2020年12月17日 | カテゴリー:Column the Reflection 後藤秀樹,ライターコラム
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今年も年の瀬が近づいてきた。外を歩く時の空気がいつものこの季節より冷たく感じるのはなぜだろう。例年にない息苦しさはマスクのせいか。実際の呼吸もそうだが、一番気になることは向き合う相手の表情が見えないこと。人との関わりを拒まれているように思われたのだが、そのうち気にしても仕方がないと何となく過ごすようになった日常。
新たな生活習慣はこれからも続いていきそうな気配に諦めのため息をつきながらも、やはり前向きでいたいという思いは変わらない。
そんな毎日だが、街にもTVのコマーシャルにも、クリスマス・ソングがいつもの年と同じように流れてくる。間違いなく時は過ぎ、季節は変わっているのだ。
そんな季節の流れの中にムーディー・ブルースの『童夢』が浮かんできた。絵本の表紙のようなジャケットに魅せられ、かつて夢中になって聞いた1枚のアルバムが、今という時代の中に昔聞いた頃の風景を伴って甦ってくる。私にとっては最初に聞いた時期ばかりでなく、毎年クリスマスになると思い浮かべてしまうアルバムなのだ。
◎画像① Moody Blues 『童夢』
原題は『Every Good Boy Deserves Favour』。直訳すれば「いい子でいたら、いいことがあるよ」といった意味になるのだが、じつは5つの単語の頭文字E,G,B,D,Fが、ト音記号の五線譜の下から上に順にE(ミ)、G(ソ)、B(シ)、D(レ)、F(ファ)に対応することを表している。子どもが覚えやすいように考えられた文ということだ。ちょうど、我々も歴史の年号や円周率を語呂合わせで覚えようと経験したタイプのものだろう。
トム・ストッパード(Tom Stoppard)とアンドレ・プレヴィン(Andre Previn)の同名の音楽劇が存在し、その邦題は『良い子のごほうび』と名づけられている。内容をちょっと調べてみたのだが、残念ながら難解な内容でどうもファンタジーではなさそうだ。
80年代に入ると音楽フォーマットはレコードからCDに移行していった。私はしばらくレコードにこだわっていたが、CDを買うとしたら最初の1枚は『童夢』にしようと決めていた。そして、考えたとおりに我が家に最初にやってきたCDは『童夢』だった。それくらい思い入れのある作品だ。
1971年7月に英国でリリースされ、日本では10月にシングル「愛のストーリー(The Story In Youe Eyes)」と同時に発売されている。彼らのDeram~Threshold時代の70年代の7枚のアルバムはLP時代にも、CDに移行してからも何度も再発されよく聞かれてきた。その中でもこの『童夢』に思い入れのある人は特に多く、間違いなく超名曲のひとつだと思う。
◎画像② 「愛のストーリー」国内盤シングル
私は当時中2。ラジオで一度聞いただけで気に入ってしまった。「愛のストーリー」のシングルはすぐに買うことができた。「サテンの夜(Nights In White Satin)」は知っていたが、当時FMでよくかかっていたビート・グループ時代の「ゴー・ナウ(Go Now)」の印象もあって積極的に聞くにはやや躊躇していた。さらにバンド名に「ブルース」がついていることもあり、音楽性もその方向にあるのではないかと勝手な思い込みもあったものだから積極的に聞くことは後手に回ってしまった。
それにしても、「愛のストーリー」の印象は今も最初に聞いたときの感動が忘れられないほどに強烈。イントロのギターの一発目のジャーンからやられた。スマートな曲調に乗ったジャスティンのダブル・ヴォーカルと厚いバックのコーラス、ギター・ソロもカッコいいし、メロトロンの華麗な音色。完全にノック・アウトされた1曲だった。
(このシングル・バージョンは日本盤のみのバージョンのようだ。実際にはアルバムから単純にカットしたものだが、その切り取る場所が独特であるがゆえに、より衝撃を強めたと言える。彼らの数多い編集盤に収録されている「愛のストーリー」は、アルバム冒頭の「プロセッション」から続く瞬間からはじまっているためにイントロが長く、印象がかなり違って聞こえるのだ。)
