2017年12月8日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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2018年の手帳を買った。世間の人と比べたら、遅いぐらいでしょうか? 手帳は毎年買っているが、いつも丁寧に使い終わったためしがない。2017年の手帳を見返してみると、1月と2月は丁寧な字で書かれているが、3月ごろから乱れはじめ、6月になると、半分以上の予定が書き殴られている。それではダメだと思うのか、夏季休暇の予定があるからか、7月と8月は再び丁寧さを取り戻している。家族と仕事と原稿の締め切りを色分けしたりなんかして、実に手帳らしい。ところが9月に力尽き、10月、11月は目も当てられないありさまだ。
これはノートも同じで、1ページ目は丁寧に書こうと思うんだけど、そのうちページの端に落書きとかしちゃって、気がついたら落書き帳みたいになっていた……なんてことが学生時代にはよくあった。最初の頃の志や意気込みを持続させておくことは至難の業で、だから「初志貫徹」「初心忘るべからず」という言葉があるわけだ。
今回は、その初志貫徹の難しさを伝える例として(?)、イタリアのBANCO『CAPOLINEA』を紹介したい。
BANCOことBANCO DEL MUTUO SOCCORSOは、イタリアン・プログレを代表する存在。ところが、このジャケットです。看板シンガーのジャコモさんが、野原で横になってお昼寝している。いや、野原じゃないぞ。よく見ると、奥に舗装された道路が見える。ということは、公園とかの歩道を少し外れた草の上だろうか。けっこう人が通るところじゃないか? ジャコモさんの後ろにベンチがあるのに、わざわざベンチから転げ落ちるように寝ている。ああ、ジャコモさんの体形ではベンチが小さすぎるのかも? それにしても、木の根元に、赤いシャツ、白いオーバーオールというファッションセンスのかけらもない服装で、しかもスリッパをイイ感じにほうり出して寝ているという。これはもう社会人としてアウトでしょう。
リコルディ・レーベルから発売されたオリジナルはゲートフォールド・ジャケット。では裏ジャケはというと……表ジャケを水平に反転させただけやんか! つまり見開いてみると、二人のお昼寝ジャコモさんが左右に広がって見えるという、ゲートフォールドの特性を全く生かさないジャケットになっている。
『CAPOLINEA』は、内ジャケと内袋のデザインもすごい。内ジャケにはメンバー写真を載せているが、眠たげなジャコモさんをはじめ、誰もが緊張感に欠ける姿で写っている。内袋の写真には、ジャコモさんとプロデューサーのルイジ・マントヴァーニがパスタ(?)を料理しているところが使われている。あの深淵なるBANCOの世界観はいずこへ?!
では、BANCOのジャケットの変遷を紹介していこう。BANCOがBANCO DEL MUTUO SOCCORSOとしてデビューしたのは1972年。デビュー作のジャケットは、共済銀行というバンド名よろしく、貯金箱をかたどった変形ジャケットになっている。貨幣投入口の矢印がついた紙を引っぱると、メンバーの顔写真が出て来るという実に凝りまくったジャケットになっていた。
2作目の『DARWIN!』は、懐中時計をあしらったジャケットで、イマジネーションの広がるイラストが描かれていた。1973年の3作目『LO SONO NATO LIBERO』は、本のように紙が重ねられた変形ジャケットとなっている。まさにイタリアといえる叙情性、緻密かつドラマ性豊かな楽曲構成と、この初期3作は特にプログレ・ファンから評価が高いし、ジャケットへの熱の入れ方もかなりのものがある。
1975年にはイギリスでマンティコアからの配給が決定し、BANCO『BANCO』を発表。1976年には、映画のサントラとして制作された『GAROFANO ROSSO』、宗教的なテーマと向き合った『COME IN UN’ULTIMA CENA』を発表。キリストの磔刑をテーマにした『COME IN UN’ ULTIMA CENA』の見開きジャケットは、モノクロの画面の上に、血とハンカチの赤、ハンマーを持つ手のブレスレットの金だけが色付けされたもので、同作の持つシリアスなテーマを見開きジャケットのキャンバスで表現した傑作となっている。
ここまでジャケットに対するこだわりを見せてきたBANCOだが、やはり初志貫徹は難しいのか、1978年に発表した『…DI TERRA』では、宇宙に浮かぶトマトがドーンとあしらわれたジャケットに。まあYESにもトマト・ジャケがあったし、ユーモアとしては上々の出来か。
それに続く『CANTO DI PRIMAVERA』(1979年)は、茶色の部屋の窓が少し開いているという、ただそれだけのデザイン。20分あったら描けそうなイラストになっている。裏ジャケットは、その窓が少し開いているだけ。だからといって窓の向こうに何か描かれているわけでもなく……。あの初期のジャケットへの凝りようはどこへ行ったのか?
