2017年10月13日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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日本百名城というのがあるのをご存じでしょうか? 2006年に財団法人日本城郭協会が認定したもので、簡単にいえば日本の城百選ということ。僕の知り合いで、この日本百名城をすべて行ったという人がいて、たびたびそれを自慢げに語るんだけど、僕は城に興味がないので、いつも「へえ」ぐらいの反応しかできない。そんな僕でも、実際に城へと足を運んでみれば、その勇壮な姿には、思わず「ほお」っと感嘆の声が漏れる。
何が言いたいかというと、「城」という響きには、どこか男心をくすぐるものがあるんじゃないかと。これはおそらく、ご先祖様の「ああ、城に住みたいなー!」とか「城勤めしてー!」という欲望がDNAにすりこまれていて、現在の僕たちが「男たるもの城にあこがれるべし」みたいに感じるんじゃないかと。まあ、絶対に違うと思いながら書いているけれども、自分だけの城を持ちたいという憧れは、多かれ少なかれあるように思う。
海外でも城にあこがれる……というより異様な執着をみせた人がいた。それがバイエルン王のルートヴィヒ2世だ。この王様、政治や国民の生活うんぬんよりも、騎士伝説や神話に魅せられて、その世界観を再現すべく、国内に城や劇場を次々と建てた。周りの人間は、「えー、また建てんのかよー」といった反応だったはず。このルートヴィヒ2世、後に精神に異常をきたし、水死体となって発見され、「狂王」とまで呼ばれる。そんな彼の建てた城のひとつが、かの有名なノイシュヴァンシュタイン城だ。敵から国を守るとか、本来の城としての機能は考慮せず、ルートヴィヒ2世の理想を満たすために建てた城である。それが今では世界一美しい城と呼ばれて、多くの観光客が訪れるようになるんだから、歴史というのは何が正しいのかわかりませんね。
と、毎度のことながら長い前置きで申し訳ないが、今回はこの世界一美しい城をバンド名にしたNEUSCHWANSTEINのアルバム『BATTLEMENT』を紹介したい。
城の名前のノイシュヴァンシュタインには、ドイツ語で「新しい白鳥の石」という意味がある。とにかく美しい城というイメージがあって、今回紹介したいドイツのバンドNEUSCHWANSTEINもそのイメージからバンド名にこの城の名前を使用したと思われる。ところが、デビュー作となった『BATTLEMENT』のジャケットに使われているのは、廃墟のような城壁の写真。Battlementとは、城壁上部などに設置される凹型の壁、胸壁のことをさす。ジャケットにもそれっぽく写っているが、かなり朽ち果てた城壁という印象だ。
確かにNEUSCHWANSTEINというバンド名で、そのままノイシュヴァンシュタイン城の写真を使っていたら、ただの観光案内になってしまう。そこで、世界一美しい城の名をバンド名にして、あえて廃墟のような胸壁をジャケットに選ぶ。そのギャップが悲しげで退廃的な雰囲気を強調する。裏ジャケもそうで、胸壁から見下ろした先に広がる山と湖の風景は、どこか寂しげだ。
『BATTLEMENT』のジャケット写真を手がけたのはWerner Richnerという人物で、ドイツでは割と知られた写真家のようだ。デザイン自体は、NEUSCHWANSTEINのメンバーRoger Weilerが手がけている。彼は後にデザイナーとしても活躍している。先に写真ありきだったのかはわからないが、このバンド名に、このジャケ写、しかもデビュー作で、こんな写真を使うのは、かなり勇気がいったと思うが、彼らのリリカルでファンタジックな音楽性にハマっていて、なかなかいいセンスじゃないかと。
NEUSCHWANSTEINのスタートは71年のこと。まだ高校生だったThomas Neuroth(kbd)とKlaus Mayer(flt,synth)の二人が出会い、ともにリック・ウェイクマンやKING CRIMSON、そして何よりGENESISといったシンフォニック・ロックが好きで意気投合。バンドの結成を計画し、ベースにWerner Knabel(b)、Volker Klein(ds)、Theo Busch(vln)、Udo Redlich(g)が加入。NEUSCHWANSTEINが結成される。
73年にはドラムがVolker KleinからThorsten Lafleurに交代し、翌年にはベースがWerner KnabelからUli Limpertに交代する。当初はリック・ウェイクマンのカヴァーなどをレパートリーにしていたというが、徐々にオリジナル曲を制作するようになっていった。彼らは当初からプログレッシヴな方向性をめざし、ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』をテーマとした約40分に及ぶ大作組曲を完成させる。74年には音楽コンテストで優勝したことをきっかけに、よりシアトリカルなステージをみせるようになっていく。もちろんピーター・ガブリエル期のGENESISの影響がふんだんに盛り込まれていた。