B面の「エミリーの歌」はほのぼのとしたやさしい曲。A面とは雰囲気が違ったが、フォーク・ソングというよりは童話的な雰囲気が感じられて気に入った。
★音源資料A 「愛のストーリー」(国内盤シングル・バージョン)
しばらくはシングルを聞いて我慢していたのだが、年末が近づき小遣いも期待できる時期となり、レコード店でアルバム『童夢』を試聴させてもらった。ヘッドホンで聞いたのだが、これがまたすごかった。
まずはジャケットの素晴らしさ。凝った紙質のテクスチャー・ジャケットでちょっとした高級感もあった。彼らの一連の作品を手がけるフィル・トラヴァース(Phil Travers)の仕事の中でも最高傑作だろう。目をかっと見開いた少年と不思議な老人。その老人が持つ糸に下げられた宝石。裏に回ると、月夜の晩にその老人に次々と物を渡そうとする2人の弟子(?) 。お話の一場面を切り取ったような意味ありげな謎めいた世界が魅力的に映った。ジャケットのイメージからも「聖夜~子供~プレゼント~老人(サンタクロース)~天使」が浮かんでくる。
さらに内側には、じつにカラフルな色調で楽しげに行進する人々の列。その中にはメンバーとプロデューサーのトニー・クラーク(Tony Clark)も描かれている。ジャケットだけでも欲しくなるような美しさだった。
1曲目の「プロセッション」の壮大な音世界、人類の創生からの歴史が音で綴られているようで衝撃的だった。右に左に様々な効果音とあらゆる楽器が登場する。核となる歌詞は「荒廃(Desolation)」「創造(Creation)」「共感(Communication)」と3つの「~tion」という名詞でまとめられていた。コラージュ的な曲なのだが散漫さは全くなく、それまで聞いたことのない凝縮感のある世界が展開されていた。(似たような感性に彩られた作品が翌72年に出されるYesの『危機(Close To The Edge)』だった。)
そしてメドレー形式でつながる「愛のストーリー」もそれまで何度も聞いたはずなのに、もの凄く新鮮に聞こえた。
その2曲を聴いただけで即、購入を決めた。
もう少し詳しく各曲を見ていこう。
A1『プロセッション(Procession)』
彼らのアルバムの1曲目は、導入部のイントロダクションとして哲学的な意味合いが強く、語りが入ったり、サウンド・コラージュが繰り広げられたりする。ここでのタイトルのProcessionという言葉だが、字義的にとらえると「行列」だが、神学的な意味に於いては「聖霊の発生」でもあり、先に述べた人類の創生的なニュアンスをうかがうことが出来る。
遠くから訪れたものが地上に現れ、大地の大変革の混乱から恵みの雨が降る。鳥の声やパーカッションで人類が生まれあらゆるものを創造し、協同作業を通してコミュニケーションが生まれる様子が描かれる。シタールやハープシコードの導入も効果的で、オルガンからメロトロンに引き継がれ、「愛のストーリー」につながっていく。(*ここで用意した音源資料は、A1とB1とをうまく組み合わせたもの)
★音源資料B Procession + One More Time To Live
A2『愛のストーリー(The Story In Your Eyes)』(Hayward)
彼らのそれまでの作品の中で最もハードさとスピードが感じられる曲かも知れない。私のようにこの曲で彼らを見直すきっかけになったという声を当時結構聞いた。ただ、この曲の歌詞はタイトル通りラヴ・ソングだと思って聞いていると足下をすくわれてしまいそうな気がする。「僕は君の子どもたちに驚かされる。僕らの人生には意味がない。待ちこがれている陽の光も、いつか雨に変わるだろう」と「終わりになれば幕が下りるのは当たり前。でもその時僕は君の優しい優しい愛の中に身を隠すことが出来る。永遠より長く。」という訳詞がずっと気になったままだ。普遍的な愛について歌っているのか、もっと別の解釈が可能なのか・・・。でも、こうした謎めいた部分がこのアルバムの魅力でもあるのだ。
A3『ゲシング・ゲーム(Our Gessing Game)』(Thomas)
最初の印象は、ロック・ヴォーカリストらしくない作品だなということだった。何かミュージカルの一場面のような展開。今となっては作者であるレイ・トーマスの立ち位置が分かるのだが、当時はちょっとした違和感を覚えた。(ビート・バンドだった時代にレイがマラカスやタンバリンを元気に打ち鳴らす様子は幾つも映像が残されているが、その姿はとても印象に残っている。)
