2021年6月21日 | カテゴリー:Column the Reflection 後藤秀樹,ライターコラム
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世の中の音楽が『ダウンロードによる配信』に移っていこうとしているのだろうか。CDの売り上げも延びず、逆にアナログのレコードの復権のような売り上げの数字も示され、どこか混沌とした状況だ。
4月にユニバーサル・ミュージックから「初CD化&入手困難盤復活!! ロック黄金時代の隠れた名盤」と銘打たれたCDが81種発売され、結構な売れ行きを示しているようだ。私もほとんど持っている盤ではあるのに、国内盤であることが嬉しく結構な数を入手してしまった。このシリーズは<1965-1975編>となっているので、きっと続編もあるのだろう。
一方で輸入盤でも英CherryRedの勢いがすごく、英国ロックのニッチ系バンドのアルバムをコンプリートしたボックスが次々と出され、嬉しい一方でCD時代最後のアーカイヴを描いているようでどこか寂しさも感じてしまう。
最新ニュースとして、シカゴの伝説の「カーネギー・ホール」での全8回のライヴが、かつて4枚組LPで出されたものをCD16枚組のコンプリートで出されることが伝えられた。これは楽しみだ。でも、かなりの値段だ。さらに、17年に発売されて即完売になったEL&Pの23枚組のコンプリートの再発や、何とキャラヴァンの37枚組(!!)というとんでもないBoxまで予定されているのだから驚きを通り越して呆れてしまう。
私の次回のコラムはシカゴ、BS&Tに始まるブラス・ロックについて書こうかなと考えていた。
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そんなある日、友人から久し振りに手紙が届き、「こんな作品があるのだけれど知っているかい。」と4枚のCDが同封されていた。若いジャズ・ユニットの作品だった。ジャケットはなかなかカッコいいが、しばらく私の中ではジャズ中心の生活からは離れていたなあ・・・なんて思いながら、聞いてみた。
驚いた。正直、驚いた。久し振りに新たなバンド、ユニットの新たな作品が、北海道に登場していたなんて・・・・これが最初の感想だった。
今回は、いつものコラムとは趣が違うと思われるだろうが、その一連の作品群を紹介させて頂くことにした。
◎画像1 Cubic Zero・立方体 零
◎画像2 Cubic Zero・立方体 零/ Flying Umishida
最初に聞いたのは Cubic Zero・立方体 零 というエレクトリックノイズ・ジャズ・ロック・バンド。
2枚のアルバムを出していて、2018年の最初の作品が『Flying Umishida』だ。メンバーはサックスの吉田野乃子、キーボードの本山禎朗、ギターの佐々木伸彦、ベースの大久保太郎、ドラムスの渋谷徹の5人。
★音源資料A Cubic Zero・立方体 零/ Flying Umishida
15曲収録されているが、私はまず1曲目の「iwai」でやられた。初めて聞くものにとっては曲調以上にノイズ系サックスの響きを確認できて確かに衝撃的だ。リズムも複雑な展開を見せるのだが、単に前衛的とか実験的な位置にあるのではなく、確実に自分たちの音楽性として成立している凄みがある。2曲目の「もぐった先 Moguttasaki」も浮遊感なメランコリックさも見事だ。この作品のリーフレットからバンドの紹介文を引用する。
「前衛ノイズサックス奏者の吉田野乃子が札幌音楽シーンの一線で活動する個性的な4人のミュージシャンと結成したエレクトリックノイズジャズロックバンド。ハンドサインでゲームのように組み立てる即興演奏や、いくつもの異なるシーンから構成され、ものすごい情報量が一気に放出されるオリジナル曲。更にライヴ限定で吉田の師匠ジョン・ゾーンが複雑過ぎて自分のバンドではもうやってないような変拍子の難曲などを演奏。山の上の要塞のような強力なバンドを目指している。」
