2018年9月7日 | カテゴリー:Column the Reflection 後藤秀樹,ライターコラム
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ハイレゾだとか、ネット配信だとか音楽を取り巻く形が変ってきている。スマホに音源を入れてそれはそれでいいが、街中をイヤホンで聴いている輩が山ほどいて危険なことこの上ない。CDショップに行っても売れ筋のものばかりで、探しているものが在庫されておらず、私たちの店ではないことを感じてしまう。在庫しても売れないと店としては商売にならないから仕方ないことはよく分かる。しかし、やはり寂しい。その一方でネット・ショップが山ほど生まれており、検索して注文することが多くなる。店舗を持たずに、ジャンルを特化すれば合理的に対処できることは理解できる。
最近の日本の人気アーティストの新譜CDには何らかの特典が付いて、初回盤と通常盤を合わせると幾つものパターンが存在し面食らってしまう。つまりどれを買えば過不足なく聞けるのかわかりにくくなっている。(私だけだろうか?)その一方で廉価盤CDが幅をきかせていて、AORやディスコ、ロック、ジャズ、フュージョン、そして各種のベスト盤が安価で気軽に入手できるようにはなっている。
私たちが、ラジオから流れる音楽に目ざめ、それこそ1枚のシングル・レコードを買うまでにあれこれ頭を悩ませ、やっとの思いで手に入れたことから考えると隔世の感がある。ここ最近、同年代の友人に「未だレコードを捨てられずに持っているのだけれど、どうしたらいいだろう。」と相談される。世の中ではまたブームがきていることになっているが、広く知られている訳ではなさそうだ。私はそうした相談に、今もレコードプレイヤーは手に入るし、レコードをクリーニングしてみると効果てきめんでいい音になることを伝えている。長いことレコードとともに生きてきた者にとっては、これだけ音楽の形が変ってきても、レコードはやはりなかなか手放せない大切なものだ。
しかし、音楽自体を聞く環境が変ったせいで、ステレオの前に座って音楽に対峙するという形はもう考えづらくなってきているかも知れない。私がレコードを未だに大切に考えるのはそうした瞬間を大切にしたいと考えているからなのだろうと考えているが、なかなかそういう時間も取れないわけで、BGMとして聞くことが多くなってしまった自分の習慣にため息をついてしまう。
そんな私たちの音楽習慣とCD環境に一石を投じるような企画が今年4月に発表されている。「70’sUKポップの迷宮」というシリーズの下の20枚(!!!)だ。このコラムを読んでくれている方ならすでにご存知のリリースだろうが、レコード・コレクター誌以外にここまでなかなか取り上げられる機会もなかったようで、ここで簡単に紹介しておきたいと思う。
『シング・チルドレン・シング』(71)
『我らを造りたまいし聖なる母』(72)
最初はレズリー・ダンカンのCBSからの2枚『シング・チルドレン・シング』と『我らを造りたまいし聖なる母』。前者は72年の作品。63年からシングルを複数出し、ソングライターとしても活動していた彼女の最初のアルバムとなる。今回のリリースは昨年英rpmから出た2枚組『Sing Lesley Sings:The RCA And CBS Recordings 1968-1972』が下敷きになった形となっていて、RCAからの2枚とCBSからの1枚、計3枚のシングルをボーナスに収めている。『我らを造りたまいし・・・』は翌72年の作品。彼女の63年のデヴューはアイドル(!)だったが、今回2枚のアルバムを聴いても分かるとおり、ソングライターとしての力量があったわけで、RCAの2枚のシングルを足がかりにその足下を固めたと言える。エルトン・ジョンが3枚目のアルバムで取り上げ、他にも多くのカバーを生む「ラブ・ソング」も彼女のペンによる名曲だが、私は個人的に『我らを造りたまいし・・・』のタイトル曲「アースマザー」と続くラストの「近い将来」が大好きだ。雷鳴がうなりを上げ、風と鐘の音で締めるダイナミックな曲調、それに続くアカペラで静かに幕を閉じる・・・見事な展開だ。今回の再発の特筆点は、全曲歌詞と対訳が付いていること。シンガー・ソングライターとして再出発を切った彼女の思いをしっかりと読み取ることが出来る。そしてさらに嬉しかったことは、曲名に添えられて日本盤アナログ発売時の邦題がついていたこと。当時から聞いてきた私たちを懐かしいノスタルジックな世界へと誘ってくれた。
