2020年1月21日 | カテゴリー:ライターコラム,世界のジャケ写から 舩曳将仁
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あけましておめでとうございます。みなさま、年末年始はいかがお過ごしだったでしょうか? ちなみに僕はというと、休みがそれなりにあったはずなんだけど、気がついたら終わっていた。今回の年末年始だけ時間のスピードが速かったんじゃないかと、そう疑ってみたくなるほど、あっという間だった。年末の休みに入ってすぐ、「休みもたっぷりあるし、部屋でも片付けるかー」と決心し、段ボールにしまい込んでいる本やガラクタを持ち出してきて部屋にひっくり返したはいいけど、そのまま休みが終わってしまった。今もそうで、毎日部屋を見るたび憂鬱になっている。
結局、年またぎの原稿とか家族サービスとかで慌ただしくすぎた2019年末だったが、12月に参加した、『レコードコレクターズ』の「クイーン・ベスト・ソングス100」という企画は面白かった。各ライターがQUEENのベスト30曲を選び、それを集計して1位~100位までランキングするというもので、「このライターさん、これを1位に挙げてるのかー」とか、「えー、この曲が50位以下なん?」とか、楽しんでもらえたらと思います。
僕の1位は、『Ⅱ』収録の「The Fairy Feller’s Master-Stroke」で、『レココレ』で書ききれなかった思いをここで少し。僕の中では、この依頼をいただいた瞬間に同曲1位で即決。後追い世代なので、リアルタイムではないけれど、最初にこの曲を聴いた時の衝撃たるや! そりゃあ「Killer Queen」「Bohemian Rhapsody」も強力かつクイーンの孤高性を伝える曲だと思うけど、オープニング、歌メロ、サビ、展開があってエンディングという、わりとキッチリした構成があるじゃないですか。
でも「The Fairy Feller’s~」は、ハープシコードの乱打から、どこがサビかもわからんままひたすら突っ走るというのが驚きだった。「Pedagogue」「Tatterdemalion」「Junketer」とか聴きなれない単語がバンバン並んでいるのも刺激的で、しかし見事に韻をふみながらメロディに乗っているのは、さらに驚異的。そのメロディも扇情的で興奮を掻き立てる。口に出して歌ってみると、歌詞の音の響きが心地いいのも魅力で、マザーグースの詩を口ずさんだ時の、あの快感に似たものがある。奇妙なコーラスや手拍子などを交えたエキセントリックなアレンジも曲の狂騒的雰囲気を盛り立て、それがギュッと2分半ほどに収められているという、あの当時のQUEENだからなしえた奇跡と僕は思っている。これはロビー・ヴァレンタインでもカヴァーできまい?!
後に知ったことだけど、実はこの曲、イギリスの画家リチャード・ダッドが、ベドラムと呼ばれた精神病院収容中に描いた絵画「The Fairy Feller’s Master-Stroke」にインスパイアされたフレディ・マーキュリーが作ったものだった。この絵、54㎝×39.5㎝というA3よりちょっと大きいサイズのキャンバスに、様々な登場人物がビッシリと描きこまれている。同曲で登場する「トンボのトランペット吹き」「オベロンとティターニア」などのキャラクターは、リチャード・ダッドの絵の中にも見ることができる。リチャード・ダッドが小さいキャンパスに架空の世界を詰め込んだのと同じように、QUEENは2分半の短い曲に、その世界を詰め込んで見せたのだ。と思うと、この曲の凄みがさらに増してくる。いやー、すごい曲です。
というわけで2019年末はQUEEN漬けで終わったわけですが、ちゃんと「世界のジャケ写から」のことも考えておりました。子年なので、それにかけてネズミのものにしようかと思い、そこで頭に浮かんだのが、オーストラリアのプログレ・バンドARAGONが1995年に発表した『MOUSE』だった。