でも歌詞は「人生のなぞなぞ遊び」と興味深いもの。「街角に立ち、不満を訴える人々を眺める。せわしなく行き交う不幸せな顔。盲目の彼らには物事の行く先がわからない。明日になったら僕をどうするつもりだろう。そんなふうに僕を考え込ませ、なぞなぞ遊びが始まる・・・」
50年前の歌なのに、何故か2020年のコロナ禍という今の様子に似ているように思えてしまう。
A4『エミリーの歌(Emily’s Song)』(Lodge)
ベースのジョン・ロッジの作品。当時生まれたばかりの彼の娘、エミリーについて歌ったラヴリーな曲。途中で演奏されるチェロもクレジットはないが自分たちで演奏している。アルバムの邦題を『童夢』としたこともジャケットのイメージや、こうした優しい歌の存在を深めることにつながったように思える。
A5『アフター・ユー・ケイム(After You Came)』(Edge)
ドラムスのグレアム・エッジの作品。力強さの裏にある規則正しく刻まれるドラミングの繊細さが印象的だ。確か、このアルバムでは初めてエレキ・ドラム・キットを使用していたはずだ。
B1『生命をもう一度(One More Time To Live)』(Lodge)
A1の「プロセッション」の続きという印象のジョン・ロッジ作品。途中で「~tion(~sion)」の単語が21個並べられる。「革命」「混迷」「幻想」・・・「瞑想」「霊感」「昂揚」「救世」「共感」「慈悲」「結論」とたたみかけていく展開は圧倒的だ。
B2『ナイス・トゥ・ビー・ヒア(Nice To Be Here)』(Thomas)
レイ・トーマスのお伽噺のような英国ファンタジー作品。彼のフルートが明るい強調を盛り上げ、ヴォーカル・スタイルもここでは見事にはまっている。ミツバチ、カエル、ドブネズミ、ウサギ、ハツカネズミ、モグラ、フクロウなどたくさんの小動物が登場する。さらに歌詞をながめると「・・・ing」で韻を踏んでいて、これも言葉遊びとして実に練られたものであることが分かる。
★音源資料C 『Nice To Be Here』
B3『家へ帰れない(You Can Never Go Home)』(Hayward)
ジャスティン・ヘイワードの作品。彼のギターは音色に特徴があって、すぐに彼の演奏だとわかる。このアルバムでも各曲に彩りを丁寧に添えていて感心してしまうのだが、自作曲ではさらに陰影が感じられ深味があって素晴らしい。「幸せな旅の終わりは、新たな出発を迫るもの・・・」というくだりはじつに味わいがあり共感する。
B4『マイ・ソング(My Song)』(Pinder)
個人的にはアルバムを最初に聞いて以来、歌詞も展開もずっと頭に残るほどに強烈な曲。キーボードのマイク・ピンダーの作品。全編ピアノとメロトロンが大活躍するドラマチックな大曲なのだが、ダイナミックなドラムと要所で入るオーボエやフルート、ハープの音色に繊細さが感じられじつに効果的だ。途中呼吸音が入るとハッとする・・・息苦しさからの開放・・・今、一番願うことかも知れない。
その後の大河の流れのようなコーラスとラストの余韻にも圧倒させられる。「愛は世界を変えられる。愛は人生を変えられる。好きなことをやりなさい。正しいと思うことをやりなさい。そして力の限り愛しなさい。手遅れにならないうちに・・・」
これも、現在の苦しい我慢の状況から抜け出すための意思表明として重ね合わせることが出来るのではないだろうか。
★音源資料D 『マイ・ソング』
ムーディー・ブルースは、バーミンガム出身のR&B系のビート・グループだった。64年の12月に出した2枚目のシングル「Go Now」が全英1位となるという幸運なスタートを切り、65年まで同じスタイルで6枚のシングルとアルバムを1枚発表する人気バンドだった。ちなみにムーディー・ブルースというバンド名は彼らの地元のビール・メイカーM&Bからとられたもので、語呂合わせでMoody Bluesとなった。(当時のシングルがほとんど日本盤としても発売されていた事実には驚かされる。)
◎画像③ デヴュー期のムーディー・ブルース
しかし、メンバーだったクリント・ワーウィック(Clint Warwick)とデニー・レイン(Denny Laine)が脱退し、66年7月に残りのメンバーの旧友ジョン・ロッジ(John Lodge)が加入、もう一人のジャスティン・ヘイワード(Justin Hayward)は50人のオーディションから選ばれた逸材だった。
