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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第三十回 WIND『MORNING』(ドイツ)

僕が小学5年生か6年生ぐらいの頃の話。その日、僕は母に連れられて難波へ買い物に来ていた。ところが母は何か忘れ物をしたか用事があるとかで、その場を離れ、僕は高島屋の前に一人で残されることに。ぼんやり町行く人たちを眺めていると、その中にピエロがいた。いや、顔だけがピエロのメイクをしていて、モジャモジャの金髪カツラも付けていたが、服装はTシャツにジーパンといういで立ち。「おもしろいなー」と思ってピエロを見ていたら、僕の視線に気がついて近づいてきた。そして「何ジロジロ見とんねん?殺すぞ」と言って去っていった。僕は怖くてただジッとしていたのだけど、何かこう胸の中にモヤモヤとしたものがあって、でもそれを口にするほどの賢さと度胸はなかった。

それから数年後、僕が中学生になった時の話。どこにでも一人はいるワルぶっている生徒が、授業中に教室の後ろで騒ぎだした。すると先生が「おい、そこの不良、授業の邪魔やからだまれ」と注意した。さあ、そこからの会話をお楽しみください。

ワル「あん?誰が不良じゃ?!」
先生「髪を染めて校則違反のダブダブのズボン履いてるお前のどこが不良とちゃうんじゃ!」
ワル「なんや先生、見た目で人を決めつけるんか?!」
先生「見た目で不良と決めつけてほしくなかったら、普通の制服着てこい!好きで不良の制服着といて、見た目で不良と決めつけられたら怒るっておかしいやろ!」

僕はその先生の言葉を聞いて、「それそれ!それをピエロに言いたかった!」と。「じろじろ見られるようなピエロのメイクを自分が好きでしといて、見たらキレるっておかしいやろ?!」と。あの時のピエロを探し出して言うてやりたいわ、ほんま。

そんなこともあって、あんまり人からジロジロ見られたくない僕としては、ごくオーソドックスな中年のオッサンという見た目を心がけている。心がけてなくても、オッサンの見た目だけどね。それが先日、仕事帰りの電車内で、僕の前に立っている年配の女性がジロジロと見てきた。「なにジロジロ見とんねん?!」とは思わないけど、なんやろ?と不思議に思っていたら、「兄ちゃん、ここにカナブンついてまっせ」と。見ると、僕の胸元にカナブンが?!正確にはドウガネブイブイでしたけど。ドウガネブイブイを知らん人は調べて下さい。まあ、僕の見た目が変ではなかったということでホッとしました。

今回もとっちらかった話で申し訳ない。何が言いたいのかというと、見た目でその人となりをすべて決めつけるのは良くないけど、その人がどういう見た目を意識しているかというセンスには、その人のパーソナリティーが確かに表れていると思うわけです。だからアルバムのジャケットも、そのアーティストのセンスを示すもので、とても大事だと思うわけです!

そこで今回は、ジャーマン・プログレ・バンド、WINDのセカンド・アルバム『MORNING』を紹介したいと思います。見てください、このメルヘンの世界そのもののジャケットを!中世の子供向けの本の挿絵から抜き出してきたようなイラストが、表と裏にあしらわれている。これで音楽がデスメタルなはずがない!ファンタジー系の音楽だということを、ハッキリと打ち出したアルバム・ジャケットとなっている。彼らのデビュー作『SEASONS』のジャケットはパッとしなかったが、本作では「見た目が大事!」と彼らの音楽にピタッとはまったジャケットを選んでいる。
しかし、ゲートフォールドのインナーに写るメンバーのフォトが怖すぎ。メンバーのうち三人がアフロ及びモジャモジャ・ヘアで、ほの暗い中にぼーっと亡霊のように立っている。まさか、この人たちがWINDのメンバー?どっちかいうとデスメタルの方があってそうなんだけど……。いや、人は見た目ですべてを決めつけたらいけないのです。

