甘いものは嫌いではないですが、どちらかというと和菓子の方が好きです。外郎(ういろう)の上に小豆が乗っている菓子がありまして、地味って言えば地味なのですが、ほんのり甘く結構好きなのですが、めったに見ないんですね。なんでなんだろうとずっと思っていたのですが、このコラム書かせていただいているおかげでその理由が判りました。
小豆のせ外郎は水無月というそうです。6月30日は「夏越祓(なごしのはらえ)」(別名:水無月の祓)という行事の日で、これは1年のちょうど半分に当たるこの日、年の半分を過ごす間に染み込んだ罪や穢れを祓うというもので、和菓子:水無月はこの日に食すのだそうです。下の外郎は暑気を払う、氷を表し、上にトッピングされている小豆は悪魔祓いの意味があるそうです。知らなかったなぁ。小豆乗せういろうでしっかり検索かかりました。
6月の限定商品だそうで、6月1ヶ月の限定、6月の下旬だけ販売など店によって違いはありますが、この時期の味覚のようですね。どうりで滅多に見ないわけだ、と思う反面、なんか冬に京都で食べた記憶もあり、あれはなんだったのでしょうかね。まぁ、京都とかではポピュラーなようですが、関東でも虎屋などが販売しています。
去年の6月も『梅雨時とブラス・ロック』などという無茶なテーマでしたが、今年はそんなわけで『そういえば、見ない』というテーマで行こうと思います。
まずは、何ヶ月か前に取り上げようかと思って引っ張り出して聴いたままになっていたTHREE MAN ARMY。ポールとエイドリアン・ガーヴィッツ兄弟がGUNの後に結成したハード・ロック・バンドで、3枚のアルバムを発表しました。過去何度かCD化されており、1stと3rdは紙ジャケット化もされていますし、3枚のアルバムを2枚のCDに収めたものも発売されていました。ブリティッシュ・ハード・ロックものの中でもかなり高レベルの作品を残したバンドですが、市中の中古盤店ではほとんど見かけませんし、あっても値段が法外だったりします。きちんと統計と取ったわけではありませんが、中古盤としては、ここ数年ではカケレコでの一番出現率が高いのではないかと思いますよ。
筋金入りのカケレコ・ユーザーには今更な話なのですが、このバンド、アルバム・タイトルがまぎらわしく、慣れないと発売順が解りにくかったりしますので、まずはそこから。デビュー作は『In A Third Of Life Time』。1971年リリースでオリジナルLPはイギリスがB&C傘下のペガサス・レーベル、アメリカはカーマ・ストラから発売されており、ギターのヘッドやドラム・スティックを組み合わせた銃のイラストは英米共通ですが、アメリカ盤はバックが銀色で銃痕のような小さな穴がくり抜かれたダイカット・スリーヴになっていました。タイトルにThirdという言葉が入っており、これだけだったら良いのですが、後で書きますが、実際の3rdのタイトルが紛らわしく、ちと混乱します。
続く2ndは発売国によってタイトルが違い、アメリカのワーナー傘下リプリーズから発売されたものはシンプルに『Three Man Army』、ドイツで発売されたものは『Mahesha』と題されておりアートワークも違いますが、基本、内容は同じです。レコーディング自体は1972年に済んでいたのですが、発売は1973年でした。ちなみにアナログ盤では、激レア・アイテムとして米・独のアートワークと異なるインドのガネーシャ神モチーフのものもありました。
最終作となった3rd『…Too』は1974年発表で、英米ともに同じアートワーク、タイトルなのですが、Twoではないのですが『…Too』になっているため、今みたいにインターネットで情報共有できなかった’80年代あたりではこれが2ndアルバムという記述もありました。タイトルも紛らわしいのですが、もうひとつ考えられるのは、2ndはネットで検索かけると英ワーナーのプリフィックスがKで始まる英盤の番号が出てくるのですが、筆者は今日に至るまで現物を見たことがないということ。おそらく、番号だけ取ってあって発売されなかったのではないか、と思われます。それ故、3rdアルバムのタイトルが『…Too』になったのではないかと思うのですが…。
さて、サウンドのほうですが、トリオ編成のハード・ロックとしては確実に“松”の部類に入る強力なブリティッシュ・ハード・サウンドが堪能できる上、元々、’60年代のメロディが立ったビート・ポップの時代から活躍している人たちなので、歌メロ・アレンジもしっかりしており、ゴリゴリのハード・ロックから、バラード、ハード・ポップ調のナンバーまで死角なし。ガーヴィッツ兄弟の関連作品を追ってきた人たちならわかると思うのですが、本質的に音楽的な幅は広く器用な人たちなんですが、ハード・ロックをやってもAOR系をやってもどこか無骨というか、いなたい感じが常について回り、そのほんのり「いなたい感」がこのTHREE MAN ARMYでは良い塩加減になっていると思います。
