを続けていたそうで・・・。それはさておき、この『Bandstand』自体は英国ファンク・ロックの傑作だったと思います。ロックにジャズ、フォークの美味しいところをぶち込んでごった煮状態にしたサウンドと一度聴いたら忘れられないロジャー・チャップマンの超個性的なダミ声を乗せたサウンドは今も多くのファンを持っていますが、この『Bandstand』はFamilyにとって新境地を開拓した作品となったと思います。このアルバムを最後にKing Crimsonへ移籍してしまうジョン・ウェットンですが、このFamilyのドラマー、ロブ・タウンゼンドとの相性が良いんだ!ドタバタ系に加えズルズル感も大盛りのドラムにウェットンはしっかりファンクなベースラインを乗せているのですが、これがなんとも個性的。そのベースラインはファンク・テイストを踏襲、もの凄く的確なのですが、重い、重すぎる。しかも、そのタイミングがね、このFamilyだろうがKing Crimson、Uriah Heepだろうがパートタイムで参加しましたのRoxy Musicでも私がベースを弾きましたという痕跡を見事に残す独特のタイミング。これがドタズル・ドラムと化学反応を起こしとんでもなくユニークにしてリッチ極まりないボトム・サウンドを作り上げているわけです。

そしてこの上に乗っかるのが埃っぽくてファンキーなギター・カッティングを刻ませたら人間国宝的なグルーヴ王、チャーリー・ホイットニーがこのボトムを気持ちよく揺らし、そこに歌った瞬間に誰だか判るロジャー・チャップマンのヴォーカルだもの。滑りようがない。そこにもうひとつ隠し味として良いアクセントを加えたのがキーボードのポリ・パーマー。ホコリ舞う重量級ファンク・サウンドの上をひとり能天気に浮いた感じのシンセサイザーを乗せていくパーマーがいい味出しすぎ。この人、この後ライヴのサウンドチェックでシンセサイザー等キーボード機材のセッティングが長すぎて他のメンバーの怒りを買いクビになってしまうのですが、ここではその空気読めない性格が逆にチャームポイントとなっております。

サウンドの方ばかり褒めてますが、やはり今聴いても刺激的なのは曲も良いものが集まった点も見逃せません。オープニングの「Burlesque」は先に書いた良いところを濃縮したみたいな英国ファンク・ロック、ヘヴィ級の至宝のような曲ですし、「Ready To Go」、「Top Of The Hill」、「Broken Nose」とアップ・テンポから遅くて重いヤツまで品揃えも絶妙。昔ながらのFamilyのテイストを残した「Dark Eye」、遣る瀬無い系バラードの逸品「Coronation」、このアルバムからのヒット曲となり、のちのStreetwalkersでもライヴで演奏しないとファンが納得しないチャップマン&ホイットニーのアンセムとなった枯れたアコースティック・ナンバー「My Friend The Sun」までどっぷり楽しめます。

Burlesque

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お前に言われなくてもそこはもう押さえたという方には、ちょっと敷居が高いですが、Snapperが出したFamilyのボックスセット『Once Upon A Time』にボーナス・ディスクとして付いていた『Once Upon A Time & More』を是非。アウトテイクス集という位置付けなんですが、収録曲のほとんどがウェットン在籍時のもので、この『Bandstand』のセッションから別テイク、歌入れ前のインスト版等が収められています。「Burlesque」のインスト版なんかはチャップマンの歌無しでも十分凄いですよ。



枚数稼げば良いというわけではないのですが、今月は初っ端から脱線もせずに来たのにまだ3枚しか紹介していません。それでは帳尻を合わさせていただきます。TVネタで思いついたものの僕の守備範囲ではないところのものを含めズラズラと。

まずブルース・スプリングスティーンの「57 Channels (And Nothin’ On)」。1992年発表の『Human Touch』収録曲です。ずっとリズムをキープするベースが印象的で冷めた感触のヴォーカルがどことなく’60年代のサイケデリック時代のヒット曲を思わせるミステリアスなナンバーです。フランク・ザッパ「I’m the Slime」。1973年発表の『Over Night Sensation』収録のファンク・ロックでオープニングのいきなりザッパ、ギター弾き倒しから始まり、3分強の小品ですがギター・ソロ含有率は高い曲です。ザッパ様らしいメッセージが込められており曰く「TVは政府の手先。人類を政府の都合の良い存在にマインド・コントロールするための箱。チャンネルに触れてはいけない」のだそうです。因みに息子のドゥイージル・ザッパもライヴ・アルバム『Zappa Plays Zappa』(2008年)で取り上げています。