彼女の2枚は当時物の国内盤で所有している。帯は・・・ついていない。
じつは最近になって彼女の73年以降のアルバムが3枚『Everythig Changes』『Moonbathing』『Maybe It’s Lost』も再発になったところだ。さらには9月には彼女の77年~86年の未発表曲集も素敵なジャケットで登場予定なので彼女の魅力を再確認するには絶好の時期である。(ちなみに彼女は2010年に亡くなっている。)
『トランクィリティ』(72)
『シルバー』(73)
輸入盤で見かけた瞬間に思わずジャケット買いしてしまった懐かしい『トランクィリティ』のファーストと、その後探したがなかなか手に入らなかったセカンドの『シルバー』とあわせて一気にラインナップされてしまった。彼らのアルバムリリースに到る道筋はライナーに詳しい(さすが小西勝さん)ので、ぜひ手にとって一読して欲しい。私がファースト・アルバムをその昔ジャケ買いして驚いたのは、あのクレシダのベーシスト、ケヴィン・マッカーシーのクレジットがあったことだった。ただ、ここにクレシダの世界を求めてはいけないが、彼らのシャープなコーラスはソリッドな演奏と相まって完璧だ。キャパビリティ・ブラウンやユニコーンにも通じるものがある。ということは、カントリー・ポップ的な感性を持ったバンドということになる。メンバーにファット・マットレス、タッキー・バザード、ファジー・ダックそしてキャラヴァンにつながる系列はブリティッシュ・ロック・ファンにはたまらないのは確かだが、驚きは彼らの2作品は72年の発売ということ。70年代半ばからプログレ系バンドはポップな形へとシフト・チェンジしていってしまうのだが、いちはやく、英国ロックの本格派がポップへの移行の芽を見せ、それが既に完成形になっているように思えるのだ。時代の流れではなく、自分たちの音楽の必然性としてそこに向かうということは凄いなと改めて感服してしまった。じつはこの形がビートルズにつながる英国ポップの直系にあたるのだが・・・。どれも素晴らしいポップ・センスだが、何はさておいてもセカンドのB面にあたる各曲を聞いてみて欲しい。こうした再発で広く聞かれるようになることは本当に嬉しいことだ。
『スターリー・アイド&ラーフィング』(74)
『ソート・トーク』(75)
これも本邦初発売となるバンドの2作品も同時に出される。米国音楽に憧れる英国ミュージシャンは多いが、このスターリー・アイド&ラーフィンは。もろにバーズだった。リッケンバッカーの12弦ギターの音が聞こえてきたら条件反射的にバーズを思い起こしてしまうのだが、ここに聞かれるハーモニーは間違いなく英国、曲調もマンドリン等の導入もリンディスファーン的な英国なだけに、バーズの影響下にありながらも、自分たちの音楽性として確立させようという意気込みは感じさせる。ファースト9曲目の「ロンドン生活」はギターリフが、ステイタス・クォのようでもあり、中間部のギター・ソロも含めて曲名通り英国のバンドであることの意思表明に思えて潔さを感じる。続く「ネヴァー・セイ・トゥ・レイト」のカントリー・ポップ風も心地よい。彼らはCBSからアルバムをリリースするが、今となっては余計なことだが、パンダ・レコードというプロダクション(マネージメント)に所属し、そのことがスリーブ裏に表記されていた。どうにもパンダのイメージはロックに向いていないように思えて、アルバムを買うにも少し戸惑ってしまったことを思い出す。もちろん、内容は良かっただけにあとで見つけたセカンドにもパンダがロゴ・デザインとして描かれていたことが違和感だった。それでも、懐かしいことにアラン・ボウンのキーボード、ジェフ・バニスターのクレジットを見て飛びついたのだった。(ジェフはその後バンド・コールド・Oに参加する。アラン・ボウンと共に懐かしいバンドだ。)そのセカンドの1曲目は、シングルにもなった「グッド・ラヴ」が、今回のライナーにも触れられているとおり、まるでラズベリーズという感じで、勢いのあるポップへの変貌が感じられた。ブリンズリー・シュウォーツ周辺の連中ばかりでなく、こうしたバンドが下からシーンを支えてきたことをぜひ感じ取って欲しい。
なお彼らのCDには2枚組のコンピレーション『That Was Now And This Is Then』があり、オリジナルの2作全曲にボーナストラックが含められたものもあるので、機会があれば合わせて聞いてみて欲しい。(Aurora AUR02 2003)