ペガサスから発表された1stアルバムはGUN時代の軽くサイケ色が払拭され、ハード・ロック全盛期にシーンに復帰したバンドならではのドライヴ感メガ盛り、アドレナリン全開、ギター&ベースの高速ユニゾン・リフが炸裂するオープニング曲「Butter Queen」で完全に持っていかれます。いきなりボトムがずっしりしたドラム・ソロから始まり、オーヴァードライヴが効いたギター&ベースのユニゾン・リフが始まる様は、同時代に活躍したMAY BLITZの2nd『2nd Of May』のオープニングと並び、未だ強烈なインパクトを聴く者に与えます。
しかしながら、この時代の平均値を大きく上回る1曲目のインパクトが全体の印象を支配しているかといえば、他も良い曲はあるものの、どこか’60年代のビート・ポップ的な要素が顔を出していて、バラエティには富んでいる反面、若干、まとまりに欠けるのも事実。1971年といえば、DEEP PURPLEは『In Rock』を発表済み、この年には『Fireball』が発表されているので、そこと比べると、先に書いたようにどこか、いなたい感じがしてしまいます。
続く2ndは1973年発表。しかしながら、制作はその前年の1972年となっています。PURPLEを再び引き合いに出すと、彼らはこの年代表作『Machine Head』を発表しています。制作年と発表年がずれるというのは、一年の終わりにレコーディングして、次の年の頭に発売すれば、当然年度が変わるのですが、この『Three Man Army』もしくは『Mahesha』の場合は、バンドとレーベルの間に何か齟齬があったのではないかと、思います。
バンドのラインナップにも変化があり、1stはSPOOKY TOOTHのマイク・ケリーがドラムで、一部、THREE MAN ARMYになる前、ジミ・ヘンドリックスと活動を共にしていたバディ・マイルスとバンド結成を画策した時期の素材も使われたため、マイルスもクレジットされていましたが、2ndではJEFF BECK GROUP『Coza Nostra Beck Ola』に参加していたトニー・ニューマンに交代。以降、彼がバンド解散までドラマーとして活躍します。
2ndは流れとしては、1stからで作り上げたサウンドを継承した形になってはいるものの、ブリティッシュ・ハード・ロックのトレンドが’71年から’72年にかけてタイトでソリッドなものに急激に変化したのを受け、ベーシックな部分は1stに比べより当時のトレンドに接近したものになっている反面、ここでも自分たちのルーツにまだ拘ったというか、メロディラインの作り等でどこか’60年代を引きずっているような印象を受けます。またハード・ロックのトレンドという観点に加え、この時期急激に発展したプログレッシヴ・ロックにも食指を伸ばしたかのような展開もあり、良い曲はあるけど全体の印象として捉えどころがないのもまた事実かと。
どこか一長一短の1st、2ndを経て、1974年に発表された3rdアルバム『…Too』は、すべてのフォーカスがピタッと定まった会心作となりました。ギター、ベース、ドラムスどれも手数が多く、時に暑苦しいくらいのバタバタしたいなたいサウンドになってしまう傾向を逆手に取り、そこを徹頭徹尾打ち出し、アルバム全体、軽くフェイザーが掛かっているかのような微妙な揺れが生じているサウンドは、アンダーグラウンド感大盛りで、ハード・ロックの醍醐味満載の作品となっています。2ndはどこかプログレ・ブームを意識したかのようなミステリアスなインスト・ナンバーからミッドテンポのハード・ロック・チューンに繋がっていくというオープニング・スタイルだったわけですが、この3rdではスピード感と音圧で圧倒する、1stで見せたスタイルに戻した「Polecat Woman」で一気にリスナーの心を掴みます。
バンドとして、はっきりとした方向性を打ち出したものの、THREE MAN ARMYはこの3rdアルバムを持って消滅します。理由はふたつ。まずはシーンのトレンド。1974年はイギリス本国ではハード・ロックは下降線を描き始めていたこと。固定客は多いものの、この年にはレイドバックやファンク系が台頭し始め、クラブ・シーンを主戦場としていたハード・ロック系がブッキングされづらくなったこと。もうひとつは、ガーヴィッツ兄弟の上昇志向。THREE MAN ARMY自体、最初はジミ・ヘンとやっていたバディ・マイルスを取り込もうとしていたくらいですし、トニー・ニューマンを加入させたのもジェフ・ベックとやっていたという点が大きかったと思います。要するに有名なドラマーとやりたかったんですよ。そのガーヴィッツ兄弟が1974年には元CREAM、BLIND FAITHのジンジャー・ベイカーと急接近した。BAKER GURVITZ ARMYの青写真が出来上がっていた。THREE MAN ARMYを発展させるタイミングに迷わず飛び乗ったというのもあったと思います。
