2019年6月14日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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カケレコWebの後藤秀樹氏のコラム「Column the Reflection」第13回で、RENAISSANCE『ASHES ARE BURNING』の英米におけるジャケットの違いが紹介されていた。(https://kakereco.com/magazine/?p=38682) 英盤のアニー・ハズラムはニッコリとほほ笑んでいるのに、米盤ではムッツリと不機嫌な感じのアニーになっている。日本盤LPはもちろんニッコリ・アニーだったわけだが、1991年に日本で同作が再発CD化された時には、なんと米盤のムッツリ・アニー・ジャケットが採用されてしまった。その後も何度かムッツリ・アニー・ジャケによる再発を経て、ようやくのニッコリ・アニー・ジャケになっている。
RENAISSANCEの英米ジャケ違いといえば、もっとすごいのが『NOVELA』(1977年)だ。英盤と米盤で同じコンセプトの絵画作品がジャケットに採用されているが、絵のタッチも受ける印象も全然違うものになっている。米盤『NOVELA』は、ほんとオカルトですよ、これ。『NOVELA』は日本初CD化の際は英盤ジャケを採用。だったら『ASHES ARE BURNING』も英盤を採用してくれればよかったのに……謎だ。
各国盤で違うジャケットが採用されることは珍しくない。ニッコリorムッツリみたいな理由がよくわからないけど微妙にデザインが違うというものもあれば、BLIND FAITHやSCORPIONSみたいに、モラル上の問題から大きくデザインが変更される場合もある。なかには理由がよくわからないけど、コンセプトも似通っているんだけど、なぜかジャケット・デザインの意図するものが大きく異なるというややこしいケースも。それがドイツのLUCIFER’S FRIEND『SNEAK ME IN』だ。
その前にジャブとして、LUCIFER’S FRIENDの『BANQUET』を紹介しておきたい。というのも、同作も微妙に独米盤でジャケットが異なっているのだ。独盤では、パーティーのテーブルについているメンバーたちが「なにか用か?」といった表情をしてコチラを見ているけれど、米盤ではメンバーが手にグラスを持って、「まあ乾杯しようか!」というポーズになっている。独米盤で続きの場面?レタリングは米盤のほうがおどろおどろしいというのもよくわからん??
さて、いよいよ本題の『SNEAK ME IN』だ。まずは独盤を見ていただきたい。若い警備員のスキを見て、セクシーな女性が幕の向こうをのぞき込んでいる。裏ジャケットでは、その幕の向こう側が写されているんだけど、セクシーな女性が懐中電灯を顔に当てられてビックリしているシーンが描かれている。「Sneak」という英単語は「こっそり」という意味で、それにあわせて「こっそり幕の向こうに行く」というデザインなのかもしれないが、どういう物語なのかはよくわからない。
で、このよくわからないコンセプトのジャケットが、米盤では微妙にコンセプトを引き継ぎながら、全く異なるデザインになっている。独盤の表ジャケットでは、若い警備員が後ろの女性に気が付いて「ハッ!」としているというシーンで緊迫感があったが、米盤ではお年寄りの警備員が居眠りしてしまっているという呑気なものに。ステージの幕の向こうに行こうとしているのも、独盤ではセクシーな女性だったが、米盤ではティーンエイジャーらしき女の子になっている。手にはノートのようなものを持っている。そして裏ジャケット。女の子がコッソリと幕の向こうに行ったら、すでに他の女の子たちが幕の向こうにたくさんいて、憧れのスターにサインをもらおうとキャーキャー騒いでいるデザインになっている。女の子は先を越されてプンプン怒っているという……。物語としては、独盤のミステリアスなものより、米盤の方がわかりやすいデザインといえる。
いずれのデザインもRon Coro、Denise Minobeという、数多くのアルバム・ジャケットを手掛けているデザイナーが手掛けている。同じセットだけど出演メンバーと物語性が異なる写真。おそらく同日に2パターン撮影されたのだろう。独盤はこれ、米盤はこれと、最初から2パターン撮影することにしていたのだろうか。いったいこの時期のLUCIFER’S FRIENDは何を狙っていたのだろう?