『ラーニング・トゥ・リヴ』(72)
『小川のように』(72)
『クリーシャ』(74)
女性ヴォーカルを中心としたPP&M系のフォーク・グループ。チュダー・ロッジと同じ構成ということになるが、人気と注目度では比較的地味に映ってしまうかもしれない。RCAからのリリースということもあって、2枚ともしっかりとプロデュースされた好作品。そのプロデューサーがPP&Mやチャド・ミッチェル・トリオといったコンテンポラリー・フォークを手がけていたミルトン・オークンであったことは、不覚にも今回はじめて知った。ファースト『ラーニング・トゥ・リヴ』は72年発表。雪降る街灯の下でギターを弾く少年の姿のイラストが印象的で、私は昭和30年代後半から40年代のTV番組の谷間に時間つなぎで放映されていた「唱歌の影絵」を思い出してしまう。どこか虚ろなのだが、記憶に残ってしまう。中ジャケットの同じモチーフのメンバー3人の写真も当時の英国らしい幻想的な雰囲気を持っていて素晴らしい。肝心の音の方は至ってシンプルでバックのポコポコというパーカッションが印象的で、すべてアコースティックの世界(バンド名がそうだものな)。ヴォーカルのクリーシャの力強さを持った美しい声が素敵だ。曲によってはフルートも取り入れ変化を生んでいる。今回対訳がついたことでその詩の魅力が一層鮮明になった。特に「死にゆく鳥が」が美しい。「I Feel Spring・・・」というリフレインが効果的であることに改めて気がついた。
セカンド『小川のように』は当時日本でも発売され、私も国内盤LPで持っている。ジャケットも可愛らしく、カラフルなイラストのせいか、1枚目より彩りを感じるような作品だ。裏ジャケットの3人のショットもファーストの幻想的な雰囲気から一皮むけた姿と受け止められる。間違いなく良くも悪くも生硬さのあった前作の雰囲気は払拭され、歓迎すべきポップな味わいが増した好作品に仕上がっている。ただ、バンド名から離れてエレクトリックの導入はどうだったのかという思いも残ってしまう。特にシングルカットされた「残響」のB面曲「ほんとにブルーなの?」は、途中で「デイ・トリッパー」のフレーズが出てくる部分は意外というより、やって欲しくなかった。「残響」のイントロはデヴィッド・ボウイの「スペース・オデッセイ」風のアコースティック・ギターに始まりおやっと思わせるが、タイトル通り夢見心地の雰囲気でさすがにA面曲か。
で、彼らは2枚の作品を残して消えてしまう。トム・ホイはマグナ・カルタに参加し、74年にGTOから『プッティング・イット・バック・トゥゲザー』を出し活動を続ける。その後、もう一人のロビン・タインも同バンドに参加し、さらに79年にはホイ/タインズ・ノヴァカタ名義で1枚アルバムを残している。残念ながら私は聞いたことがない。
一方、女性ヴォーカルのクリーシャ・コッチャンはソロで74年に『クリーシャ』を出すのだが、今回そのアルバムまでリリースされたことは驚きだ。オリジナルLPもそんなに入手は難しくないはずなのに、私もこのアルバムを入手できたのは5年ほど前だろうか。合成ではあるものの、山から平地を見下ろす風景をバックにクリーシャがギターを持つ美しく高貴に映るその姿を見せるジャケット。ちょっと中味の音楽が想像しにくいが、なかなか気品にあふれた素敵な作品だ。フォークといよりは当時流行していたMOR(中道ポップス)的な歌い方だが、ミュージカル的に歌い上げる部分もあり彼女の歌のうまさが際立っている。ジャケットのイメージのままの「山の女神が舞い降りて」や「画家になれば」は、プログレ的な雰囲気も感じられる。彼女はこのアルバム後、セッション・シンガーとして仕事を続け、特にアル・スチュワートのアルバムへの参加から、彼がプロデュースした81年のショット・イン・ザ・ダークの唯一のアルバムで紅一点として重要な役割を果たしている。フュージョン・オーケストラの女性ヴォーカル、ジル・スワードがシャカタクのメンバーになったかのような感じだろうか。
『フィッシュバー・フィッシュバー・アンド・ゾーン』(72)
