2018年9月14日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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某大学アメフト部に始まり、レスリング、ボクシングときて体操と、組織を牛耳っている権力者の、その権力をかさに着た横暴ぶりといった問題がボロボロと零れ落ちてきている。組織を統べている人が、必ずしも人格者でない、ということはわかっていたつもりだけど、これほどたくさん出てきたら、はたして人格者である組織の長なんて存在するのだろうか、と思えてくる。いや、組織の長に人格なんて必要ないのかな?
それにしてもメディアの印象操作はあると思うけど、問題にされている権力者の人たちの目って、どの人のもなんかこう目が座っているというか、目の奥が笑っていないというか、目の輝きがないというか、そんな風に感じませんか?
最近、多くの子どもたちと接する機会があったんだけど、みんな目がキラキラしているのな。うちの子どもたちでもそうだけど、ゲームをやっていても、You tubeを見ていても、目からワクワク感が伝わってくる。子ども=ピュアとは思わないけども……。いや、やっぱりそういう先入観かな? しかし、ニュースに登場する横暴ぶりが問題視された権力者たちの目と、子どもたちの目を比べて見ると、そこには明らかに違いがあるんだよな。
そこで今回は、トト・トルクァーティの『GIL OCCHI DI UN BAMBINO』を紹介したい。邦題は『少年の瞳』で、イタリア語のタイトルもそのまんまの意味がある。ジャケットには少年と木立が二重露出で写されている。ちょうど木の陰が両目の上にかぶっているので、最初にパッと見た時には角が生えているのかと錯覚してしまう。ちょっと「せんとくん」ぽい感じ? 両目への重なり方がピッタリすぎるのは、かえって別のイメージを喚起するように思える。個人的にはもう少し木立との重なり具合を工夫して欲しかったように思う。それでもそこに写る少年の瞳には、見るものを惹きつける何かがある。ここにあるのは少年らしいキラキラとした輝きではなく、本作のテーマに沿った物悲しさ、憂鬱さだったりするのだけど、何かを訴えかけるような力は強く感じられる。この少年、ナチュラルなのか演技なのかわからないけど、本当にいい表情をしている。モノクロということもあって印象は地味だけど、この少年の瞳のおかげで、実に魅力的なジャケットになっている。ジャケット・アートを担当したのはGuaricci e De Antonisとクレジットされている。ちょっと検索してみたけれど、どういう人物かはわからなかった。
だけどトト・トルクァーティに関しては、どういう人物かよくわかっている。頭から同じ文字が三つ続く名前というのは、樹木希林にも匹敵するインパクトだが、トトというのは愛称で、本名はアントニオ・トルクァーティという。
ナポリに生まれた彼は、生まれつき目が不自由だったことから盲学校に入学。鍵盤楽器や作曲法などを学んだ。正式な音楽教育を受けただけでなく、プレイヤーとしても優れた才能を発揮し、60年代後半ごろからセッション・ミュージシャンとして、またアメリカなどからの海外ジャズ・ミュージシャンのサポートなどで活動。ミュージシャンとしてのキャリアを確かに積み上げていく。
トト・トルクァーティの名前はイタリアの音楽業界でも知られるようになっていき、1972年に本名のアントニオ・トルクァーティ名義で『ANTONIO TORQUATI』を発表する。これは、ビートルズの曲やスタンダード・ナンバーをカヴァーしたアルバムだった。
GEPY & GEPY名義でもヒット曲を出したシンガーのジャンピエロ・スカラモーニャのバックに起用されたのをきっかけに、イタリアの人気ポップ・シンガー、クラウディオ・バリョーニの『QUESTO PICCOLO GRANDE AMORE』(1972年)、『GIRA CHE TI RIGIRA AMORE BELLO』(1973年)のレコーディングに参加。さらにイタリアの人気シンガーソングライター、ルーチョ・ダッラ『IL GIORNO AVEVA CINQUE TESTE』(1973年)に参加し、女性シンガーのパッティ・ブラーヴォ『PAZZA IDEA』(1973年)にはアレンジャーとして参加と、いずれもイタリアRCA系の人気アーティストのサポートを務めた。その功績も認められてのことだろう。1973年に本格的なソロ作『GLI OCCHI DI UN BAMBINO』をRCAから発表することになった。