★音源資料B Live At Studios 1989 「Flying Umishida」
どの曲も不思議な雰囲気を持っているが、それをうまく伝えられるのはサックスの吉田を中心に各メンバーの高い力量と、どんな世界を描き出すのかという全体像が整っていることがあるのだろう。私は個人的にどんなジャンルにあっても前衛的演奏は苦手とすることが多いのだが、徹頭徹尾前衛に走るのでなく、海の底のような叙情性とユーモラスな部分も感じられ、このバンドに於いては音楽的表現の一部として素直に聞くことができた。
はじめて聞いて以来、久々のヘビー・ローテーションの1枚となってしまった。
◎画像3 Cubic Zero・立方体 零 / Floating Rabka
彼らの2枚目2020年の『Floating Rabka』も同時に聞いた。冒頭のタイトル曲は荘厳で印象的な長いイントロとエンディングを持っているが、中間部のギターの炸裂後ベースに導かれる高速ユニゾンは圧倒的だ。ここにも彼らも魅力が集約されている。2曲目の「Bismarck」も見事なジャズ・ロック曲。どちらの曲も「4」「5」時のジャズ期のソフト・マシーン(Soft Machine)やニュークリアス(Nucleus)を聞いてきた耳には全く違和感がなく、よく出来ていると感心すると同時に嬉しくなってしまう。
3曲目「Maina~Steel Dandhyism~」のレゲエにはちょっと驚くが、彼らの柔軟性を見ることが出来る。日付を曲名にした短い曲も5曲登場するが、誕生日の数字を音程に置き換えたテーマを元にしたものだという。7曲目「Oriental Momiji」や、複雑なリズムを持つ10曲目「うららか」では懐かしいフュージョン的な部分も聞くことが出来て面白い。
12曲目「Genghis Khan」は北海道人には日常的な「ジンギスカン」のことだ。渋谷はジン鍋をドラム・セットのように並べて叩くことの出来る世界で唯一のジンギスカン鍋ドラマーでもある(?)と紹介されている。この曲の中間部で聞かれるキーボードとサックスは完全に70年代プログレの世界だ。と思っていたら最後はドリフターズで有名になった「ヒゲ・ダンス(Do Ya)」風のリズムで締めくくられる。
ラストの「極北会のテーマ」。極北会とは何だか怖そうに聞こえるが、これは舞踏集団「極北会」のことで吉田が彼らのために書いた曲だ。
1枚目のアルバム以上に、メンバー各自の作品やソロもフューチャーされ非常に楽しめる。
不思議なことに、聞き続けていくうちに「どこで吉田のノイズサックスが入ってくるだろうか・・・」と探すようになってしまうところが面白いところだ。
残念ながら音源としてこのセカンドからは見つからなかったので、ファーストからアイヌ神話にテーマを得た「セタカムイ」を聞いて頂こう。
★音源資料C Cubic Zero・立方体 零 / ミュージック・ビデオ「セタカムイ」
ところでこの2枚とも「ウミシダ」(シダ植物のように見えて脳を持つ、生きた化石と呼ばれる海の生き物)」と「ラブカ」(これも生きた化石と呼ばれているサメ)という不思議な生物をタイトルに持っているのが面白いところ。これはサックスの吉田が曲作りにおいて「ヘンな生き物シリーズ」へのこだわりを持っているということらしい。
あわせて印象的なイラストのジャケットがまた素晴らしい。美術家、田巻祐一郞のオリジナルだ。アルバムタイトルから感じられる世界を見事に表わしている。これから水族館でウミシダを見る度に、このジャケットを思い浮かべてしまいそうだ。
◎画像4 トリオ深海の窓 / 目ヲ閉ジテ見ル映画
この作品もまずジャケットがひときわ魅力的で印象に残る。岩見沢在住の若き津田光太郎のイラスト。トリオ深海ノ窓というユニットはサックスの吉田野乃子に、ピアノの富樫範子、フレットレス・ベースのトタニハジメの3人。
