2020年3月16日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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まあとにかく新型コロナウイルス感染症ですよ。日本全国で大変なことになっていますね。僕が住んでいる大阪でも連日感染者が発表されている。いつか自分が感染するのでは?と心配している人もいるでしょう。マスクやアルコール消毒液不足、周りの人たちのヒステリックな騒ぎぶり、休校措置で家にいる子供たちの相手などにうんざりしている人も多いはず。なかにはマスクやトイレットペーパーなどを転売して一儲けしようとしている人もいるとか。安価で手に入れたものを高値で販売するような人は「如飛虫堕処」という地獄に落ちるのを知らないのかな? 斧で切り裂かれて犬に食わせられるというのに。
そもそもトイレットペーパーがなくなる!とかデマを流した人も良くない。そういう人は双逼悩処という地獄に落ちて、燃える牙を持った獅子に噛み砕かれるというのに……。
それに加え、この時期は花粉症が気になる。鼻がムズムズしてクシャミが出たり、ノドがイガイガしてせき込んだりする。いつもなら、「ああ花粉症か」と思われるぐらいだけど、今では電車の中で「オホン」と咳払いするだけで、ものすごい冷たい目で睨まれる。みんながやたらとセキやクシャミに敏感になっている。どこぞで暴力事件にも発展したとか。こういう状況だから、衛生に気をつけるのはいいことだけど、寛容の精神はどこへいってしまったのか。自分だけが助かりたいという、人間とはそういうものなのかもしれないけど、「蜘蛛の糸」とか知らんのかなあ?天国に行けるチャンスがあったのに、自分だけ助かろうとして地獄に再び落とされたカンダタの話を。
地獄の話ばかりで申し訳ないけど、突然の一斉休校、それでも仕事が休めない。いや仕事さえできなくなって生活に支障をきたしている人もいる。何より新型コロナウイルスに感染して苦しんでいる人もいて、まさに地獄といえる状況。これ以上酷くならないように祈るばかり。
と、嘆いていても仕方がないので、今回はイタリアのMETAMORFOSI『PARADISO』を紹介したいと思います。
内容については後述するとして、このジャケットを見てもらいたい。クレジットによると、表紙(copertina)はStefania Zarfatiなる人物の作とされている。だが、この絵には元ネタがある。まず12星座が外側に描かれている7層に垂れ下がっている円だが、これはフランドル派の画家シモン・マルミオンによる彩色写本『世界の七つの時代』の中の挿絵「天球と地上」の一部分である。オリジナルの絵では最上部の円の中に神が描かれていて、神が7日間かけて世界を想像したことが表現されている。『PARADISO』のジャケットでは、最上部の円の部分にシモン・マルミオンと同じフランドル派の画家ヒエロニムス・ボス作『来世のヴィジョン』の「天国」の一部がはめ込まれている。天使に導かれた人間が地上から天国へ昇っていく場面を円のトンネルとして表現したもので、よく見るとトンネルの中に天使と共に天国へ昇っていく人が見えるはず。ヒエロニムス・ボス『来世のヴィジョン』の「天国」は、彼の先輩格に当たるシモン・マルミオンの影響を受けて描かれたとされている。だからこの二つの絵画作品を組み合わせたというのは、偶然でなく意図的なものに違いない。『PARADISO』のテーマはズバリ天国そのもの。そこに重ねられた鳥のシルエット、これはStefania Zarfatiのオリジナルだと思うけど、実によく考えられたデザインのジャケットになっているのだ。2019年の再発盤ではジャケットが変更されているようで残念。
METAMORFOSIが結成されたのは1969年のこと。I FRAMMENTIとして活動していたバンドのメンバーとシンガーのJimmy Spitaleriが出会い、METAMORFOSIを結成する。ローマで活動を開始した彼らは、ライヴなどで下積みを経験した後の1972年にデビュー・アルバム『…E FU IL SESTO GIORNO』を発表する。メンバーはJimmy SpitaleriにLuciano Tamburro(g)、Enrico Olivieri(kbd)、Roberto Turbitosi(b)、Mario Natali(ds)の五人で、作曲の中心になっているのはJimmyとEnricoの二人だった。