当初からのメンバー、レイ・トーマス(Ray Thomas)、マイク・ピンダー(Mike Pinder)、グレアム・エッジ(Greame Edge)の3人を含めそれまで所属していたDeccaの傘下に置かれた新興のDeramに拠点を変え、67年に「サテンの夜(Nights In White Satin)」を含む『Days Of Future Passed』(Deram SML 707)を制作することになる。
◎画像④ ムーディー・ブルース Deram~Threshold期
Deccaの思惑はちょうど時代的に家庭用プレイヤーがモノラルからステレオへと移り変わる時期で、その普及の意味もあった。それだけに壮大なサウンドスケープが望まれ、ムーディー・ブルースはドボルザークの交響曲『新世界』を手本にしたピーター・ナイト指揮のオーケストラを導入した大作を作りあげたわけだ。結果的に英国アルバムチャートで67年11月にシングル「サテンの夜」は9位を記録し、アルバムも68年1月には27位となっている。
その後、オーケストラをマイク・ピンダーのメロトロンに移し替え68年『失われたコードを求めて(In Search Of Lost Chord)』を発表し8月に最高位5位を記録する。シングルも「青空に祈りを(Voices In The Sky)」が27位、「ライド・マイ・シーソー(Ride My See-Saw)」も42位とまずまずの結果を残している。
じつは、この2枚のアルバムはDeramの中でも「デラミック・サウンド・システム(Deramic Sound System)」というシリーズでリリースされていて、ステレオを一般家庭に普及する方向付けする目的のレコードだった。番号でいうとSMLの700番台がそれにあたるが、ラインナップを見ると他にはイージー・リスニングやポップス系のアルバムが並んでいた。(この辺りの事情は「ストレンジ・デイズ・レーベル・ブック1[改訂版](2005)」に詳しいので参照されたし。)
Deramには魅力的な英国ロック、ジャズの名作群が生まれていくのはご存知の通りだが、そちらはSDLの1桁台とSMLの1000番台、そしてDeram/Novaの諸作につながることになる。
ムーディー・ブルースはDeramからの3枚目にあたる『夢幻(In The Threshold Of A Dream)』をSML 1035として69年に発表するのだが、74週間もランクインし5月には初めてのアルバム・チャート1位になった。
その後、3作目のタイトルに含まれていたスレッショルド(Threshold)を自らのレーベルとして立ち上げ、『子どもたちの子どもたちの子どもたちへ(To Our Children’s Children’s Children)』(69年 最高位2位)、『クエッション・オブ・バランス』(70年最高位1位)と順調にリリースを続け、71年の『童夢』につながることになる。言うまでもなく、この『童夢』も英国1位に輝いている。
彼らの一連の作品はどれも主張を持ったトータル・アルバムになっていて、メドレー的につながっている。グレアム・エッジの詩の朗読がひとつのカギとなり、その全てが素晴らしいが、そんな中でも特に忘れられない名曲がたくさん残されている。「Ride my See-Saw」「Question」「Watching And Waiting」「Candle Of Life」「Melanchory Man」等々・・・
フィル・トラヴァースの描いたジャケットもどれも素晴らしかった。さらに国内盤では最初から歌詞と訳詩が掲載されていて、哲学的で視野の広い彼らの考えを深める意味でとても役立った。今回は『童夢』に限っていくつかの詩を取り上げたが、他の作品を今読み直してみても哲学的で示唆も多く、現在の状況にとって救いになりそうに思える。
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『童夢』が、どこかクリスマスを思わせるのはジャケットの印象にあることは違いない。