普段は全く違うフィールドで活動しているメンバーが集まったものだ。完全に基本はジャズだが、架空の映画音楽、サウンドトラックのような世界観が楽しめる。アルバム・タイトル通り海の底を思わせる「空ヲ知ル」の世界観が大好きだが、これは吉田の出身地である岩見沢がある道内の空知支庁がモチーフになったのであろう。
★音源資料D トリオ深海ノ窓 Trio Shinkai no Mado. 1st album “目ヲ閉ジテ 見ル映画 Blind Cinema”
吉田の存在感はもちろんだが、普段はビバップを演奏するピアノの富樫の演奏もいい。空間的エフェクターを駆使するトタニが弾くフレットレス・ベースが効果的で、リチャード・シンクレアの姿と重なってしまった。ジャケットの魅力と共に、手元に置いておきたい作品である。
◎画像5 Canada / Malakut
このアルバムは今年4月に出されたばかりの作品だ。先に紹介したCubic Zero・立方体 零のドラマー、渋谷徹をリーダーに2010年に結成されたというからキャリアは既に10年を超えている。何の情報も持たずに聞いたのだが、まず1曲目の「Bismarck」の圧倒的な世界観を持った演奏に驚嘆させられた。
(これは先にも紹介したCubic Zero・立方体 零も「Floating Rabka」で演奏している。)
★音源資料E Canada / Bismarck
彼らは4人組だが、渋谷の他にはギターが2人北川勇介と及川量裕、そして低音が何とチューバ担当の坪田佳之である。全く意表を突いた編成だ。ギター2本のソリッド感とCubic Zero・立方体 零での演奏以上にビシバシ変拍子を決める坪田のドラムも見事だが、吹き続けることが難しいであろうチューバを武器にリズムを固める姿は是非生で観たいと思わせる。
長年、ジャズ・ロック、プログレを聞いてきたベテラン・リスナーにとっても驚きのバンド、そして作品である。
と、この4枚を聞いたのだが、ここで気になるのはすべてNonoya Recordsというレーベルから出ていることだった。ちょっと調べてみるとそのNonoya Recordsは既に10枚のCDを出していることが分かり、他のアルバムも聞いてみた。レーベル名からも想像できたが、Nonoya Recordsはサックス奏者の吉田野乃子のレーベルでもあった。
まずは彼女の簡単なプロフィールから紹介しておきたい。(公式バイオより抜粋)
「北海道、岩見沢出身。10歳からサックスを始め高校で本格的に取り組み、2006年に単身ニューヨークに渡りNY市立大学音楽科を卒業。ジョン・ゾーンと出会ったことで前衛音楽の世界に惹かれ、マルチリードプレイヤー、ネッド・ローゼンバーグに師事。NYで結成したSSSS(Sweet Seaweed Sex Scandal)で2010年5月にはドイツのメールス音楽祭に出演。2週間のヨーロッパツアーを行う。
2009年からNYで活動している前衛ノイズジャズロックバンドPet Bottle Ningen(ペットボトル人間)でジョン・ゾーン主宰のTzadikレーベルより2枚のアルバムをリリース。4度の日本ツアーを行う。
2014年4月、ベーシスト、ロン・アンダーソンの前衛プログレ・バンドPakのメンバーとして、ドラマー、吉田達也氏と日本ツアーを行う。2014年よりソロプロジェクトを始動。2015年6月には初のソロカナダツアーを行っている。2015年に帰国し、活動拠点を北海道に移す・・・」
と、驚くほど精力的に活動してきているわけだ。ネットの「Jazz Tokyo」でも「よしだののこのNY日誌」を米で活動していた時期に7回連載していた。これはなかなか面白いもので、ちょっと勉強してみたいと思わせる前衛シーンの様子をヴィヴィッドに伝えてくれている。ネットで彼女の名前を検索してみると、海外ミュージシャンとの共演も含めてかなり活動の幅が広いことが確認できる。
◎画像6 Nonoko Yoshida / Lotus
