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舩曳将仁の「世界のジャケ写から」 第二十一回 L’ENGOULEVENT『L’ILE OU VIVENT LES LOUPS』(カナダ)




この前、ある人に「フナビキくんて、休日に一人で自転車乗って無人駅とか回ってそう」と言われた。いやいや、家庭もあるのに、そんなスナフキンみたいに時間の余裕がある趣味できますかいな! それよりも、なぜそんな風に思い込んだんだろう? ほめてんのか、けなしてんのかも、よくわからん。

ほかにも「顔は笑ってるけど、腹の中で殺すぞ!って思ってそう」とか、「家でコツコツとボトルシップ作ってそう」とか、いろいろ言われたことがあるけど、他人の思い込みには寛容な方だと思う。若い頃なら腹を立てたかもしれないが、この年になったら、誰になんて思われてようが気にもならない。自分のことは自分がよく知ってるしね。と、こうして人の意見に耳を傾けなくなり、「YESのキーボーディストいうたら、トニー・ケイに決まってるやんけ!」とかいう偏屈じいさんになるんでしょうか?

人って思い込みとか勘違いをしながら生きているわけで、そこに腹を立てても仕方がないと思うわけですが、思わず笑ってしまうような思い込みもあったりします。

それは今年の夏のこと。アイスコーヒーに入っていた氷を噛んだところ、前歯に激痛が走った。下の左の糸切り歯。触ってみると少しグラグラしている。もしかしたら歯槽膿漏で歯茎が弱っていたとか? いや、それはないはず。しかし氷を噛んだだけでグラグラするって、あまりにも歯が弱すぎないか? 悩んでいても仕方がないので歯医者へ行くことに。レントゲンを撮ってもらって、歯医者が言うことにゃ、「フナビキさん、これ、乳歯ですよ」と。乳歯って、小学生ぐらいで全部生え変わるんじゃないの? それが哺乳類でしょ? 「いやー、これは乳歯です。3歳の頃に生えた歯ですよ。よく40年間もちましたね」と。

確かにその歯だけ小さいなとは思っていたけど、すべて永久歯になっていると思い込んでいた。レントゲン画像を見ると、歯茎の中に、永久歯の糸切り歯が真横に向いて埋まっているのがはっきりと写っていた。グラグラしている乳歯の下には、石灰化された組織のようなものがあって、いまさら真横になっている永久歯を持ってくることは不可能だという。いやいや、石灰化された組織って何? と、よくわからないことだらけだが、乳歯は簡単に抜けるらしい。もちろん歯抜けになるんだけど、奥の歯が前に倒れてきて隙間も埋まるらしい。人間の体、不思議過ぎて理解できん。「どうします、抜きますか?」と言われたけど、ここまで来たら、自然に抜けるのを待つことにした。今もグラグラしていて気にはなるんだけど。

本当に色んな思い込みがあるわけですが、これもつい先日、ずっと思い込んで間違えていたことに気付きまして、それがカナダのL’ENGOULEVENT『L’ILE OU VIVENT LES LOUPS』なんです。ジャケットを見てもらうと、中央に動物が写っている。これ、僕はずっとキツネだと思い込んでいた。フランス語のタイトルを日本語にすると『オオカミの住む島』だし、2007年には再発CDの国内盤がそのタイトルで発売されているようだ。全然知らなかった。パッと見て「あ、キツネだ」と思い込んでいたんだろう。

このアルバムの内容は大好きで、『トランスワールド・プログレッシヴ・ロック』というガイドブックを監修したときにも大きめに取り扱った。まさか文中に「キツネのジャケット」とか書いてないよな?! と慌てて確認。ジャケットに関しては触れていませんでした。セーフ!

さて、改めてこのジャケットを見ると、実に雰囲気がいいと思いませんか。イギリスのネオン・レーベルやヴァーティゴ・レーベルの作品を手掛けて人気の高いキーフのデザインに通じる色調を持っている。白黒ネガに着色したのか、自然の色合いなのかはわからないが、灰色の大地と池の間にくすんだ紫色の植物があり、その中央にしっかりと大地を踏みしめてキツネが立っている……じゃなくてオオカミね。オオカミは振り向き、その目はしっかりとこちらを見据えている。まるで動じる様子がない。オオカミの孤高性や凛とした様子が目にしっかりと焼き付いてくる。ゲートフォールドの内ジャケットには、ぼんやりと霧煙る風景の中に浮かぶ島の影が映し出されている。これが「オオカミの住む島」ということだろう。現実の世界ではないような、幻想的な雰囲気も感じさせるジャケット・アートがイマジネーションを刺激する。ちなみに、L’engoulevantとはヨタカという鳥のこと。で、レーベル名のLe Tamanoirとはアリクイのこと。一枚のアルバムに動物名が多すぎ!

さて、L’ENGOULEVENTは、1976年にMichel McLeanによって結成されている。彼はClaude LafranceとのデュオでLES KARRIKとして1971年に『AU CHANT DE L’ALOUETTE』、1972年に『Ⅱ』を発表している。それを最後にデュオを解消し、ソロで「Le Vieux Francois / Sommeil」というシングルもリリースしていたようだが、しばらくは表立った活動はしていなかった。ただしケベックのアンダーグラウンド・シーンのなかで、同じような音楽を志すメンバーたちとの交流は深めていて、1975年には彼らの力を借りて「Voix Et Violon」という曲をレコーディング。これに参加したメンバーが、LES KARRIKのClaude Lafrance、後にCONVENTUMを結成するBernard CormierとJacques Laurin、HARMONIUMのJack Cantorなど、錚々たる顔ぶれとなっている。

これがきっかけだったのだろう。同曲のレコーディングに参加していたキーボード奏者のPierre Moreauに加え、ヴァイオリン奏者のFrancoise Turcotte、チェロ奏者のRussel Gagnonという二人を迎えてL’ENGOULEVENTを結成する。彼らが1977年に発表したデビュー作が『L’ILE OU VIVENT LESLOUPS』だ。こちらにもケベック・シーンの仲間たちがゲスト参加している。本作とCONVENTUM『A L’AFFUT D’UN COMPLOT』、Claude Lafrance『UNE BELLE SOIREE』の3枚は、いずれも1977年に発表されていて、しかもメンバーが共通して参加しあっている。さらに、どれもがフォーク・ロックの名作といえるものになっている。

L’ENGOULEVENTは本作の後に『LA MARCHE DES RENNES』というタイトルのアルバムをレコーディングしたそうだが、お蔵入りになってしまう。1979年にはL’ENGOULEVENTのメンバーによる子供向けのアルバム『ETOIFILAN』を発表するが、バンドとしての活動はほどなくして停止してしまったようだ。

さて『L’ILE OU VIVENT LES LOUPS』だが、先に書いた「Voix Et Violon」をはじめ、フォーク・ロックだけでなく、二人のストリングス奏者が持ち込んだクラシックの要素も強く含まれていて、RENAISSANCEやGRYPHONに惹かれるプログレ・ファンには十分にアピールする作品に仕上がっている。本作はプログ・ケベック・レーベルから再発CD化されていて、そちらには『ETOIFILAN』も収録されているので、ぜひ聴いてみてください。ここでは『L’ILE OU VIVENT LES LOUPS』の2曲目に収録された「Les Vieux Trains」を聴いてもらいたいと思います。

それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。よいお年を~。

Les Vieux Trains

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