2022年10月28日 | カテゴリー:Column the Reflection 後藤秀樹,ライターコラム
タグ:
自分が好きな曲を集めた『お気に入り作品集』のようなものを作った経験は、多くの人があるだろう。
好きなアーティストのベスト盤を買ってきたものの、契約の関係から選曲が限られていて『何かしっくりこない』と思い、改めて自分が気に入っている曲を選んで自分だけのベスト・アルバムを作った経験もあるだろう。
私もその例にもれず、自分で好みの曲を選んで並べたものだった。その昔はカセットに、そして待望だったCD-Rにも焼いてきた。今ではPC内に取り込んだ音源からHD内にたくさんのプレイリストを作成している。
ジャンルごとに、「キャッチーな70年代ハードロック」とか「叙情派プログレ」、「哀愁のフォーク・ロック」といった形で自分なりにテーマを決め、季節や天気に合わせたプレイリストも作っている。
今回の『キーボード・ロック』に関してもそうした一連のプレイリストに位置づける感じで選んでいるのだが、ちょっと違った観点で取り組んでいる。オルガン関連でいえばクォーターマス(Quatermass)の『黒い羊(Black Sheep Of Family)』やイエスの『ルッキング・アラウンド』、ジェネシスの『ナイフ』、そして長尺曲だがキャラバンの『グレイとピンクの地(In The Land Of Grey & Pink)』といったあたりが私にとってこれまでの定番だった。しかし、それらはどれもアルバム単位でキーボード名盤として取り上げられているようなものだ。
よくあることだが、アルバムの中にたった一曲でもオルガンのカッコいい曲があるとそれも忘れがたいものだ。それこそ、自分が選んだキーボード・ロックの名曲と呼んでいいだろう。
近年の再発CDのボーナス・トラックの充実ぶりも凄い。正式な形でオン・タイムでは発表されていなかったものが、今になって聞けることのありがたさも感じ、そうしたものも仲間に入れている。
そうした事情を含めて新たなプレイリストとして楽しんでみたいと思ったのが、今回のコラムのきっかけだ。「えっ、これも好きなの? これが名曲?」と言われてしまうのは覚悟の上のこと。
今回も、英国オルガンの音色が強く感じられる曲をいくつか紹介したい。
◎画像1 Egg
最初は、カンタベリー・ロックの代表格のキーボード・プレイヤー、デイヴ・スチュワートの在籍でよく知られたキーボード・トリオ編成のエッグ(Egg)。70年ファースト・アルバムに収録された「ホワイル・グロウイング・マイ・ヘア(While Growing My Hair)」(Deram)から始めよう。
★音源資料1 Egg / While Growing My Hair
アルバムの全曲がメンバー3人の共作となっているが、歌詞を含めモントのアイディアが主となっているのだろう。この「ホワイル・グロウイング・マイ・ヘア」は、若者が髪を伸ばし始めた60年代中期以降のモントの体験が下敷になっている。当時の文化状況を感じさせて興味深い。複雑なリズムと曲展開ながら、きちっと端正に構成された曲だが、デイヴのオルガンの音にも既に彼の個性を持っていた。時代を感じさせる骨董品のような味わい。それが現在という時間に聞いてもじつに心地いい。
◎画像2 Egg関連 色違いArzachel
68年に4人組のUrielとしてスタートした歴史を持つ4人組。モント・キャンベル(Vo,b)、クライヴ・ブルックス(ds)、そしてスティーヴ・ヒレッジ(g)という布陣。しかし間もなくヒレッジが脱退。残った3人でエッグとして英Deramと契約を結んだ時期に英Evolutionからサイケデリックなアルバムの制作を依頼され、ヒレッジが戻って4人で69年に録音したもの。結局再編Urielの演奏ということになるのだが、契約上の事情から匿名的にArzachelとしてアルバムを完成させ流通した。サイケなデザインのLPは同じデザインながら英国では緑、米国では赤いジャケットというのが不思議だった。2007年になって初めてUrielの『Arzachel』としてEgg Archiveから正式なCD化されている。デイヴのオルガンもヒレッジのギターもカンタベリー・ロックの特徴的な初期作品としてよく知られるところとなった。
その後、ヒレッジはカーン(Kahn)として『Space Shanty』をDeramからリリース。そのカーンの唯一のアルバムにもデイヴがオルガン、ピアノを中心に全面的に参加。彼の演奏がアルバムの価値を高めていることは間違いない。彼はエッグ名義の3枚のアルバムを残すとともに、ハットフィールド&ザ・ノースやナショナル・ヘルスでカンタベリー・ジャズ・ロック・シーンの重要な役割を果たすことになる。
私はエッグの最初の2作品とカーンのアルバムを、キング・レコードが75年末から76年初春にかけて発売した『ブリティッシュ・ロック秘蔵盤シリーズ』(全12枚)として発売された時にすぐに買った。既にハットフィールズは聞いていたのでエッグが一番楽しみだったのだが、期待以上の作品だった。全体にアヴァンギャルドな音作りも魅力的で、モント・キャンベルの作る不思議な歌詞とメロディ、リズム感覚に大きく反応してしまった。後のインタヴューで、デイヴは本当のところギターを演奏したかったが、目の前のヒレッジの演奏を聞いてかなわないと思いオルガンに専念したというエピソードにも驚かされた。彼がオルガンにこだわってくれたことは大正解だった。それは多くの方が納得してくれるだろう。