そんな彼女が帰国後に最初に出したソロ・アルバムがNonoyaの1番として2015年10月にリリースした『Lotus』だ。多重録音による日常の心象風景といった印象の作品で、意外なほど牧歌的な雰囲気も感じられ、アルバム・タイトルとジャケットの印象が瞑想的なイメージも増幅している。
★音源資料F Nonoko Yoshida Sax Solo Album “Lotus”
1曲目の「Take the F Train」のイントロは印象的で彼女のテーマ・リフだろうか、彼女の演奏の随所で聞かれるのだが、すぐに前衛的なノイズサックスの嵐に包まれる。3曲目「Taka 14」の一人多重演奏のユニゾンも気持ちよく聞ける。タイトル曲の「Lotus」は無編集の完全即興ということで、聞き手の感性が試されると言えそうだ。「Uru-Kas」は「うるかす」という北海道の方言のひとつだがその言葉を私自身久し振りに聞いたような気がした。そう言えば、幼い頃から食事後は台所で茶碗や食器を水につけておくように言われた習慣を思い出した。今では炊飯器でご飯を炊くのだが、昔は炊く前に米を水に浸しておくのも「うるかす」だったな・・・・と思い返しているうちに曲が終った。
どこか感傷的に聞こえる曲が多いのも、彼女が自分の家族や周囲の人々について思い浮かべてつくった作品が多いせいもあるのだろうか。私にはCubic Zero・立方体 零を聞いた後だけに深く聞くことが出来たように思えるが、この作品も後に残せるような名盤と断言できる。
この作品を聞いて思いだしたのが、75年に英Ogunから出たAlan Skidmore+Mike Osborne+John Surmanの3人の錚々たる英国のジャズ・ホーン・プレイヤーがつくった『SOS』というアルバム。
私はこれまでもそうだったように、関心をもったマイナー・レーベルは(できる限りではあるが)すべてを聞いてそのレーベル・カラーを知りたいという思いが強い。ジャズで言えば今触れたOgun、enja、Freedom等、マイナーというよりは大きくなってしまうが独MPS辺りは売れ線のようなジャケットなのに、絶対聞き手を選ぶようなフリーな作品も多く興味深かったことを思い出す。
Nonoyaから出されている残りの5枚の作品も紹介しておこう。
◎画像7 本山禎朗(Tomoaki Motoyama)/Incidentally + Incidentally 2
Cubic Zero・立方体 零でキーボードを担当している本山のピアノ・ソロ・アルバム。4年ぶりとなるそうだ。彼は2013年からプロとしての活動を始め、2015年、2016年にサッポロシティジャズ・パークジャズライブコンテストにて 花田進太郞Electric Bandの一員としてファイナリストに選ばれている。その後東京、滋賀、札幌と3つの拠点を持ち、ジャズに限ることなくジャンルにとらわれない活動を続けている。
2020年7月に2枚同時に発売されたもの。アルバム・ジャケットを眺めるとWindham HillやECMの一連の作品群と並べることが出来そうに見える。ソロ・ピアノというとキース・ジャレットやリッチー・バイラーク、ジョージ・ウィンストンらを思い浮かべてしまうが、間違いなくその流れを追った作品と言える。完全に即興演奏で、一連のバンド・サウンドとは完全に異なる静謐な世界が広がる。私にとっては完全に好きな世界観である。
★音源資料G 本山禎朗 4年ぶりのソロアルバム
彼はCubic Zero・立方体 零でも変拍子、ハンドサインによる演奏の中、その場に合せた多種キーボードを演奏し、曲の表情を多彩なものにしている。それだけに高い力量はうかがえる。しかし、ソロ即興はバンド演奏とは違った難しさがあることは想像できる。この2枚の作品は一気に録音したものだというが、その集中力はすごいと言えるのではなかろうか。
当初2枚組で発売も検討したということだが、購入者のことを考えて2種扱いで出すことにしたという。「Incidentally」は5曲「Improvisation I-V」で、「Incidentally 2」のほうは同様に「Improvisation」が9曲並んでいるが副題が各曲に添えられている。
