2018年7月13日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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サッカーのワールドカップ・ロシア大会が、いよいよ佳境を迎えている。日本は残念ながら決勝トーナメント一回戦で敗退になったけど、よくあそこまで頑張った!開催前に刊行されたサッカー雑誌とか関連本の多くは、リーグ戦敗退、もしくは1勝もできないんじゃないか?みたいな書き方をしていた。申し訳ないけど僕もそう思っていた。それにくわえて突然の監督解任。本大会前の親善試合ではピリッとせずで期待薄だったのが、リーグ戦を突破して16強に残ったんだから、これは立派だし、とにかくドラマチックだった。
ドラマチック!そう、今大会は波乱続きで、とにかくドラマチックだった。思えばイタリアが予選敗退したあたりから、ドラマの種は蒔かれていたのかもしれない。開催国ロシアの善戦、優勝候補のアルゼンチンとポルトガルの決勝トーナメント初戦敗退とか、日本のリーグ戦突破も含めて「物語」として楽しめる場面が多かった。まだ終わっていないので、これから先の「物語」も楽しみにしていたいが、現時点での最大のドラマといえば、ドイツのリーグ戦敗退だろう。
ドイツはFIFAランキング1位。前評判でも必ずや優勝にからむとされていて、攻守ともに隙がない「完璧なチーム」のはずだった。イギリスのブックメーカー、ウィリアム・ヒルでもドイツはグループ・リーグ突破のオッズ、優勝オッズが一番低く、間違いなく優勝候補だった。それがリーグ戦敗退だから、ドイツ国民のショックは大きかったに違いない。
ということで、今回はジャーマン・ロックのクラウス・シュルツェ『IRRLICHT』から紹介したい。同作と言えば、スイスのシュールリアリスト、ウルス・アマンが手掛けたジャケットで有名だ。最近紙ジャケCD化されていたのもこのデザインだったが、実はオリジナルのジャケットはデザインが異なっている。そのあたりも含めて、クラウス・シュルツの歩みを簡単に整理しておこう。
カケレコ・ユーザーには説明不要かもしれないが、クラウス・シュルツェといえば、シンセサイザー・ミュージックのパイオニア的存在。第2次世界大戦終結間もなくの1947年、ベルリンに生を受け、ドラムを習得した彼は、前衛ジャズやサイケデリック・ロック、電子音楽、現代音楽などの洗礼を受けて育ち、エドガー・フローゼ、コンラッド・シュニッツラーとTANGERINE DREAMを結成する。彼らは1970年にデビュー・アルバムの『ELECTRONIC MEDITATION』を発表する。だがクラウス・シュルツェが望むのは、もっとリリカルな方向性だったようでTANGERINE DREAMを脱退。新たにマニュエル・ゲッチング、ハルトムート・エンケとASH RA TEMPELを結成する。1971年にデビュー・アルバム『ASH RA TEMPEL』を発表するが、それでもシュルツェは満足できなかった。またシンセサイザー・ミュージックに対する確固たる自信と目指すべきものがあり、ASH RA TEMPELから脱退してソロとして独立する。
1972年、ついにクラウス・シュルツェはソロ・デビュー作『IRRLICHT』をOhrレーベルから発表した。オリジナル盤ジャケットのデザインはシュルツェ本人によるもの。1973年にはソロ2作目『CYBORG』を発表。こちらのオリジナル・ジャケットはシュルツェ本人の写真を配したものになっている。
1974年には3作目となる『BLACKDANCE』を発表。このジャケットを手掛けたのがウルス・アマンだった。荒涼とした風景、異様に細く長い手足を持った人物、空に浮遊する立体物など、ダリの世界を思わせる彼の絵画作品は、クラウス・シュルツェによる深遠なシンセサイザー・ミュージックの世界に見事なリンクをみせていて、『BLACKDANCE』の芸術性に大きな寄与をしている。
『BLACKDANCE』を発表したブレイン・レーベルは、初期2作『IRRLICHT』『CYBORG』を再発することに。そこでウルス・アマンがジャケットをリ・デザインした。これが『BLACKDANCE』と共通するシュールな絵画作品で、シュルツェといえばウルス・アマンとイメージされるようにもなった。