◎画像3 Fuzzy Duck
今回の2つ目は71年英MAMに唯一のアルバムを残しているファジー・ダック(Fuzzy Duck)。いかにも英国ロック然とした面白いバンドで、全編オルガンも活躍している。なのに、何故かこれまでなかなか紹介されず話題にものぼってこない残念なバンドのひとつだ。ここでは2曲目に収録されている「ミセス・プラウト(Mrs.Prout)」を聞いてみたい。後半のロング・トーンのオルガン・ソロはピーター・バーデンスの奏法に近いものがあると思うのだが。
★音源資料B Fuzzy Duck / Mr.Prout
そのユーモラス(?) なジャケットの印象のせいか、MAMというギルバート・オサリヴァンで有名なポップ系のレーベルというイメージのせいなのか、聞く前から気がそがれてしまうのかもしれない。バンド名のファジー・ダックとは英国のパブでの飲酒ゲームのことで、ゲームが終わる頃には参加した誰もがべろんべろんに酔っ払ってしまうという。酒飲みには面白いゲームなのだろう。彼らのアルバムやシングルから感じられる音楽もハード・ロック風味のパブ・ロックと言えるかもしれない。
メンバーは強者揃いで、ミック・ホークスワース(Mick Hawksworth)、グレアム・ホワイト (Grahame White)、ポール・フランシス(Paul Francis)、ロイ・シャーランド(Roy Sharland)の4人。そしてアルバム発表後に2枚のシングルにはガース・ワット-ロイ(Garth Watt-Roy)が加わっている。
ドラマーのミックはタッキー・バザード(Tucky Buzzard)での活動後に参加し、解散後はトランクィリティ(Tranquility)に参加。さらにマギー・ベルやミック・ロンソンのアルバムにその名を見ることが出来る。ベースのガースはアンドロメダ(Andromeda)からの加入。ギターのグラハムはファジー・ダックがプロとしては最初のバンドになるが、直後にキャパビリティ・ブラウン(Capability Brown)、その流れでクレイジー・カット(Krazy Kat)に参加する。(私はCapability Brown関連としてこのファジー・ダックにたどり着いた。)
シングルにのみでアルバムには参加していないが、最後に加わったガース・ワット-ロイは、英Harvestからグレイテスト・ショウ・オン・アース(The Greatest Show On Earth)に参加し2枚のアルバムを出していることでよく知られた名前だった。彼はソングライターであり、ギタリスト、ヴォーカリストでもある。その後スティームハマー(Steamhammer)に加わっている。
しかし肝心のキーボード・プレイヤーのロイ・シャーランドは、ファジー・ダック以外の活動が見つからない。何か不思議な感じがする。
続いては、その名はよく知られているのに日本では全く話題にならないバンド、マン(Man)を紹介しよう。地元ウェールズでは超有名な人気バンドで、ヨーロッパでの評価も高い。
前身のバイスタンダーズ(Bystanders)として65年から68年までにハーモニーを活かした明るいポップス系のシングルを8枚出している。68年の8枚目のシングルとなったB面の『Cave Of Clear Light』がその後の変化を予想させるラーガ・ロックになっていて異色だったが、それは時代をとらえた変化の兆しと考えられた。
◎画像4 Man + Bystanders
その流れでバンドをManに改名し69年1月と9月に続けざまにサイケデリックに彩られ、スペイシーでアシッド感の強い2枚のアルバムを発表する。それが①『啓示(Revelation)』(Pye)と②『2 Ozs.Of Plastic With A Hole In The Middle』(Dawn)だ。前身のバイスタンダーズからみると、メンバーはほとんど替わっていないのに大きな変貌を見せたことに驚かされる。
今回は2枚目のアルバムから「Brother Arnold’s Red And White Striped Tent」を選んだ。サイケデリック感を持ちながらもブルース・ジャズ系の演奏だが、これも素敵。キーボードはクライヴ・ジョン(Clive John)。
★音源資料C Man / Brother Arnold’s Red And White Striped Tent