これまた渋いところのリリースだ。名前やジャケットは見たことがあっても、聞いたことのある人は少ないのではないだろうか。(バンド名がなかなか覚えられない!)メロウ・キャンドルやチュダー・ロッジがCD化された頃に、女性ヴォーカルを含むフォーク・ロックとして注目を集めたことがあるが、FF&ZがCDになったのはずっと後のことで、それもマイナーな形だったので、聞けなくても仕方なかっただろう。何といっても英国CBS原盤ということで注目度は大きかった。アルバム冒頭こそファンキーな雰囲気で驚かされるが、全体には暖色系のフォーク・ロックを聴くことが出来る。彼らはじつは米国出身、それもニューヨークで活動を始めカリフォルニアで共同生活をしながら音楽活動をした経歴を持っている。私は今から25年前最初の海外旅行でレコードを買い集めた中の1枚として思い出深い作品だ。ジャケットの面白さ(ダブルジャケットの内側取り出し)もあったのだが、クレジットにスチュワート・カウエル(元タイタス・グローン)の名前を見つけてにやりとしてしまった。ただ、残念なことに私が買ったレコードは外れジャケだったのか歌詞部分の印刷が悪く読み取れないほどだった。今回のCD化にあたり、小さくはなったがしっかり見えるのはありがたい。(しかし裸眼で読み取るのはきついが、ちゃんと解説ブックレットに歌詞も対訳も付いているのが本当に嬉しい。女性ヴォーカルのポーラのヴォーカルはもちろん、ゲイリーとピートの2人の男性ヴォーカルも味があり、ハーモニーが厚さは特徴的だ。でもやはりファンキータイプの曲よりもフォーク・ロック・タイプの曲の方が私たちには魅力的だ。アルバムラストのアカペラも泣かせてくれる。
FF&Zに関しても『The Whole Story:The Complete Authorised Anthology』という2枚組がAcrobat Music(TRDCD3504)として2011年にCD化されていた。ただし、これはどう作られたのかCD-Rなのでどう判断していいか分からないが、未発表に終わったセカンド・アルバムが含まれている。これについては、また別の機会に触れてみたいが、ファーストの延長線上にありながら、収録曲にはロンドン、ニューヨークに対する思いが収録されていて興味深い。
『ザザーランド・ブラザーズ・バンド』(72)
『ライフボート』(73)
その名は知られているものの、未だ日本では正しく評価されていないと考えられるサザーランド・ブラザーズの2作品もリリースされた。アイランドからのファーストとセカンドで共に72年の作品。77年から発売権はCBS/Columbiaに移ったことで、今回のSonyからの発売となっている。イアンとギャビンのサザーランド兄弟のデュオ・チームなのだが、ファーストはあと二人のメンバーを加えているものの、セカンドデュオ名義になってみたり、後にはティム・レンウィックを中心とするクイヴァーと一緒になったりと、なかなか実態がつかみきれないことも評価を難しくしているのかも知れない。ファーストは素朴なメロディーに兄弟のハーモニーが特徴的で、ディランやCSN&Yあたりの影響は見逃せない。演奏のほうもきっちりタイトに決まっていて非の打ち所はない。これで決定的なヒット曲があればいいのだが、全体にクルーズ気分のゆったりとしたノリは決定だが足りない。確かに海を感じさせる曲調が多いが、セカンドはジャケットが荒海、タイトルは『ライフボート』。スコットランド出身の彼ららしいメロディーも出てくる。ここからは何といってもロッド・スチュワートが取り上げ大ヒットさせた「セイリング」のオリジナルを収録していることが大きなポイントだ。しかし、オリジナルのアイランド盤には収録されておらず、彼らの72年のシングルとして発表されたもの。75年にロッドのバージョンが全英1位になったこともあり、先にも述べた77年CBSからの再発時に曲目を差し替えて収録されたものだ。前作以上に各曲の出来が良く、フェアポート一派のリズム面のサポートや、ラビットやジョン・ホークンのピアノが印象に残る。私は、そんな中で壮大な「アイルランド」と最終曲「リアル・ラヴ」が本作のポイントだと考えている。特にアイルランド紛争は、彼らスコットランド出身のミュージシャンにとっても重要なテーマだったのだろうと想像する。
同じスコットランド出身のデュオ、ギャラガー&ライルについても今度またこのコラムで触れてみたいと思うが、まずはこのサザーランド・ブラザーズを楽しみたい。
『ティム・レンウィック』(80)
本作品に関しては、私は今回初めて聞いた。ティムの名前はクイヴァーやレイジー・レイサーといったバンドはいくつかで、アル・スチュワートやゲイリー・ブルッカーをはじめ、本当にあらゆるところでセッション・ギタリストとしておびただしい数のレコーディングでその名前を見ることが出来る。
