2018年3月23日 | カテゴリー:「rabbit on the run」 netherland dwarf,ライターコラム
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本連載では「ミュージシャンの視点からプログレッシブ・ロック作品を捉える」ことに重点を置き、フランスのプログレッシブ・ロックレーベルMusea Recordsからシンフォニック・ロックアルバムでデビューを果たしたnetherland dwarfが、同じ時代を生きる世界中の素晴らしいプログレッシブ・ロックアーティストたちの作品を、幅広くご紹介します。「ミュージシャンの視点」とは言っても、各コラムは平易な文章で構成されていますので、楽器が弾けない、専門用語は分からないという場合でも、心配せずにご覧下さい。
1970年代がそうであったように、2000年以降のプログレッシブ・ロック・シーンにおいても、アートワークには作品の世界観を視覚化する重要な役割が与えられ続けているでしょう。70年代プログレッシブ・ロックの名作を手がけたアートワーク・デザイナーたちの中には、新世紀以降も活動を続ける人物が存在します。例えば、70年代にYESなどの作品を担当したRoger Deanは、2000年以降もYESやASIAの作品に個性的なアートワークを提供し続けていますし、70年代にGENESISやVAN DER GRAAF GENERATORの作品を担当したPaul Whiteheadは、2000年以降イタリアのSUBMARINE SILENCEや同じくイタリアのALEX CARPANI BAND、あるいはフランスのECLATやアメリカのHOLDING PATTERNといったアーティストたちの作品に携わってきました。その一方で、新世紀以降のプログレッシブ・ロック・シーンには新たな才能も登場しています。
スウェーデンのプログレッシブ・ロック・グループALGARNAS TRADGARDのメンバーとして70年代から活動していたJan Ternaldは、自身がミュージシャンでありながらアートワークにも才能を発揮し、ALGARNAS TRADGARDはもちろん、同郷Bo Hanssonの作品にも優れたアートワークを提供しました。しかし、Jan Ternaldが注目を集めたのは2000年以降、KAIPAやTHE FLOWER KINGSといったスウェーデンを代表するグループのアートワークを担当して以降でしょう。なお、スウェーデン以外のグループでは、ポーランドのSATELLITEや、SATELLITEのドラマーを中心とするPETER PANよる作品も手がけているようです。また、2010年以降ではポーランドのLeszek Kostujを挙げておきたいところです。Leszek Kostujは、ポーランドのLOONYPARKやオランダのCHRISといったアーティストたちの作品にアートワークを提供していますが、イタリアの古参シンフォニック・ロック・グループLE ORMEのアートワークで知られるWalter Mac Mazzieriにも通じるその作風は、プログレッシブ・ロック・リスナーの購買意欲を刺激することでしょう。そして、「21世紀のRoger Dean」と評されるEd Unitskyを忘れてはなりません。イギリスのTHE TANGENTやイタリアのMOONGARDEN、スウェーデンのTHE FLOWER KINGSやフィンランドのSAMURAI OF PROG、あるいはアメリカのSTARCASTLEやオーストラリアのUNITOPIAなど、様々な国々のアーティストたちに作品を提供しており、更なる活躍が期待されています。今回は、そんなEd Unitskyによるアートワークを採用したキューバのシンフォニック・ロック・グループによる4作目のアルバムを取り上げます。
同じ南米ではあるものの、ブラジルやアルゼンチンと違って、キューバにはプログレッシブ・ロック・グループがほとんど存在しないと考えられていたはずです。事実、国民的グループであるSINTESISによる78年作『En Busca De Una Nueva Flor』が、イタリアン・ロックを彷彿とさせるサウンドで高く評価され、南米プログレッシブ・ロックのマスト・アイテムとされている以外は、同国がプログレッシブ・ロック・ファンの間で話題に上ることはほとんどありませんでした。そんな中で、新世紀の同国からANIMA MUNDIが登場した衝撃は、非常に大きかったことでしょう。ANIMA MUNDIは2002年に『Septentrion』でアルバム・デビューを果たしたわけですが、彼らがプログレッシブ・ロック・ファンに注目されることになったのは、2008年のセカンド・アルバム『Jagannath Orbit』でした。アメリカのSPOCK’S BEARDやスウェーデンのTHE FLOWER KINGSといった、プログレッシブ・ロックの新世代を代表するグループたちの作品に勝るとも劣らない鮮やかなシンフォニック・ロックを収めた同作によって、彼らは世界中のプログレッシブ・ロック・ファンに強烈なインパクトを与えることになったのです。
さて、ANIMA MUNDIによる本2013年作『The Lamplighter』には上記の通り、Ed Unitskyによるアートワークが採用されていることもあって「トップ・グループ仕様」を強く感じさせますが、そのアートワークは本作のアルバム・コンセプトを見事なまでに視覚化しています。ふたつの組曲を中心とした大作主義的な構成によってリリースされた本作でも、彼らが作り出すメロディアスなシンフォニック・ロックは健在であり、上記のTHE FLOWER KINGSに迫る出来栄えという評価にも、素直に頷くことが出来るでしょう。ANIMA MUNDIの「音楽的支柱」は女性キーボーディストVirginia Perazaによるオーケストレーション・センス、そしてギタリストRoberto Diazによるメロディアスなプレイ・スタイルにありますが、彼らが一般的なシンフォニック・ロック・グループと決定的に異なるのは「精神的支柱」、つまりそのサウンドに、ある種の神秘性が秘められていることではないでしょうか。その質感は、例えばユーロ・プログレッシブ・ロックにおける厳かな宗教色などとは雰囲気を異にするものです。煌びやかなサウンド・メイクの中にもスピリチュアルなテイストが(恐らくは無意識のレベルで)織り込まれていることは、彼らが「宇宙霊魂」を意味するラテン語をグループ名に冠していることにも繋がるでしょう。
ANIMA MUNDIの他にも、2000年以降の南米プログレッシブ・ロック・シーンでは、コロンビアのJAEN KIEFやペルーのFLOR DE LOTOなど、プログレッシブ・ロックに関する話題を聞くことが少なかった国々からユニークなアーティストたちが登場し、それぞれに注目を集めています。プログレッシブ・ロック先進国のアーティストたちはもちろんですが、こういった予想だにしない国々からのプログレッシブ・ロック・アーティストの出現にも、大いに期待したいところです。
「netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』連動 Ed Unitskyのアートワーク」 を読む
「netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』連動 Roger Deanの2000年代」 を読む
「netherland dwarf のコラム『rabbit on the run』連動 Paul Whiteheadの2000年代」 を読む
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