バイスタンダーズがマンに発展するにあたり新たなメンバーとしてディーク・レナード(Deke Leonard)が加入したことで飛躍的な変化を遂げることにつながったとも言える。その後、近年までの彼らの歴史や全アルバム、入れ替わりの多いメンバーを追うことはかなり大変なことになるが、70年代の流れはまず押さえておきたい。70年に③『Man』(Liberty)、71年に④『Do You Like It Here Now』、72年に⑤『マン(Be Good To Yourself At Least Once A Day)』、⑥『Live At The Padget Rooms,Penarth』、73年⑦『万物流転(Back Into The Future)』、74年⑧『狂気集団(Rhinos,Winos And Lunatics)』、⑨『スローモーション(Slow Motion)』、75年⑩『漆黒の世界(Maximum Darkness)』(以上UA)、76年⑪『The Welsh Connection』、77年⑫『All’s Well That Ends Well』(以上MCA)
*邦題を記したものは国内盤としてLPが発売されていた。
◎画像5 Man Selected Albums
先ほど、「日本では全く話題にならない」と書いたが、70年代後半の中古レコード店では結構目にしたので、あくまで私の印象でしかないが、当時はある程度売れていたと言えるかもしれない。
私が最初に聞いたのは⑤だった。ライナーには「彼らはスティーヴ・ミラー・バンドの影響を受けている」と書かれていて、確かにそのことは感じられる部分もあった。しかし、全体にジャム・セッション的な感じで、曲のメリハリは少なく淡々とした印象を受けたことを思い出す。さらに⑧ではクイックシルバー・メッセンジャーサービスのジョン・シポリナも加わっていると聞いて驚いたのだが、結局75年3月の全英ツアーへの参加で、その時のライヴがレコード化されたことになる。しかし、スティーヴ・ミラーやクイックシルバーの名前が出てくると、マンが(というよりディーク・レナードが)サンフランシスコ周辺の音楽への憧憬を持っていることがわかった気がした。
音楽的にはそのギターのディークがバンドに果たした役割が大きいのだが、それ以上に私がマンにこだわったのはキーボードだった。そのことに自分で気づいたのはずっと後になってのことだ。クライヴ・ジョンのキーボードも好きだったが、その後に参加したフィル・ライアン(Phil Ryan)の存在が自分の中に大きく位置付いてからのことだった。前回このコラムでアイズ・オブ・ブルー(Eyes Of Blue)のオルガン・プレイヤーとしてフィルを紹介したが、同じウェールズ出身ということで彼は⑤⑦に参加した後、ニュートロンズを結成し2枚のアルバムを出し、その後再びマンに加わっている。本当は彼のオルガンが聞きたいのだが、それらの作品では時代も変わりクラヴィネットやシンセ系も手がけるようになっていた。仕方ないとはいえ、やはり寂しかった。それでも⑦に入っている「Just for You」は今も大好きな曲のひとつだ。マンに関しては70年代のすべてのレコードを所有していて、時々思い出したように聞く。他の方々がどのように聞いてきたのかも知りたいものだ。
⑤に関しては、原盤はジャケットを開けるとウェールズ地方のイラスト・マップが飛び出すというのでちょっと苦労したが何とか英原盤を手に入れた。実に手の込んだ凝った作りになっていて驚いた。当然今でも大切にしてすぐ手の届くところに置いている。
◎画像6 Hardin & York 編集盤
次はちょっと意表を突いて、ハーディン&ヨーク(Hardin & York)のインスト曲を紹介したい。スペンサー・デイヴィス・グループ(Spencer Davis Group)に68年から在籍したキーボードのエディー・ハーディン(Eddie Hardin)とドラマーのピート・ヨーク(Pete York)。翌69年に彼ら2人がデュオ・チームとして活動をはじめてすぐの1曲。「David difficult」を聞いていただこう。オルガンとドラムだけの演奏ということになるが、何の過不足を感じさせずスリリングかつメロディアスなところが素晴らしい。
★音源資料 D Hardin & York / David Difficult
最近になってEsoteric系列のGrapefruitから6枚組CDアンソロジーが出されたばかりのハーディン&ヨーク。彼らは70年代に4枚のアルバムを発表している。
①『Tomorrow Today』(Bell ’69)、②『World‘s Smallest Big Band』(Bell’70)、③『For The World』(Decca’71)④『Hardin & York With Charlie McCracken』(Vertigo‘74)。
③の後、72年にはハーディンはソロ・アルバム『Home Is Where You Find It』を、そしてヨークの方も『The Pete York Percussion Band』をともにDeccaから発表する。さらに再編成スペンサー・デイヴィス・グループとしてハーディン、ヨーク揃っての『Gluggo』(Vertigo’73)も存在する。
◎画像7 Hardin & York Selected Albums
