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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第十七回 TAI PHONG『TAI PHONG』(フランス)

今年は日本各地で自然災害が頻発している。まさに天変地異といえる異常気象ぶりだ。各地で大雨被害があったし、僕が住んでいる大阪でも珍しく大きな地震があった。台風が日本列島の東から西に進むなんて、ちょっと信じられないようなことも起こっている。それに加えて、この猛暑だ。「命の危険に関わる暑さ」っていう表現もすごいけど、それを過剰だと思わせないほど毎日が暑いったらありゃしない。熱中症で搬送された人の数は、7月だけで5万人ほどにのぼるという。ベランダに置いてあったゴム製のサンダルが、熱で変形して履けなくなっていたぐらいだから、この暑さは異常だ。まあ我が家の猛暑被害はその程度で済んでいるけど。

そんな今年の夏の熱中症対策として、「かき氷マシン」を導入した。手動の安いやつだけど、これが今年の夏は大活躍だった。子どものウケも抜群で、毎日のようにガリガリと氷を削っている。大人の方には、かき氷をガラスのコップにギュウギュウにつめて、焼酎とかウイスキーを注いで飲むのがおすすめ。シャリシャリしたのど越しがたまらんです。

暑さにぐったりしている人も多いと思うので、今回のこのコラムは涼し気なジャケットのTAI PHONG『TAI PHONG』を紹介したいと思います。日本でも人気の高いフランスのバンドです。

TAI PHONG結成の中心となったのは、ベトナム出身のカーンとタイのホー・トン兄弟。二人の父は、ベトナム共和国の初代大統領ジエムのもとで大臣を務めていたぐらいの有力者だったという。63年、ベトナムでクーデターが起こり、ジエム大統領が殺害されてしまう。ジエム大統領の関係者たちは各国に亡命するが、おそらくカーンとタイの一家もそのあおりを受けてイギリス、そしてフランスへと辿り着いたのだろう。二人は60年代中ごろにMOUSSONなるバンドを組んで活動していたこともあるが、その後しばらくは別々の道を歩んでいる。

カーンとタイの二人が再びバンド結成を目指したのは72年のこと。イギリス人のレス、アメリカ人のジョンとの四人編成でTAI PHONGをスタートさせる。パリでデモ録音を行なうが、なかなか契約ができなかったのに業を煮やしてレスとジョンが脱退。カーンとタイの二人はメンバー探しを開始し、シンガー兼ギタリストのジャン・ジャック・ゴールドマン、キーボード奏者のジャン・アラン・ガルデが加入する。

カーンがフランスのバークレイ・レコーズで働いていたことから、同レーベルと契約を獲得。シングル用に「Melody」他1曲をレコーディングするが、レコード会社の事情で発売に至らず、何の結果も出せないままにバークレイを離れる。

改めてデモ・テープを制作したTAI PHONGは、それが功を奏してWEAと契約を獲得。ドラムにステファン・コーサリューを加えてバンドとしての体制を整える。こうしてレコーディングされたのが、75年に発表されたデビュー・アルバム『TAI PHONG』である。

同作収録のバラード・ナンバー「Sister Jane」が本国のラジオ等で評判を得て、同曲をシングル・カット。テレビ出演などのプロモーションも実を結び、好調なセールスを記録する。

さて、その『TAI PHONG』のジャケットだ。オリジナルはゲートフォールド仕様になっている。表ジャケットにはサムライが描かれていて、そのヨロイから電気のコードが何本も出ている。コードの先は裏ジャケットへと伸びていて、裏ジャケットに描かれた正面を見据えるサムライへとつながっている。うっすらと彩色されてはいるが、基本的には白と黒を基調にしたデザインで、水墨画を思わせる。それも日本人には親しみやすい。ヒヤリとした冷たいイメージもある。これがアルバムの叙情的な作風とピッタリはまっている。このデビュー作のジャケットを手掛けたのは、ラン(Lang)という人物。実は彼はカーンとタイの三番目の兄弟で、後にはTAI PHONGのステージでライティングも担当している。

先に紹介しておくと、彼らのセカンド・アルバム『WINDOWS』のジャケットを手掛けたのもランだった。前作と同じくサムライが描かれているが、白黒基調のデザインではなく色彩豊かな水彩画となっている。桜の木と思われるピンクも鮮やかなゲートフォールド仕様のデザインは、『TAI PHONG』とも並ぶ美しさを誇っている。