それに続いて発表されたのが、1980年の『CAPOLINEA』となる。初心どころじゃなくて、なんか色々忘れてるんじゃないの?! と言いたくなるジャケットだ。以降のBANCOは、CBSに移籍してアルバムを数枚発表するが、そちらのジャケットも軒並み残念なものとなってしまう。
さて『CAPOLINEA』だ。1979年11月28日と29日にカポリネア・ジャズ・クラブで行われたライヴを収録している。選曲を見ると、初期のプログレ然とした名曲がずらっと並んでいる。1曲目から『COME IN UN’ULTIMA CENA』の名曲「Il Ragno」だ……と思ったら、聴いてびっくり! キーボードの音色がテクノ・ポップみたいだし、ブラスも入っていて、リズムもなんだかファンキー。硬派なプログレ・ファンなら首をかしげてしまうかも。
2曲目「Canto Di Primavera」は、79年作のタイトル曲。オリジナルでもコンガなどのパーカッションが鳴っていたが、ここではやたらとコンガが前面に出ている。後からつけくわえたと思しきハンド・クラップもなんだか浮いている。ジャコモさんのヴォーカルは実に熱いのだが。
3曲目「750000 Anni Fa…L’Amore」は『DARWIN!』収録曲。こちらはオリジナルに忠実なピアノとジャコモさんの歌で盛り上げ、ライヴならではのダイナミックな演奏で聴かせている。「Capolinea」は本作唯一のアルバム未収録曲。パート1と2に分かれたインストで、かなり軽快なフュージョン曲となっている。アナログ盤のオリジナルでは、パート1がA面ラスト、パート2がB面トップと分断されて収録されていた。
アルバム後半には、デビュー作収録曲「R.I.P.」、サントラ作のタイトル曲「Garofano Rosso」、ラストは『LO SONO NATO LIBERO』収録曲「NON MI ROMPETE」で締めくくるが、どれもファンキーかつ軽いタッチになっている。
それゆえに辛い評価もされる本作だが、演奏の巧さは十分に味わえるし、彼らの叙情性豊かなメロディ・センスの素晴らしさは、どんなアレンジになっていても、しっかりと伝わってくる。「Il Ragno」や「R.I.P.」をスタジオ盤と聴き比べて、アレンジの違いを楽しんでみてほしい。
時は80年代に突入する時期、さらにジャズ・クラブというシチュエーションだ。BANCOのメンバーたちも肩の力を抜いて、代表曲の数々をポップに、ファンキーにアレンジすることを楽しんでいたのではないだろうか。そう思えば、このジャコモさんのお昼寝ジャケットも、「そんなに難しく考えなくてもいいんじゃない?」というメッセージのあるものに見えてくるから不思議だ。ジャケットも内容も、なんだか憎めない良ライヴ作です。
気ぜわしい年末だからこそ、「そんなにカリカリしてもしょうがないで~」「初志貫徹?うーん、気にしない、気にしない」と、ジャケットのジャコモさんが語りかけてくるBANCO『CAPOLINEA』をオススメしたい。
それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。
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