ハーディン&ヨークのCD化に当たってはボーナス・トラックが追加収録されているのだが、この「David difficult」はそのうちの一曲。69年のBBCのラジオ・セッションとして録音されたものだが、不思議なことに②③どちらにも収録されている。そうしたアウトテイクだったにも関わらず、彼らのベスト・アルバム『Listen Everyone…The Best Of Hardin & York』(Purple’2000)にも収録されたという事実がこの曲の持つ意味を物語っている。
2人ともベテランのミュージシャンだったが、特筆すべきはテクニックだけでなく曲作りにも演奏にも「歌心」が感じられること。彼らのアルバムを聞いているといつも歌心にあふれた音の流れに気持ちが満たされる。ダイナミックかつ繊細さを聞かせるプロ魂を感じられていつも感心する。
今回の最後はCzar (読み方が明確ではないが、広くツァールと呼ばれている) のアルバム未収曲だった「Ritual Fire Dance」。ファリア(Manuel de Falla)の「火祭りの踊り」として知られる現代クラシック音楽の有名曲のひとつだが、ツァールのアルバム用に録音されながらお蔵入りしてしまった曲。作曲者のファリアは1876年生まれ1946年に亡くなっていて、その権利の獲得が困難だったようだ。今ではCDのボーナス・トラックとして収録されているのでよく知られている。ここでのアレンジはキーボードのボブ・ホッジス(Bob Hoges)が担当している。
★音源資料E Czar(Tuesday’s Children) / Ritual Fire Dance
ツァールの70年唯一のアルバム(Fontana)の衝撃は忘れられない。冒頭の「Tread Softly On My Dreams」からやられた。分厚いメロトロンが響き渡り、アーサー・ブラウンのような重いヴォーカルに乗ってどこか邪悪な雰囲気が漂う。メロトロンの魅力にとりつかれていたその頃の耳にはあまりにも魅力的だった。
2曲目の「Cecilia」ではまた多彩なキーボード・ワークと力強いリズムが別の色合いを想起させて面白い。聞き進めるうちに、ゆったりとしたヴォーカルと曲調にはグレイシャス(Gracious)に共通したものを感じた。如何にも新たに登場した英国音楽という雰囲気が漂っている。
◎画像8 Tuesday’s Children & Czar
そんな彼らもツァールとしてのアルバムはこの1枚だけだったが、やはりチューズディズ・チルドレン(Tuesday’s Children)という前身となるバンドの存在が明らかになっている。2007年に発売された『Strange Light From The East~The Complete Recordings 1966-1969』(英Rev-ola)を手にした時には、そのジャケットの雰囲気からはツァールとの関連性などまるで想像できなかった。
チューズディズ・チルドレンは、当初メンバーだったフィル・コーデル(Phil Cordell)のポップ・センスを活かしたバンドだった。66年夏から秋にかけてColumbiaから2枚のシングルを出し、英ラジオ・チャートの20位から40位あたりに入るまずまずの結果を生んだ。67年初頭に出したシングル「Strange Light From The East」(King)はCDのジャケットにもなった東洋的な雰囲気を出した不思議なメロディを持っていたが、それがサイケ・ポップ的な評価につながった。そこでフィル・コーデルは脱退してしまうのだが、それまでの実績もあったメンバーのミック・ウェア(Mick Ware)が曲を作るようになり、同時にキーボードにボブ・ホッジス(Bob Hoges)と2人のホーン・プレイヤーを加えた。
その新たなラインナップでパイからも68年に2枚のシングルを出す。ホーン・プレイヤーはすぐに脱退したのだが、キーボードのボブはオーケストラ・アレンジも手がけるようになり、その存在感は強まっていった。そして68年にはMercuryからバロック・ポップ風味の「She / Bright Eyed Apples」をリリースする。
キーボードのボブが加入してからのシングル曲は、オルガンがカッコよく響いていて愛すべき作品となっている。その後もいくつかの曲をレコーディングするのだが、何故かお蔵入りとなっていった。
今回紹介した「Ritual Fire Dance」もチューズディズ・チルドレン時代の68年に一度録音し、ステージで演奏していたということもあり『Strange Light From The East』にもボーナスとして収録されている。
これは私の想像でしかないが、彼らの実力と可能性のほどをMercuryの親会社であるPhilipsに試されていたようにも思える。チューズディズ・チルドレンに残っていたメンバーは、ミック・ウェア、ポール・ケンドリック(Paul Kendrick)、ボブ・ホッジス、デリック・ゴフ(Derrick Gough)の4人。