そんなWINDのヒストリーは1964年にまでさかのぼる。元々はヒット曲のカヴァー・バンドとしてスタート。西ドイツのアメリカ空軍基地やアメリカ軍兵士が訪れるパブなどを中心に活動を広げていく。恐らくそのコネもあったと思われるが、アメリカ軍基地のあるヴェトナムにツアーへ行くなど、下積みを地道に重ねていく。メンバーは流動的で、バンド名も様々に変えていったようだが、1969年には、Thomas Leidenberger(g)、Andreas Bueler(b)、Lucian Bueler(keyboards)、Lucky Schmidt(ds)の四人にメンバーが固まり、CHROMOSOMと名乗った。

そんな彼らに舞い込んできたのが、Europaレーベルの企画盤を制作するという仕事だった。BLACK SABBATH「Paranoid」、FREE「Stealer」のカヴァー等を収録した同作は、1970年にCORPORAL GANDER’S FIRE DOG BRIGADE名義の『ON THE ROCKS』というタイトルで発表された。同作はJochen Petersenがプロデュースを担当した。

1971年に入り、専任シンガーのSteve Leistnerが加入。バンド名をWINDと改名した。同年にデビュー・アルバム『SEASONS』を+Plus+レーベルから発表する。+Plusレーベルは、Jochen Petersenが設立したレーベルで、彼がWINDにほれ込んでのデビューだったと思われる。同作ではオルガンを生かしたサイケデリック・ハードと呼べる音楽性を追求している。ラストには15分に及ぶ大作「Red Morning Bird」を収録している。60年代後半のブリティッシュ・ロックに通じる重さとハードさを兼ね備えていた良作で人気が高い。プロデュースはもちろんJochen Petersenである。

デビュー・アルバム発表後に精力的なツアーを行い、ドイツ本国でじわじわと人気を高めていったWINDは、大手CBSとの契約を獲得する。こうして1972年に2作目として発表されたのが本作『MORNING』だ。プロデュースは前作同様にJochen Petersenで、後にSCORPIONSを手がけて一躍有名になるDieter Dierksがエンジニアを務めている。

音楽性には前作の雰囲気も残っているが、楽曲はジャケットの示すファンタジー、おとぎ話の世界にドップリと深く入り込んだものになっている。歌詞にも吟遊詩人やお姫様、騎士や魔女が登場して、徹頭徹尾メルヘンチックなのだ。特に本作で印象的なのがメロトロンの音色で、随所で効果的に使われている。前作にあったハードさは影を潜めているが、それ以上に穏やかさと優しさがキラキラと輝く音楽性になっている。GENESISと同種の方向性を狙っていたように思えるが、WINDの方がしつこくなくて爽やか。メンバーの見た目からは想像できないけれども。

メルヘン・ロックとでも形容したくなるオリジナルな音楽性を確立したにもかかわらず、WINDは1973年に発表したシングル「Josephine / Puppet Master」を最後に解散してしまう。ここでは、彼らがテレビに出演して、本作収録曲「The Princess And The Minstrel」とシングル曲「Josephine」を演奏した貴重な映像をご覧いただきたいと思います。特に「Josephine」の映像を見てほしい。内ジャケットではコワイ雰囲気だったメンバーも、こうしてみると愛くるしく見えませんか?

それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。

The Princess And The Minstrel

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Josephine

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    ビート・ロックグループとしてその歩みをはじめ、アコースティックでジェントリーなプログレッシブ・ロックを作り出したドイツのグループの72年作。ポピュラリティーのある優しげなメロディーを持つ名盤としてだけでなく、サイケデリックな質感を残した味わいのあるシンフォニック・ロックとして、そしてメロトロンがこれでもかとフューチャーされた作品としてプログレッシブ・ロックファンの琴線に触れるアイコンに恵まれており、ジャケット通りドイツの寓話の世界をのぞくようなファンタジックなサウンドを構築しています。

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