それで、彼がソロ・アルバムを作るのならどんなアルバムかを想像してから聞いてみた。これまでのセッションでも控えめでサポートに徹しているのだから、ここではきっと歌物的に作っていると予想した。事実、とてもメロディアスで素敵な曲が並んでいた。予想が当たったということよりも、いいアルバムだなという思いが強く湧いた。ギターの腕前はさすがで、バッキングはもちろんリードも心地よい。歌物アルバムではあるが、レコーディングの巧さもあって彼のギターは味わい深く伝わってくる。クリアーなギタートーンは、ダイアー・ストレイツのマーク・ノップラーに受け継がれているような思いも湧いた。
ティムのHPがあって、のぞいてみると彼の優しそうで誠実な人柄が見えるような素敵なサイトだった。彼のキャリアの紹介も78-80年以降に限定されていてとてもシンプルだ。そしてギターを持った彼の表情がとても柔らかい。大変な作業になりそうだが、70年代に彼が参加したセッションワークも調べてまとめてみようかという気分にさせられた。皆さんもぜひ、彼のHPも訪問してみたらいい。
今回の「70’s UKポップの迷宮」シリーズとしてのリリースがなかったら、きっと聞くことのないままでいただろうし、またHPを見ることがなかっただろうと思えるので、本作のリリースはとてもありがたかった。
『C.O.B』(71)
インクレディブル・ストリング・バンド(ISB)やフェイマス・ジャグ・バンド(FJB)の中心メンバーのクライヴ・パーマーが71年に結成したバンド。実際には超レア盤として知られる72年のセカンド『Moyshe McStiff And The Tartan Lancers Of The Sacred Heart』が有名だが、今回リリースされたのは71年12月リリースのファースト・アルバム。こちらもブート盤として出回ったことがあるので人気盤である。COBとはクライヴス・オリジナル・バンドのことだ。もし、クライヴの名前もなく単独でこの1枚が出ていたとしたならば、瞑想的な雰囲気を持ったフォーク・バンドとして名盤的な扱いを受けていたかも知れないと思う。やはり、クライヴの名前は大きく、元ISBの・・・とついて回るところで逆に損をしているかも知れない。私がそう思うのは、ISBがどうにも捉えにくい音楽という頭を持っているからだ。実際にクライヴが参加しているのはデヴュー作のみなのだが、彼の影は英国フォーク・シーンを語るときには必ずついて回る。ISBの話についても今回は置いておくとして、このCOBのファーストはまた個性的で面白い。ほのぼのとして、ミステリアスで、つかみ所がないようで不思議な一貫性がある。ライナーにも書かれているように盛り上がりを見せていた71年の英CBSフォーク路線の1枚として間違いなく記憶にとどめておくべき作品だ。3曲目の日本的な音階は、その文学的な歌詞と合わせて私たちの感性に訴えかけてくるようだ。続く彼のお得意バンジョーランドは、バックにずっと流れる波打ち際の音を伴っていて風景が浮かんでくる。6曲目は唯一のトラッドだが、バックのお経のようなコーラスが頭に残ってしまう。個人的な注目曲は9曲目の「優しい奴隷」だが、タイトルからも想像はつくが歌詞の持つ意味は重い。
本作は72年に国内盤LPとしてリリースされている。当時は日本のソニーからエピック・レーベルが誕生し、数多くのヒット曲を出し注目していた。カタログの中にCOBの本作もあって絶対に聞きたいと思いながら年月が過ぎた。絶対に国内盤が欲しいという一念で、後年ようやく放送局放出の国内盤中古が入手できた想い出の1枚だ。今回、CDも国内盤として出されたことは私としても感無量だ。
『ハリー』(75)
『サイレント・マザー・ネイチャー』(76)
リフレクション・レーベルから出された71年のデヴュー作『What A Beautiful Place』はCD化もあり音源を聞くことは出来るが、相変わらず原盤の高さが際立っていることで有名なキャサリン・ハウ。彼女のRCAからの75年のセカンド『ハリー』、76年のサード『サイレント・マザー・ネイチャー』の2枚が今回のリリース。BGOから2006年に2イン1のCDが出されていたが、今回は各々オリジナル・デザインが表裏共にしっかりと採用されているので、彼女のポートレイトもしっかり拝むことが出来る。
前作から4年のブランクがあるが、『ハリー』での歌声は顕在。しかし何曲かは意表を突くディスコ系、ポップスもあるものの、バラードを求めるファンが多いだろうことは当然意識したであろう。期待を裏切らない曲もちゃんと用意されているから安心して欲しい。