そして69年の1月にやっとPhilipsからアルバム制作のオファーを受けた。彼らはレコーディングを続け、完成が近づいた12月にバンド名を変えることにした。作成したアルバムの音楽性を考えたときに、それまでのチューズディズ・チルドレンという名前が幼稚に思えてきたのだ。そこで選ばれた名前がツァールだった。ツァールとは「皇帝」「国王」といった意味になる。アルバムのジャケットをよく見ると熊が王冠をかぶった姿がある。(裏ジャケはわかりやすい。)
◎画像9 Czar LP (Back)
そして70年に入ってすぐ、アルバムの完成を目の前にしてドラマーのデリックが脱退してしまう。さらに、先ほど触れたようにアルバム用に用意してあった「Ritual Fire Dance」が収録を見送られることになってしまった。(かわりにアルバムに収録されたのが「A Day In September」だった。)そんな事情もあってか、70年5月にツァールのアルバムがFontanaから出された時に、期待されていたにもかかわらず会社側のアルバムのプロモーションも全くなかった。
彼らの失意とその後が想像できる悲しい話になってしまった。メンバー中目立った活動を続けたのは、ポールがタッキー・バザード(Tucky Buzzard)に参加した後、ソロになったことくらいでとても寂しいことになってしまった。(先に脱退したフィル・コーデルだけは、地道に活動を続けていた。)
しかし、その唯一のアルバムはその後のリスナーが支持し続け、今も伝説として生き残っていることを素直に喜びたい。
私がオルガンの音を意識したのは60年代後半、やはりプロコル・ハルムの「青い影」だったかもしれない。マシュー・フィッシャーの奏でるハモンドの音はやはり新鮮だった。
当時、日本のGSもオルガンを導入していた例が多いが、多くは古臭く聞こえたような印象がある。その頃の私のお気に入りはズー・ニー・ブーの「白い珊瑚礁」だった。当時はコンボ・オルガンという小回りのきく安価なオルガンが重宝されていたことを後に知った。GSはもちろん、ドアーズをはじめとしてロック・バンドがオルガンを導入した60年代中期には、様々に考えてオルガンも選んで使用されたのだろう。
その後、日本のバンドでもハプニングス・フォーの「あなたが欲しい」を聞いた時に、そのオルガンは「青い影」同様に聞こえてそれはハモンドを使っているからだということに気がついて、「すごい」と思ったことも懐かしい。
そう言えば歌謡曲の世界でも、中尾ミエの「片思い」やかぐや姫の「ペテン師」なんて曲もオルガン曲だったなんていくつも思い出すことが出来る。
洋楽では、今でもバブルガム・ポップと呼ばれ今も何故か一歩下に見られてしまうバンド、例えば1910フルーツガム・カンパニーがいるが、彼らの日本での大ヒット曲「トレイン」。そこで聞かれるオルガンは私にはカッコよく思えて大好きだった。さらに言えば当時の洋楽界を賑わせたスリー・ドッグ・ナイトのヒット曲の数々。彼らも印象的にハモンドを使っていたのだが、特に「ワン・マン・バンド」「ファミリー・オブ・マン」「オールド・ファッションド・ラヴ・ソング」等、多くの曲のイントロがオルガンだった。
そんなふうに、ヒット曲を聞きながらも無意識のうちにオルガンの魅力、面白さが自分の中に膨らんでいったような気がする。
だから、英国ロックにとりつかれてからも、オルガンを意識し続けている自分があるのかもしれない。
あ、もちろんピアノもメロトロンも大好きです。キーボード・ロック全般についても追って選んでみたいのですが、次回も「私が選ぶオルガン曲」③と考えています。お付き合いいただければと思います。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による新連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!第1回はコーラス・ハーモニーをテーマにプログレ作品をご紹介します。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による新連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!第2回は50年前の1968年ごろに音楽シーンを賑わせた愛すべき一発屋にフォーカスしてまいります。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!第3回は、ことし未発表音源を含むボーナス・トラックと共に再発された、ブリティッシュ・ロックの逸品DEEP FEELINGの唯一作を取り上げます。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による新連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!第4回は「1968年の夏」をテーマにしたナンバーを、氏の思い出と共にご紹介していきます。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による新連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!