ドイツ国内でライヴ活動を続けた彼らは、76年4月にザールブリュッケンにあるスタジオで、先の『不思議の国のアリス』をテーマにした組曲のデモをレコーディングする。当時のメンバーは、Thomas Neuroth(kbd)とKlaus Mayer(flt,synth)に加え、Roger Weiler(g)、Rainer Zimmer(b)、Hans-Peter Schwarz(ds)となっていた。この時の未発表デモ音源が、08年に『ALICE IN WONDERLAND』として発掘CD化されている。それを聴くと、デビュー前から演奏力、楽曲構成力ともにメジャーなバンドと遜色のないクオリティに達していることがわかる。
フランス人のギター兼シンガーFrederic Joosが加入し、78年にディーター・ダークスのスタジオでデビュー・アルバムのレコーディングを行なう。こうして完成したのがデビュー作の『BATTLEMENT』で、79年にリリースされている。発表当時、日本でもプログレ・マニアの間で話題になったというが、シンガーの歌い方やフルートの導入も含めて、かなりのGENESISフォロワー。残念ながら『BATTLEMENT』は商業的に成功といかず、彼らはメンバーを入れ替えながら活動を続けたが、80年には解散してしまった。
先に書いたが、08年に突如として発掘音源『ALICE IN WONDERLAND』がCDでリリースされ、彼らの隠れた歴史が明らかになる。さらに2016年には、こちらも突然に新作『FINE ART』が発表された。こちらのジャケットは今イチで、かつてのメンバーもThomas Neurothしかいない。あまり話題にならなかったように思うが、初期の彼らが持っていたGENESISらしさを残しながら、シャープに引き締まった演奏が楽しめる良作に仕上がっていた。
さて、本作『BATTLEMENT』である。聴いていただくとわかるが、思いっきりのGENESISフォロワー。でもそれだけで片づけてしまうには、あまりにももったいない。ドイツのバンドらしいカチッとした曲構成、ファンタジックなメロディなど聴きどころは多い。本作が発表された79年、イギリスではSILMARILLIONというGENESISフォロワーのバンドが産声を上げ、後にMARILLIONとしてデビュー。今ではイギリスのプログレッシヴ・ロックを代表するような存在になっているわけだが、NEUSCHWANSTEINにも、その可能性は十分にあった。『BATTLEMENT』を聴くと、誰もがそう思うはず。
本作の冒頭に収録された「Loafer Jack」には、SCORPIONSのドラマーHermann Rarebellがゲスト参加していることが有名だ。しかし、そこでの彼のプレイはシンプルそのもの。NEUSCHWANSTEINのドラマーHans-Peter Schwarzの方がオカズの多いプレイでプログレッシヴな曲を盛り立てている。なので、今回は『BATLEMENT』から、彼らの旨味がギュッとつまった「Intruder And The Punishment」を聴いていただきます。
それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。
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79年にリリースされた「Battlement」が、ジャーマン・シンフォニック・ロックの名盤として広く知られるグループの、幻のデビューアルバムが30年の時を経てリリース。2ndアルバムでは12弦ギターとしゃがれ声ボーカルによるGENESISの色濃いシンフォニック・ロックが印象的ですが、本作では2ndアルバムのボーカリストはまだ加入しておらず、ナレーションが入る他はオールインストとなっています。音楽的にも、そのお国柄を反映したファンタジックさとリリシズムは共通するも2ndアルバムで聴けるマイルドなシンフォニック・ロックとはやや異質であり、こちらはフルートのリードと、ダブルキーボードのきらびやかなアプローチで聴かせるロマン派ジャーマン・シンフォニック・ロックという趣。また、80年代に足を突っ込みかけていた2ndアルバムとは違い、より70年代的な音像で聴かせている点も大きなポイントでしょう。ファン必聴の素晴らしいコンセプトアルバムであり、2ndアルバムとあわせて霧深いジャーマン・プログレの隠れた名盤となっています。
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