カケレコでもほとんど中古盤がでないSIR LORD BALTIMOREも滅多にみないアイテムかと思います。2枚のアルバムはそれぞれ単体、2in1と過去、CD化されていますが、中古市場ではほとんど見かけません。カケレコでは先月くらいに2in1のCDが中古新入荷で1枚出ましたが、即売れてしまいました。オリジナルのアナログ盤は2枚ともメジャーのマーキュリー・レーベルから発売されており、その混沌としたヘヴィ・サウンドは元祖ヘヴィ・メタルと称されることも多く、またストーナー系のサウンドの走りとしても高い評価を得ていますが、権利関係の問題なのでしょうかね、同じマーキュリーから出ていたハード・ロックとしては明らかにこのSIR LORD BALTIMOREより知っているファンは少ないと思われるBULL ANGUSの2作品がしっかりCD化されていて、比較的容易に手に入ることを考えると、謎は多いです。
1968年に高校時代の友人だったジョン・ガーナー(vo, ds)、ルイス・ダンブラ(g)、ゲイリー・ジャスティン(b)の3名でニューヨーク、ブルックリン地区で結成されたバンドです。後にブルース・スプリングスティーンのマネージャーとなるマイク・アペルに見出された彼らは、アペルの助言で映画『明日に向かって撃て』の登場人物から取ったSIR LORD BALTIMOREというバンド名で活動を開始。ひたすら歪んだギター、ベースと混沌として沈みこむかのようなサウンドが注目を集め、1970年後半にデビュー作『Kingdom Come』でデビューを果たします。翌1971年2月にはBLACK SABBATH、J. GEILS BANDのサポートしてフィルモア・イーストに出演するなどの活動を展開。1971年には2ndアルバム『Sir Lord Baltimore』発表するも解散。その後30年以上のブランクを経て2006年に再結成し活動を再開するも、2015年、中心人物のジョン・ガーナーの死去に伴い再び活動を停止しています。
現在のヘヴィ・メタル系バンドなどを見ていると、やっていることは相当に反社会的なメッセージを発していたり、とてつもなくヘヴィなことをやっていてもそれを演奏している本人たちはどこにでもいそうな常識人、といったケースが多いのですが、このSIR LORD BALTIMOREは、特に1stアルバム『Kingdom Come』は危険な匂いと、葉っぱ系ヘヴィ・サイケの終着点とも言える混沌とした世界観を描き出しており、この危ない感はロックの長い歴史の中でも傑出しているように思います。
そのサウンドの混沌ぶりですが、そこまで各演奏者のスキルは高くないものの、CREAMの発表されている全音源中最も混沌としている(というより、3人とも他の二人に寄り添うなどという意識を全く持たずに演奏しているとしか思えない究極のバラバラ感)『Goodbye Cream』収録のライヴ・トラック「I’m So Glad」に匹敵する強烈な唯我独尊ぶりが堪能できる超独善的ヘヴィ・ロックが堪能できます。
ちなみにSIR LORD BALTIMOREの引き合いで名前を出した、BULL ANGUSですが、こちらは最近CD化されたのでカケレコの新品CDのカタログにも載っていますし、中古のほうでも見かけますが、これもあと数年すると、そういえば見ないというアイテムになることは間違いないでしょう。オルガン入りの汗臭いタイプのハード・ロックで、メンバー名を見るとヒスパニック系らしき苗字もあることからラテン系のテイストもほんのり香る、これもこのバンド独自のサウンドが堪能できる優れものです。
発売されているのは知っていましたが、レコードで持っているのでまぁ、良いかと思いスルーしていたら、いつの間にか入手困難になっていました、というのが、ERIC BURDON BANDの『Stop』、『Sun Secret』の2in1です。ERIC BURDON BANDは言うまでもなく、THE ANNIMALSのエリック・バードンが’70年代の半ばに、LED ZEPPELIN等、当時スーパースターとなっていたブリティッシュ・ハード・ロックの大御所の向こうを張って、「ヴォーカリストしては俺様の方が上じゃ!」という強い意気込みを込めて結成したバンドだったわけですが、何といっても、エリック・バードン、ヴォーカリストしてはブリティッシュ・ロック・シーン屈指の才能を誇りながらも、セルフ・プロデュース能力には恵まれておらず、このERIC BURDON BANDもB級ハード・ロックの鏡のような作品となってしまいました。どちらも悪くはないのですが、詰めが甘いんですよね。エリック・バードンもちょっとハード・ロックやらせると向いていないというか、苦しい部分もあるのですが、そこも含めて逆に良い感じなわけです。この辺のニュアンスは、普通はしているとまったく理解されないのですが、この拙文を読んでいただいている方には、なんとなく伝わるのではないかと思っています。あ、そういうわけで、つい先日、カケレコ中古盤新入荷で出たその2in1買ってしまったのは私です。もし、それ欲しかったという方いたらゴメンなさい。