57 Channels (And Nothin’ On)

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I’m the Slime

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Blondieのヒット・アルバムで「Heart Of Glass」、「Sunday Girl」といったヒット曲を含む『Parallel Lines』収録の「Fade Away And Radiate」もTVに関連したナンバー。弾けるBlondieではなくブルー・ムード。深夜のTVを見ながら眠りに落ちていくかのような雰囲気が漂うナンバーです。Blondieにしてはちょっと変化球っぽい曲ですが、これが結構良い味出しています。なんだかどこかで聴いたようなギターのドローン・サウンドが・・・。そうでした、このギターはロバート・フリップ先生固有のもの。


Fade Away And Radiate

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Simon & Garfunkelの1969年作『Parsley, Sage, Rosemary And Thyme』に収録の「7 O’Clock News / Silent Night」はお馴染みのクリスマス・キャロル「きよしこの夜」のバックで夜7時のニュースの音声が流されるという仕掛けになっている曲。戦争への抗議、公民権法案可決への苦難に関するレポートが曲のバックに流れています。バックで流れているニュースのレポートは1966年にものだそうです。直接TVについて歌っているわけではありませんがZZ Top「TV Dinner」なんて曲もありました。ウォーキング・テンポのブギー・チューンで1983年のメガ・ヒット・アルバム『Eliminator』収録のナンバー。ちょっと不気味なプロモ・ビデオが印象的でした。TVディナーはレンジでチンのお手軽ディナープレートですが、ジャクソン・ブラウン1983年発表の『Lawyers In Love』のタイトル曲にもTVトレイと言い方は変わっていますが「TVトレイを食べながらハッピー・デイズ(’70年代アメリカの人気TV番組)にダイアルを合わせる」というくだりがあります。今、確認のため聴いていたのですが、歌詞の中にUSSRって出てくるということは、この時代ってまだソビエトだったんだんですね。なんだかこの頃にはとっくにロシアになっていたように思っていましたが・・・。


7 O’Clock News / Silent Night

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故ギル・スコット・ヘロンが1971年に発表した『Pieces Of A Man』のオープニング曲「The Revolution Will Not Be Televised」はそのタイトル通り「ただテレビの前に座っていても変革や平等は得られない」とファンキーなドラムとベースにフルートを加えたシンプルですが力強いバック・トラックに乗り熱く問いかけます。ヴォーカルというよりポエトリー・リーディングに近い形でラップのオリジンと言っても良いのかもしれません。ものすごく懐の深いアーティストでその音楽性はジャズ/フュージョン、R&B、ファンク、ディスコ、ロック、フォークを貪欲に取り込んだ滋味深いサウンドはロック・ファンにも強くアピールすると思います。オリジナル・アルバムも良いのですが僕は2012年に出たフライング・ダッチマン・レーベル時代の3枚組コンピ『The Revolution Begins: The Flying Dutchman Masters』を最近愛聴しています。CD2がライヴ・トラックやスピーチを集めたものになっており、「The Revolution Will Not Be Televised」もライヴ収録されていますが、ここでは更にシンプル、パーカッションだけをバックにしたヴァージョンになっているのですが、これにも強く惹かれます。リスナーの音楽嗜好を超え聴く者を惹きつける引力を持ったアーティストだと思いますね。

The Revolution Will Not Be Televised

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Genesis「Turn It On Again」がありました。1980年『Duke』収録曲。’78年発表の『…And Then There Were Three…』で変化の兆しを見せた彼らがポップへ大きく舵を切った作品からのシングル・カットもされたヒット曲でした。