サードは結局彼女の歌のうまさもあって一気に聞かせてしまう。様々な曲を歌いこなす器用さは彼女の天性なのだろう。アップテンポの曲は、エレピの導入からAOR的なフュージョンにも聞こえてくる部分もあるが、リズムがしっかりしているのでサウンド・プロダクションとしては完璧。時折、懐かしいFM番組「クロスオーバー・イレブン」を思い出す。そして、何よりもバラードが前作以上に心に響いてくるのは何故だろう。セカンドでは2曲のカバー曲があったが、それ以外すべて、そしてサードでは全曲が彼女の作品だ。久しぶりに改めて聞いたが、じつによく出来た作品だ。いや、少なくとも70年中盤の女性ヴォーカルものとしては傑作だと思う。遅まきながら今になって気がついた。そう言えば2005年に出した『Princelet Street』で、全く変らない歌声を聞かせていたことを思いだした。
私はアナログでは所持できていないままだ。ファーストはともかくも、今回発売された2枚ともに店頭では廃盤価格以外では見たことがない。78年のアリオラから出た4枚目の『Doragonfly Days』とシングル『Harry(4曲EP)』を持っているのみ。でももう今回のCDで十分かな。
彼女の『What A Beautiful Place』のCD化で追加されたボーナストラックがじつに素晴らしい。今回はその曲のみをYoutube音源としてここにとりあげる。タイトルとは裏腹にじつに静謐な清涼感のある曲だ。
Catherine Howe / In The Hot Summer
「ライディング・オン・ザ・クレスト・オブ・ア・スランプ」(72)
「ホワイ・ノット?」(73)
ラヴ・アフェアでリード・ヴォーカルを取り、多くのヒット曲を持つスティーヴ・エリスのバンド。何といってもズート・マネーと組んだということで、当時は(あくまで英本国では)話題になったことだろう。
ラヴ・アフェアは「エバーラスティング・ラヴ」「レインボウ・バレー」「ア・デイ・ウィザウト・ラヴ」「ワン・ロード」「ブリンギング・オン・バック・ザ・グッド・タイムス」と68年6月から69年6月までの1年間に5枚のヒットを生んでいる。その後のスティーヴ・エリスの姿は、かつてのクリス・ファーロウばりの迫力が出て、どうにも近づきがたかったが、この頃(70年前後)はまだアイドル後の脱皮を図っていた時代のように受け止めている。一方のズート・マネーだが、スティーヴの8才年上の先輩格にあたる。英国ロックの伝説的なズート・マネー・ビッグ・ロール・バンドとして64年のレコード・デヴューから、そのグルーヴィなオルガン・プレイは人気を博した。当然レコードも発表するが、フロアーでのライヴに注目が集まった。その後もダンタリアンズ・チャリオットを結成したり、エリック・バートンのアニマルズに参加したりするが、その後はセンッション・マンとして活躍することになる。英国ロック界においては、彼と共に活動したメンバーがその後活躍することから、私はジョン・メイオール的な役割を果たしたように認識している。そんな彼だからスティーヴ・エリスが自分の名前を冠したエリスに参加しても何ら抵抗はなかったように思える。ファーストの原盤裏のライナーでは、じつはズートがスティーヴの歌を聴いて、「ポテンシャルがフルに引き出されていない。」と心配していたことがバンド結成前にあったことが記されている。
72年発表の最初のアルバムタイトルは『スランプの極地』(ライナーでは『スランプの絶頂』と訳されている)で、ひねりの効いたタイトルだと思う。音楽的には2枚ともに全体にバラエティに富んでいて楽しい。ファーストは典型的なパブ・ロック風だが、だが、73年発表のセカンドの方はブルース・ロック色が強いと言える。70年代初頭の面白さが十分に味わえる。セカンドの7曲目「旅立ちの朝」ってリフがアトミック・ルースターそのもの(「Devil’s Answer」または「Save Me」)でちょっとびっくり。
ファーストは結構見つかりやすく早い時期に比較的簡単に入手できたが、セカンド『Why Not?』の方はなかなか見つからず、ようやく入手することができたのは。2イン1でCD化された後のことだった。
日本でも当時モット・ザ・フープルあたりと一緒にアルバムが出されていたら、それなりに評価もされたのではないかと思う。しかし、スティー
ヴ・エリスもラヴ・アフェアも国内的にはそんなに話題になっていたわけではないので、未発売も仕方なかったのだろう。
『ユアーズ・フォーエヴァー・モア』(70)
『ワーズ・オン・ブラック・プラスティック』(71)