私の大学時代に出たキース・ジャレットの「ケルン・コンサート」は、当時の大ベストセラーになった。当時入り浸っていたジャズ喫茶で新譜としてかかり、1曲目が流れた途端に、店にいた客が皆顔を上げて「キースの新しい盤か・・・」という表情になったのを今でも覚えている。直後にFMでもオンエアされ、エア・チェックして以来、長いことずっと私の夏の定番になっていた。今年はこの2枚を暑い日に部屋で流してみようと思う。
ところで、似ている2枚のジャケット。ネタバレになってしまうかもしれないが、写真は1が「トタン(金属)」、2が「ウッド(木)」と違いがあることに気づくとまた面白さが増すものと思われる。
◎画像8 Rooftop Camels 屋上駱駝 / Waltz For Polly
この作品は吉田と本山のデュオ。録音は2020年4月だからCubic Zero・立方体 零と前後してのレコーディングとなるのだろう。「猫ジャケット」としても今後もっと知られるといいなと思う。本作は、それぞれの曲が友人や知り合いのために書かれた曲を集めた作品集となる。
★音源資料H Rooftop Camels 屋上駱駝 1st Album “Waltz For Polly”
1曲目「セカンド・ライン・ソング」とはニュー・オーリンズ特有の葬儀、ジャズ・フューネラルで聞かれる特有のリズムが聞ける。葬儀に向かう段階では重厚だが、帰り道で賑やかに演奏されるリズムなのだが、ドクター・ジョン(Dr.John)のアルバム『Gumbo』(72年)に収録された「Iko Iko」がヒットしたことで、広く知られるようになった。本山のオリジナルだが、リズムだけでなく、何か思いを持っての曲だったのだろうか。2曲目のタイトル曲は、本作のジャケットも手がける吉田のNY時代の友人のために書かれた曲でPollyとは彼女が飼っていた黒猫のようだ。ここでは吉田はソプラノ・サックスを吹く。3曲目はCubic Zero・立方体 零のセカンドでも聞かれた誕生日ソングの吉田編の拡大版。
面白いのは7曲目の「花火」で、吉田の曲なのだが彼女は演奏せずに本山のピアノのみ。8曲目の「Shiba-reru」は北海道弁の「しばれる」のことだが実験的な1曲。凍えるような寒さを表現しているのか?
そして、5曲目「Painful Sky (for Takako T.)」は不慮の事故で亡くなった友人へ、9曲目「M’s Flat」は苦しんでいた友人への思いを表現した吉田のナンバーということだが、ここまで聞いてきた耳では意外なほどメランコリックな演奏でとても意外な感じがする。が、それだけに聞き手の心に刺さるほどに訴えかけてくる作品でもある。余韻はNonoyaの作品中一番大きい。是非聴いてもらいたい1枚である。
◎画像9 Vino Karma
この作品はVino Karmaを名乗るスリー・ピース・インプロジャズロックユニットのデビュー作。メンバーは大阪を拠点に全国各地、ヨーロッパでも活動するギタリストのヨシガキルイが、岩見沢在住のベーシスト富川健太、そしてCubic Zero・立方体 零、Canadaにも参加しているドラマーの渋谷徹と2020年に結成したユニット。20分を超える2曲を含む3曲のライヴを中心とした5曲が収録されている。
★音源資料I Vino Karma improvisatiom at 札幌キサ
注目は「Inprovisation from ゴジラのテーマ」なのだが、世界的に有名な日本のゴジラということになるが、エフェクターが多用され中間部ではエレクトロニクス作品といった印象も受ける。そして有名なテーマよりもこの中間部の方が個人的には面白かった。3人のコンビネーションが見事に表現されている。最初に公開された映画「ゴジラ」もそうだったが全体にダークでミステリアスなイメージが強く、もう少しダイナミックな盛り上がりを聞かせてくれたらよかったのにとも思った。