ところが3作目『LAST FLIGHT』のジャケットがこれです。まあバンド内部もバラバラになっていたとはいえ、このデザインはどうだろう? 前2作との落差にはすさまじいものがある。EL&Pの『LOVE BEACH』にも匹敵するC級デザインだ。もちろんこのジャケットは、ランが手掛けたわけではない。内容も前2作とは雰囲気が異なる曲があって、どこか中途半端なだけに、ジャケットぐらいはビシッと決めてほしかったなぁ。


さて、デビュー作以降のTAI PHONGヒストリーに関しても紹介しておこう。彼らは76年にセカンド・アルバムのレコーディングを開始。同年に『WINDOWS』を発表する。前作と並ぶ傑作だと思うが、本国ではデビュー作ほどの評判を得られなかったようだ。そのこともあってジャン・ジャック・ゴールドマンがソロでシングルを発売。これがTAI PHONGの活動に微妙な影を落とすことになる。

TAI PHONGは『WINDOWS』に伴うツアーを77年から行う予定だったが、ジャン・ジャック・ゴールドマンがツアー活動を拒否。その理由は緊張に耐えられないというものだったといわれている。バンドはマイケル・ジョーンズなる代役シンガーを迎え入れてツアーの準備に入るが、今度はキーボード奏者のジャン・アラン・ガルデがツアー直前に脱退してしまう。バンドは苦肉の策として、6人のキーボーディストに数曲ずつを覚えさせてツアーに参加させることを選択するが、結局は数日間のみ行われただけでツアーは中断してしまう。そんななか、ついにタイが脱退してしまう。

TAI PHONGの活動はスローダウンし、78年には「Back Again / Cherry」のシングル1枚だけがリリースされたに終わった。79年にはシングル「Fed Up / Shanghai Casino」を発表し、同年に3作目となる『LAST FLIGHT』を発表。曲はそれぞれのメンバーが持ち込み、全員が録音に参加していない曲もあるなど、バンドがバラバラの状態にあったことがわかる。

80年にTAI PHONGは解散。バンド・メンバーはそれぞれの活動に入る。TAI PHONG在籍中からソロで活動していたジャン・ジャック・ゴールドマンは、フランス本国で成功を収めることに。80年代中ごろ、彼はライヴで「Sister Jane」をレパートリーに加え、TAI PHONGのメンバーもステージに参加したという。それで再注目されたのをきっかけに、86年にカーンとステファン・コーサリューの二人でTAI PHONG名義のシングル「I’m Your Son / Broken Dreams」を発表。この時は、これ以上の発展はなかった。

ところが90年代の終わりごろからカーンとステファン・コーサリューを中心に再々結成が実現し、00年に新作『SUN』が発表される。なんと、ジャケット・アートを手掛けたのは、ラン・ホー・トン!! 内容的にも往年の雰囲気がある良作だった。さらに13年には『RETURN OF THE SAMURAI』という新作を発表。オリジナル・メンバーはカーンだけになっていたし、アルバム・ジャケットの出来も良くなかったが、内容的には往年のスタイルを思わせる良作に仕上がっている。ちなみに日本盤はデビュー作を思わせる別ジャケットで発表された。


14年には奇跡の来日公演をおこない、その模様を収めたライヴ・アルバムも発売されているが、以降の活動は活発ではないようだ。またいつの日かTAI PHONGらしい叙情プログレ作を出してくれることを、かき氷を食べながら心待ちにしていたい。

それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。

Sister Jane

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    ベトナム系フランス人を中心に結成され、ASIA MINORと並び、混血グループの強みを生かした無国籍な魅力を持ちながらも、フランス産らしいシンフォニック・ロックと独特の哀愁、そしてテクニカルなバンド・アンサンブルで有名なグループの76年2nd。基本的な路線は前作と変わらず、普遍的なメロディーと哀愁を放ちながら、ハードに、そしてシンフォニックに盛り上げる作風となっていますが、前作以上に幻想を帯びた楽曲構成とアレンジの上手さが見て取れ、彼らの持ち味である美しいメロディーと絶妙に絡みついた、デビュー作と並ぶ傑作となっています。

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