70年のファースト・アルバムのジャケットを見て、手に取りたくなるだろうか。たとえロックのコーナーに並んでいたとしても、何か「懐かしのポピュラー集」のように思えてしまう。さらにタイトルが『ユアーズ・フォーエヴァー・モア』だ。「オールディーズ・バット・グッディーズ」や「永遠のポピュラー・ヒット」が出てきそうな気がして、じつは私も長いことスルーしていた盤だった。
ある日、輸入レコード店(何か懐かしい言葉だ)で、いつものようにあさっていた。何かバンド名もよく分からないが大胆なロゴ・ジャケットが気になって取り出した。裏ジャケットを見ると、じつに雰囲気のあるメンバーの演奏風景の写真に感じるものがあった。そしてクレジット部分にRockin’Horse Productionのロゴ。それはレイ・シンガーとサイモン・ネピア・ベルのプロデュースであることを意味している。当時彼らのプロデュースしたRCAのフレッシュとかProbeのプラスといったバンドのレコードを買って気に入っていたこともあり、米盤で値段も安かったので買ってきた。それが70年の2枚目『ワーズ・オン・ブラック・プラスティック』だった。聞いてみるとずいぶんとインパクトの強い音楽だ。幾分アブストラクトなギターリフに始まる1曲目。曲の途中に突然ブラス・ロックが顔を出し、叙情的なブリッジを挟んでいて見事にノック・アウト。3曲目のクールなアコースティック・ギターとベースの演奏、そしてコーラス。これにも参った。フォーエヴァー・モアというバンド名もそこで始めて知ったのだが、このバンドもじつに奥深いバックボーンを持っていた。この後、ファーストの存在を知り探してみると、何とずっとスルーしていたあのジャケットだったとは・・・・。内ジャケットのメンバー写真がじつに決まっている。今回2作共にこうやって国内盤CDとしてリリースされるのは本当に感慨深い。2007年にRDIから2イン1で出されていたが、この2枚は本来の姿で出されるべきものだと確信する。
ずいぶんと長く思いつくままに綴ってしまったが、改めて今回の『70’s 英国ポップの迷宮』は今の音楽業界、並びに聞き手である私たちの姿勢に投げかけるものが大きいと思う。廉価盤であることはありがたいことだし、何よりレコード時代に忠実にジャケットデザインを復刻し、さらには全ての作品に掲載された歌詞と対訳、ジャケットにライナーが添えられていたものはその対訳も載せられている。特筆は曲名に邦題が付いていること。昔国内盤があったものにはその当時の邦題!(これについては異論もあるとは思うが、少なくとも私にとってはその昔邦題が頼りだった。) しばらくこんなに丁寧な再発・・・(おっと、アルバムそのものとして日本はもとより、世界で初めてCD化されたものもある)はなかったなあ。それだけに私は多くの人がこのシリーズに丁寧に向かい合えるようにと願っている。今回のシリーズは全ての(これ以上にないほどの詳細な!)解説を手がけた小西勝さんの力によるところが大きい。本当にご苦労様でした。本当にありがたい内容でした。で、次回は何と期待してしまいます。
シリーズの副題には「ビートルズ不在の70年代を支えたもうひとつの英国ポップシーン」とある。ヒット作はほとんどないが、ミュージシャンが真摯に意欲的に新たなアイディンティティを求めた姿を、これらの作品に見ることが出来る。私事ばかりで申し訳ないが、私自身がなぜ70年代の英国音楽を追い求めてきたのかの一つの回答を見せてもらえたような気がする。
長く埋もれてきたこれらの作品には、懐かしさと同時に新たな音楽の世界への糸口が間違いなく隠されている。手にとって味わって欲しい作品群だ。
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「英国のキャロル・キング」ともいわれた女性SSW。英国SSWの草分け的存在で、「Love Song」はエルトン・ジョンなどにカヴァーされたことでも知られています。セッション・シンガーとしても活躍。エルトン・ジョン、アラン・パーソンズ、ピンク・フロイド『狂気』など多くの作品に参加しています。75年リリースの4作目となる本作は、多くの曲でクリス・スペディングが参加しているのも特筆。T1「I Can See Where I’m Going」では軽快なカッティング・ギターを、T2バラード「Heaven Knows」では哀愁あるスライド・ギターを聴かせます。温かみあるしっとりとした歌声はもちろん素晴らしい名作です!