2曲目はコラージュ作品でテープの逆回転が多いが、演奏部分とラストは「ゴジラ」の続きといった印象。3曲目「Shakuzi」も即興演奏だが、ところどころにやはり「ゴジラ」が顔を出すような気がするのは気のせいだろうか。ヨシガキルイというギタリストを私はここで初めて聞くことになるが、中間部の単音の重ね方にロック・ギタリストではなくジャズ系の音を持っていることが確認できた。そして、そこに切り込んでいくベースの富川の面白い位置感も感じられた。ドラムの渋谷はどこでも凄さを見せつける。この作品の制作段階ではまだCanadaのアルバムに取り組んでいる最中だったということで、何と忙しい思いをしているのだろう。
◎画像10 VA/Play With Us
2020年7月に発表されたコンピレーションCD。
Cubic Zero 立方体 零 が主体となって、札幌を中心にしながらも彼らと対バン経験のあるバンドを15曲収録した意気を感じるアルバムだ。コロナ禍、ライヴ活動がままならない状態になったバンドはもちろん、ライヴハウスやイベント会場に売り上げの一部を寄付するという企画物になっている。
参加バンドを並べると Canada(札幌/千歳);Chikyunokiki(札幌);Cubic Zero 立方体・零(札幌/岩見沢);deadpudding(香川/愛媛);Enigma To Cattlemutilation(札幌);MERMORT(東京);te_ri(岩手/岡山);Tike(札幌);Plastic Dogs(名古屋);Pumpkin Sneakers(大阪);Yoshihiro Tsukahara(札幌);宇宙文明(札幌);喃語(札幌);ヨシガキルイ(大阪);吉田隆一(東京) +☆田巻祐一郞(東京)*ジャケットアート&デザイン となっている。
ノイズ系を中心としながらもあらゆるタイプの音楽性がバラエティ豊かに収録されていて、現在の音楽シーンを俯瞰するようで面白い。
★音源資料J ライヴハウス支援コンピレーションアルバム ‘Play With Us?’ Sample
間違いなく、ミュージシャンや彼らを支えるライヴハウス等の苦境は伝わってくる。いつまで続くかわからない混乱した状況の中で、それでも自分たちの出来ることをしていくしかないと、各々が自らの位置を保とうとしているのは強さを感じながらも、その辛さは理解できる。ライヴを待っているファンも音楽愛好者もたくさんいるわけで、どこかコミュニケーション不足となることは残念だ。その一方でこうした形で、自分たちの位置を守り、聞き手側に真剣に発信しようという思いは尊い。
Nonoyaレーベルの活動についても振り返ってみる。最初の「Lotus」は2015年に出ているが、次は2017年に2枚。数年に1~2枚のペースだったものが、2020年から今年にかけて6枚と増えている。これもライヴの機会が減ったためCD制作に向かったのだろうと私は勝手に想像している。
冒頭に、CDは今後『ダウンロードによる配信』に移行していくのではないかという危惧を書いた。今後ライヴが復活し、ミュージシャンはじめ関係者が本来的な活動が出来ることを願っている。ただこの危機的状況の中で、あえてCDとして魅力的な音源を提供してくれているNonoyaレーベルには感謝したい。考え方によっては、こうした時期だったからこそ私も聞く機会を得たと言えるかもしれない。
私と同じように「この時期だからこそ聞くことができてよかった。」と思ってくれる人が増えたら嬉しい。この世の中の事情が落ち着いたら、積極的な各バンド、ユニットのことだ。北海道内だけでなく、全国を回ることもあるだろう。皆さんのお住まいの地域にライヴが告知されたら是非注目して頂けたらありがたいと思う。