Turn It On Again

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TVは20世紀を象徴する発明といっても良いものだったので流石にたくさん見つかりますね。Talking Heads『Little Creatures 』(1985年)には「Television Man」、2ndアルバム『More Songs About Buildings And Food』(1978年)収録の「Found A Job」の歌詞もTVと関係しています。Jethro Tull、イアン・アンダーソンのソロ・アルバム『Walk Into Light』(1983年)には「Black And White Television」なる曲もありますし、ボブ・ディラン『Under The Red Sky』(1990年)「T.V. Talkin’ Song」なんていうのもあります。

Be Bop Deluxeの『Drastic Plastic』(1978年)のジャケット裏のメンバー写真は4人の顔の部分がTVになっています。この写真は2004年に発売されたベスト・アルバム『Postcards From The Future… Introducing Be Bop』ではフロント・カヴァーに流用されていました。Be Bop Deluxeは40〜50年代のSFパルプ・マガジンの世界、当時はフューチャリスティックだったけど、彼らが活躍した70年代にはレトロなイメージになっていたガジェットをアートワークやビジュアルに好んで使っていました。1976年発表の『Modern Music』のアートワークではビル・ネルソン、右腕に腕時計型のTVをつけており、この腕時計TVはジャケット裏にも出てきます。ライヴ・アルバム『Live! In The Air Age』ではTVではありませんが1927年ドイツで製作されたフリッツ・ラング監督のSF映画『Metropolis』に登場する女性型アンドロイド、マリアの写真が使われており、デビューから解散までレトロ・フューチャーな世界観を貫き通しました。

Be Bop DeluxeはレトロなSF世界を意識的に70年代に持ち込んでいるわけですが、最初に発表されて時はフューチャリスティックで先鋭的なビジュアルだったのが、今見るとレトロ・フューチャーになってしまっているものもあります。

The Tubes1978年発表のライヴ・アルバムを含む5作目『Remote Control』です。赤ちゃんがユニット化されたモニター・コンソールの中で丸型のTVを見ているアートワークでした。実際この頃丸型TVってありました。僕の部屋にあったし。なかなかぶっ飛んだスタイルではありましたが、結構邪魔でしたね。70年代の終わりには粗大ゴミとして廃棄してしまった記憶があります。アリゾナ出身の二つのバンドがサンフランシスコに移ってきて合体、1972年に結成されたThe Tubesはそのグラム・ロック的イメージとシアトリカルなステージで話題を集め、1975年A&Mから『The Tubes』でデビュー。デビュー当時は日本でもかなりセンセーショナルな話題となっており、イギリスのRoxy Musicなんかと比較されていました。ハードでパンキッシュなサウンドの上をシンセサイザーが縦横無尽に飛び交うそのサウンドは刺激的で「White Punks On Dope」は当時のヒット曲としてもかなり刺激的だった印象があります。ベイエリアでは圧倒的な人気を誇り、カルト・バンドとしてシンパは多かったものの世界的なブレークまでは行かずなんとなく燻っていた時期に初期の総決算的ライヴ・アルバムに続いて発表されたのがこの『Remote Control』でした。

プロデューサーにトッド・ラングレンを迎え、シアトリカルなステージングは残しながらもAORオーディエンスにもアピールするサウンドに方向転換を図った転機の作品だったと思います。ポーランド出身の作家ジャージー・コシンスキーの小説「Being There」をベースにTV依存症のサヴァン症候群の主人公に纏わるコンセプト・アルバムという形をとっています。ラングレンは自らの活動ばかりでなくプロデューサーとしてもGrand Funk Railroadの『We’re An American And』、『Shinin’ On』、New York Dolls『New York Dolls』、Hall & Oates『War Babies』、スティーヴ・ヒレッジ『L』、パティ・スミス『Wave』など70年代に発表され今も聴き続けられている作品に関わってきましたが、この『Remote Control』はその中でもトッド・ラングレン色が強く出た作品でした。それまでのThe Tubesはライヴ・パフォーマンスにおけるシアトリカルな構成も影響していたのでしょうが、全体を貫くグラムでモンドなイメージはあっても、どこか捉えどころがないというか、かなりカオスな音楽性だったのが、このアルバムではポップ色が強いハード・ロック的なサウンドに変化。一本筋の通ったサウンドを作り上げました。そのサウンドは当時のラングレンのバンド、Utopiaにも通じるものがあり、アルバム・チャート的で見ても100位内に入ることのなかった3rdアルバム『Now』を越え全米アルバム・チャートで46位まで上昇するヒット作となりました。シングル・カットされた「Prime Time」もアメリカではチャート・インしなかったものの、当時アメリカ以上に人気を博していたイギリスでは34位まで上昇するスマッシュ・ヒットとなりました。日本でもこのアルバムは話題となり来日公演も行いました。『Remote Control』で打ち出したポップ・ハード路線はこの後どんどんエスカレートして行き、A&Mからキャピトルに移籍して以降の作品はAORオーディエンスの固い指示を得て1983年発表の『Outside Inside』はアルバム・チャート18位まで上昇するヒット作となりました。