英プログレッシブ・ポップ・フォーク・バンド、72年作2nd。まるでCS&NやBEE GEESのような青々としたコーラス・ワークが爽やかで、全編に渡って心地良いハーモニーを聴かせてくれます。アコギとスライド・ギターが美しい西海岸風サウンドや、ポール・マッカートニー直系のスイートなメロディにぐっときていると、いつの間にやらエレピやクラビネット、メロトロンが入り乱れるプログレッシブな展開に!フォーク・ロックじゃなかったの!?と思ってメンバーを調べてみたら、中心人物TERRY SHADDICKは後にオリビア・ニュートン・ジョンやアメリカに楽曲提供するポップ職人でした!何でもこのバンド、DONOVANのマネージャーが、英国フォークとポップ、ロックを融合させたくて企画し、TERRY SHADDICKはそのために引き抜かれたんだとか。何はともあれ、ニッチ・ポップ好き、それからもちろんフォーク・ロック好きにも聴いていただきたい作品です!
ドノヴァンのマネージャー、Ashley Kozakによって結成されたバンド、72年1st。BEE GEESのような爽やかなコーラスが全編に響き渡ってとても気持ちが良いです。アコースティック・ギターやピアノ、軽やかなドラムのアンサンブルで、CS&Nなどのウエストコースト・ロックに影響されたフォーク・ロック・サウンドを展開。2ndのようなビートリッシュなメロディは今作ではまだ聴けないものの、ほんのりと英国の陰影をにじませた米憧憬フォーク・ロックとしては申し分ない作品です。CRESSIDAのKevin McCarthy、JONESYのBernard Hagley、FUZZY DUCKのPaul Francisなどがメンバーです。
紅一点クリシア・コックジャンの澄んだヴォーカル、いかにも英国的な哀愁漂うメロディー、男性ヴォーカルによる朗らかなハーモニーが印象的な英国フォーク・グループ。72年作の1stと2ndの全曲を収録した2in1CD。どちらも優れた作品ですが、特に2nd「BRANCHING IN」は、木漏れ日のような穏やかさと格調高さが同居した佳曲揃いの名作!
GavinとIainのSutherland兄弟によるデュオ。ISLANDSレーベルより72年にリリースされたデビュー作。とにかく英国的な憂いいっぱいの美メロ満載なのですが、それもそのはず、ロッド・スチュワートでお馴染みの名曲「Sailling」の作曲者は、このGavin Sutherlandなのです。干し草の香り漂うアコースティック・ギターのバッキング、ふくよかなトーンの歌心いっぱいのドラムとベース、ちょっぴり鼻にかかっていてロニー・レインにも通じるグッとくるヴォーカルと、さらにグッときて泣きそうになっちゃう叙情的なハーモニー。メロディも最高だけど、それにしても、DR.STRANGELY STRANGEなどでも活躍したドラマー、Neil Hopwoodのドラム、良いなぁ。ロニー・レインやスティーラーズ・ホイールやヘロンの2ndあたりのファンや、ポール・マッカートニーが好きな方は間違いなくニンマリしてしまうはず。しっかし、どの曲も最高だなぁ。
GavinとIainのSutherland兄弟によるデュオ。ISLANDより72年にリリースされた2nd。ロッド・スチュワートでお馴染みの名曲「Sailling」は実はこのデュオの曲のカヴァーで、原曲は、このアルバムに収録されています。英国的な哀愁いっぱいでグッときっぱなしのデビュー作と同じスタイルのサウンドで、もっさりゆる〜いグルーヴのドラム、柔らかにロールするピアノ、哀愁いっぱいのオルガン、メロディアスなオブリガードに胸が熱くなるギター、そして、二人の郷愁のヴォーカル&コーラス、叙情的なメロディが素晴らしすぎて、オープニング・ナンバーからその魅力全開。ロニー・レインやヘロンの2ndやブリンズリー・シュウォルツやリンディスファーンのファンなら間違いなく泣きそうになっちゃうはず。これぞ英フォーク・ロック!といえる枯れた哀愁にみちた佳曲ぞろいの逸品!「Sailing」のオリジナルVer、泣けるなぁ。マフ・ウインウッドがプロデュースで、その弟のスティーヴ・ウィンウッドもゲスト参加!
C.O.Bは、インクレディブル・ストリング・バンドの1stに参加していたバンジョー奏者、クライヴ・パーマーがフェイマス・ジャグ・バンドを経て結成したバンド。本作は、71年発表の1stアルバム。トラッド、サイケがごちゃごちゃになったような虚ろなサウンドがたまらないアシッド・フォークの名作。
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