作品の顔となる表のデザインは先に述べたとおりが、内ジャケットに描かれたクリスマスの行進というのが、『童夢』の前年(71年)に日本で公開された英国映画『クリスマス・キャロル(原題Scrooge)』(1970)のイメージと重なってきてしまう。
画像⑤ 映画『クリスマス・キャロル』チラシ(部分)と『童夢』内ジャケット
『クリスマス・キャロル』はチャールズ・ディケンズ(Charles Dickens)の1843年の短編小説で、よく知られている作品だが、これまでに何度も映画化、舞台化等されてきている。
その中でもここに紹介する映画『クリスマス・キャロル』は、ロナルド・ニーム(Ronald Neame)監督の下でレスリー・ブリッカス(Leslie Bricusse)が音楽を担当したミュージカルの傑作と呼べる作品だ。
私はそれを当時の中学の映画鑑賞会で見た。全校生徒が集まることができるように街の中まで出かけて映画館を貸し切りで行う当時の一大行事だった。あらすじは金貸しのスクルージ爺さんがクリスマスも関係ない様子で仕事を続ける中、3人の聖霊が現れて、スクルージの過去、現在、未来を見せられることで改心を促すというもの。ストーリーも見事に描かれていたが、ミュージカル仕立の演出と音楽の素晴らしさ、特に昔の英国の町並みが描かれていることがじつに興味深く、またスクルージを演じたアルバート・フィニー(Albert Finney)、未来の聖霊の名優アレック・ギネス(Alec Guinness)をはじめとするすべての出演者の名演が光っている。
「映画鑑賞会なんてかったるい・・」と渋々参加した友人たちも、見終わった後は目を輝かしていたのが印象的だったが、本当に面白かった。私にとっては一生ものの作品となり、後にTV放映になった時にも忘れずに見たし、VHS、DVD、Blue-Rayとフォーマットが変わる度に買ってしまうほど。そして、毎年この季節になると必ず観る。まだ見ていない人がいたら今の季節に是非見て欲しいと心から思う。
今年は我慢を重ねる年だっただけに、絶対に感慨深く見ることが出来ると約束する。
ちょっと説明的になってしまったが、劇中の歌として「Thank You Very Much」が2度流れる場面で、町の人たちが列をなして踊る光景が、『童夢』の内ジャケの列をなす行進とイメージが重なっているのだ。
映画の後半のハイライトがきれいな映像でYoutubeにあったので、是非見ていただきたい。英国の昔の町並みも興味深い、途中の踊りを伴うリコーダー・アンサンブルや、ベルの演奏シーンは見事でグリフォン(Gryphon)を思い起こさせる。その後にスクルージ爺さん役のアレック・ギネスは当時まだ30代で、老け役を見事に演じている。
★音源資料E 「Scrooge 1970 Musical / Thank You Very Much」
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さて、その後のムーディー・ブルースだが、翌72年に『神秘な世界(Seventh Sojourn)』を出し、そこで一区切りをつけたような格好になる。驚きは『童夢』のジャケットのカラフルな印象から一変して、荒涼とした景色が描かれたことだった。タイトルは「7番目の一時的な滞在、休息」といった意味を持っている。『Days Of Future Passed』から数えて7枚目のアルバムで、当時からとりあえず一休みとなるような意思表示のように受け取られていた。
しかし、アルバムの内容はこれまたたくさんの佳曲が並んだ素晴らしさで、シングルも何曲も生み、中でも「ロックン・ロール・シンガー(I’m Just A Singer – In A Rock’n Roll Band)」は日本でも大ヒットした。
その後、バンドは一度活動を停止し、メンバー各自がソロ・アルバムを出す時期に入っていく。次のアルバムが出たのは78年のことで、その「Octave」を最後にマイク・ピンダーが脱退してしまう。
新たにパトリック・モラツ(Patrick Moraz)を迎え80年代に4枚の作品を残し、90年代にも主にライヴを中心に活動を続けた。レイ・トーマスも2002年に脱退し、バンドはジャスティンとジョン、グレアムの3人が中心となって活動を続けていくことになる。
◎画像⑥ ムーディー・ブルース『December』