今回、2月の原稿を書いているのですが、昨年の2月7日に亡くなったMR.BIGのパット・トーピーと話している時にこのThe Tubesの話になり、彼がアリゾナに住んでいた頃、このThe Tubesの前身となったバンドをよく観たそうでパット曰く「The Tubesのヴォーカルって僕がアリゾナで見た頃はドラムだったんだよ。それが無茶苦茶凄くてさ。今も良く覚えているよ」だったそうで、The Tubesのことを書いていたら急に思い出しました。パットがこの世を去ってからもうすぐ1年を迎えるんだねぇ。また淋しさが募ります。

今月の1枚は去年の後半に出たロベン・フォードの最新作『Purple House』です。多作な人でセッション参加も多いので急に何年ぶりのアルバムか思い出せませんでしたが、2016年のLost In Paris Blues Bandはプロジェクト的だったし、2017年はJin Chiのアルバムに参加したのが出ただけだと思うのでソロとしては2015年の『Into The Sun』以来かと思います。日本では1979年発表の『The Inside Story』で注目を集め、どちらかというとジャズ/フュージョンのギタリストみたいな捉えられ方をされていますが、元々は70年代初頭にブルース・ギタリストとして頭角を現した人なので、上滑りしない腰の据わったアダルト・コンテンポラリー・ロックを半世紀近くに渡り追求してきたアーティストとして見ています。

今回も良かったですね。僕にとってはほとんどハズレのない安心のブランドといったイメージのアーティストなのですが、歌もの中心の今回のアルバム沁みますねぇ。個性的ではないのですが、ギターに負けず劣らず淡々とした歌いっぷりのヴォーカルもいい味出していると思うのですが、本作ではさらに磨きがかかったというか、深夜にひとり静かに聴くにはもってこいのミスティなムードの楽曲が多いせいか、淡々ほんわかムードのヴォーカルの良さも際立っています。勿論ギターの方も絶品ですね。

別に軽く見てるわけではないのですが、ロック・バーとかでエリック・クラプトンとかかかると、「あぁ、クラプトンね、ハイハイ」みたいな感じで聴き始めるんだけど、ソロになった瞬間やはり「お!」となる感じって何となく分っていただけると思うのですが、それってやはりソロの説得力が圧倒的に高いからと思うのですよ。僕にとってのロベン・フォードのギターってまさにその感覚なんです。速弾きでも、トリッキーなプレイでも何でもないんですよ。何回か聴けば自分でも弾けると思うソロなんですけど、やはりプロのギタリストとして半世紀近く作品を出し続けてきたギタリストが紡ぎ出すソロって、ソロの組み立てばかりでなく、トーン、ニュアンスまで全て最良と思えるものを作品に収めるわけじゃないですか。単に音をなぞれましたと言うのと全く別次元のものなわけです。今回もいちいち感心するソロが目白押しでした。大人のための良質AORアルバムとしてお薦めします。特に「ロベン・フォード? あぁ、フュージョンの人ね」と言う先入観持っている方に強くお薦めしたいですね。ただ、ちょっと気になるのが今回のアートワーク。帽子かぶっているのですが、過去作品アートワークで帽子かぶっているものはなかったと思います。何か意図があってかぶっているのか、それともロベン・フォードも遂に毛髪が薄くなり始めたのか・・・。気になるところです。同じく出たらとにかく買っておきますというギタリストでもジョン・スコフィールドの場合はそんな心配ないんですけどね・・・。





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