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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第一回 IN SPE 『IN SPE』 (エストニア)

今回から始まりました、「世界のジャケ写から」。当連載では、世界中のプログレ・アルバムを中心に、魅力的なジャケットを紹介。あわせて、そのアーティストと作品、楽曲の魅力に迫ろうというものです。かつて「世界の車窓から」というテレビ番組があって、そこから、ふと思いついた感じの企画ですが、今後ともお付き合いのほどを、よろしくお願いします。

記念すべき第一回目は、エストニアのIN SPEが85年に発表したセカンド・アルバム『IN SPE』を紹介したい。まずエストニアってどこ?ってことだけど、エストニアに関しては、カケハシ・レコードさんが以前特集してくれているページがあるので、そちらを見ていただきましょう。(http://kakereco.com/magazine/?p=9239

さて『IN SPE』のジャケット。中央あたりに、IN SPEとバンド名があり、その上に何か書いてある。これがタイトルのような気もするがキリル文字なのでよくわからない。荒れた大地をバックとし、中央に写真が配されている。デザイン的にはいたってシンプル。写真には、黒い帽子をかぶり、白いドレスを着た少女が、うっすらと濡れているように見える大地の上で駆け出す瞬間がとらえられている。少女の写真はブレていて動きがあるが、全体から受ける印象は、現実味の薄い、ファンタジーの世界を切り取ったかのように静かだ。淡いオレンジ色の色調も、どこか夢の世界のような不思議な雰囲気を醸し出している。

裏ジャケでは、少女が木の枝を手にして座り込んでいる。何かを書いているのか、地面に突き立てようとしているのか、ただ戯れているだけなのか。イマジネーションを掻き立てられる美しいデザインといえる。

同作は、94年にフランスのMuseaから『TYPEWRITER CONCERTO IN D』というタイトルでCD化されている。そちらのブックレットは、オリジナルと色調が違っている。オリジナル・アナログ盤の方が、少女の服や肌の色が鮮明に出ている。しかもブックレットの裏ジャケットでは写真が水平に反転されていたりと、いいかげんなところも。手軽に聴けるMuseaのCDはありがたいけども、日本で紙ジャケ再発されないものか? 知名度的に無理か?

この美しいジャケットのアルバムを発表したIN SPEは、なかなかにバイオグラフィーがややこしい。当初のバンド・リーダーは、Erkki-Sven Tüürという人物。59年10月16日、バルト海に浮かぶヒーウマー島カルドラで生まれた彼は、タリン・ミュージック・スクールに入学して、フルートとパーカッションを学んだ。イギリスのプログレッシヴ・ロックにも影響を受け、79年にIN SPEを結成する。メンバーは、妻のAnne Tüür(piano)、Riho Sibul(g)、Toivo Kopli(b)、Arvo Urb(ds)、Mart Metsala(kbd)、Peeter Brambat(flute)で、ライヴ活動もしていたらしい。


同メンバーで83年にデビュー作『IN SPE』を発表。こちらのジャケットは、ロゴが光っているだけでデザイン的にはいまいちだけど、シンセを主体に幻想的な音楽性を誇り、フルートの叙情的な調べもあってキャメルを思わせる部分もある。特にA面に収録された組曲は、全プログレ・ファンに聴いてもらいたい逸品だ。こちらもレア盤だが、後にCD化されている。

中心人物のErkki-Sven Tüürが音楽の勉強のためにIN SPEを脱退し、後任としてAlo Mattissenが加入する。61年4月22日、エストニアのヨゲヴァで生を受けた彼もまた確かな音楽教育を受けていて、IN SPEでも主導権を握ることになる。彼が作曲の中心となって、85年に発表された2作目が本作『IN SPE』だ。Alo Mattissen(kbd)のほか、Riho Sibul(g)、Arvo Urb(ds)のみが前作と同じで、他にVello Annuk(b)、Jüri Tamm(synth)、Peeter Brambat(flute,recorder)、Terje Terasmaa(vibraphone.etc)などがメンバーとして参加している。

IN SPEが活動していた当時のエストニアはソビエト連邦に属していて、政府からエストニア国歌や民族音楽を禁止されていた。独立の機運はかねてより高まっていて、これが音楽を自由に演奏する行為と結びつく。独立を求めるデモでは民衆によってエストニアの音楽が演奏され、音楽祭でも独立の意思表明が打ち出されるようになった。その動きは、エストニアと同じくソビエト連邦から独立を求めていたバルト三国のラトビア、リトアニアにも広がっていく。このことから、バルト三国の独立革命は、シンギング・レヴォリューション(歌う革命)とも呼ばれるようになる。

ソ連から独立前の88年にエストニアで行われたロック・フェスティバル、ロック・サマー88では、シンガーのIvo LinnaとともにIn Spe & Kiigelaulukuuikugaが出演し、Alo Mattiisen作曲の「Five Patriotic Songs」を披露。Alo MattissenとIN SPEの名は、独立革命の功労者としてエストニアの人々に記憶されることになった。

IN SPEがどのような活動をしていたかは確かでないが、00年にAlo Mattissenがソロ名義作で発表した2CD『Roheline Muna / Näärmed』の『Näärmed』は、87年にIN SPEで録音されたとクレジットされている。ただしAlo Mattissen、フルートのPeeter Brambat、ヴィブラフォンのTerje Terasmaa以外はメンバーが入れ替わっている。88年に先のフェスへ出演した以降は、IN SPEとしてのコンスタントな活動はしていなかったのではないだろうか。2013年にエストニアで開催されたロック・サマー25に、Ivo LinnaとPeeter Brambat、Terje TerasmaaのメンバーたちがIN SPEを名乗って出演し、本国では話題になっていたようだ。

Alo Mattissenはソロで数作発表していて、IN SPEメンバーが参加しているものもあるが、96年5月31日に他界している。

2作目の『IN SPE』は、デビュー作と同じくA面に組曲を収録していて、MuseaのCDでは、「Typewriter Concerto In D」と英語のタイトルが付けられている。ルロイ・アンダーソンの「タイプライター」に着想を得たものと思われ、曲中でタイプライターが楽器として使用されているが、IN SPEの方はもっとダークな雰囲気がある。アルバムの他の曲もアンビエントな雰囲気が強かったり、1作目に比べるととっつきにくいかもしれないが、近年のキャメルのアルバムに入ってそうな小曲「Vallis Mariae」、寄せては返すシンセの響きが美しい「Departure」などは、叙情的なプログレが好きな人なら感じるところがあるに違いない。ここでは、「Vallis Mariae」を聴いていただきます。

Vallis Mariae

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それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。



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  • IN SPE / IN SPE

    エストニア、透明感溢れるサウンドが特徴的なシンフォニック・ロックの大傑作、83年発表

    RUJAと並んでエストニア・プログレの代表格と言えるバンド、83年の1stアルバム。息をのむほどにデリケートで透明感に満たされたサウンドによって紡がれる、民族色も織り込んだシンフォニック・ロックはもう絶品の一言。独特の間を感じさせる不思議な聴き心地のリズムに、淡い色彩を広げるシンセやハモンド、神秘的に囁き合うフルート&リコーダー、そしてシャープなトーンでメロディアスに旋律を描くギター。異世界の情景を描写するかのような静謐で美しく仄かにスペイシーな音像は、北欧プログレと東欧プログレ両方の味わいを備えていると言えます。そんなうっとりするようなパートから一転、フュージョン・タッチのシャープで音数の多い技巧派アンサンブルになだれ込む展開も見事すぎます。東欧シーンに留まらず、ユーロ・プログレという枠の中でも上位に位置するであろう大傑作です。

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