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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第十五回 Charles Kaczynski『LUMIERE DE LA NUIT』(カナダ)

僕が中学生のころの話。美術の授業で、隣の席の子の顔を点描で描くという難易度の高い課題が出された。いや、点描で人の顔を描くこと自体は、そんなに難しい話ではないけど、僕が描くことになった隣の席のA君に問題があったのだ。というのも、A君はコンパスで描いたような丸顔で、アンパンマンというあだ名がついていた。だがA君はそう呼ばれるのをものすごく嫌がっていて、僕はそれもよく知っていた。なので、A君の顔を見たまんまの丸い輪郭で描けば、彼を傷つけてしまうだろう。かといって、あごのラインを少しでも細く描けば、クラスのみんなから似ていないと批判されるに違いない。心優しい僕が、そんなことで悩みながら、なかなか一筆目を置くことができないでいると、僕の顔を見ていたA君が、「フナビキの顔って、メガネ以外特徴ないから、どう描いてええかわからんわ!」と言い放ったのだ。「自分の顔のこと棚に上げて、よう言うてくれたな!」と、さすがにムッとした僕が、A君の顔を実物以上に丸く描いてやったことは言うまでもない。

別に自分の顔に自信があるわけじゃないけれど、でもそれだからこそ顔のことを他人にどうこう言われると、腹も立とうというもの。まあ、この年になると、外面のことを誰に何と言われようと気にならないけどね。

なぜこんなことを書いているかというと、アルバム・ジャケットに自分の顔をデカデカと載せるアーティストってすごいなあ、自分の顔に自信あるんやろなあ、と改めて思ったわけです。アーティストたるもの、それぐらいの自意識過剰はあってしかるべきだと思うけど、フィル・コリンズ、エルトン・ジョン、ポール・マッカートニーとか、たぶん自分の顔も大好きなんだろうな。

どこかマッド・サイエンティスト的に、自分の世界に没頭しながらコツコツと作品を作るマルチ奏者といわれるアーティストもジャケットに自分の顔写真だったり、そのイラストだったりを載せることが多いように思う。ロイ・ウッド、マイク・オールドフィールド、トッド・ラングレンとか、まあ間違いなく自分大好き人間だと思う。

という流れで今回紹介したいのが、カナダのマルチ奏者、シャルル・カジンスキーというアーティストの『LUMIERE DE LA NUIT』というアルバム。ジャケットに描かれているのがシャルル・カジンスキーその人だけど、このイラスト、かわいすぎませんか? 裏ジャケットに彼のポートレートが載っているので、実物がどんなヴィジュアルかわかるんだけど、ジャケットのイラストは可愛すぎるよなぁ~。

ジャケットを描いたのは、スザンヌ・ベルベという女性。検索してもどういう人物かわからなかったけど、イラストレーターなのかな? 女性らしい柔らかなタッチの水彩画になっている。フランス語のタイトルを直訳すると「夜の光」で、邦題も『夜の灯火』とつけられている。ジャケットはそれに合わせたデザインになっていて、バックには星が描かれている。そして、シャルル・カジンスキーが操るヴァイオリン、ピアノ、フルートが描かれている。ヴァイオリンには白い羽が生えていて、フルートは鳥がくわえている。そんなファンタジーを感じさせる画面の中央に描かれているのがシャルル・カジンスキーその人で、なんともつぶらな瞳はまだしも、赤いほっぺが「ちびまる子ちゃん」ぽくて、何度も言うけどかわいらし過ぎる!!

シャルル・カジンスキーの経歴はよくわかっていないが、彼のフェイスブックによると、父はポーランド出身のピアニスト、母はアメリカ出身のオペラ歌手だそうだ。その両親の間に生まれた彼なので、小さい頃から音楽に親しみながら育ったに違いない。シャルル・カジンスキーは、カナダのCONVENTUMが77年に発表したデビュー・アルバム『A L’AFFUT D’UN COMPLOT』にゲスト参加する。CONVENTUMは、ケベックでアンドレ・デシュネを中心に結成されたユニットで、フリー・ジャズとフォーク・ロック、室内楽をミックスさせたような先鋭的音楽集団だった。シャルル・カジンスキーのヴァイオリンは、時にエキセントリックかつ攻撃的な音色で弾くかと思えば、滑らかな音色と叙情性豊かなフレーズで曲を盛り立てるなど、『A L’AFFUT D’UN COMPLOT』のクオリティを、より高いレベルへ押し上げることに貢献している。

そんなシャルル・カジンスキーが、79年に自主制作で発表したソロ・デビュー・アルバムが『LUMIERE DE LA NUIT』である。内容の素晴らしさから伝説のように語られてきたが、自主制作ということもあって、オリジナルを入手することは長らく困難だった。初CD化は2005年のこと。その時にオリジナルの内袋のデザインも再現されたが、そこにはシャルル・カジンスキーが本作のほぼすべての楽器を一人で担当したことと、そのレコーディングの様子をとらえた写真が掲載されていた。

A面、B面がそれぞれ組曲形式になっているが、とにかく圧倒的なのがA面で、ヴァイオリンや多重録音されたコーラスによるシンフォニックなサウンドが、アルバムの冒頭から降り注いでくる。クラシックの影響も感じられるが、メリハリのきいた叙情メロディにはトラッド的な響きもあり、それがシンフォニックなアレンジを受けてキラキラと輝いている。リコーダーの音色のせいもあってか、どこか童話的といえる温かみと親しみやすさもあったりして、シンフォ&叙情メロディ・ファンなら悶絶してしまうに違いない。ジャケットには、あまりにかわいらしいシャルル・カジンスキーが描かれているが、本作を聴いた後には、この音楽を創造した彼なら、こう描かれるのがふさわしいかもと思えてしまうから不思議だ。

これだけの名作をものにしたシャルル・カジンスキーだったが、『LUMIERE DE LA NUIT』以降の活動についてはあまり知られていない。ロック・シーンの表舞台からは遠ざかってしまったが、音楽関係の仕事は行なっていたようだ。2002年にはソロ2作目となる『5 SENS』を発表している。僕は未聴だけど、ジャケットはシンプルなヴァイオリンのイラストになっている。裏ジャケットには彼の写真が掲載されているが、すっかりお爺さんになってしまった。できれば本作に続くかのように、ちびまる子ちゃんのお爺さんみたいなイラストのジャケットにしてほしかったなぁ。

それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。



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