ソロになって独自のシンセサイザー・ミュージックを追求してきたクラウス・シュルツェは、1975年に『TIMEWIND』を発表。そのジャケットにウルス・アマンが描いた、悪夢を現実化したような世界は、一度見たら忘れられない強烈な印象を残すものだった。そもそもはAGITATION FREEのミヒャエル・ヘーニヒとTIMEWIND名義で活動していたのが、ヘーニヒが離れたためにクラウス・シュルツェのソロとなって発表されたのが本作だという。冷ややかなシンセサイザーの音色が無限に広がっていく中から、メロディと物語性がじわじわと立ち上がってくるシュルツェの代表作だ。異世界の情景を描写したようなシュルツェの音楽世界とウルス・アマンのシュールな絵画が見事に噛みあった傑作といえる。
と、ここまで書いて来て、今回紹介したい本命が、アデルベルト・フォン・ディアンの『ATMOSPHERE』だったりする。1953年生まれの彼もまた、シンセサイザー・ミュージックを追求するジャーマン・ロック・アーティスト。1978年にデビュー・アルバム『STERNZEIT』を発表。聴いてもらうとわかるが、リスペクトするのはクラウス・シュルツェ。ジャケットを見てもらってもわかるが、白黒のモザイク・タイル、果てのない空間の前に描かれた異形の人物など、ウルス・アマンが手掛けたシュルツェのアルバムのイメージを模倣している。『STERNZEIT』のジャケット・デザインは、アデルベルト・フォン・ディアン本人が担当している。
1979年発表の2作目『NORDBORG』でも彼自身がジャケットを手掛けているが、またもやウルス・アマン風のイラストに。だが、ウルス・アマンに比べると、どうしても素人っぽいペタッとしたものになっているのは否めないし、異形の人物がチープ過ぎて思わず笑ってしまう。音楽的には前作で提示したアンビエントなシンセサイザー・ミュージックの方向性を煮つめて聴きごたえがあるが、クラウス・シュルツェの亜流の域からどう抜け出すのかを探っているような、どこかスッキリとしないところがあった。
それがなんと、3作目の『ATMOSPHERE』では、ジャケットをかのウルス・アマンが手掛けることに!アデルベルト・フォン・ディアンの喜びようが目に浮かぶが、ジャケットはクラウス・シュルツェの世界観とは違い、シンプルなデザインになっている。アデルベルト・フォン・ディアンとしては、『TIMEWIND』の悪夢を描いたようなイラストを期待していたのかもしれないが、どうだろう? ただし、作品的には前2作よりも方向性が明確になっている。ドラムのウォルフガング・リンドナーを起用して、ロック的なダイナミズムを感じさせる「Time Machine」など非常にわかりやすい。一方で、アンビエントな展開の中にキラキラと光るようなメロディやシンセの響きが起伏を作るタイトル組曲など、いずれも腰の据わったシンセサイザー・ミュージックになっている。ウルス・アマンのジャケットはシュルツェのアルバムほどのインパクトはないけれど、淡く儚い夢の世界を描いたようなデザインは、本作の音楽性とよく合致していると思う。クラウス・シュルツェに比べると知名度は低いかもしれないが、アデルベルト・フォン・ディアン『ATMOSPHERE』も夏向きのシンセサイザー・ミュージックです。
それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。
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ご存知ドイツが世界に誇る巨匠シンセサイザー奏者、79年発表の11作目。デヴィッド・リンチ監督による84年映画を筆頭に幾度も映画化/TVドラマ化される、フランク・ハーバートによる傑作SF小説の音像化に挑んだ人気作。30分と26分の全2曲となっており、前半は荘厳な響きのシンセサイザーとゲスト奏者が奏でるチェロによって、陰鬱ながらもイマジネーション豊かに描き出される異星の情景がとにかく圧巻。終始緊張感を保ちながらどこまでも美しい音像は、70年代におけるソロ活動の集大成とも言える完成度を誇っています。後半ではリズムが生まれ、ゲストのArthur Brownがミステリアスなヴォーカルを披露。バックでは時おり淡々としたシンセにチェロが鋭利に切り込んでいて油断なりません。間違いなく、数ある文学作品の音源化作品の中でもトップレベルと言える名作。
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