第5回は今年4月にリリースされた再発シリーズ「70’sUKPOPの迷宮」の、ニッチすぎるラインナップ20枚をご紹介していきます。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による新連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!第6回は氏にとって思い出深い一枚という、イアン・ロイド&ストーリーズの『トラベリング・アンダーグラウンド(Travelling Underground)』の魅力に迫っていきます。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による新連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!第7回は一発屋伝説の第2弾。72年に日本のみで大ヒットした、ヴィグラスとオズボーン「秋はひとりぼっち」を中心に取り上げます。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。今回取り上げるのは、英国キーボード・ロックの金字塔QUATERMASSの70年作!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。前回に引き続き、英国の名キーボード・ロック・バンドQUATERMASSとその周辺ミュージシャンに迫ります!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。前回に引き続き、英国の名キーボード・ロック・バンドQUATERMASSとその周辺ミュージシャンの活動を追います。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。4回にわたりお送りした英国の名キーボード・ロック・バンドQUATERMASS編も今回がラスト。ベーシストJohn GustafsonとドラマーMick Underwoodの活動に焦点を当てて堀下げてまいります!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。英国ポップ・シーンの華麗なる「一発屋」グループ達にフォーカスいたします♪
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。今回取り上げるのは、第2期ルネッサンスの1st『プロローグ』と2nd『燃ゆる灰』!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。第14回は、キース・レルフが率いた第1期ルネッサンス~イリュージョンをディープに掘り下げます。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。第15回は、キース・レルフにフォーカスしたコラムの後篇をお届けします!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。第16回は、英国ロックの名グループMARK-ALMONDの魅力に迫ります!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。第17回は、英国ロックの名グループMARK-ALMONDをフィーチャーした後篇をお届け!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。第18回は、70s英国プログレの好バンドJONESYの魅力を掘り下げます!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。第19回は、北アイルランド出身の愛すべき名グループFRUUPPの全曲を解説!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。70年代初頭に日本でヒットを飛ばした2つのグループについて深く掘り下げてまいります。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。今回は英国の名レーベルDAWNの作品群をディープに掘り下げてまいります!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。今回は英国の名レーベルDAWNの作品群を、アコースティカルなグループに絞って掘り下げます!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。今回は英国の名レーベルDAWN特集の最終回。これまで紹介していなかった作品を一挙にピックアップします!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。今回は、プロコル・ハルムによる英国ロック不朽の名曲「青い影」の魅力にディープに迫っていきます!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!