本作のプロデュースを担当したのはジャンピエロ・スカラモーニャことGEPY & GEPYで、彼は曲作りやシンガーとしても本作に参加している。またサポート・メンバーにも有名イタリアン・ミュージシャンが多数参加している。ギターのルチアーノ・チッチャグリオーニ、ベースのマリオ・スコッティは、ともにパッティ・ブラーヴォ他多数ミュージシャンのアルバムにセッション参加しているプレイヤー。ドラムのマッシモ・ブッツィもセッション・プレイヤーとして著名で、彼は前記したアルバムなどですでにトト・トルクァーティと顔を合わせている。オーケストラを指揮するニコラ・サマーレもクラシック系の作曲家として有名な人物、作詞には数々の曲を手掛けた作詞家のセルジオ・バルドッティが参加と鉄壁の布陣で制作されている。
もちろん主役はトト・トルクァーティ。冒頭とラストの「La Terra Che Bessuno Conosce」はオーケストラのみの曲だが、その郷愁の念を掻き立てるメロディは、聴く者の胸に熱く響く。そこからはもう本当に目まぐるしく曲調が変わり、キーボードを主体にしたインスト、ジャンピエロ・スカラモーニャが歌う実にイタリアンらしい甘口のメロディックな曲、オーケストラによるクラシカルな小曲などが詰まっている。どれも物語性を感じさせる濃厚な曲ばかりで、トト・トルクァーティの作曲&アレンジ能力の高さを証明している。
少年の瞳をテーマに、様々に展開されていく物語をオムニバス形式で描いた映画のような、そんな多彩さに溢れた一枚だ。目の不自由な彼が、このテーマ設定を選んだことを不思議にも感じてしまうが、しかしだからこそ、これだけイマジネーション豊かな楽曲を創造できたのかもしれない。
これだけ聴きごたえのある内容ながら、当時は商業的に成功しなかった。1977年にディスコ系のシングル「Tenero Al Cioccolato」を発表しているが、彼はサポート・ミュージシャン、コンポーザーといった裏方に回って活動を続けていく。ところが2009年になって、3枚目となるソロ作『VITA, AMORE E MUSCIA』を発表。こちらは未聴だが、近年はプレイヤーとしても活動しているようだ。
今回は『GLI OCCHI DI UN BAMBINO』のなかから、そのアルバムの魅力を凝縮しているかのような「Adagio Per Gli Occhi Di Un Banbino」を聴いてもらいたいと思います。と、書いている今は火曜日の午前4時半。今から寝て、6時には起きて、仕事に行かないと…。鏡に映る僕の瞳は、完全に死んだ魚のようです。ああ、キラキラの瞳はいずこへ!
それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。
Adagio Per Gli Occhi Di Un Banbino
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Claudio Baglioniの作品でも知られるキーボード奏者、Toto Torquatiの73年2nd。ソロ名義の作品ながら繊細なアレンジが行き届き、プログレッシヴ・ロック然としたアンサンブルが楽しめます。優美に響き渡るオーケストレーションから幕を開け、ヘヴィーなリフを刻むギターが導入部を先導。透明感溢れるピアノの旋律が引き継ぎ、幾重にも重なるシンセサイザーと共に煌びやかなアンサンブルを奏でます。正に聴き手を惹きつける多彩な音色の変化が楽しめる絶妙のアレンジ。朗々と歌い上げるヴォーカルと、カッチリ締まっているリズム隊もポイント。コーダとしてオーケストラ・テーマが再び登場、全体の構成も練られています。イタリアらしい優雅さが満喫出来る一枚。
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