最後に今月の1枚ですが、先日、大学時代の友人でうちの会社のWebなどを作ってもらっている、一晃くんから「これ聴いてみてよ」ということで渡されたのがこれ。クレイジーケンバンドのギタリスト、小野瀬さんのソロプロジェクト、小野瀬雅生ショウの『カモンレッツゴー』です。アートディレクションが高熊俊介、パッケージ・イラストを著名なイラストレーターのサイトウユウスケ(ミュージックマガジンの表紙等を描いていましたね)が担当するなどしっかりした作りになっておりますが、自主制作盤で、発売はライヴ会場等での販売がメインとなるようで、販売開始は6月5日代官山・晴れたら空に豆まいて(会場名だそうですが、変わった名前ですな)に於ける同バンドのライヴ時から販売というということになっております。
聞くところによれば、小野瀬さん、その昔、日本で最初にフェアライトを買った男として知られ、1980年代前半にテクノ系ユニットして活躍したTPOの中心人物だった作曲家・安西史孝さん(一応さんづけ)とご近所付き合いだったため、若い頃からMAHAVISHNU ORCHESTRAだのザッパだのを半ば強制的に聴かされて育ち、音楽家としてはある種幸せ、ではあるが世間一般的には真逆かもね〜、なバックグラウンドを持っているそうで・・・。(前出、一晃くんと安西さんは高校時代のバンド仲間なので、一晃から聞いたこの話は信ぴょう性あり)
さて、その『カモンレッツゴー』、アートワークは妙にポップだし、タイトルも懐かしや、ハルヲフォンかよ、という明るい装丁からはおそらく想像もつかない、大変どうかしているサウンドでした。全編、壮絶なとっちらかりぶりです。影響を受けたものと、頭の中に入ってきたものをミキサーにかけスムージー化したかのような音楽です。故フランク・ザッパもそうした傾向にあったのですが、ザッパの場合はそれぞれシリーズ別に作品になっていましたが、小野瀬さんの場合はそれが一枚の中にぶち込まれているため、さすがに一貫性という点は望まないでね、という感じですが、とっちらかってはいるものの、個人的には「あ〜、な〜るほどね」とか「お〜、こりゃ、THE VENTURESとTHE SPOOTNICKSが正面衝突してシャロン・タンディのバックをやった時のLES FLEUR DE LYSになりましたね」(文字面見ているとまったく何を言いたいか判らないと思いますが、聴いていただくとわかります)感心したり、クスクス笑ったりかなり楽しませてもらったのでここで紹介させていただいております。というわけで、この音楽を端的に書けと言われても私には無理ですので、以下、聴いていて頭に浮かんだキーワードを列記させていただきます。
PINK FLOYDとデイヴ・ギルモアのソロ、KING CRIMSON、フランク・ザッパ、フランク・マリノ、四人囃子、COSMOS FACTORY、ヒロ柳田、CAN、THE VENTURES、THE SPOOTNICKS、FOODBRAIN、MAHAVISHNU ORCHESTRA、BRAND X、REDD KROSS、STEREO LOVE、TRAFFIC、NEU!、パット・トラヴァース、TOTO、ジョー・ウォルシュ、ピーター・グリーン、10CC、WIGWAM、ARGENT、HELP YOURSELF、THE TUBES、PINK CLOUD、ZOOT MONEY、休みの国・・・。このうち20個ピンとくればいけます! とにかく個人的には楽しませていただきました。
それでは!
アメリカを代表するヘヴィ・ブルース・ロック・バンド。70年作の1st「KINGDOM COME」と71年作の2nd「SIR LORD BALTIMORE」との2in1CD。重厚なリズム、鋭角なファズ・ギター、野太くシャウトするエキセントリックなヴォーカル。70年代初期とは思えないヘヴィ過ぎるサウンドは圧巻の一言。
ガーヴィッツ兄弟がGUNの後に元スプーキー・トゥースのドラマーと結成したグループ。71年作の1st。スピーディーなギター・リフとスリリングなギター・ソロで仁王立ちするギターと疾走するリズム隊によるハード&アグレッシヴなアンサンブルが圧巻。トリオ編成による隙間のあるサウンドが、逆にバンドのスピード感を際立たせていてグッド!名作。
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