深い緑色のバックにバンド名とタイトル、そしてネズミが黄色で描かれている。配色が絶妙で、格調高さを表す秀逸なデザインとなっている。ネズミをリアルに描かず線描にしたところもセンスがいい。90年代のプログレ、ポンプ・ロック系ジャケットは、初期GENESIS、YESやMARILLION系のイラストもの、ヒプノシスやキーフ系の写真合成によるシュールなものなど、わりと派手なのが多かったような印象を持っているが、そのなかにあって『MOUSE』のデザインは随分シンプルで、それがかえって印象に残るものとなっている。社会批判や人間の孤独をテーマとした壮大なストーリーを持った本作の内容にもふさわしいジャケットだ。
同作は1999年に内容を一部変更して再発されるが、そちらでは廃墟の壁にネズミの線描画をあしらったものになっていた。現実味のある、どこかシリアスなデザインで、裏ジャケの壁にはネコが描かれているという、これはこれで面白いデザインではあるけれど、個人的にはオリジナルのジャケットを推したい。
ARAGONについて簡単に紹介しておくと、1987年、オーストラリアのメルボルンで結成された。シンガーのLes Dougan、ギターのJohn Poloyannis、キーボードのTom Behrsing、ベースのRob Bacon、ドラムのTony Italiaという編成で、同年に「Rocking Horse」という大作を収録した自主制作カセット・シングルを発表している。1988年には同じく自主制作でデビュー・アルバム『DON’T BRING THE RAIN』を発表する。1980年代後半から1990年代中ごろにかけては、70年代のプログレに影響を受けた若手プログレ・バンドが次々と登場してきたミニ・ブーム(?)があったが、ARAGONもそのひとつだった。
1992年には、若手プログレ・バンドを多数輩出していたオランダのSI Musicからミニ・アルバム『THE MEETING』を発表する。同作は、壮大なストーリー作『MOUSE』の第5章だけを取り出したものだった。1993年には自主制作シングルに収録された大曲「Rocking Horse」などの音源を収録した6曲入りEP『ROCKING HORSE AND OTHER STORIES FROM THE PAST』を発表。日本では、1994年に『DON’T BRING THE RAIN』と『THE MEETING』が発売されて、ARAGONの存在が知られるようになる。その日本盤の『THE MEETING』には、『ROCKING HORSE~』からの5曲がつけ加えられていた。
続いて1995年にリリースされたのが『MOUSE』で、これは日本でもアポロンからリアルタイムで発売された。なんと第1~8章に及ぶストーリーを全30曲で表現した大作。この1995年版CDでは、第5章にあたる『THE MEETING』がカットされているが、1999年には『THE MEETING』の曲も組み込んだ2CDヴァージョンの『MOUSE』が発売されている。
まず全30曲というところでビビってしまうが、短い曲やSEなども1曲に数えられていて、それほど構えなくてもいい。メンバーはLes Dougan、John Poloyannis、Rob Baconの3人になっているが、演奏に物足りなさは感じない。PAVLOV’S DOGのデヴィッド・サーカンプとMARILLIONのフィシュを混ぜて2で割ったようなシアトリカルなヴォーカルが好き嫌いを分けるかもしれないし、さすがに1回聴いただけでは全体像を把握できないかもしれないが、叙情的メロディやSEを駆使したアレンジでじっくりと聴かせてくれる。ネズミの目を通してみる社会批判がテーマとなっている長文の物語がブックレットに掲載されていて、なかなか読むのが大変だったりするが、年末年始みたいに時間のある時にこそジックリ聴きこみたくなるアルバムだ。
ここではしっとりとした雰囲気の「Waiting For The Big One Part1」と「Part2」を聴いてもらいたい。アルバムのラスト曲「Auld Lang Syne」は、オルゴール風の音色による「蛍の光」のインストで年末感もたっぷり。だからこのアルバムが頭に思い浮かんだのかも?
それでは、また世界のジャケ写からお会いしましょう。
Waiting For The Big One Part1 & Part2
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