Nonoyaレコードの中心であるノイズサックス奏者の吉田に影響を与えた人物としてジョン・ゾーン(John Zorn)の名前が出て来たが、我々の世代では評価が大きく分かれ、苦手とする者も多かった。正直に言うと私もそうだった。ちょうどネイキッド・シティやペイン・キラーの諸作が出た頃はそのジャケットの印象からも嫌悪するタイプの音楽と認識していたほどだ。しかし、今回改めて検索してみると彼は2000年代に入ってものすごい数のアルバムをリリースしていることに驚いた。Youtubeでいくつかを見てみたのだが、非常に緻密なジャズ・ロックになっていて感心してしまった。
最後に、そのサンプルとして1曲、サウンドチェック段階から綿密に全体を統制するジョンのカッコいい姿と演奏を見ておきたいと思う。
★映像資料K John Zorn / Karaim
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ジョン・ゾーンに学んだ女性サックス奏者、吉田野乃子が主宰するnonoyaレコーズよりリリース、吉田のバンド立方体・零のドラマーを中心に、ギター/ギター/チューバという変則ラインナップで結成されたバンドによる21年1stアルバム。いやはやこれは強烈!まるでクリムゾンが『RED』のテンションそのままにジャズへと傾倒したかのような、嵐のように畳みかけるヘヴィ・ジャズ・ロックに一曲目より度肝を抜かれます。凄まじい手数で変拍子まみれのリズムをたたき出すドラムに食らいつくように、フリップとジョン・マクラフリンが共演してるかのような緊張感みなぎるプレイで牙をむくツイン・ギター。ゴリゴリと硬質に弾き倒すマハヴィシュヌ時代のマクラフリンっぽいプレイと、ロングトーンを多用した神経質かつどこか気品もあるフリップっぽいプレイの2本のギターの絡みが最高にカッコいいです。ユニークなのがチューバの存在で、ベースの役割を担いながらも、時に優雅かつ奔放に浮遊するメロディアスな表情もあって、硬派なアンサンブルに柔らかなタッチを添えています。マハヴィシュヌ・オーケストラや『RED』あたりのクリムゾンがお好きなら、このテクニカルな重量級サウンドは絶対痺れます。オススメ!
巨匠ジョン・ゾーンにも学んだ女性サックス奏者で、鬼才ドラマー吉田達也との活動でも知られる、吉田野乃子を中心とするサックス/ピアノ/フレットレス・ベースのトリオ、17年作。流麗なタッチで舞うピアノとフレットレス特有の滑らかさと丸みある温かなトーンのべースが創り上げる凛とした音空間に、ノイジーなサックスがなだれ込んでくるこのスタイルはなかなか凄い。サックスは叙情的な旋律にもただならぬ緊張感を帯びるプレイがきわめて個性的で、ジョン・ゾーン的であると同時に、プログレ・ファンにとってはVDGGのデヴィッド・ジャクソンも思い出させる演奏を披露します。タイトルにある通り、映像を喚起させるような表情に富んだ演奏が次々と切り替わっていくのが印象的で、目を閉じて思い思いの映像を思い浮かべながら堪能したい素晴らしい一枚となっています。
巨匠ジョン・ゾーンにも学んだ女性サックス奏者で、鬼才ドラマー吉田達也との活動でも知られる、吉田野乃子が率いるエレクトリック・ノイズ・ジャズ・ロック・バンド、18年作。師匠譲りと言えるノイズ・サックスの存在感に圧倒されるアヴァンギャルドで強靭なジャズ・ロックを展開。爆発的な手数で疾走するドラムと地を這うように唸るベース、硬質かつどこか陰影を帯びたタッチのギター、芳醇かつミステリアスな響きのエレピ。そしてサックスは、肉声による絶叫にさえ聴こえてくる生々しいプレイが不意にエルトン・ディーンのような軽やかでメロディアスなプレイへと自在に姿を変える、その切り替わりが実に見事です。ソフツ『3rd』に入ってそうなしなやかなテーマを持つジャズ・ロックに挑戦的なノイズ・サックスが乗っかる5曲目はきっとジャズ・ロック好きは堪らないし、スリリングかつちょっぴりユーモラスな即興演奏も随所で飛び出してきて聴き所満載。前衛的ではありながらも突き放すような感じはなく、人間的な表情に富む演奏が秀逸な一枚です。
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