そんな中、あまり広く認知されていない印象があるものの2003年に『December』というクリスマスアルバムをリリースしている。中には定番と言えるJohn&Yokoの「ハッピー・クリスマスHappy Christmas-War Is Over」や「ホワイト・クリスマス(White Christmas)」、「When A Child Is Born」、バッハやホルストの作品に混じってジャスティンが3曲、ジョンが2曲を提供している。
ジャケットがそのままクリスマスの冬の情景のイラストなので、あれこれと謎解きの楽しみはないが、やはり特別な思いを持ったアルバムとなっている。1曲聞いていただこう。
★音源資料F The Moody Blues / When A Child Is Born
これまでジャスティンとジョンはソロを出しながらも、ムーディー・ブルースとしてライヴをこなしてきたが、近年ではそれぞれがソロとしてコンサートを打つようになっている。「サテンの夜」以来既に53年を経過しているのだからこれまでの活動の集大成として、自分の思いを託したコンサートになるのも仕方ないだろう。何も文句はない。
イエスやイタリアのプログレ・バンドが、過去のアルバムを単位としたコンサートを企画しているのを見て、ムーディー・ブルースにも『童夢』再現コンサートを期待したのだが、まず無理だろう。レイ・トーマスは2018年1月に亡くなってしまった。
しかし、かつての作品群は変わらず輝きを失わないまま、これからも聞き継がれていくだろう。先にも述べたように、彼らの詩の世界には今の状況をいかに考え、どう脱出できるかのヒントが隠されているように思える。是非、紐解いてみて欲しいと思う。
今回の最後に・・・皆さんもクリスマスには、お気に入りのクリスマス・ソングを聴くことになるだろうが、先ほど紹介した『クリスマス・キャロル』の主題曲もまた素晴らしいので聞いていただきたい。
私は当時サウンド・トラックのレコードを買い逃したために、後で中古を探した。見つけるまで20年以上時間がかかったこともあり今では宝物だ。未だCD化されていないので残念だが、今ではYoutubeに上がっているので便利だ。この映像に寄せられたコメントを見ると、私だけではなく多くの人にとってクリスマスのFavorite Songのひとつであることがわかって本当に嬉しい。
★音源資料G 「Scrooge (1970) Soundtrack – The Christmas Carol」
今年も本コラムを読んでいただいた皆様、そしてカケレコスタッフの皆様、ありがとうございました。
今年は我慢を強いられる年となりました。
新たな年は展望を持てるいい年となっていくことを期待して !!!
Merry Christmas & A Happy New Year!!!
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帯無
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全英チャート1位、全米チャートでも3位を獲得したベストセラー作品。五人のメンバー全員がソングライターでありマルチ・プレイヤーでもあるムーディー・ブルースの代表曲を満載したポップかつアグレッシヴなトータル・アルバム。70年作。
活動開始は64年までさかのぼりビート系グループとしてデビュー、シングル・ヒットに恵まれながらも徐々に作風が変化し、プログレッシブ・ロックへのアプローチを開始。後に全盛を築くこととなるプログレッシブ・ロックバンドがデビューすらしていない時期からオーケストラとの競演や実験性に富んだ作品を生み出し、黎明期を作り上げたイギリスのバンドの71年6th。効果音を使った1曲目から名曲「ストーリー・イン・ユア・アイズ」へとなだれ込むと、ジャケットのようなファンタジックな英国ロマンが広がります。Justin Haywardの甘くジェントリーな歌声にスケールの大きなメロトロンが絶妙に絡み合い、シンフォニックな彩りも絶品。プログレッシブ・ロックのアイコンに恵まれた作品です。
87年規格、シール帯仕様、定価3,300
盤質:傷あり
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帯はケースに貼ってある仕様です
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