【関連記事】
ベテラン音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。今回は、アメリカを代表するハード・ロック・バンドGRAND FUNK RAILROADの魅力に迫ります!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。今回は、前回取り上げたG.F.Rとともにアメリカン・ハード・ロックを象徴するグループMOUNTAINの魅力に迫っていきます!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。今回は、中国によるチベット侵攻を題材にしたコンセプト・アルバムの傑作、マンダラバンドの『曼荼羅組曲』の魅力にディープに迫っていきます!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。マンダラバンドの2nd『魔石ウェンダーの伝説』の話題を中心に、本作に参加したバークレイ・ジェームス・ハーヴェストとの関連までをディープに切り込みます!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。マンダラバンドを取り上げる全3回のラストは、デヴィッド・ロールとウーリー・ウルステンホルムの2人の関係を中心に、21世紀に復活を果たしたマンダラバンドの活動を追います。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。今回は、クリスマスの時期に聴きたくなる、ムーディー・ブルースの代表作『童夢』の魅力を紐解いていきます☆
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。2021年の第1回目は、英国プログレの実力派バンドCAMELにフォーカス。結成~活動初期の足跡を辿ります!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。前回に続き、英国プログレの人気バンドCAMELの足跡を辿ります!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。デビュー~70年代におけるキャラヴァンの軌跡を追います。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。フラメンコ・ロックの代表的バンドCARMENの足跡をたどります。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。「忘れられない一発屋伝説」、今回はクリスティーのヒット曲「イエロー・リバー」にスポットを当てます!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。今回は少し趣向を変えて、北海道発のジャズ/アヴァン・ロック系レーベル、nonoyaレコーズの作品に注目してまいります!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。今回はブラス・ロックに着目して、その代表格であるBLOOD SWEAT & TEARSを取り上げてまいります!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」。前回より続くブラス・ロック特集、BS&Tの次はシカゴの魅力に迫ってまいります!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!ブラス・ロック特集の第3回は、BS&Tやシカゴと共にブラス・ロック・シーンを彩った名グループ達に注目してまいります。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!ブラス・ロック特集の第4回は、当時日本でも国内盤がリリースされていた知られざるブラス・ロック・グループを中心にしてディープに掘り下げます!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!ここまで米国のバンドにフォーカスしてきたブラス・ロック特集、今回は英国のブラス・ロック系グループ達をディープに探求!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!米国・英国のバンドにフォーカスしてきたブラス・ロック特集、今回は欧州各国のブラス・ロック系グループ達をニッチ&ディープに探求します!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!今回は、氏と5大プログレとの出会いのお話です。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!5大プログレ・バンドをテーマにした第2回目、今回はクリムゾン後編とEL&Pです。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!5大プログレ・バンドをテーマにした第3回目は、最後のバンドであるGENESISを取り上げます。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!3回にわたり5大プログレ・バンドをテーマにお送りしましたが、今回はその5大バンドも凌駕するほどの技巧派集団GENTLE GIANTを取り上げます!
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!今回は、高度な音楽性と超絶技巧を有する孤高の英プログレ・グループGENTLE GIANTの後編をお届けいたします☆
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!久しぶりの「忘れられない一発屋伝説」、今回はカナダのオリジナル・キャストを取り上げます☆
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!今回はVERTIGOレーベル屈指の人気バンド、ベガーズ・オペラのサウンドの変遷を追いながら、その魅力に迫ります。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!今回は名実共にVERTIGOレーベルを代表するバンドと言えるクレシダを取り上げてまいります。
【関連記事】
音楽ライター後藤秀樹氏による連載コラム「COLUMN THE REFLECTION」!今回は氏が選ぶ英国キーボード・ロックの名曲を、グループの来歴と共にご紹介してまいります。
コメントをシェアしよう!
カケレコのWebマガジン
60/70年代ロックのニュース/探求情報発信中!