LUCIFER’S FRIENDの歴史を辿れば、GERMAN BONDというバンドに行きつく。Peter Hesslein(g)、Dieter Horns(b)、Joachim Reitenbach(ds)、Peter Hecht(kbd)の四人により結成され、そこにイギリス出身のシンガー、John Lawtonが加入。1970年にASTERIXというバンドへと発展する。彼らはすぐにLUCIFER’S FRIENDと改名して『LUCIFER’S FRIEND』を発表する。バンド名もそうだけど、サウンド的にも初期URIAH HEEPを思わせるオカルティックな雰囲気濃厚のオルガン・ハード・ロックだった。
1972年の2作目『WHERE THE GROUPIES KILLED THE BLUES』では、重厚さとプログレッシヴさを増していたが、1973年の『I’M JUST A ROCK ‘N’ ROLL SINGER』では、ずいぶんと軽快なハード・ロック路線へとシフト。ジャケットも頭頂部の薄い小太りのおっちゃんの後ろ姿というもので、初期2作の雰囲気からガラッと変化していた。
1974年には、先に紹介した『BANQUET』が発売される。実はこれは米盤と欧州盤で収録曲も異なっている。いずれにも11分超えの大作曲を2曲収録。オーケストラとホーン・セクションを導入し、プログレというよりジャズの雰囲気もあって、映画のサントラ盤みたいなドラマチックな仕上がりになっている。
1976年に発表された『MIND EXPLODING』では、サックスやヴァイオリンなどを操るマルチ奏者のKarl Hermann Luerが加入した6人編成になっている。音楽的にはかなりストレートな方向性のハード・ロックへ舵を切ったと思わせるもので、それがアピール・ポイントになったか、大手エレクトラとの契約を獲得する。
そこで一気に勝負を!というところでJon Lawtonが脱退してURIAH HEEPへ電撃移籍してしまう。LUCIFER’S FRIENDには、彼の後任としてCOLOSSEUM ⅡのMike Starrsが加入。ドラムもHerbert Bornholdtに交代して、1979年に『GOOD TIME WARRIOR』を発表。音楽的にはアメリカナイズされた、かなりわかりやすいハード・ロックになっている。
そのアメリカンな志向をさらに強めたのが、今回紹介したい1980年発表の『SNEAK ME IN』だ。特にアメリカで勝負を賭けていたはずだが、米盤ジャケットのデザインがこれ?!ちょっとコミカルすぎるよなぁ。まあ『I’M JUST A ROCK ‘N’ ROLL SINGER』のジャケットもお笑い路線だし、再結成してLUCIFER’S FRIEND Ⅱとして1994年に発表した『SUMOGRIP』のジャケットがこれなので、まあ、元々そういうコミカルなセンスを持ったバンドなのだろう。
さて、最ポップ作とされる『SNEAK ME IN』だが、リフを主体とした快活なハード・ロック作としてはかなりの良作で、彼らの曲作りの器用さを伝えるものになっている。JEFFERSON STARSHIPやSTYXなんかのアメリカン・プログレ・ハードに近い音楽性といえるかな? 初期のTOTOやJOURNEYなんかが好きな人もビビッと来るのではないでしょうか?
本作発表後にJohn Lawtonが復帰。イギリスで人気を得ていたNWOBHMのへヴィ・メタル色を強めた『MEAN MACHINE』を1981年に発表するが解散。近年に本格的な再結成を果たし、2016年『TOO LATE TO HATE』、2019年『BLACK MOON』と、良質のハード・ロック作を発表している。彼らのアルバムは特に初期2作の評価が高く、エレクトラ時代の作品は語られることが少ないけれど、機会があればぜひ聴いてみてください。ここでは、TV出演した際の映像から「Sneak Me In」を見ていただきましょう。
それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。
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