その二人がダンテ『神曲』をテーマにした曲作りを開始する。『神曲』は「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」の三部構成となっていて、ごく簡単にあらすじをいえば、主人公のダンテが詩人のウェルギリウスに案内されて地獄、煉獄を経て天国へ至るまでの物語となっている。METAMORFOSIがまず音楽化したのが『神曲』「地獄篇」で、壮大なロック・オペラの創造に挑むが、録音する前にギターのLuciano TamburroとドラムのMario Nataliが脱退してしまう。ドラムにはGianluca Herygersを加え、ギターは不在のままの編成でレコーディングを行ない、1973年に『INFERNO』を発表する。こちらのジャケットも強烈なインパクトとなっている。まさに地獄といえる寒々しい風景の中に、気味悪くデフォルメされた人物がうなだれていたり、両手を挙げていたりと、とにかく不気味すぎるジャケットだ。購買意欲を掻き立てることよりもインパクト重視のジャケット、それこそイタリアン・プログレの醍醐味か? 音楽的にもまるでポピュラー性無視といえるダーク・シンフォ系の作風になっていて、イタリアン・プログレ・ファンの間では名作とされているが、当時は商業的に成功とはいいがたいものだったようだ。
彼らは次に『神曲』「天国篇」をテーマにした楽曲に取り組むが、レコーディングに至ることなく解散してしまう。Jimmy SpitaleriはTHOR名義で1979年にアルバム『THOR』を発表。彼の熱いヴォーカルを活かした歌ものロック作品に仕上がっている。翌年には本名のDavide Spitaleriとしてアルバム『UOMO IRREGOLARE』を発表しているが、それ以降は表立った活動を行なっていない。
再発ブーム、再結成ブームが起こっていた1990年代中ごろ、JimmyとEnricoの二人でMETAMORFOSIの活動再開に向けて動き出す。1996年には、ベースにLeonardo Gallucci、ドラムにFabio Morescoを加えた四人編成でロック・フェスティバルに出演し、『INFERNO』をステージで再現してみせた。以降もライヴ活動を続け、2004年に発表したのが、かつて完成に至らなかった『神曲』「天国篇」に再度取り組んだ本作『PARADISO』だった。
その後もフェスティバルなどを中心としたライヴ活動を続け、2011年にはライヴ・アルバム『LA CHIESA DELLE STELLE : LIVE IN ROME』を発表。そして2014年には『神曲』「煉獄篇」をテーマにした『PURGATORIO』を発表し、ダンテ『神曲』三部作を完結させている。『PURGATORIO』も宗教的なデザインのジャケットになっているが、出来は他2作に及ばないかな?
さて、本作『PARADISO』だ。Enricoによるシンセやピアノなどの各種キーボード、そして深みを増したJimmyのヴォーカルと、確かに『INFERNO』の頃のMETAMORFOSIをルーツとしながら、よりモダンさを増したサウンドで、ダンテが天国の最高天へ到達する物語をドラマチックに描いている。ここではアルバム・ラストの「La Chiesa Delle Stelle」を聴いていただきましょう。2011年のライヴ・アルバムのタイトルにも選ばれたこの曲、問答無用で鳴るパイプオルガン風の音色に良い意味でクラクラします。地獄の先に天国あり、かどうかはわからないけど、早く平穏な日常が戻ってきますように!
それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。
La Chiesa Delle Stelle
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イタリアのキーボード・ロックグループによる72年2nd。ダンテの「神曲」をテーマに掲げたコンセプト・アルバムである本作は、前作からギタリストの脱退とドラマーの交代を経て、彼らがキーボード・ロックグループへと変貌した名盤です。キーボーディストによるパイプ・オルガン、ハモンド・オルガン、ピアノ、アナログ・シンセサイザー、ハープシコードなどが全体を覆いつくしており、パワフルなドラムとのせめぎあいがダイナミックな音像を演出。そのサウンドから突き抜けるようにしてJimmy Spitaleriによるバリトンヴォーカルが響けば、壮大なロック・オーケストラを見るような世界観が広がります。
直輸入盤(帯・解説付仕様)、定価2600+税
盤質:傷あり
状態:良好
帯無
帯無、MAR96239の解説とBELLE091602の解説が付属
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